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不動産を取得した上場企業は44社 3年ぶりに前年水準を上回る

上場企業の不動産取得が活発になっている。2013年に国内不動産取得や工場・社屋の新設などを公表した上場企業は44社にのぼった。3年ぶりに前年水準を上回り、前年比でも2倍増で推移している。アベノミクス効果による景気の先行き期待から、事業拡大とともに事業用収益物件を取得する傾向が強まり、企業の設備投資が活性化していることを窺わせた。

  • 本調査は、上場企業(不動産投資法人を除く)を対象に、2013年に国内不動産(固定資産)の取得(建物の新設等を含む)を決議、公表した企業を調べた。資料は『会社情報に関する適時開示資料』(2013年11月8日公表分まで)に基づく。

不動産取得の上場企業は44社 前年に比べて2倍増で推移

会社情報の適時開示ベースで2013年に国内不動産(固定資産)の取得、工場や社屋などの建設を決議、公表した上場企業数は11月8日現在で44社(前年比100.0%増、22件増)にのぼり、前年(22社)に比べ2倍増で推移している。
これまで6年間の年間推移は、2008年の56社をピークに、2009年28社、2010年41社、2011年36社、2012年22社と逓減傾向をみせていた。だが、2013年は1-10月累計で44社と、すでに2012年の年間22社を上回り、2008年の56社に迫る勢いをみせている。

取得した土地総面積 公表分で132万5,886万平方メートル

2013年の不動産取得では、取得した土地の面積を公表した18社で、合計132万5,886平方メートルにのぼった。非公表の会社もあり単純比較できないが、参考までに前年は16社で12万8,858平方メートルだったのと比べ、10倍増と大幅に大型化し設備投資の活性化を映し出している。

取得土地面積トップ 発電所用地取得のハイブリッド・サービス

公表取得土地面積のトップは、本格的な事業展開に向けメガソーラー発電所用地を取得したハイブリッド・サービスの114万4,564平方メートル。次いで、埼玉県で建設中の物流施設(土地建物)を取得したアスクルの5万5,062平方メートル。関西エリアの営業強化策で既存倉庫の隣接地を取得した小野建の4万2,800平方メートルと続く。

取得(投資)総額 43社合計で3,216億円

取得(投資)額の総額は、公表した43社合計で3,216億4,200万円にのぼった。前年が19社で427億1,900万円だったのと比べ増加ぶりが際立っている。
投資額のトップは、日本電気の575億円。既存の玉川事業場の一部を建替して建設した高層ビル群「玉川ルネッサンス」(神奈川県川崎市)を流動化の手法により賃借していたが、中長期的なコスト削減につながると判断し、土地建物に設定された信託受益権を取得した。
次いで、ヒューリックの500億円。ポートフォリオ強化に資する長期保有ビルとして、オフィスビルの「神谷町セントラルプレイス」(東京都港区)を取得した。
また、日本アセットマーケティングは、ドン・キホーテグループの組織再編の一環として、グループ各社が保有する建物を効率的に運用・管理するため合計467億9,100万円を投じる。
パルコは、九州の商業中心地である福岡市天神地区の「福岡パルコ」の建物を賃借していたが、経営基盤の強化のため福岡パルコと隣地の土地建物の信託受益権を265億円で取得した。
アスクルは、埼玉県で建設中の物流施設を152億5,000万円で取得した。東京都競馬は、自社の倉庫用地に隣地する倉庫・土地を倉庫賃貸事業の競争力強化のため150億円で取得した。

取得理由 「事業用収益物件の取得」型が急増

取得理由では、新工場や新社屋の用地取得や建設、新規事業進出などの「事業拡大」型が18社で最も多かった。次いで、賃貸用ビル、土地建物などを取得する「事業用収益物件の取得」型が13社、賃貸物件を自社所有とする「経営安定」型が13社と続く。
このうち、「事業用収益物件の取得」型は前年4社から急増した。また、取得方法では信託受益権の取得が5社あった。

業種別 不動産が最多の10社

業種別社数では、不動産が10社で最も多かった。次いで、サービス業7社、小売5社、卸売4社、電気機器3社と続く。
取得(投資)金額では、最多が不動産の1,100億6,500万円だった。銀行貸出の業種別で、不動産業向け貸出が増加していることを裏付けた格好となった。次いで、電気機器が609億円、小売が440億8,300万円、サービス業392億2,200万円、情報・通信が143億円の順。


上場企業の不動産取得は3年ぶりに前年を上回った。政権交代以降のアベノミクスによる大胆な金融緩和や積極的な財政政策で、景気の先行き期待が高まったことが背景にあると思われる。
事業拡大に備え、先行投資に動く企業が増えることは、土地建物取得や工場、社屋建設、付随した設備導入など、幅広い産業に需要拡大の波及効果が期待される。景気拡大を支える一翼は、民間投資の活発な動きが今後も高水準で持続するかどうかにかかっている。

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