2021年1-4月 『後継者難』の倒産状況調査
2021年1-4月の『後継者難』を起因とする倒産は、114件(前年同期比20.2%減)で、前年同期の143件より29件減少した。ただ、全倒産に占める構成比は5.6%(前年同期4.9%)で、前年同期より0.7ポイント上昇し、1-4月としては調査を開始した2013年以降では最も高い水準になった。
後継者不在の「後継者難」倒産114件のうち、死亡が61件(前年同期比10.9%増)、体調不良が35件(同25.5%減)で、この2要因で『後継者難』倒産の84.2%を占めた。代表者の高齢化が進むなか、業績不振の企業では同族継承や後継者の育成など、事業承継が後回しになっている。
特に、中小企業では代表者が経営全権を掌握するケースが多く、代表者の死亡や体調不良などの不測の事態が生じると、経営維持の問題に直面する。
産業別では、最多が製造業(前年同期比13.6%増)とサービス業他(同4.1%増)で各25件。以下、卸売業19件(同29.6%減)、建設業18件(同52.6%減)、小売業10件(同41.1%減)の順。
資本金別では、1億円以上がゼロだった一方、1,000万円未満(個人企業他を含む)が60件(構成比52.6%、前年同期76件)で半数以上を占めた。負債額別では、1億円未満が78件(同68.4%、同108件)で、約7割を占めた。また、業歴別では、1980年代以前の設立(創業)が62件(同54.3%、同76件)で、業歴が長い小・零細規模の企業で事業承継が大きな課題になっている。
4月に4都府県に発令された緊急事態宣言は、5月12日に期限が5月31日まで延長され、福岡県と愛知県が追加された。コロナ禍の収束が見えないなか、中小企業の「社長不足」は、倒産や廃業を加速させる可能性がある。
- ※本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2021年(1-4月)の「後継者難」倒産を抽出し、分析した。
倒産件数114件、2年ぶりに前年同期を下回る
2021年1-4月の「後継者難」倒産は114件(前年同期比20.2%減)で、2年ぶりに前年同期を下回った。
金融機関は財務内容や担保・保証に過度に依存せず、事業や成長性などを評価する「事業性評価」に取り組んでいるが、後継者の有無も重要な判断材料になっている。
中小企業の多くは、代表者が経理や営業、人事など経営全般を担っている。このため、代表者の死亡や病気、体調不良など、突然の出来事が事業継続に支障をきたすリスクが高い。
全企業倒産(2021年1-4月、2,031件)がコロナ禍の国や自治体、金融機関の支援で減少を続けるなか、「後継者難」倒産の構成比は5.6%(前年同期4.9%)に上昇。中小企業の後継者問題が深刻さを増している。
【要因別】「死亡」と「体調不良」で8割超
「後継者難」倒産の要因別では、代表者などの「死亡」が61件(前年同期比10.9%増、構成比53.5%)。次いで、「体調不良」が35件(同25.5%減、同30.7%)、「高齢」が7件(同69.5%減、同6.1%)と続く。
代表者などの「死亡」と「体調不良」は合計96件(前年同期比5.8%減、前年同期102件)で、「後継者難」倒産に占める構成比は84.2%(前年同期71.3%)と、8割以上に達する。
中小企業は、代表者の高齢化が進むなか、事業承継や後継者の育成が重要な経営課題の一つとなっている。
【産業別】10産業のうち、4産業で増加
産業別では、10産業のうち、不動産業(前年同期比60.0%増)、製造業(同13.6%増)、サービス業他(同4.1%増)、金融・保険業(ゼロ→1件)の4産業で前年同期を上回った。
一方、減少は、情報通信業(前年同期比66.6%減)、建設業(同52.6%減)、小売業(同41.1%減)、卸売業(同29.6%減)の4産業。
同数は、農・林・漁・鉱業、運輸業の2産業だった。
件数の最多は、製造業(前年同期22件)とサービス業他(同24件)の25件(構成比21.9%)。以下、卸売業19件(構成比16.6%、前年同期27件)、建設業18件(同15.7%、同38件)、小売業10件(同8.7%、同17件)の順。
製造業では、「汎・生産・業務用機械器具製造業」(3→4件)、「金属製品製造業」(2→3件)、「家具・装備品製造業」「電気機械器具製造業」(各1→2件)で前年同期を上回った。
また、サービス業他では、「学術研究,専門・技術サービス業」(2→7件)、美容室や結婚式場などを含む「生活関連サービス業,娯楽業」(2→3件)、「物品賃貸業」(ゼロ→2件)などで増加した。
【形態別】消滅型の破産が9割以上
形態別では、最多が「破産」の105件(前年同期比15.3%減、前年同期124件)。「後継者難」倒産に占める構成比は92.1%(前年同期86.7%)で、前年同期に比べ5.4ポイント上昇した。
また、「特別清算」が6件(前年同期比100.0%増、前年同期3件)。
「破産」と「特別清算」は合計111件(同12.5%減、同127件)で、構成比は97.3%に達し、「後継者難」倒産のほとんどが消滅型の倒産。
一方、再建型の民事再生法は前年同期と同件数の1件、会社更生法はゼロで、後継者不在の企業の再建が難しいことを浮き彫りにした。
【資本金別】1,000万円未満が5割以上
資本金別では、1,000万円未満(個人企業他を含む)が60件(前年同期比21.0%減)で、構成比は52.6%(前年同期53.1%)と5割を占めた。
一方、1億円以上は、前年同期と同件数でゼロだった。
【負債額別】1億円未満が7割弱
負債額別では、1億円未満が78件(前年同期比27.7%減、構成比68.4%)で、小規模倒産が主体となっている。ただ、1億円以上5億円未満が31件(前年同期比6.8%増)で、唯一、前年同期を上回っており、中堅企業でも事業承継問題が出始めている可能性がある。