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金利引き下げ、景気対策として「もう限界」 あおぞら銀行・馬場信輔社長 独占インタビュー(後編)

―SBIグループが島根銀行と資本業務提携した

 メガバンクや地域金融機関など銀行業界全体が、このままではいけないという危機意識を持っていると思う。銀行のビジネスモデルのあり方もこれから変わらないといけない。特に地域金融機関は、その地域から出られないので、メガバンクなどと比べると非常に厳しい状態にある。その中で、島根銀行のケースは1つのパターンだと思う。
 当行はこれまで様々な形で地域金融機関と協力してきており、今後もお手伝いをしたいと思っている。しかし、SBIグループのような資本提携ではなく、各地域金融機関がやろうとしていることに合わせたサポートをしたいと考えている。地域金融機関が自ら考え、「こうしたい」、「こう変えたい」と思っておられることを実現するための機能を提供します、というのが当行のスタンスだ。
 協力できることの1つは、運用とリスク管理。地域金融機関は有価証券の運用、貸出を地元でやるが、貸出が伸びない中、それ以外の運用をしないといけない。当行は私募ファンドを組成するなど、運用のサポートをする。
 また、店舗の統廃合をする際、店舗不動産の有効活用を一緒に考える。「こういう活用法がある」との提案もする。当行にはグループの中に不動産の投資顧問会社もあるので、そうした相談も受けている。あくまで地域金融機関が主体的に動くことを当行がサポートする。今後、こうした話が増えることが予想される。

―SBIグループの資本業務提携のようなパターンは今後増える?

 統合はあると思うが、地域特性もあり、各銀行の方針やカルチャーもあるので一律的にはいかない。スタンドアローン(独立)でやり、お客様もそれを応援する、という方向なのか、あるいは、違う銀行と連携を組みたいというならば、我々と可能性を探ることもあるかもしれない。

-地域金融機関のスタンスはスタンドアローンが続く?

 いろいろ考えておられるとは思うが、いずれにしてもまず自らの強化が必要。スタンドアローンでいくのか、隣の県の銀行と一緒になるのか、形は様々だが合理化できるところは合理化しないと今後難しいのではないか。
 選択肢はいろいろあるので、各銀行がそれぞれ考えれば良いのではないか。ただ、どういう形になるにせよ、現状の状態で体力をしっかりつけて、それぞれの地域のお客様が困らないようにビジネスを強化していくことがベースになる。お客様の中には、隣の県の銀行と一緒になるのは嫌だ、という声もあるだろう。その点も確認しないといけない。
 とはいえ、(統合などは)動き出すと早いかもしれない。合理化や運用力・リスク管理の強化、個人向け商品・サービスの提供など、当行ではそれぞれの銀行が望む選択肢を揃えている。それらを提供して、各銀行がよりよい方向に向かっていくお手伝いをしたい。

―銀行の拠点集約が進む

 当行はもともと20店舗しかなく、店舗コストはそれほど掛かっていない。多少入れ替えたりするかもしれないが、統廃合で減らす計画はない。
 海外拠点は、国際業務もそれなりのウエートがあるので、香港、ロンドン、ニューヨークなどを中心に、機能を少しずつ強化する方針だ。海外ローンもあるので、現地のモニタリング、個別企業、貸出先のモニタリングをしっかり行うため、今ある拠点の増強は考えているが、今から拠点をさらに増やすという計画はない。海外ではアジアが成長地域だとみているので、現在、アジアでの投融資、エクイティ投資を行っている。今後、投資のバラエティを広げようと思っている。

取材に応じる馬場社長(TSR撮影)

‌取材に応じる馬場社長(TSR撮影)

―「個人向けサービス」の差別化は?

 ある程度フォーカスするサービスに特徴を出さなければいけない。当行は比較的シニアのお客様が多く、さらに高所得層のお客様が多い。当行のお客様の1口座当たりの平均預金残高は550万円ぐらい。一方、日本の金融機関の口座の平均は1口座当たり約60万円。当行の預金はこの9~10倍ある。当行に500万~600万円の預金があるお客様は、証券会社にも口座を持ち、他の金融機関にもたくさん預けている。
 当行のお客様は、例えば住宅ローンのニーズはない。そのため当行は住宅ローンをやらず、資産運用のコンサルティングに特化している。またカードローンもやっていない。一方で、運用のアドバイザリーを丁寧にやっている。顧客フォーカス型の運営だ。そこが他の金融機関と違う。

―今後の企業融資の方針は?

