ESGの現在地 - D&B ESG Rankingが示す日本と世界の企業評価

近年、ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)への取り組みが企業経営の評価基準となり、世界的にも投資家や規制当局から要請が強まっています。(関連記事はこちら)これを受け、東京商工リサーチ(以下TSR)は、ダン・アンド・ブラッドストリート(米国、以下D&B)が提供する世界8,800万事業所の「D&B ESG Ranking」(以下ESG Ranking)から、主要国・都道府県・業種ごとのESG Ranking平均スコアや、ESG Ranking最上位「1」を獲得した売上高上位100社のリストを作成しました。
日本は、ESG Ranking平均スコア算出の主要40カ国(ESG Ranking10万件以上)のうち、20位オーストリア、21位タイに続く22位と中位でした。世界の1位はスロバキア、2位アイルランド、3位チェコで、上位は東欧、北欧が中心になっています。
都道府県別では、1位福井県、2位高知県、3位富山県でした。大都市圏は、東京都が39位、大阪府が43位、愛知県は45位と軒並み下位にとどまりました。
日本のESG Ranking最上位の「1」は15万6,000社あり、売上高上位100社にはアイシン、東京瓦斯、東京エレクトロンなど、有力企業が並びました。
※本調査は、2025年8月時点のESG Rankingを基に、D&Bが世界の8,800万事業所を対象に評価した。日本の評価対象は、TSRの保有する176万8,111社、362万5,443事業所。

ESGデータの背景と課題

ESG投資は20世紀初頭の倫理的投資が源流で、当初はタバコや兵器など「好ましくない産業」を除外するネガティブ・スクリーニングが中心でした。その後、企業の社会的責任や持続可能性が注目され、今ではESGデータは世界の資本市場で欠かせない存在になっています。
この背景の一つめは企業の情報開示の増加があります。S&P500企業のほぼ全社(約99%)がサステナビリティ報告書を発行し、世界最大規模の企業でもESG関連情報の公開は一般的になっています。これは、企業の透明性向上と投資家の情報要求の高まりを反映しています。
二つめは投資家からの需要拡大です。ESGファンドへの資金流入は2020年に過去最高を記録し、2021年にはさらに拡大しましたが、2024年は前年比でやや減少しました。高金利環境や規制の不確実性が影響していると見られます。
規制面では、EUのサステナブル・ファイナンス開示規則(SFDR)が見直され、製品分類や開示内容の明確化が進む一方、米国では気候関連開示規則を巡る議論が続いており、企業の開示義務には依然として不確実性が残っています。
ただ、現状は課題も多いです。企業開示は標準化されず、年次報告に依存するため鮮度が低くなりがちです。また、情報が乏しい非公開企業は評価対象から漏れやすく、既存プロバイダーは業種や規模に基づくモデル推計に頼らざるを得ません。こうした課題を克服するため、D&Bは日本を含む世界を網羅した独自のデータ資産と収集能力を活かし、ESG Rankingを作成しました。

ESGの取り組みの実態を示す最新分析

企業にとってESGの実践は、社会的要請への対応にとどまらず、長期的な競争優位を築くための戦略です。環境・社会・ガバナンスへの配慮は、規制や評判リスクの低減に加え、投資家・顧客からの信頼やブランド価値の向上にもつながっています。
ESGは「コスト」ではなく、「成長と信頼の源泉」です。D&B ESG Rankingは、その取り組みを客観的に把握・改善するための実践的ツールとして活用していただけます。
D&B ESG Rankingは、既存のESG評価が抱える非標準化や更新頻度の低さ、非公開企業データの不足などの課題を克服する新しい枠組みとなります。実データ重視、広範なカバレッジ・財務との関連性、タイムリーな更新が可能で、上場企業だけでなく非上場企業も含めて、グローバル規模の同一基準でESGを評価しています。

主要国ESG Ranking平均スコア 日本は22位、上位は東欧・北欧が占める

ESG Rankingは、各種データを正規化・加重して算出されたテーマ別スコアを統合し、市場リスク分布に基づいて1(リスクが最も低い)~5(リスクが最も高い)の5段階で付与されます。
主要国のESG Ranking平均スコアでは、スロバキアやアイルランド、チェコなど中小規模の欧州諸国が上位に位置しています。こうした国は企業規模が比較的小さい一方、環境・社会・ガバナンス対応が着実に進んでいることを反映しているようです。
一方、日本は22位、アメリカは16位と中位に位置しています。先進国でも、産業規模の多様性や企業数の多さから平均スコアが分散する傾向が見られます。中国やタイ、日本、カナダなどの国々は中位帯で推移し、ESG対応の成熟度には地域や企業の規模・産業構造による差が影響していることがうかがえます。
下位には、インド、ベトナム、ブラジル、コロンビアなどの新興国が並び、国全体としてのESG推進が課題になっている状況を示しています。全体では、企業規模や経済構造に応じたESG取り組みの進展度の違いが平均スコアに反映される傾向がうかがえます。

