• TSRデータインサイト

ジーンズメイトが渋谷から撤退、30年の歴史に幕 コロナ禍で繁華街の人出戻らず

 「新型コロナウイルス」感染拡大の収束が不透明な中、アパレル各社は生き残りをかけて店舗施策の見直しを加速化している。
RIZAPグループ(株)(TSR企業コード:295695790、札証アンビシャス)傘下の(株)ジーンズメイト(TSR企業コード: 710101767、渋谷区、東証1部)も、基幹店の渋谷店を今期(2021年3月期)限りで閉店する方針を固めた。
1991年9月のオープンから約30年。渋谷センター街(渋谷区宇田川町)で営業を続けてきたが、新型コロナによる人出の減少が決め手となった。郊外に比べ賃料が高く、人が密集する都心では、新型コロナ以前の収益は期待できない。ジーンズメイトの担当者は、「コロナ禍でも密になりにくい郊外型の店舗は売上復調の流れにある」と話す。今後、都心部の店舗が“郊外回帰”に進む可能性も出てきた。

若者の消えた渋谷センター街

 「ジーンズメイト」渋谷店は、若者のメッカとして知られる渋谷センター街の中心に店舗を構えている。周囲には東急ハンズやZARA、スニーカーショップのatmos(アトモス)など有力店が出店し、定番の買い物スポットになっている。渋谷店では、若者だけでなく、インバウンド観光客の増加が目立ち、キャリーケースなどのトラベル用品も取り扱っていた。
ジーンズメイトの担当者は、「渋谷店への客足は1月中旬以降、急速に下降した」と話す。「中国・武漢の閉鎖を境に、まず観光客が渋谷からほぼいなくなった」という。そこに4月上旬、緊急事態宣言が発令され、解除後も長引く外出自粛の影響で、「渋谷自体を訪れる人が少なくなった」と説明する。

渋谷駅東側の再開発も影響

 「ジーンズメイト」渋谷店が出店するセンター街を取り巻く環境は、近年急速に変化してきた。2012年に渋谷駅直結の「渋谷ヒカリエ」がセンター街と反対側の宮益坂方面にオープン。次いで、2018年には「渋谷ストリーム」と渋谷川周辺が開発され、新たな集客スポットになった。
さらに、2019年に渋谷駅南側に駅直結の商業施設「渋谷スクランブルスクエア」が開業。流行のアパレル店や化粧品ブランド、菓子店などが多数出店している。ジーンズメントの担当者は、「センター街を訪れていた若年層も、渋谷駅の東側と南側に流れ、センター街のある駅西側の“地の利”は薄れた」との見方を示す。
また、センター街からの撤退については、「かつては若者が買い物で訪れる場であったが、昨年もFOREVER21が渋谷から撤退した。ショッピングする場としての訴求力が段々と薄れつつある」と指摘する。そこにコロナ禍で郊外回帰の流れが強まり、撤退を後押ししたという。

原宿店も「客足の戻りが鈍い」

 アパレル各社は、新型コロナによる外出自粛が広がった3月以降、売上が前年を下回る状況が続いている。ジーンズメイトも、緊急事態宣言による商業施設の休館などが響き、2021年3月期上半期(2020年4~9月)の売上は月次速報ベースで前年比67.4%に落ち込んだ。緊急事態宣言の解除後は、前年比8~9割と復調の兆しはあるものの、 “都心”や“若者の街”で販売不振に陥っているという。担当者は、「特に、渋谷、原宿の店舗は、(売上の)落ち込みが大きく、戻りも鈍い」とした上で、「インバウンドの消失に加え、コロナ禍でわざわざ原宿や渋谷を訪れる若年層が減ったことが要因だろう」と分析する。
ジーンズメイトは、原宿店を竹下通りに、渋谷店をセンター街に出店するが、原宿も渋谷同様に客足の戻りが鈍く、「新宿、池袋より渋谷、原宿で落ち込みが大きい」という。

“郊外”と“地方”に商機

 コロナ禍でも、都心では住宅街に近い店舗は売上の落ち込みが少なかったという。「両国、蒲田など “準郊外”と呼ぶ地域は堅調だった」と語る。不要不急な繁華街への外出を控える一方、食品や日用品と同様に衣類も近場で購入する流れが出来つつあるようだ。そして、「地方の店舗も月次平均を上回る店舗が多い」と現状を語る。
ジーンズメイトでは、渋谷店の閉店を一つの契機と前向きにとらえている。
近年は賃料が高くても、集客の見込めるターミナル駅周辺に出店を集中させた。だが、長引く在宅勤務や三密回避の消費者行動の広がりで、出店施策の見直しを迫られている。「東京オリンピック・パラリンピックが予定通り2021年に開催されるとインバウンド需要が多少は戻るかも知れない。だが、先行きは不透明だ」として、現在強化しているEC販売などの非対面式での販売形式、そして都心への出店抑制も視野に入れている。
閉店する渋谷店は移転予定がなく、現時点では今期限りで渋谷から“撤退”する。これは単なる1店舗の閉店でなく、アパレル各社の出店施策のエポックになるかも知れない。

ジーンズメイト渋谷店

今期中に閉店するジーンズメイトのJEM渋谷店(TSR撮影)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

ハンバーガー店の倒産、最多更新 ~ 材料高騰、大手と高級店の狭間で模索 ~

年齢を問わず人気のハンバーガー店が苦境だ。2024年は1件だった倒産が、2025年は8月までに7件に達し、過去最多の2014年の年間6件を上回った。

2

  • TSRデータインサイト

2025年「全国のメインバンク」調査 ~GMOあおぞらネット銀行 メイン社数の増加率2年連続トップ~

「2025年全国企業のメインバンク調査」で、GMOあおぞらネット銀行が取引先のメインバンク社数の増加率(対象:500社以上)が2年連続でトップとなった。

3

  • TSRデータインサイト

タクシー業界 売上増でも3割が赤字 人件費・燃料費の高騰で二極化鮮明

コロナ禍を経て、タクシー業界が活況を取り戻している。全国の主なタクシー会社680社の2024年度業績は、売上高3,589億5,400万円(前期比10.6%増) 、利益83億3,700万円(同11.1%増)で、増収増益をたどっている。

4

  • TSRデータインサイト

「葬儀業」は老舗ブランドと新興勢力で二極化 家族葬など新たな潮流を契機に、群雄割拠

全国の主な葬儀会社505社は、ブランド力の高い老舗企業を中心に、売上高を堅調に伸ばしていることがわかった。 ただ、新たに設立された法人数が、休廃業・解散や倒産を上回り、市場は厳しい競争が繰り広げられている。

5

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

TOPへ