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業種別にみる「景気回復度合い」調査 -増収増益業種動向-

 2012年12月の第2次安倍内閣誕生時からの企業業績を比較したところ、最新期の「増収増益」企業は19万6,229社で、前期の17万8,990社から1万7,239社(9.6%増)増加した。
東京商工リサーチでは企業の売上高・利益を業種別に合算し、業種毎の比較調査を行った。この結果、最新決算期の増収増益は、45業種中33業種(構成比73.3%)で、7割を超えた。増収増益業種は前期は19業種だったが、最新期では33業種に増加した。また、2期連続で増収増益を達成した業種は16業種(構成比35.5%)にとどまり、業種間で温度差が出た格好となった。
政府の経済政策、アベノミクスで円安効果により輸出を中心に製造業が業績を伸ばし、景気刺激策の公共事業の増加で建設業や関連業種の業績改善も顕著だった。一方、サービス業など内需関連業種はデフレ脱却の遅れや実質賃金の低迷などが響いた。

  • 本調査は、TSR企業データベース268万社を対象に、最新決算からさかのぼった3期連続の業績データを入手できた55万5,018社を45業種に分類、増収増益の業種を分析した。最新決算は2013年9月期~2014年8月期決算で、過去2期と比較した。

45業種の収益別動向

最新決算の「増収増益」業種は7割に増加

 最新決算期の「増収増益」は、45業種中33業種(構成比73.3%)で、7割を超えた。増収増益業種は前期の19業種(構成比42.2%)から増加した。
売上面では「印刷・同関連業」、「なめし革・同製品・毛皮製造業」、「学術研究,専門・技術サービス業」の3業種を除く42業種(同93.3%)が最新決算期では増収となり、景気の拡大傾向がうかがえた。一方で、利益面ではサービス関連業種を中心に9業種(同20.0%)が減益だった。デフレ脱却がなかなか進まず、売上の伸びに対して収益の改善が伴わない構図が浮かびあがっている。

2期連続の「増収増益」は16業種 「減収減益」はゼロ

 2期連続の増収増益は16業種だった。このうち、最新決算で「増収額」、「増益額」ともにトップ5にランクインしたのは建設業(増収額1位、増益額3位)、輸送機械器具製造業(同2位、同2位)の2業種で、公共事業と円安を追い風に業績を伸ばした建設業、自動車メーカーの好調ぶりを裏付けた格好となった。また、2期連続で減収減益した業種はゼロだった。

増収額トップは建設業が突出

 2期連続で増収増益だった16業種のうち、最新決算での増収額トップは建設業だった。6兆9,507億円の前期比増加で、2位以下を大きく引き離した。公共工事の予算増加、前倒し発注等の影響で大幅な増収をみせた。  2位は輸送用機械器具製造業で3兆9,886億円増、3位は機械器具卸売業の3兆8,242億円増と、円安効果が寄与した自動車メーカーや設備投資関連の好調ぶりが目立つ。
一方、「増収額」ランキングでトップ10に入った飲食料品製造業と各種商品小売業の2業種は、増収総額では2期連続増収を達成したが、増収社数の構成比は5割を下回った。これらの内需型業種は、大手企業が全体の総額を押し上げたが、増減収の社数構成比では5割以上が横ばいか減収で、規模による格差、二極化が広がっている。

増収率は木材・木製品製造業がトップ

 2期連続で増収増益となった16業種のうち、最新決算で増収率が最も高かったのは木材・木製品製造業で、前期比12.4%増だった。消費税率引き上げ前の住宅の駆け込み需要や、公共工事の増加で大幅に売上高を伸ばした。
また、家具・装備品製造業も同7.5%増と6位にランクインし、建設業(前年比8.7%増、3位)に牽引される形で素材、建材関連の増収率がアップした。
2位の機械器具小売業は、家電や自動車など、高価格帯商品を扱う企業が多かった。この業種も2014年4月の消費税率引き上げの駆け込み需要が寄与した形だが、増税後は反動減に見舞われており、今期の業績動向が注目される。

増益額の最大は金融・保険業

 2期連続で増収増益だった16業種のうち、最新決算での「増益額」が最大だったのは金融、保険業で2兆488億円の増益だった。
株高と不良債権処理の減少などを背景に2014年3月期で好決算が続出した金融機関が利益を押し上げた。
2位は輸送用機械器具製造業(同1兆5,508億円)。上位の2業種は増益額が1兆円を超えた。
個別企業ランキングで大手自動車メーカーを含めた輸送用機械器具製造業は円安による好調な輸出が押し上げた。
また、増収額では断トツのトップだった建設業は、増益額では3位(7,511億円)にとどまった。人手不足による労務費高騰や資材価格の上昇などがマイナス材料となり、収益面には単純に直結しなかったようだ。

増益率最高は輸送用機械器具製造業

 2期連続で増収増益だった16業種のうち、最新決算での増益率の最高は、輸送用機械器具製造業で前期比70.0%増だった。輸送用機械器具製造業は増収額では2位、また増益額でも2位にランクインした。世界市場の回復と円安の恩恵を受けた大手自動車メーカーの好調ぶりを物語っている。
2位は金属製品製造業の63.6%増、3位は建設業の61.6%と続き、上位4業種が増益率50%を超えた。
ただ、増減益の社数構成比は16業種のうち、8業種が増益企業の割合が5割未満となった。特に、飲食料品製造業、飲食料品小売業の2業種は増益より減益社数が上回った。個人消費の手控えが直撃し、景気拡大の波に乗り遅れた企業が多いことを示している。

 アベノミクスの金融緩和と財政出動で円安・株高が進行し、公共工事も全国規模で増加した。この結果、建設、製造、金融・保険など、アベノミクス効果を直接享受できた業種ほど増収増益の額、伸び率ともに高かった。また、好調だった建設業の盛り上がりが建材、木材の製造、卸売業など建設関連業種にも波及し、業績拡大の様相をみせ始めている。
一方、内需のウエイトが高い飲食料品関連業種は、大手企業が全体の総額を押し上げたが、増収・増益社数の構成比では横ばいか減収・減益の比率が高く、規模による格差や二極化が広がっている。家電量販店、自動車販売業などの機械器具小売業は消費税率引き上げ前の駆け込み需要で増収額、率ともに上位だったが、増税以降の反動減も懸念されている。
今後、好調業種は賃上げや消費マインドの上昇への牽引役となれるか注目される。また、アベノミクス第3の矢である成長戦略、地方再生を起爆剤に、業種、地域、規模の格差をいかに是正し、幅広い中小企業の業績改善に繋げられるか焦点となってくるだろう。
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