• TSRデータインサイト

てるみくらぶの「決算書」を読み解く

 3月27日に格安海外旅行の(株)てるみくらぶが負債151億円を抱えて破産した。その原因を同社の決算書から迫った。

「てるみくらぶの決算数値」(画像添付)は、同社の破産申立書に添付された資料から作成した。2015年9月期~2016年9月期の修正前貸借対照表・損益計算書(簿価)、修正後貸借対照表(実際額)、回収見込み額を並べた。
2016年9月30日の修正前貸借対照表の「純資産額」は4億5,900万円だが、同年の修正後貸借対照表では74億5,200万円の債務超過。さらに破産を申請した2017年3月23日の修正後貸借対照表では債務超過額は125億5,200万円まで膨れあがっていた。

てるみくらぶの決算数値

売上高の異常な伸び

 売上高は2015年9月期の130億3,000万円から2016年9月期195億6,900万円へ50.1%増加している。破産申立書にそれ以前の業績は記載されていないが、東京商工リサーチが破産前に実施したてるみくらぶの調査では、2014年9月期の86億8,300万円から2015年9月期は129億8,000万円へ49.8%増加していた。
2015年9月期の売上高に差異が生じていることがわかる。また、連続50%前後の大幅な連続増収となっている。

同業大手の(株)エイチ・アイ・エスの2016年10月期売上高(単体)は3,952億7,800万円(前期比1.7%減)と足踏みだった。大手が厳しいなか、てるみくらぶの増収率は異常だ。
この増収は「広告関連費(広告宣伝費と販売促進費の合計)」の増加に支えられていた。ネットや新聞に積極的に広告を打ち、広告関連費は2015年9月期の9億9,600万円から2016年9月期は20億7,300万円と約2倍になっている。売上を伸ばすため多額の広告関連費をつぎ込んでいたことがうかがえる。

売上を伸ばすと航空会社からのボリュームインセンティブ(販売奨励金)を獲得できる。「ディスカウント販売で得たインセンティブで(赤字を)穴埋めをしていたようだ」と業界関係者は指摘する。修正前貸借対照表には受け取り予定のインセンティブが「未収収益」として計上されている。
未収収益は、2015年9月期の17億5,000万円から、2016年9月期は22億2,400万円に27.0%増えている。

大きく膨らんだ「前受金」

 貸借対照表の「修正前」と「修正後」では、「前受金」が3.9倍膨らんでいる。「前受金」は予約金の累計で、2016年9月期の「修正前」貸借対照表(簿価)では17億5,900万円が計上されている。だが、同年の「修正後」貸借対照表(実際額)では3.9倍の70億円に修正されている。さらに破産直前の2017年3月23日の修正後貸借対照表では100億円に膨らんでいる。これが旅行申込者の被害金額だ。

100億円の被害金額に対し、2017年3月27日の「回収見込み額」では、「現預金」が1億900万円しかない。予約金はどこへ消えたのか。
同業他社は「あの値段でやれるはずがない」、「ダンピングは迷惑」とてるみくらぶを評していた。また、2016年春には支払遅れの噂も流れていた。ダンピング販売で生じた赤字を穴埋めし、資金繰りに使われたのだろうか。

破産申立書に添付された税務申告書と同附属明細書では、2016年9月期の山田社長の役員報酬は3,360万円だった。また、てるみくらぶの親会社で持ち株会社の(株)てるみくらぶホールディングスからグループの実質オーナーへの役員報酬は3,225万円計上されている。
2015年9月期のてるみくらぶホールディングスの実質オーナーへの役員報酬は5,160万円だ。一方、従業員の年収はおおよそ300万円。グループ各社の経営が実質行き詰まった状態で支払われた異常な役員報酬。てるみくらぶの破産は、「経営者」の私利私欲とダンピング販売が招いた結果だったといえるだろう。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2017年5月15日号掲載の「破綻の構図」より再編加工)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「美容室」倒産が急増 1‐4月は最多の46件 人件費や美容資材の価格上昇が経営を直撃

コロナ禍を抜けたが、美容室の倒産が急増している。2024年1-4月「美容室」倒産は、累計46件(前年同期比48.3%増)に達した。同期間の比較では、2015年以降の10年間で、2018年と2019年の32件を抜いて最多を更新した。

2

  • TSRデータインサイト

約束手形の決済期限を60日以内に短縮へ 支払いはマイナス影響 約4割、回収では 5割超がプラス影響

これまで120日だった約束手形の決済期限を、60日に短縮する方向で下請法の指導基準が見直される。約60年続く商慣習の変更は、中小企業の資金繰りに大きな転換を迫る。 4月1~8日に企業アンケートを実施し、手形・電子記録債権(でんさい)のサイト短縮の影響を調査した。

3

  • TSRデータインサイト

「人手不足」企業、69.3%で前年よりも悪化 建設業は8割超が「正社員不足」で対策急務

コロナ禍からの経済活動の再活性化で人手不足が深刻さを増し、「正社員不足」を訴える企業が増加している。特に、2024年問題や少子高齢化による生産年齢人口の減少などが、人手不足に拍車をかけている。

4

  • TSRデータインサイト

コロナ破たん累計が1万件目前 累計9,489件に

4月は「新型コロナ」関連の経営破たん(負債1,000万円以上)が244件(前年同月比9.9%減)判明した。3月の月間件数は2023年3月の328件に次ぐ過去2番目の高水準だったが、4月は一転して減少。これまでの累計は9,052件(倒産8,827件、弁護士一任・準備中225件)となった。

5

  • TSRデータインサイト

【破綻の構図】テックコーポレーションと不自然な割引手形

環境関連機器を開発していた(株)テックコーポレーションが3月18日、広島地裁から破産開始決定を受けた。 直近の決算書(2023年7月期)では負債総額は32億8,741万円だが、破産申立書では約6倍の191億円に膨らむ。 突然の破産の真相を東京商工リサーチが追った。

TOPへ