銀行115行(2015年9月期連結決算ベース) 「農業、林業」向け貸出金残高調査
2015年11月、環太平洋経済連携協定(TPP)が大筋合意に至った。政府は政策大網をまとめ、特に影響が懸念される農業に対して保護対策と同時に、攻めの方向性も打ち出した。
銀行の「農業,林業」向け貸出は、前年同期比0.2%増と前年同期を上回った。だが、貸出全体の伸び率3.1%増を下回り、これまで貸出姿勢が積極的だったとは言い難い。今後は農業法人等の増加も見込まれるだけに、資金需要の新たな有望マーケットとして期待される。
農業を主力産業とする地域の地銀の貸出比率は比較的高かった。農業マーケットの拡大は、最終的には「地方活性化」や金融機関の統合への推進力となる可能性も秘めている。
- ※本調査は、銀行115行を対象に、2015年9月期連結決算ベースの「農業,林業」向け貸出金残高を調べた。なお、信託銀行3行、りそな銀行、沖縄銀行は信託勘定を含む。傘下の銀行が連結子会社となっている場合や単体データのみ公表の銀行は、単独決算の業種別貸出状況を比較した。
「農業,林業」向け貸出金残高、前年同期比0.2%増
銀行115行の2015年9月期連結決算ベースの「農業,林業」向け貸出金残高は、8,320億2,000万円(前年同期比18億1,000万円増、同0.2%増)だった。「農業,林業」向け貸出金残高の推移は、2013年3月期が7,826億7,200万円、13年9月期が8,134億5,000万円、14年3月期が8,347億8,300万円、14年9月期が8,302億1,000万円、15年3月期が8,407億1,500万円と推移してきた。
貸出金残高100億円以上が15行
2015年9月期連結決算ベースの「農業,林業」向け貸出金残高のトップは、三菱東京UFJ銀行(単体)の1,510億8,500万円だった。次いで、三井住友銀行(単体)の1,247億8,600万円、鹿児島銀行515億9,700万円、みずほ銀行474億円、宮崎銀行244億100万円の順。農業県である鹿児島県や宮崎県の地銀が上位に顔を出した。貸出金残高100億円以上は15行(前年同期15行)。
過半数の59行で貸出金増加
前年同期比では過半数の59行(構成比51.3%、前年同期56行)が前年同期の貸出金残高を上回った。貸出金残高が増加した59行のうち、増加額トップは、みずほ銀行(単体)の52億円増だった。次いで、西日本シティ銀行(単体)45億9,200万円増、山形銀行13億9,500万円増の順。
一方、前年同期より貸出金残高が減少したのは、三井住友銀行(単体:農業,林業,漁業,鉱業)の54億2,000万円減、三菱東京UFJ銀行(単体:農業,林業,漁業,鉱業,採石業,砂利採取業)の45億500万円減、足利銀行(単体)の16億9,000万円減の順だった。
貸出比率、最高は鹿児島銀行の1.91%
銀行115行の2015年9月期連結決算ベースの「農業,林業」向け平均貸出比率は0.18%(前年同期0.19%)で、前年同期より0.01ポイント低下した。
個別の貸出比率は、鹿児島銀行の1.91%が最高だった。次いで、宮崎銀行1.4%、富山銀行0.93%、みちのく銀行0.88%、仙台銀行(単体)0.80%、南日本銀行0.77%、宮崎太陽銀行0.75%、東北銀行0.75%と、農業を基盤産業とする九州、東北の地銀、第二地銀が上位を占めた。
業態別、地銀の過半数で貸出が前年同期を上回る
業態別では、地銀64行は3,964億5,600万円で前年同期比1.5%増。第二地銀41行は944億9,500万円で同0.7%減。大手銀行10行は3,410億6,900万円で同1.0%減だった。
地銀64行のうち、貸出金の増加は35行(構成比54.6%)、減少が29行で、地銀の過半数が農業,林業向け貸出を増やした。これに対し第二地銀41行では、減少が21行、増加が20行。大手銀行10行では、減少が6行、増加が4行だった。業態別では地銀だけが前年同期を上回った。
10地区のうち5地区で前年同期を上回る
本店所在地による地区別では、全国10地区のうち5地区で貸出金残高が前年同期を上回った。増加額は、九州21行の48億2,600万円増を筆頭に、東北15行が26億1,600万円増、中国9行が16億200万円増、四国8行が12億9,500万円増、北陸6行が8億1,400万円増の順だった。
これに対し、東京12行が53億6,200万円減、関東17行(東京を除く)は19億8,000万円減、中部14行が9億8,700万円減、近畿11行が7億2,300万円減、北海道2行が2億9,100万円減だった。
増加率では、中国8.0%増、四国5.3%増、東北4.2%増、九州3.2%増、北陸3.0%増の順だった。一方、減少率は近畿3.1%減、関東(東京を除く)2.1%減、中部1.6%減、東京1.5%減、北海道0.8%減の順だった。
まとめ
これまで農業向け貸出しは、JAバンクグループ(農協、信用農業協同組合、農林中央金庫)と政府系の日本政策金融公庫が中心で、民間金融機関の対象にはなりにくかった。
しかし、2009年の農地法改正で企業や異業種から農業への参入が容易になり、農業法人などが増加した。地元経済が低迷し資金需要が乏しくなるなか、新たな貸出先として銀行は農業法人等に注目しているようだ。また、借地が多いと言われる農業法人では、ABL(動産・売掛金担保融資)の積極的で多様な活用も農業向け貸出を拡大させる要因のひとつになるだろう。
今回の環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意を受け、農業の体質強化が急がれている。経営規模が一定以上の農業法人等の「農業経営体」による経営が一層進むとみられ、これに伴い資金需要の創出も期待される。地域経済の活性化へのカンフル剤として、今後の「農業,林業」向け貸出の推移が注目される。