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社長が事業をやめる時 創業50年、「ガチャガチャ」と歩んだ歴史

「倒産」の一報を受けて降り立ったのは中央線のとある駅。若者に人気の街だ。商業ビルの一角にあった店は、シャッターが閉まりガランとしていた。それと対照的に店の向かいには「ガチャガチャ」が所狭しと並んだスペースがあった。もの珍しそうに見て回る外国人観光客やじっくりと品定めをするお客さんが途切れることはない。その様子をぼんやりと見つめる高齢の男性に声をかけた。偶然だが、その場を訪れていた70歳近くになる店の社長だった。社名と用件を告げるとこれまでの思いを語ってくれた。
この地で開店して約50年。おもちゃの販売店を営んできたが、近年はネット通販の影響でお客さんの入りがめっきり少なくなった。最近は、店舗の向かいの一角に置いた「ガチャガチャ」の収益で会社の経費を補っていたが、それも底を尽いた。
それでも「同じような店はいくつもあるがガチャガチャ自体は問屋が管理している店も多い。あれは場所貸し業者みたいなもの。問屋も在庫処理と思えるようなハズレ商品ばかり入れている。うちは自分で管理し、商品ごとに発注をかけていた。うちの店の『ガチャガチャ』でしか手に入らない商品もあった」と誇らしげに自信をのぞかせていた。
社長自ら商品の入荷時期を細かくチェックし、情報を店頭に張り出して「お得意さん」に提供していた。こうした努力でガチャガチャ事業は最後まで黒字だったという。
だが、経営に行き詰まった。自身の高齢や後継者不在などを理由に事業継続を断念する企業も多いが、「歳はそこまで理由にならない」とポツリ。現在は別会社がガチャガチャ事業を運営している。
「キャッシュレス決済ができる『ガチャガチャ』も登場した。小売店がそうだったように『ガチャガチャ』もデジタル化の流れは止まらないだろう」
ビジネスモデルの変革は津波のようにやってくる。それを目前に感じた時、経営者は決断を迫られる。決断を迫る津波は、すでに街のおもちゃ屋さんにまで押し寄せていた。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年8月7日号掲載予定「社長が事業をやめる時」を再編集)

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