 当行は、通常の商業銀行的な企業向けの貸出も行っているが、状況に応じ工夫したファイナンスを行うことを得意としている。M&Aにおける買収資金の提供や、企業が経営不振に陥った時、リストラして再生するための資金を提供している。これは結構リスクがあるが、当行はこうしたリスクマネーも提供する。
 従来の取引銀行やメインバンクがこれ以上支援できないと決めた時や、(取引を)打ち切りたい、というケースなど、従来と違う金融機関がファイナンスを行うことが必要となった場合、当行が登場する機会がこれまで結構多かった。こうしたケースを当行ではスペシャルシチュエーションと称しているが、こういうファイナンスの事案はこれからも出てくる。これは当行の主戦場で、こうした案件があるときは当行の名前が出てくる。このケースでは、競争は相対的に少ないため、金利競争に巻き込まれず、普通の運転資金を出すより金利も少し高めになる。多少リスクは高くなり、リスクをしっかり見極める必要はあるが、当行はこうしたファイナンスに注力する。
 結果的に、企業の資金需要が弱いとみられる中でも、昨年も今年も国内のローンは純増している。

―リスクマネーの提供は増える?

 会社が事業分割して不採算部門を売却したり、ある特定部門を集めて売却したりするケースがある。買い手は日本の会社やファンド、海外のファンドもある。少し前は中国のファンドもあったが、今は以前ほどではない。東南アジア系で成長している企業が、日本の優れた技術を買いたい、という話もでており、こうしたケースは今後も増えてくる。短期間で事業評価を行い、この評価額に応じてローンの金額を決めるケースだが、当行はこの評価作業にかなり手馴れている。この分野はまだ伸びると思っている。

―今後金利がさらに引き下げられた場合、金融機関への影響は?

 日本銀行も(金利引き下げは)悩ましいと思うが、場合によっては(マイナス金利の)深堀りも絶対ないわけではない。ただ、景気対策としては、もう限界にきていると思う。世界的にマイナス金利政策が行われ、為替の動向によっては、日銀が動く可能性もあるのではないかと見ている。ただ、金利がもう一段下がれば金融機関にとってマイナスの影響があるし、金融機関の株価もまた下がる。日本株にとってもネガティブな影響が出る可能性がある。
 お客様(借り手)にとって金利が低いということは良いことだが、もう十分に低いので、これ以上金利が下がることで中小企業などの借り手のメリットが増えるかというと、どうかと思う。

―具体的には?

 むしろ、マイナス金利の影響は企業だけではなく、個人の資産運用にも出てくる。年金生活者や金融資産の利息などで生活しているシニア層にとってプラスにならない。国民経済的には、マイナスの影響もあるので難しいところだ。
 事業意欲を刺激して、お金を借りてもらい事業を拡大する、こうした循環局面に入ればいい。だが、“新陳代謝”という意味では、新しいものを呼び起こすということのほかに、古いものが生き延びるということもある。金利が低いということは、金利が払えるので、本来止めるべき事業が別に借金を抱えていても「大丈夫だ」ということになり、新陳代謝が進まない面もある。

―どのような施策が望まれる?

 経済全体の新陳代謝をもっと活発化するためには、金融政策だけでは難しいと感じる。総合的な財政政策、規制緩和、税制などを動員する必要はあるだろう。金融だけ、日銀だけに頼むのは厳しい。

―新陳代謝は企業倒産にも関わってくる

 金利引き下げは世界中で行われているが、この(新陳代謝がない)状況が永遠に続くわけではない。どこかのタイミングで金利が上がった場合、ツケが一気に来る可能性がある。すぐ来るわけではないが、金融機関は備えておかなければならない。アメリカで来るのか、日本なのか欧州なのかは分からないが、いずれも金利を下げている。財務状況が悪くなった企業や、本当は廃業しなければならない企業が、金利が払えるからそのまま存続している。金利が上がったときに、大きな反動が起こる可能性がある。これまで緩やかに金利を上げて、大きなショックが起きないように転換を図ろうしたが、どこかのタイミングで備えなければならない。やり方を間違えると、また(リーマン・ショックのような)大変なショックが発生する可能性も完全には否定できない。


 マイナス金利の影響により収益が悪化し、地銀再編などが声高になっている銀行業界。馬場社長は、地銀再編について資本提携よりも「資金運用、不動産活用など緩やかなサポート」を行う独自のスタンスで地銀再編に取組む姿勢を示した。あおぞら銀行の独自路線が金融再編の鍵を握るかもしれない。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年12月18日号掲載「Weekly Topics」を再編集)

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