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しんきん地域創生ネットワーク・髙田社長 独占インタビュー(後編) ~ 地域商社による「中小企業の課題解決」とは ~

―地域創生コンサル事業も積極的に展開する

 地域商社事業のほか、当社のもう1つの事業の柱が自治体向けの地域創生コンサルティング事業だ。このコンサルティングは、約20年前に親会社の信金中金で開始し、当社設立に伴い、その機能を引き受けたものである。自治体には、信金業界がコンサル機能を発揮できることはあまり知られておらず、信金中金でも要請があった場合のみ受け身で対応してきた。
 まずは、自治体に向けて、「地域創生コンサルを信金がお手伝いできますよ、我々もご一緒できますよ」と能動的にどんどん発信していきたい。このコンサルティングにおいても、全国254信金のネットワークを活かすことで、その自治体だけでなく、関連する自治体の課題も解決していきたい。自治体の事業を地元信用金庫と協働して推し進めることは、信用金庫の取引先を含めた地域を「面」でサポートする最も有効な手段だと確信している。

-「しんきん」ならではの強み、 他の金融機関系の地域商社との差別化は

 他の地域商社は、特定のエリア・顧客を対象として事業を展開しているが、我々は全国の信金の取引先を対象に事業を展開しており、ビジネスモデルが異なると考えている。
 各事業者という「点」の支援と、地域という「面」の支援。点と面を合わせ、信金に機能を提供しつつやっていくというのが我々のコンセプトといえる。
 バイヤーからは、同じ種類の商品だけではなく、色々な商品を提案して欲しいとの話を聞く。当社は、全国を対象として事業を展開しているため、仲介や商品企画等により、他地域の商品とのコラボレーションも展開できる。他の地域商社とは異なる取り組みをしていきたい。
 信金は、総資産や営業規模、従業員など、それぞれ異なる。例えば、規模が大きい信金では創業や事業承継など、業務毎に専担者を配置できるが、規模が小さい信金では1人の担当者が全ての業務を担当するなど、組織体制や本部機能も大きく異なる。
 当社のサービスは、規模の小さい信金の本部機能を代替できると考えている。無料相談を始めとして、販路拡大支援は当社のサービスを活用していただき、それによって生まれた余剰時間や人的資源を創業支援や事業承継支援に充当していただきたい。
 それぞれの信金の本業支援機能として位置付けてもらうには、説明会などを通じ、理事長など信金経営層にはもっとアピールしていかなくてはならない。

-中小企業が抱える課題は

 中小企業経営の課題として圧倒的に多いのは、「販売の多様化」だ。実店舗の販売が主体であった中小企業でも、近年ではネット販売に取り組む先が増えている。しかしながら、目先の売上確保に目を奪われがちで、新商品の開発、新たな顧客層の獲得、実店舗のテコ入れやネット販売以降の対応など、今後の展開を深く考える時間や余裕がないように見受けられる。
 例えば、コロナ禍における営業時間の短縮要請を受けて、多くの飲食店がテイクアウトを導入している。しかしながら、自店のナンバーワンメニューを商品化しているところはさほど多くない。我々なら、メニューの内容や種類によって、レトルトパックや缶詰など適切なパッケージを選ぶことや、別のエリアで販売するうえで味付けをどう変更するかなど、商品化の相談に乗ることもできる。
 反対に、困っていない事業者もいる。例えば、コロナ禍でも売上がさほど減らず、ネット販売も順調だという企業。そのような企業でも、専門家に相談し、商品の売り先やデザインをちょっと変えることで全然違う形になって、今までとは違う顧客層を狙えるものもある。好調な企業の可能性を広げることも、1つの販路拡大だ。
 これまでの地域商社は、地域のいい商品を代わりに首都圏で売るという、非常にシンプルな発想だった。しかしながら、商社であれば、より踏み込んで中小事業者の課題解決に取り組むべきであろう。
 商品の持つ可能性を見出し、顧客層を広げるところまでフォローすることで、これまでの金融機関とは異なる支援ができる。

-コロナ禍での中小企業の過剰債務に対してできる取り組みは

 これまで、金融機関が取り組んできた事業再建は、財務的な支援が中心であった。コロナ禍では、無利子・無担保融資(いわゆるゼロゼロ融資)のほか、経営改善計画の作成に取り組んできた。
 経営改善計画では、今の商品をベースに売上を戻して、コストを削減すれば利益を出せる、そのためには返済期間を1年据え置きにして・・・という仮説に基づくシナリオが前提だった。だが、当社が関わることで、これまでになかった販路や顧客を開拓することができれば、より実効性の高い売上予測を設定できる。業況改善に向けたアクションプランを計画に盛り込むことができるよう、当社も積極的に取り組まなければならない。

takada

‌インタビューに応じる髙田社長(撮影の際にマスクを外して頂きました)

-コロナ禍で対面の面談が制限されているが

 無料相談を全国の企業にどこからでもいつでも繋いでほしいという発想は、コロナ禍でなければ生まれなかった。
 対面での面談の制限が逆に、リモートを活用したスピードある対応という発想をもたらしてくれたし、さらに差別化の手段にしていくところまできた。オンラインを上手く活用し、まずは販路拡大に向けた課題解決に繋がる無料相談を今後も広げていきたい。


 「コロナ融資」により資金繰りは一段落しているなか、金融機関には、取引先の売上拡大などの取引先支援の重要性が高まっている。とりわけ地域経済を下支える存在として、「しんきん」の果たす役割は大きい。
 当社がコンセプトとするのは、中小企業の多くが苦手としてきたマーケティングやプロモーションのノウハウに始まるすべての業務プロセスへのサポートだ。中小企業に寄り添う身近な立場で、財務面や資金繰り支援にとどまらない金融機関の新たなサービスの試金石として、今後の展開が注目される。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年10月4日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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