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「待ったなしのマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策」第3回(全4回)

金融庁 総合政策局 マネーローンダリング・テロ資金供与対策企画室
室長補佐 宮田 穣

4.ガイドライン公表後の金融庁の取組み

(1)レポートの公表
金融庁は、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」)の実効性を高めるため、2018年2月のガイドライン公表後も様々な取組みを実施してきた。2018年8月には、ガイドラインに基づく諸施策及び金融機関等におけるマネー・ローンダリング及びテロ資金供与(以下、「マネロン・テロ資金供与」)リスク管理態勢の状況について取りまとめ、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」(以下、「マネロン・レポート」)として公表している。本稿ではマネロン・レポートにも記載した金融庁による取組みの実施状況について説明することとする。
なお、ガイドラインでは、金融庁において、我が国の金融機関等のマネロン・テロ資金供与対策の全体の水準の底上げに資すると考えられる情報(モニタリングの過程で見られた事例等)を金融機関等と積極的に共有していくことを明確にしており、今後も各種の情報発信を図っていく。

(2)マネロン・テロ資金供与対策に係る金融庁の取組み
ガイドラインの実効性を高めるため、金融庁が2018年2月以降に実施してきた諸施策の一つとして実施されたのが、金融機関等におけるマネロン・テロ資金供与に関する取引実態及び態勢整備状況を金融庁(財務局含む)に報告することを内容とした報告命令(主要計数等の年次報告)である。本件は金融機関等におけるデータの整備を促すのみならず、金融庁がリスクベース・アプローチによる実効的なモニタリングを実施するため、マネロン・テロ資金供与対策に関する情報を収集・集約し、各業態及び各金融機関等のリスクを特定・評価することを企図したものである。この報告命令により収集した情報は、業態及び個別金融機関のリスクの所在と統制状況についての金融庁による分析に活用されている。
また、送金取引に関する緊急チェックシートに基づく点検を金融機関等に要請した。送金取引については、金融機関等の営業現場やシステム等が個別の異常取引を的確に検知し、必要に応じて顧客に追加的な確認・調査を行った上で、本部に報告して承認を求めるといったプロセスを定着させることが重要である。金融庁による要請は、金融庁が提供した緊急チェックシートに基づいて具体的な検証点・対応策を金融機関等が検討し、これらが現場に浸透していくことを促すためのものである。
さらに、ガイドラインを踏まえた実効的な態勢整備を促すため、ガイドラインの「対応が求められる事項」と現状の態勢との差異(ギャップ)の分析と、ギャップを埋めるためのアクションプランの策定を金融機関等に求めた。ギャップ分析・アクションプランの策定に当たっては、いつまでに、どの部門が、いかなる人員を擁して対応を行うか等の観点から、アクションプランを適切に実施するためのリソース配分を検討する必要があることから、金融庁は、金融機関等の経営陣がマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の構築・維持に積極的に関与することを求めている。

マネロン・テロ資金供与対策に係る金融庁の取組み

マネロン・テロ資金供与対策に係る金融庁の取組み

 上記の諸施策に加え、個々の金融機関等に対しては、金融機関等における実態を把握し、更なる態勢強化を促進する観点から、その管理態勢等について、順次オン・オフ両面でのモニタリング(ヒアリングや立入検査等)を実施し、改善に向けた指摘・提言をしている。
なお、個別金融機関に対するヒアリング等における主な検証項目やモニタリングを通じて確認された好事例・悪事例については、金融庁が2018年9月に公表した「変革期における金融サービスの向上にむけて ~金融行政のこれまでの実践と今後の方針~ (平成30事務年度)」140頁の「③マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対応」の項目においても紹介している。
また、マネロン・テロ資金供与対策における官民の密接な連携を図る観点から、銀行等の預金取扱金融機関との間で、2018年4月に「マネロン対応高度化官民連絡会」(事務局:全国銀行協会)が立ち上げられた。同会では、国際的な議論状況の還元や、マネロン・テロ資金供与対策の重要性の啓発を実施してきた。そうした中、全国銀行協会は、「AML/CFT対策支援室」を情報分析や業界への情報提供を担当する常設部署として同年11月に設置し、他の業態の業界団体とも連携しながら個々の銀行での支援活動を実施している。金融庁も業界全体で検討すべき論点等をAML/CFT対策支援室に共有し議論の活性化を図っている。

これらの取組みと並行して、金融庁は、業界団体や金融機関等の経営陣・職員との対話会やセミナーを実施するなど、マネロン・テロ資金供与対策の必要性とそのあり方について働きかけ(アウトリーチ)を継続している。
金融機関を利用する一般の利用者に向けた広報活動も実施している。金融機関等がマネロン・テロ資金供与対策を円滑に実施していくためには、従来よりも厳格な本人確認を受けたり、従来は求められなかった資料の提出や質問への回答を求められること等について、利用者(一般企業等)の理解を得ることが必要不可欠なためである。
例えば、金融庁ウェブサイト内に特設ページを開設し、金融機関等が行う厳格な取引時確認の必要性や背景、及び事例の説明等を掲載している。当該特設ページには以下のURLからアクセスできるほか、金融庁ウェブサイトのトップページに掲載している「-マネー・ローンダリング・テロ資金供与対策-金融機関窓口などでの取引時の情報提供にご協力ください」というバナーからもアクセス可能である。
(https://www.fsa.go.jp/news/30/20180427/20180427.html)

金融庁としては、引き続きこれらの施策を継続・充実させるとともに、業界団体や各金融機関等と連携し、マネロン・テロ資金供与対策に係る態勢整備の強化を促していく。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年1月30日号より転載)


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