順位 平均スコア 順位 平均スコア
1 スロバキア 2.592 21 タイ 3.022
2 アイルランド 2.638 22 日本 3.049
3 チェコ共和国 2.661 23 カナダ 3.062
4 デンマーク 2.699 24 セルビア 3.080
5 ルーマニア 2.723 25 オーストラリア 3.100
6 ポーランド 2.726 26 ニュージーランド 3.120
7 ドイツ 2.743 27 ハンガリー 3.145
8 モロッコ 2.769 28 スペイン 3.159
9 スウェーデン 2.787 29 オランダ 3.173
10 フィンランド 2.820 30 クロアチア 3.210
11 ノルウェー 2.838 31 フランス 3.219
12 ベルギー 2.852 32 スイス 3.257
13 ブルガリア 2.895 33 台湾 3.352
14 スロベニア 2.897 34 メキシコ 3.396
15 イタリア 2.915 35 ギリシャ 3.403
16 アメリカ合衆国 2.926 36 インド 3.794
17 イギリス 2.959 37 ベトナム 3.951
18 ポルトガル 2.970 38 ブラジル 4.022
19 中国 2.980 39 韓国 4.070
20 オーストリア 2.993 40 コロンビア 4.626

都道府県別ESG Ranking平均スコア 1位は福井県、大都市圏は中位以下

都道府県別のESG Ranking平均スコアを見ると、上位には福井・高知・富山・秋田・山形など、地方圏の県が多く入ったのが特徴的です。いずれも大都市圏に比べ、産業規模は小さいですが、地域企業が堅実にガバナンスや環境対応を進めている姿勢が反映されています。
一方、東京都や大阪府、愛知県などの大都市圏は、中位から下位に位置しました。産業の多様性や、企業数の多さからスコアが分散しやすい傾向がうかがえます。特に、製造業やサービス業など幅広い業種を抱える都市部は、環境負荷や社会課題への対応状況に差が出やすく、平均スコアが相対的に下がる要因になったとみられます。
全体では、地方圏の中小企業が安定したESG対応を進めている姿と、都市圏の多様性ゆえのばらつきという構図が浮かび上がりました。今後のESG推進は、それぞれの地域特性を踏まえた取り組みが求められます。

順位 都道府県 平均スコア 順位 都道府県 平均スコア
1 福井県 2.852 25 熊本県 2.940
2 高知県 2.854 26 愛媛県 2.946
3 富山県 2.854 27 埼玉県 2.947
4 秋田県 2.858 28 滋賀県 2.948
5 山形県 2.859 29 神奈川県 2.949
6 島根県 2.863 30 千葉県 2.970
7 徳島県 2.875 31 三重県 2.971
8 香川県 2.880 32 鹿児島県 2.977
9 岐阜県 2.888 33 奈良県 2.986
10 鳥取県 2.888 34 福島県 2.992
11 京都府 2.889 35 広島県 2.993
12 岡山県 2.889 36 福岡県 3.009
13 石川県 2.892 37 茨城県 3.016
14 北海道 2.899 38 長崎県 3.021
15 岩手県 2.900 39 東京都 3.021
16 和歌山県 2.900 40 群馬県 3.033
17 青森県 2.906 41 大分県 3.044
18 新潟県 2.911 42 静岡県 3.088
19 兵庫県 2.911 43 大阪府 3.089
20 山口県 2.912 44 栃木県 3.102
21 宮城県 2.915 45 愛知県 3.179
22 長野県 2.917 46 山梨県 3.207
23 宮崎県 2.921 47 沖縄県 3.379
24 佐賀県 2.926      

業種別ESG Ranking平均スコア

業種別のESG Ranking平均スコアは、サービス業や公務が高スコアで比較的良好な評価を得ました。一方で、運輸・エネルギーや小売、製造、鉱業など、環境負荷やサプライチェーン課題を抱える業種は低スコアとなりました。
改善余地が大きい業種ほど、規制や投資家からのプレッシャーが強まり、脱炭素や資源循環への取り組みが急務になっています。
今後は、各業種の構造的課題に即した戦略的なサステナビリティ(持続可能性)施策が求められます。

順位 業種 平均スコア
1 サービス業 2.266
2 公務 2.483
3 農業・林業及び漁業 2.936
4 金融・保険及び不動産業 2.991
5 建設業 3.028
6 卸売業 3.154
7 鉱業 3.425
8 製造業 3.447
9 運輸・郵便・電気・ガス・及び衛生サービス 3.534
10 小売業 3.662

