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3度目の緊急事態宣言の発令、苦境が続く「飲食業」の行方

 4月23日、3度目の緊急事態宣言を東京、大阪、京都、兵庫の4都府県に発令することが決定した。 
時短営業に加え、酒類を提供する飲食店には休業が要請される。コロナ禍に振り回される飲食業は深刻な影響が避けられない。
 緊急事態宣言の対象地域外でも新型コロナの感染は拡大しており、飲食店への客足はさらに遠のきそうだ。



 2020年度(20年4-21年3月)の「飲食業倒産」は、前年度比6.7%減の784件だった。
 月次では2020年9月以降、7カ月連続で前年同月を下回った。2019年度まで、人手不足に伴う人件費の上昇から、飲食業界は苦境にさらされ倒産が増加していた。2020年度の倒産は減少したが、これは民間金融機関による実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)や持続化給付金などの支援策が下支えしたためで、その効果も薄れるなかで新型コロナに翻弄されている。

飲食業倒産 前年同月比 推移

 政府の資金繰り支援策で、2020年度の企業倒産は30年ぶりに8,000件を下回る7,163件(前年度比17.0%減)と記録的な低水準だった。飲食業の倒産は減少したとはいえ、減少率(6.7%)は10.3ポイント低い。
 月次では20年夏から秋にかけ、飲食業の倒産の増加率は倒産全体を大幅に上回る状況が続いた。
 また、「新型コロナウイルス」関連倒産も、飲食業倒産の25.7%(202件)を占め、倒産全体の構成比16.0%(1,148件)を上回る。
 全体の倒産は減少をたどるが、その裏側ではコロナ禍で苦境に追い込まれた飲食業の姿が透けて見える。

冬場の倒産減少が年度の倒産件数を抑制

 2020年4月、最初の緊急事態宣言が発令された。かき入れ時の大型連休(GW)に客足が途絶えたことで、裁判所の一部業務が縮小された5月を除き、夏場にかけ飲食業の倒産は高水準をたどった。
 だが、9月以降は飲食業への時短営業要請の解除や、Go Toキャンペーンも始まり、飲食業倒産は一転して減少に転じた。
 11都府県に2度目の緊急事態宣言が発令された2021年1月以降も、時短営業要請に対する補償として支給された感染拡大防止協力金などの下支え効果で、前年同月を下回っている。
 ただ、3月は前年同月比の減少率は5.3%減に縮小し、件数も70件台に乗せ、再び増勢気配をみせている。

飲食業倒産 月次

10月以降、売上半減以下の企業が増加

 倒産の推移とは別に、飲食業の経営環境は深刻さが増している。2021年4月1日~12日に東京商工リサーチ(TSR)が実施した「第15回新型コロナウイルスに関するアンケート調査」では、資金繰り支援策を利用した「飲食業」の割合は91.5%で、業種別では道路旅客運送業に次ぐ2位、廃業検討率は業種別平均7.8%を大きく上回る30.3%に上った。
 さらに、コロナ前の2019年3月と比べ、売上が半分未満の企業の割合は、26.7%に達した。

 また、飲食業で「事業再構築」を実施したり、検討している企業の割合は77.3%を占め、業種別で最大だった。廃業検討率の高さが示すように、ウィズコロナやアフターコロナで、現業態での事業継続が難しく、先行きを厳しく見ている飲食業の経営者が多いことを示している。


 4都府県が対象の3度目の緊急事態宣言は、雇用調整助成金の縮小や感染拡大防止協力金の支給額の不公平感、支給遅れなどを完全に解消できないまま発令が決定された。
 飲食業の多くが売上がコロナ前に戻らないなか、コロナ関連融資や給付で資金繰りを維持している。だが、このままではいずれ限界が訪れる。すでに小・零細規模の倒産(負債1,000万円未満)をみると、「食堂・レストラン」、「バー・キャバレー」、「酒場・ビアホール」などの増加が目立つ。
 大型連休(GW)を目前に、客足が戻らず息切れの瀬戸際に立たされている飲食業界に、みたびの緊急事態宣言がのしかかろうとしている。

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