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主要地ビールメーカーの出荷量が4年ぶりに減少 記録的な酷暑も物価高と天候不順に勝てず8.6%減

第15回「地ビールメーカー動向」調査

 記録的な猛暑が続いた今年の夏、地ビールメーカーの出荷が苦戦したことがわかった。主な地ビールメーカー62社の2024年1-8月の総出荷量は9,561klで、前年同期を8.6%下回った。コロナ禍の2020年は、2010年の調査開始以来、初めて1-8月の出荷量が前年同期を下回った。その後、コロナ禍の2023年まで出荷量は徐々に回復していたが、2024年は4年ぶりに前年を下回った。物価上昇による消費抑制で、主力先のスーパー、コンビニ、酒店向け販売の不調が影響した。


 ビール大手4社が発表した2024年1-6月のビール系飲料(ビール、発泡酒、第三のビール)の販売数量は、前年同期比2.0%減となった。税額改定などの影響で主力のビール以外の販売数量が落ち込み、第三のビールが実質的に値上がりしたため販売数量が減少した。
 一方、地ビールメーカーは主力のスーパーやコンビニに加え、ビアパブの新規開拓などへの地道な営業で販路拡大を進めたが、消費者の価格やブランドの選別志向が強まった影響で、出荷量を減らした地ビールメーカーが多かった。

 地ビールメーカーは原料や香り、泡、炭酸、風味にこだわり、美味しいビール作りで消費者の取り込みに努めるが、大手メーカーも地ビールに参入し、市場競争は激化している。2026年10月に控える3度目の酒税改正に向け、地ビールの希少性を生かし、地ビールブームを継続できるか各社の戦略が注目される。 

※本調査は、2024年9月5日~30日に全国の主な地ビールメーカー239社を対象にアンケート調査を実施、分析した。出荷量は2024年1-8月の出荷量が判明した62社(有効回答率25.9%)を有効回答とした。その他の項目は、回答が得られた66社(有効回答率27.6%)を有効回答とした。本調査は2010年9月に第1回調査を実施し、今回で15回目。

2024年1-8月の主要62社の総出荷量 前年同期比8.6%減

 出荷量が判明した全国の地ビールメーカー62社の2024年1-8月の総出荷量は、9,561kl(前年同期比8.6%減)だった。
 2024年1月は出荷量が791kl(前年同月比14.2%減)と低調にスタートした。2月には933kl(同4.6%減)とやや回復に転じた。だが、3月は昨年3月、政府が感染予防対策として呼びかけていたマスク着用を緩和したことで、人出が回復し出荷量が急伸した反動もあり1,089kl(同16.9%減)と落ち込んだ。4月以降、減少率はやや鈍化し、需要期の7月は記録的な猛暑で1,639kl(同3.4%減)と今年1-8月の月次最多の出荷量を記録した。だが、8月は天候不順などで出荷量が落ち込み、1,377kl(同14.2%減)と1,000klの大台は維持したが、前年同月比14.2%減と大幅に減少した。

地ビールメーカー出荷量月次推移(1-8月)

出荷量 減少が増加を上回る

 2024年1-8月の回答が得られた62社のうち、出荷量の「増加」は28社(構成比45.1%)、「減少」が33社(同53.2%)、「横ばい」が1社(同1.6%)だった。
 出荷量が増加した要因(複数回答)は、「飲食店、レストラン向けが堅調」21社、「スーパー、コンビニ、酒店向けが好調」19社と、コロナ禍後の人流回復と需要開拓が功を奏した。また、外国人観光客の増加に伴い、「インバウンドが回復し需要が伸びた」も6社あった。
 一方、減少の要因(複数回答)は、ふるさと納税返礼品の減少や機械設備故障などを要因とする「その他」が9社で、「スーパー、コンビニ、酒店向けが不調」「物価上昇による消費の抑制」が各7社だった。

地区別出荷量 7地区で減少

 62社の実質本社の地区別では、出荷量は北海道、中部を除く7地区で減少した。最多は、関東の4,449kl(前年同期比9.0%減)だった。
 増加率トップは、中部の2,317kl(同2.8%増)。出荷規模の大きいメーカーが出荷量を伸ばした。一方、九州は89kl(同71.9%減)で、出荷量が大幅に減少した。
 地ビール、クラフトビールのブームは続くが、大消費地の関東や近畿圏のメーカーは出荷量を減らした。

地ビールメーカー 地区別出荷量増減(1-8月)

自社販売への注力で、イベント・催事の売上を伸ばす

 売上比率が一番大きな販売先(有効回答66社)は、最多が「スーパー、コンビニ、酒店、道の駅」の30社(構成比45.5%) だった。次いで、「自社販売(イベント販売含む)」で18社(同27.3%)、
ドリームビアの利用などの「その他」が9社(同13.6%)、「飲食店、レストラン」の6社(同9.1%)が続く。
 2024年の商流の変化について(有効回答65社、複数回答)は、最多は「スーパー、コンビニ、酒店向けの販路を拡大した」が33社だった。次いで、「特に変わらない」が21社、「飲食店、レストラン向けの販路を拡大した」が16社、「イベント、催事で売上が伸びた」が14社だった。「インターネット通販の売上増または販路の拡大」と「レジャー需要、観光地が伸びた」が各9社だった。

