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中小企業庁に聞く!「中小企業活性化パッケージ」の狙い ~ 「再生成功」か「個人破産」の二択では決断が出来ない ~

 3月4日、経済産業省と財務省、金融庁は「中小企業活性化パッケージ」(以下、パッケージ)を公表した。中小企業の収益力改善、事業再生、再チャレンジ促進が明記された。
 同日、全国銀行協会からは「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(以下、事業再生ガイドライン)が公表された。パッケージの重要な要素の1つとして注目されており、これまでの給付や貸付、リスケ主体の支援策から大きく舵が切られた格好だ。
 東京商工リサーチ(TSR)は、パッケージの策定に携わった中小企業庁事業環境部金融課・森本卓也課長補佐に策定の意図や期待する効果について話を聞いた。


―パッケージ策定の背景は。

 コロナ禍では、実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)や危機対応融資、持続化給付金などの資金繰り支援策を用意してきた(※1)。だが、ゼロ・ゼロ融資は昨年3月末で民間金融機関での受付が終了し、日本政策金融公庫や商工中金への最近の申込状況は、平時(コロナ前)と変わらないか、若干少ない状況で推移している。支援のフェーズが「とにかく資金繰り」から変わってきている。
 TSRのデータでも示されているが、過剰債務や借入金の返済を見通せない企業が多いことが分かってきた。 これへの取り組みが遅れると、(バブル崩壊後の)不良債権処理やリーマン・ショックの時と同じように、債務が足かせになって中小企業が新たな投資ができない状態に陥る。
 岸田政権では、「新しい資本主義」が掲げられたが、お金を稼げないと給与へ振り向けられない、人への投資もできない。資金の使い道が借金の返済ばかりになってしまう。中小企業が成長して分配するためには過剰債務への対応が必要だ。
 ただ、企業の置かれている状況は様々なので、グラデーションが必要だ。パッケージでは、セーフティネット保証4号の期限延長やゼロ・ゼロ融資、資本性劣後ローンの継続など、今までの資金繰り支援を続けることも打ち出している。

  • ※12022年2月にTSRが実施したアンケートでは、中小企業の34.7%が「過剰債務」、20.2%が「借入の返済に懸念あり」と回答。

―ゼロ・ゼロ融資、危機対応融資の延長は6月末だが、そこで終了するのか。

 その時点の感染状況や経済状況を鑑みる必要がある。

―過剰債務について。パッケージは、コロナ禍で生じた債務を想定しているのか。

 債務の中身を切り分けることは難しい。今回のパッケージは、債務に苦しんでいる企業への施策だ。

―どのような体制で支援するのか。

 中小企業再生支援協議会(以下、協議会)と経営改善支援センター(以下、センター)を統合して「中小企業活性化協議会」を設置する。
 これまで、経営改善計画策定支援(405)事業の補助金執行を担うセンターには経営の深刻度が「軽い」企業、「重い」企業は協議会と棲み分けがなされていた。
 ただ、特例リスケ(※2)以降、深刻度が「軽い」企業も協議会に来ている。「中小企業の駆け込み寺」を自認する協議会が「うちの対象ではない」となるのは、組織の在り方としておかしい。この議論を突き詰めると、405事業と統合した方が中小企業に寄り添ったシームレスな対応が可能、という判断になった。

  • ※2新型コロナ特別リスケジュール。実施主体は中小企業再生支援協議会で、2020年4月に運用が始まった。

―協議会は「駆け込み寺」のほか、「金融調整機能」を強みにしている。パッケージでは準則型の「事業再生ガイドライン」活用が打ち出されたが、協議会の位置付けが変わるのではないか。

 何万、何十万社あるかもしれない過剰債務を抱える企業を協議会だけで救えるのか。協議会の支援を民間でも回るようにすることは大切だ。協議会は「駆け込み寺」として多くの企業と接し、「案件の難易度が高いものは協議会」、「企業と金融機関との関係が良好な場合はガイドライン」など、相談内容や事業者の希望を踏まえて対応を適切に判断することが求められる。つまり、プレイヤーからプレイングマネージャーとして振る舞うことになるだろう。
 また、協議会は頑張ってやっているが、協議会の組織目標は「協議会による支援件数を増やす」だ。予算事業上、これは正しい。予算事業の成果を見る上では大切な観点だ。ただ、本来求められているのは、「協議会だけで何件の支援」ではなく、「地域全体で何件」だ。つまり、地域全体での支援を最大化するにはどうしたらいいかを考える必要がある。

