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2017年「労働者派遣業」の倒産状況

 深刻な人手不足を背景に、労働者派遣業は追い風が吹いていると見られたが、2017年(1-12月)の「労働者派遣業」の倒産は前年より2割増の76件発生し、2年連続で前年を上回った。
 原因別で、最多は「販売不振」(業績不振)の50件(前年比25.0%増)で、全体の約7割(構成比65.7%)を占めた。同業他社との競争に加え、派遣スタッフの確保や単価交渉力などで、大手と小規模事業者との間で業績格差が広がっていることが窺われる。
 2015年に改正労働者派遣法が施行され、今年9月に事業継続に必要な資産要件を満たす経過措置期間の終了が迫る中、小規模事業者を取り巻く環境はますます厳しさを増している。


2017年(1-12月)の倒産件数、前年比24.5%増

 2017年の企業倒産全体は8,405件(前年比0.4%減)とバブル期並みの低水準だったが、2017年の「労働者派遣業」の倒産は76件(前年比24.5%増、前年61件)と、2年連続で前年を上回った。
 負債総額も60億2,000万円(同35.2%増、同44億5,100万円)と、2年連続で前年を上回った。
 負債10億円以上の大型倒産が1件(前年ゼロ)だったのに対し、同1億円未満は59件(前年比18.0%増、構成比77.6%)と増勢して全体の約8割を占めるなど、小規模企業の倒産が目立った。

労働者派遣業の倒産 年次推移

原因別、販売不振が約7割を占める

 2017年の原因別では、「販売不振」(業績不振)が最多の50件(前年比25.0%増、前年40件)と約7割(構成比65.7%)を占めた。次いで、「他社倒産の余波」が前年同数の9件、「既往のシワ寄せ」が8件(前年2件)、「事業上の失敗」が前年同数の6件と続く。

従業員5人未満が4割増

 従業員数別では、最多が5人未満の55件(前年比44.7%増、構成比72.3%、前年38件)で、小・零細事業者が4割増と増勢が目立った。
 次いで、5人以上10人未満が14件(前年比27.2%増、前年11件)、20人以上50人未満が5件(同25.0%増、同4件)といずれも増加した。

形態別、事業清算型の破産が9割

 形態別では、清算型の破産が73件(同19.6%増、前年61件)と9割(構成比96.0%)を占めた。これは大手の人材派遣会社などの営業攻勢を受け、業績不振から抜け出せずに事業意欲を喪失し、破産に追い込まれる小・零細規模事業者が多いことを窺わせた。労働者派遣業は派遣先(企業)の技術や業務内容など、派遣先との緊密な関係が重視される。いったん失った営業窓口の挽回は難しいだけに、業績不振に陥った企業の再建は極めて難しい。

地区別、9地区のうち、8地区で倒産発生

 地区別では、全国9地区のうち、8地区で倒産が発生した。このうち前年より増加したのが、関東(25→39件)、近畿(6→17件)、北海道(1→2件)の3地区で、特に東京(9→21件)、大阪(3→11件)など大都市圏での増加が際立った。
 一方、減少は中部(20→11件)、北陸(2→1件)、九州(4→3件)の3地区。前年同数が東北2件と中国1件、発生なしが四国(前年ゼロ)だった。


 2017年の労働者派遣業の倒産は前年より2割増えた。人手不足から労働者派遣業界には追い風が吹いている印象が強い。だが、企業が正社員登用を増やしている結果、派遣登録の人手不足が進み、人材を確保しやすい大手の競争力が強まる傾向にある。それだけに中小業者は生き残りに向けた消耗戦に入っている。さらに、2015年に改正労働者派遣法が施行され、経過措置期間が終了する今年9月29日までに事務所の最低面積や基準資産額(資産の総額から負債の総額を控除した金額)や現預金額などの資産要件をクリアしなければ事業継続ができなくなる。
 こうした資産要件の達成は、競争力が劣勢で、業績改善が進まない中小の労働者派遣事業者には重荷となっており、今後も経営基盤が乏しい中小・零細事業者の動向から目を離せなくなった。

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