左:売上比率の一番大きい販売先 右:商流の変化について

独自の味への追及で製品差別化 商品開発にも意欲

 ビール大手5大メーカーが、地ビール、クラフトビールの製造販売に乗り出す動きも本格化している。これを受け、中小の地ビールメーカーも差別化に意欲を示し、「独自の味」に注力するとの回答が35社と、半数以上のメーカーが独自の味にこだわりをみせる。
 また、「大手を意識せず従来通りの営業を進める」と独自の道を歩むメーカーも27社あった。「独自の味」「大手を意識せず従来通りの営業を続ける」など、大手メーカーの参入を前向きに受けとめ、独自路線を歩む地ビールメーカーも多い。
 「宣伝・ブランディング」(15社)や「パッケージ(瓶や缶のデザイン)」(12社)に注力するなどの声も聞かれ、これまでの成長を背景に、大手メーカーとの差別化を進める中小メーカーが増えている。
 商品の開発、または改善する予定では、最多は「種類を増やし、改善もする予定」が20社だった。また、「種類は増やさず、既存の商品を改善する予定」も14社で、5割以上のメーカーが、ニーズが盛り上がっている低アルコール商品などの開発にも意欲的であることが分かった。

メーカーの60%強が値上げを実施・予定、原材料の高騰が不安材料

 商品価格について、「この1年で値上げを行った」は28社(構成比43.0%)、「まだ実施していないが今年中に値上げを予定」が15社(同23.0%)と、6割超のメーカーが値上げを実施、もしくは値上げを予定している。
 一方、「値上げの予定はない」は18社(同27.6%)にとどまり、「値上げはしたいができない」が4社(同6.1%)だった。
 今後の懸念(有効回答65社、複数回答)は、「原材料の高騰(燃料代含む)」が58社と9割近いメーカーがコストアップを懸念している。次いで、「人件費の高騰(採用難)等」が38社、「物価上昇による更なる消費の減退」が28社、「為替(円安)」が23社など。
 また、「クラフトビールが増えすぎることでの競合」が21社、「急な需要増への対応」が5社だった。

今後、懸念していることはありますか?

出荷量ランキング トップは13年連続でエチゴビール(新潟県)

 2024年1-8月の出荷量メーカーランキングは、トップが地ビール醸造の全国第1号のエチゴビール(株)(新潟県)で、13年連続トップと圧倒的な強みをみせた。出荷量は2,258kl(前年同期比4.2%減)と減少したものの、2位以下を大きく引き離した。
 エチゴビールの阿部誠社長は、「スーパー、コンビニ、酒店向けが不調だったが、飲食店、レストラン向けの販路を拡大した。小売業の販路拡大はもちろん、ブランド認知度向上のために地元を中心に飲食店への拡大を進める」と、国内での販売強化に意欲を見せている。
 2位は「常陸野ネストビール」の(株)木内酒造1823(茨城県)が1,393kl(同8.4%増)、
3位は「伊勢角屋麦酒」の(有)二軒茶屋餅角屋本店(三重県)の852kl(同6.3%増)、4位は「べアレンビール」の(株)ベアレン醸造所(岩手県)の585kl(同0.8%増)、5位は「網走ビール」の網走ビール(株)(北海道)で409kl(同2.5%増)と続く。
 1-8月の出荷量が100klを超えた地ビールメーカーは18社で、前年と同数だった。

2024年 出荷量ランキング



 出荷量ランキング第2位の(株)木内酒造1823は、国産原料にこだわり地産地消の酒造りに力を入れている。茨城県産の麦芽と生ホップを使用したクラフトビールを今秋、直営店やオンラインショップ、全国の酒販店向けに販売する。
 また、出荷量第3位の(有)二軒茶屋餅角屋本店は2024年4月、同社クラフトビールが、イギリスの国際的ビール審査会「インターナショナル・ブルーイング・アワード」で最高賞の金賞を受賞し、国際的にも評価を高めた。出荷量ランキング上位メーカーは、国内にとどまらず海外への輸出強化に努めている。
 その一方で、東京都の地ビールメーカーだったビアメーデル東京(株)(東京都江東区)は、コロナ禍で地ビール販売が伸び悩み、2024年1月に東京地裁から破産開始決定を受けた。また、アンケート調査でも「地ビール製造・販売を休止した。免許を取り消す予定」との回答もあり、先行きが見通せず解散や廃業に追い込まれるメーカーも出ている。

 国税庁によると、2022年度の地ビール製造免許場数は383場、製造者数は460者と過去最多を更新した。1994年の酒税改正でビール製造免許に係る最低製造数量が2,000klから60klに引き下げられた。また、2017年の税制改正でビールの定義が拡大され、大都市圏を中心に地ビール業界への新規参入が増え続けている。

 今回のアンケートでは、「クラフトビールが増えすぎることでの競合および品質低下」を懸念する回答が21社からあった。中長期的な業界への影響を心配する意見も少なくない。
 一方、今後のクラフトビール市場について、「メーカーが増え、需要も高まっている今だからこそ、全体の底上げが重要と考えており、地元のブルワリー参加の協会を設立し、勉強会や情報交換、イベントを開催している。品質の底上げ、マーケティングの強化を横の連携につなげ、業界全体を発展させていくことが大事」(ベアレン醸造所)との声も寄せられている。
 アンケートでは、「現状、需要増に対応できていない。設備、機器類のスペックが低いことに加え、人材難である。採用しても離職率が非常に高い。次世代の育成が大変困難な状況である」との声も聞かれる。内外の環境が激変する今、地ビールメーカーの戦略と経営手腕が問われている。

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