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2015年度「東証1部・2部上場企業 不動産売却」調査

 2015年度に国内不動産を売却した東証1部、2部上場企業は70社で、4年ぶりに前年度を下回った。中国や新興国の経済減速を背景とした世界的なリスク懸念の高まりから、不動産市場でも様子見やリスク回避の動きが強まり、取引が縮小したことが影響したとみられる。


  • 本調査は、東京証券取引所1部、2部上場企業(不動産投資法人を除く)を対象に、2015年度(2015年4月~2016年3月)に国内不動産(固定資産)の売却契約または引渡しを実施した企業を調査した(各譲渡価額、譲渡損益は見込み額を含む)。
  • 資料は『会社情報に関する適時開示資料』(2016年5月10日公表分まで)に基づく。東証の上場企業に固定資産売却の適時開示が義務付けられているのは、原則として譲渡する固定資産の帳簿価額が純資産額の30%に相当する額以上、または譲渡による損益見込み額が経常利益または当期純利益の30%に相当する額以上のいずれかに該当する場合である。

不動産売却企業は70社、4年ぶりに社数が前年度を下回る

 会社情報の適時開示ベースで2015年度に国内不動産(固定資産)の売却契約または引渡しを実施した東証1部、2部上場企業数は、70社(前年度77社)で、2011年度以来4年ぶりに前年度を下回った。
 これは、2015年の中国・上海証券取引所での株価急落を背景に、中国や新興国経済の失速懸念が高まったことが影響した。リスク回避から買い手が積極的に不動産を購入する動きが減退し、外国資本も加わって活況を続けてきた国内不動産市場の拡大にブレーキがかかったとみられる。
 また、輸出企業などは円安の恩恵による利益増大から内部留保が膨らみ、リスク懸念が高まる中で、所有物件を売り急がない様子見の傾向が強まったことも影響したと推測される。

東証1部、2部上場企業 不動産売却企業数の推移

公表売却土地総面積、57社で87万平方メートル

 2015年度の売却土地総面積は、内容を公表した57社合計で87万8,290平方メートルだった。単純比較で前年度より7.0%減少(前年度:公表67社合計で94万5,403平方メートル)した。売却土地面積が1万平方メートル以上は23社(前年度25社)だった。

公表売却土地面積トップはユニチカ

 公表売却土地面積トップは、フィルムや樹脂など高分子事業や機能材メーカー、ユニチカの27万692平方メートル(子会社所有分を含む)で、閉鎖した愛知県豊橋事業所の土地有効活用を図るため売却した。次いで、保有資産の見直しから神奈川県横浜市と栃木県小山市の土地合計13万8,257平方メートルを売却した光ファイバー・電線メーカー大手の古河電気工業。経営計画に基づき、経営資源の効率化と財務体質の強化を目的に神奈川県高座郡寒川町の遊休資産を売却した、精密機器メーカー大手のセイコーエプソンが9万8,310平方メートルと続く。

譲渡価額総額、51社合計で2,210億円

 譲渡価額の総額は、公表した51社合計で2,210億5,900万円(見込み額を含む)。個別トップは、京阪神ビルディングの244億円。資産に占める割合が高い経年ビルの心斎橋アーバンビル(大阪市中央区)を関西アーバン銀行に売却した。次いで、ポートフォリオの改善に向けた資産組み換えの一環として、NTT幕張ビルの信託受益権を譲渡したエヌ・ティ・ティ都市開発の215億円。古河電気工業の213億円と続く。譲渡価額100億円以上は7社(前年度9社)だった。

譲渡損益、63社合計で1,357億円

 譲渡損益の総額は、公表した63社合計で1,357億6,800万円(見込み額を含む)だった。内訳は、譲渡益計上が55社(前年度46社)で合計1,439億7,300万円(前年度2,185億1,100万円)。
 譲渡益トップは、古河電気工業の200億円。次いで、三井造船の168億400万円、シャープの148億3,300万円、トクヤマの125億円と続く。これに対して譲渡損を公表したのは8社(前年度15社)で、譲渡損の合計は82億500万円(前年度53億4,000万円)だった。

業種別、最多はサービス業の10社

 業種別社数では、サービス業が10社で最も多かった。次いで卸売業が6社、繊維製品・その他製品・電気機器・不動産業が各5社、化学と食料品が各4社と続く。業種別の売却土地面積では、非鉄金属が13万9,108平方メートルでトップ。次いで、輸送用機器が13万5,781平方メートル、電気機器が12万6,329平方メートル、食料品が8万2,439平方メートルの順だった。


 2015年度の東証1部、2部上場企業の不動産売却は、4年ぶりに社数が前年度を下回った。中国経済の減速などの世界経済の変動を背景としたリスク回避から、不動産売買の動きが停滞したことが影響したとみられる。TSRの「2015年上場企業の不動産取得」調査でも、不動産を取得した上場企業数は3年連続で同数で推移するなど、前向きな設備投資の一環として不動産を取得する企業数の「足踏み」状態が続いている。民間主導の自律的な景気回復度を測るバロメーターの一つとして、今後も上場企業の「不動産売却」を注目すべきだろう。

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