ESG Ranking最上位の「1」(リスクが最も低い)売上上位100社

ESG Ranking最上位「1」(リスクが最も低い)の日本企業をまとめました。売上上位には、東京都に本社を置く企業が圧倒的に多いことが特徴的です。100社のうち、70社以上が東京都が本社で、次いで大阪府や愛知県、神奈川県、千葉県などの大都市圏が続きました。
業種では、建設・製造・電機・エネルギー・化学・金融など幅広く、大手企業がESGに積極的に取り組む姿勢がうかがえます。また、地方の企業も一定数ランクインしています。長野県のセイコーエプソン、福岡県のTOTO、山梨県のファナックなど、地方に本社を置く企業でもESG評価の高いことがうかがえます。

都道府県 商号 都道府県 商号
埼玉県 (株)本田技術研究所 東京都 東京建物(株)
千葉県 イオンモール(株) 東京都 東武鉄道(株)
千葉県 (株)オリエンタルランド 東京都 戸田建設(株)
神奈川県 エフサステクノロジーズ(株) 東京都 西松建設(株)
神奈川県 (株)オカムラ 東京都 日鉄ソリューションズ(株)
神奈川県 千代田化工建設(株) 東京都 (株)日本政策投資銀行
神奈川県 富士通Japan(株) 東京都 日本製紙(株)
神奈川県 (株)富士通ゼネラル 東京都 日本ゼオン(株)
東京都 アコム(株) 東京都 日本電気(株)
東京都 旭化成(株) 東京都 日本郵船(株)
東京都 アズビル(株) 東京都 (株)日本総合研究所
東京都 (株)アドバンテスト 東京都 (株)野村総合研究所
東京都 ALSOK(株) 東京都 (株)長谷工コーポレーション
東京都 アルプスアルパイン(株) 東京都 パナソニックコネクト(株)
東京都 イオンディライト(株) 東京都 (株)バンダイナムコエンターテインメント
東京都 伊藤忠エネクス(株) 東京都 日立建機(株)
東京都 伊藤忠テクノソリューションズ(株) 東京都 (株)日立製作所
東京都 伊藤ハム米久ホールディングス(株) 東京都 (株)日立ハイテク
東京都 ANAホールディングス(株) 東京都 古河電気工業(株)
東京都 SCSK(株) 東京都 HOYA(株)
東京都 NTT(株) 東京都 三井住友カード(株)
東京都 (株)NTTデータグループ 東京都 三井住友建設(株)
東京都 (株)大林組 東京都 三菱商事エネルギー(株)
東京都 沖電気工業(株) 東京都 三菱電機(株)
東京都 (株)関電工 東京都 三菱UFJニコス(株)
東京都 キヤノンマーケティングジャパン(株) 東京都 (株)ミライト・ワン
東京都 (株)クレディセゾン 東京都 森永乳業(株)
東京都 ゴールドマン・サックス証券(株) 東京都 ユニ・チャーム(株)
東京都 (株)小松製作所 東京都 (株)リコー
東京都 JFEエンジニアリング(株) 東京都 リシュモンジャパン合同会社
東京都 清水建設(株) 山梨県 ファナック(株)
東京都 商船三井ドライバルク(株) 長野県 新光電気工業(株)
東京都 (株)すかいらーくホールディングス 長野県 セイコーエプソン(株)
東京都 住友不動産(株) 愛知県 (株)アイシン
東京都 住友林業(株) 愛知県 日本碍子(株)
東京都 セコム(株) 愛知県 日本特殊陶業(株)
東京都 ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ(株) 京都府 ニデック(株)
東京都 第一生命ホールディングス(株) 大阪府 (株)奥村組
東京都 大成建設(株) 大阪府 (株)キーエンス
東京都 大東建託(株) 大阪府 (株)きんでん
東京都 大東建託パートナーズ(株) 大阪府 住友電気工業(株)
東京都 Dynabook(株) 大阪府 積水化学工業(株)
東京都 大日本印刷(株) 大阪府 積水ハウス(株)
東京都 太陽誘電(株) 大阪府 積水ハウス不動産(株)
東京都 中外製薬(株) 大阪府 (株)ダイフク
東京都 TIS(株) 大阪府 大和ハウス工業(株)
東京都 東急(株) 大阪府 (株)竹中工務店
東京都 東急建設(株) 兵庫県 シスメックス(株)
東京都 東京エレクトロン(株) 福岡県 イオン九州(株)
東京都 東京瓦斯(株) 福岡県 TOTO(株)

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