2020年度 全上場企業「不適切な会計・経理の開示企業」調査
2020年度に「不適切な会計・経理」(以下、不適切会計)を開示した上場企業は48社(前年度比35.1%減)、総数は50件(同35.9%減)だった。集計を開始した2008年度以降、2019年度は過去最多の74社、78件だったが、2020年度はそれぞれ3割超下回った。社数は2016年度以来、4年ぶりに40社台にとどまった。
2020年4月、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令され、企業だけでなく、業績や財務内容などが適正かチェックする公認会計士も在宅勤務が増え、監査業務に遅れが生じた。2020年度の社数、件数はいずれも大幅に減少したが、コンプライアンス(法令順守)、コーポレートガバナンス(企業統治)の観点から、不適切会計のチェックに向けた業務フローの確認も必要となりそうだ。
2020年度に不適切会計で開示された50件の内容は、最多は経理や会計処理ミスなどの「誤り」が22件(構成比44.0%)、次いで、子会社で不適切会計処理などの「粉飾」が18件(同36.0%)、着服横領が10件(同20.0%)の順だった。
産業別では、最多が製造業の18社(同37.5%)。次いで、卸売業の10社(同20.8%)と続く。
上場企業の相次ぐ不適切会計の発覚で、金融庁や東証はガバナンスのさらなる向上に向けた指針整備を進めているが、企業も確実に履行できる体制作りが急がれる。
- ※本調査は、自社開示、金融庁・東京証券取引所などの公表資料に基づく。上場企業、有価証券報告書提出企業を対象に、「不適切な会計・経理」で過年度決算に影響が出た企業、今後影響が出る可能性を開示した企業を集計した。
- ※同一企業が調査期間内に内容を異にした開示を行った場合、社数は1社、件数は2件としてカウントした。
- ※業種分類は、証券コード協議会の業種分類に基づく。上場の市場は、東証1部、同2部、マザーズ、JASDAQ、名古屋1部、同2部、セントレックス、アンビシャス、福岡、Qボードを対象にした。
開示企業数 2020年度は48社(50件)
2020年度に不適切会計を開示した上場企業は48社で、(株)スカパーJSATホールディングスとラサ商事(株)の2社は、それぞれ2件ずつ開示した。
上場企業は国内市場の成熟に伴い、製造業を中心に海外市場に売上拡大を求めてきた。だが、拡大する営業網、製造拠点などにガバナンスを徹底できず、子会社や関係会社で起こした不適切会計の開示に追い込まれる企業が目立つ。
理研ビタミン(株)は2020年7月、中国連結子会社でエビの加工販売取引や棚卸資産での不適切会計処理について開示した。過年度決算短信等を訂正したが、訂正後の連結財務諸表について適切な監査証拠を入手できなかったとして、監査法人が監査意見を表明しなかった。
2021年1月、東証は理研ビタミンに対し、適時開示を適切に行うための体制の不備に起因して、虚偽と認められる開示が行われたとして、その経緯および改善措置を記載した報告書の提出を求めた。
内容別 「誤り」が最多の22件
内容別では、最多は経理や会計処理ミスなどの「誤り」で22件(構成比44.0%)。次いで、「架空売上の計上」や「水増し発注」などの「粉飾」が18件(同36.0%)だった。
(株)ひらまつは、創業者が経営する会社への店舗譲渡に際し、誤った財務諸表を作成していたことなどを調査した報告書を開示し、過年度決算を訂正した。3月31日、東証はひらまつに対し、開示された情報の内容に虚偽があるとして改善報告書の提出を求めた。
また、子会社・関係会社の役員、従業員の着服横領は10件(同20.0%)だった。「会社資金の私的流用」、「商品の不正転売」など、個人の不祥事にも監査法人は厳格な監査を貫いている。
発生当事者別 「子会社・関係会社」が24社でトップ
発生当事者別では、最多は「子会社・関係会社」の24社(構成比50.0%)で、子会社による売上原価の過少計上や架空取引など、見せかけの売上増や利益捻出のための不正経理が目立つ。
次いで、「会社」の15社(同31.3%)だった。会計処理手続の誤りや事業部門での売上の前倒し計上などのケースがあった。
「子会社・関係会社」と「会社」を合わせると39社で、全体の8割(同81.3%)を占めた。
市場別 東証1部が36社でトップ
市場別では、「東証1部」が36社(構成比75.0%)で最も多かった。次いで、「ジャスダック」と「マザーズ」がそれぞれ5社(同10.4%)と続く。
2013年度までは新興市場が目立ったが、2015年度以降は国内外に子会社や関連会社を多く展開する東証1部の増加が目立つ。
産業別 最多は製造業の18社
産業別では、「製造業」の18社(構成比37.5%)が最も多かった。製造業は、国内外の子会社、関連会社による製造や販売管理の体制不備に起因するものが多い。
「卸売業」では、子会社の不適切会計による「粉飾」や不正行為、子会社土地の売却で時価評価差額が適正に取り崩されない「誤り」など子会社に絡むケースが目立った。
2020年度の不適切会計の開示は48社、案件数50件で、2016年度以来、4年ぶりに社数が40社台に減少した。
シャープ(株)は2021年3月12日、スマートフォン向けカメラレンズなどを手がける連結子会社、カンタツ(株)(品川区)の不適切会計に関する調査報告書を公表した。カンタツでは架空売上などを計上し、不正の総額は75億円に上る。不正処理はシャープから派遣されたカンタツの当時の会長が主導。2018年4月から2020年12月までの間、取引先の商社から発注がないにもかかわらず商品を納入、売上計上する不正処理が行われていた。報告書では原因について、「(経営改善のためシャープから派遣された)会長への期待から反対が出なかったと推認される」と指摘。シャープの子会社となった2018年3月以降、事業計画達成に対するプレッシャーも不正処理の背景にあると結論付けた。
監査法人は2020年4月、2021年1月と2度発出された緊急事態宣言でリモートによる監査を進めている。リモート監査は必要に迫られたものだが、企業で広がるリモート化は今後、不正を見逃すことにつながる可能性もある。コロナ禍で業種によっては経営環境が一段と悪化しており、2021年3月期以降はより一層、不適切会計に留意することが必要との声も増えている。
グローバル化で、海外子会社との取引に関する不適切会計も増加した。また、現場や状況を無視した売上目標の達成へのプレッシャーで、不正会計に走るケースも後を絶たない。
コーポレートガバナンスやコンプライアンスの意識定着に向け、上場、未上場を問わず不適切会計を防ぐ風通しの良い組織づくりが求められる。