―個人破産の回避に向けたルール明確化も打ち出した。

 TSRの調査で示された(※3)が、企業が破産すると、代表者の約7割が個人破産に追い込まれている。経営者保証があるからだ。
 経営者保証のデメリットを事業者に聞くと、4割超が「早期の事業再生が難しい」と回答する。
 再生の判断をしても再生できない時もある。これまでは廃業型の私的整理手続きが整備されていないので、企業の破産は個人破産に繋がる。すると、家族にも迷惑かかる、キャッシュレスの時代にクレジットカードも作れない。「再生の成功」か「個人破産」の二択の世界では、再生の決断が出来ない。

  • ※3TSRが2020年度に官報に破産開始決定が掲載された法人と代表者個人を調査したところ、破産した法人の代表者のうち68.2%が個人破産していた。

中小企業庁

‌取材に応じる中企庁金融課・森本課長補佐


―パッケージで示された「収益改善にシフトした新たな支援」では、「改善計画の策定」が必須となった。これまでの特例リスケでは必須ではなかった。

 企業支援のフェーズが変わった。金融機関はリスケ要請に対して99%応じている(※4)。足元では、協議会が入って緊急的な対応が必要な難しい案件が減っている。これからは、ポストコロナを見据えて、将来に対する道筋をつけることが大切だ。その際、リスケが必要な場合は支援する。

  • ※42020年3月~2022年1月までの実績値。貸出債権ベース。

―計画策定後はモニタリングをするが、そのなかで企業と支援者は深い対話をすることになる。これが事業をやめる気付きに繋がる可能性がある。

 だからこそ、協議会はすべてに対応できるようにしないといけない。協議会の支援は入口だ。支援のなかで「再生か廃業か」となった場合、同じ担当者が一貫して企業と向き合うことが大事だ。

―「中小企業再生ファンド」の拡充も打ち出した。

 これまでのファンドの作り方は、地理的な軸が中心だった。東日本大震災の時は、地域に甚大な影響が出た。こういったケースでは地域ファンドが有効だ。そのほかにも災害復興支援や地域活性化ファンドなどがある。
 今回のコロナ禍は、地理的な軸より業種軸だ。宿泊、飲食はコロナの影響が特に大きい。これらを重点支援するファンドを念頭に置いている。

―「事業再構築補助金」などこれまでの支援策については。

 リーマン・ショックや東日本大震災では、時間の経過とともに、過去と似たような事業環境に戻った。なので、再生計画は収益力の向上、主にコストカットになりやすい。筋肉質にして再生するやり方だ。これは危機が過ぎれば、外部環境が元に戻ることを前提にしている。
 コロナ禍では、コストカットしても売上が立たない。売れない商品やサービスが残ったままになる。過剰債務、債務超過の企業でも事業再構築投資をしないと本当の再生を描けない。バランスシートの整理は、事業再生ガイドラインや協議会の仕組みで対応できる。損益計算書の改善はどうするのか。コスト削減以外では投資が必要になる。そこは事業再構築補助金や、ものづくり補助金などで応援する。そうしないと、本当の意味での再生は難しい。
 再生するからには、本当の再生を目指すお手伝いがしたい。

―TSRの調査では、過剰債務を抱える企業の7割が事業再構築に未着手(※5)だ。

 過剰債務を抱えている企業は、金融債務が過多となっているケースも多い。このため、金融機関に相談しないまま、事業再構築投資することは難しい。金融機関からすれば「まずは返済を」となる。
 なので、手順として協議会や事業再生ガイドラインを使ってもらう。その際にファンドを含めて、支援策を提示する。

  • ※52021年12月にTSRが実施したアンケートでは、自社が「過剰債務である」と回答した企業のうち、71.0%が「経済が平時に戻るまで事業内容は大きく変えず、経営を継続する予定」と回答。

―これまでの中小企業支援策では、「企業債務への抜本対応を先延ばししている」との批判があった。

 そういった声があることは承知している。脱却したいが、難しい面もある。ただ、今回のパッケージではそうした事態にならないようにしている。
 痛みを伴うこともあるが、将来展望が描けるような支援に繋げたい。



(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年4月1日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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