2014年「合同会社」の新設法人調査
2014年(1-12月)の1年間に新しく設立された法人(以下、新設法人)は11万9,552社。このうち、合同会社は1万9,879社と、新設法人に占める割合は16.6%だった。2013年に比べて新設法人数は5,343社(36.8%)増加し、2010年と比べてここ5年で約3倍になっている。
合同会社は2006年5月1日に施行された会社法により、新しく設けられた会社形態。アメリカのLLC(Limited Liability Company)がモデルになっている。設立手続きの簡素化、維持運営費用に優位性があり、決算公告の義務もない。かつ組織の自由度が高く、柔軟性を持たせた経営・運営をできることが特徴となっている。
設立手続きの容易さや節税目的などから、個人企業が合同会社として法人化することも増えている。また、最近では社内の意思決定が迅速にできることもあり、外資系企業の日本法人、投資および発電関連の会社などで、合同会社は幅広く活用され、浸透しつつある。
- ※本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(対象398万社)から、「合同会社」として2014年に新しく設立された法人データを抽出し、分析した。
5年連続して前年比20%以上の伸び
2014年の新設法人のうち、合同会社は1万9,879社で、前年より36.8%増と、増加率が法人格全体で最も高かった。特に、2013年以降は2年連続して35%を超えるなど著しい増加率をみせた。株式会社は8万7,205社と新設法人数が最も多かったが、前年に比べ5.0%増にとどまった。特定非営利活動法人(NPO法人)は非公益活動などを行う企業もありイメージが低下し、設立要件の厳しさや設立時の手続きも複雑のため、2年連続で前年を下回ったとみられる。
産業別、金融・保険業と不動産業の増加率が際立つ
産業別では、全10産業で増加した。金融・保険業が前年比70.6%増と最も高く、次いで不動産業が同51.1%増、製造業が同49.1%増、サービス業他が同41.3%増と続く。東日本大震災前の2010年と新設法人数を比べると、円安の進行で起業環境の改善の大きかった製造業が約4.5倍(198→896社)と最も増加。卸売業が約3.7倍(217→804社)、不動産業が約3.3倍(789→2,660社)、建設業が約3.2倍(275→887社)と、それぞれ増加した。
資本金別、1千万円未満が全体の99.2%を占める
資本金別では、「1百万円未満」が1万1,249社(前年比34.5%増)と最も多く、「1百万円以上5百万円未満」が6,869社(同40.2%増)、「5百万円以上1千万円未満」が1,615社(同40.4%増)と続く。資本金1千万円未満が1万9,734社(前年1万4,415社)と、全体の99.2%(同99.1%)を占め、合同会社の新設法人の大きな特徴となっている。
地区別、全9地区で新設法人数が前年を上回る
地区別では、全9地区で新設法人数が前年を上回った。増加率では、近畿が前年比53.9%増(1,736→2,671社)で最も高く、特に兵庫、滋賀で増加が目立つ。次いで、関東と四国が同42.1%増、北陸が同41.0%増、中国が同40.7%増、東北が同34.4%増、九州が同22.1%増、中部が同19.3%増、北海道が同10.2%増の順。
都道府県別、新設法人数は東京が最多
都道府県別では、東京が6,662社(前年比47.9%増、構成比33.5%)と最も多かった。次いで、神奈川が1,347社(同48.5%増、同6.7%)、大阪が1,229社(同31.2%増、同6.1%)、千葉913社(同48.0%増、同4.5%)、愛知が845社(同28.2%増、同4.2%)の順。
東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県の新設法人数は9,664社(前年比44.6%増)と、全体の48.6%を占めている。景気回復の牽引役となっている大手企業の業績改善を受け、起業意欲が高まっている可能性がある。
業種別、電気・ガス・熱供給・水道業が前年比2.8倍
業種別では、不動産業が2,660社(構成比13.3%)で最も多かった。次いで、機械や建築設計業を含む、学術研究,専門・技術サービス業が2,378社(同11.9%)、電気・ガス・熱供給・水道業が1,820社(同9.1%)、金融,保険業が1,590社(同8.0%)、情報サービス・制作業が1,582社(同7.9%)と続く。新設法人数が1,000社を上回ったのは8業種だった。
新設法人数が20社以上の業種での増加率をみると、電気・ガス・熱供給・水道業が前年比177.9%増(655→1,820社)と最も高かった。以下、通信・放送業が同136.7%増(30→71社)、電気機械器具製造業が同89.1%増(92→174社)、建築材料,鉱物・金属材料等卸売業が同83.9%増(31→57社)と続く。
電気・ガス・熱供給・水道業は、太陽光や風力、地熱など再生可能エネルギーによる発電を目的とし、プロジェクトごとに複数の合同会社を設立するケースが目立った。
まとめ
合同会社という新しい会社形態が設けられる以前は、「経営者の責任は有限であるが会社の所有と経営が分かれ、制約が多い『株式会社』や『有限会社』」と、「組織の自由度が高いが経営者の責任が無限となる『合資会社』や『合名会社』」に会社形態は大きく分けられていた。
2006年5月に会社法が施行され、合同会社が新設されたことで、有限責任ながら所有と経営が一体で、自由な経営体制ができるようになった。
政府は成長戦略のなかで、産業の新陳代謝を促し、企業の開業率を欧米並みの10%台へ上昇させることを目標に掲げている。合同会社は政府目標の開業率の上昇に一役買っているようだ。
最近では、APPLE JAPAN合同会社(TSR企業コード:295704705、東京都港区)や合同会社西友(TSR企業コード:290278139、東京都北区)など株式会社や有限会社から合同会社に組織変更する企業もあり、合同会社の知名度は高まりつつある。合同会社の利点である柔軟性のある経営が浸透すれば、合同会社の新設法人数は今後も増える可能性が高い。