企業情報、信用調査など与信管理をサポートする東京商工リサーチ

IFRS(国際財務報告基準)適用アンケート調査~適用への意識高くも不安と混迷が表面化~、信用調査、与信管理、倒産情報は東京商工リサーチ。

公開日:2011.08.16

IFRS(国際財務報告基準)適用アンケート調査~適用への意識高くも不安と混迷が表面化~

 国際財務報告基準(IFRS)導入の流れに、対象企業は準備を進めるなかにも不安と戸惑いが隠せない。IFRS導入時期を巡っては、金融庁は「2015年を目処に強制適用に向けて2012年に判断する方針」としてきたが、東日本大震災などの影響もあって「適用開始に準備期間も必要」と、新たにスケジュールの見直しも検討している。ただ、いずれは導入されるIFRSに対し、制度会計に慣れ親しんできた国内企業はシステム変更や会計基準変更など手続・導入費用負担に懸念を抱いている。

 IFRSの導入については有価証券報告書提出企業及び外資系企業の多くが検討を開始していた。ただ、これら企業のうち積極的に前倒しで任意適用を検討する企業は3割程で、多くの企業が国の方針を見守りつつ待ちの姿勢を示していることが分かった。また「導入時期が不明確なため、社内プロジェクトスケジュールが組みにくい」と早期スケジュール開示の要請の声もあがっている。

 東京商工リサーチでは、有価証券報告書提出企業及び外資系企業に対しIFRS適用についてアンケート調査を実施(有効回答407社)、導入する各企業側のIFRS取り組み状況、導入への懸念事項等を聞いた。


IFRSとは:International Financial Reporting Standards の略で、国際財務報告基準審議会が作成し、欧州を中心とした企業で導入されている国際的に統一された会計基準。日本企業の損益計算書と欧州企業の包括利益計算書は直接比較できないので、統一された会計基準の導入で国をまたいだ比較・分析が容易になるとして導入作業が進められている。2007年、日本の企業会計基準委員会が導入合意し、金融庁は2012年に2015年3月期に強制適用するかどうかを判断するとしていた(2011年6月末、自見金融相が「適用には準備期間を置きたい」とし、先送りの公算もある)。2010年3月期からは任意適用も認めている。


[調査対象]
有価証券報告書提出企業4,144社(うち上場企業3,701社)及びそれ以外の462社の合計4,606社に対しIFRS適用についてのアンケートを実施、回答数407社(回答率8.8%)を得た。462社はTSR企業情報データベースより外国法人からの出資があり、売上高20億円以上で東京都に本社を置く外資系非上場企業を抽出した。アンケート調査期間は5月31日~7月15日の間。このアンケート回答数407社をもとに本集計を行っている。

(1)上場企業の9割がIFRSの適用を検討開始

 回答数407社のうち、IFRS適用の検討を始めている企業は347社(構成比85.3%、表1のa+b)で、85%以上の企業が何らかの検討を行っていることが分かった。(この回答があった407社の構成は上場企業が345社(構成比84.8%)、その他金融商品取引法開示会社が33社(同8.1%)、その他27社(同6.6%)、未回答2社(同0.5%))

 回答のあった上場企業345社のうち287社(同83.2%)が「適用対象となるため(適用対象の有無は回答当事者の自認による)検討を開始している」と回答、「適用対象外(適用対象の有無は回答当事者の自認による)だが検討を開始している」と回答したのは23社(同6.7%)で、合計310社(同89.9%)と上場企業の9割が検討を始めていることが分かった。一方その他の非上場企業60社(上記33+27社)のうち35社(同58.3%)が検討を始めていると回答し、上場と非上場企業ではIFRS適用に向けて温度差はあるものの、非上場企業からも興味を得ていることが分かった。

表1

(2)IFRSの「適用検討開始」は外資系及び海外取引が多い企業が積極的

 IFRSの適用を検討開始している企業347社(表1のa+b)について、その内訳を見ると、外国法人からの出資がある企業(出資比率0%超)は222社(構成比64.0%)だった。また輸出入取引など海外と取引がある企業(海外取引依存度0%超)は249社(同71.8%)で、全体に外国法人出資、海外取引がある企業はIFRS適用に積極的な姿勢が表れた。

 一方、適用を全く検討していない企業60社(表1のc+d)について内訳を見ると、外国法人出資の入っていない企業(出資比率0%)が39社(同65.0%)、海外取引のない企業(海外取引依存度0%)が32社(同53.3%)で、外国法人出資及び海外取引が無い企業はIFRS適用に消極的である傾向も表れた。

表2


(3)IFRSへの進捗状況は「入口段階」が約6割

 IFRSの適用を検討開始している企業347社(表1のa+b)について、「現在の検討段階」(進捗状況)を聞いたところ、203社(構成比58.5%)と6割近くの企業が未だ「事前調査・勉強段階」の入口段階とし、具体的実行段階である「設計段階」「IFRSベースの財務諸表を暫定的に作成」に入ったとする企業は21社(同6.1%)に過ぎなかった。IFRSの導入時期については2015年を目処に強制適用を先延ばしにする検討案も浮上している。一方、企業側も適用開始に向けて調査中や勉強段階とする回答が過半数を占めるなど、様子を見ながらの準備にとどまっており、積極的準備を進めている状況は見られなかった。

表3

(4)2015年強制適用されても「対応可能」とする企業が86%

 金融庁は当初、「2015年を目処に強制適用に向けて2012年に判断する方針」としてきたが、これを受けて2015年に強制適用された場合の対応状況を聞いた。IFRSが適用対象となる企業325社(表1のa+c、適用対象の有無は回答当事者の自認による)と、適用対象ではないが適用検討開始する47社(表1のb)の合計372社のうち、対応可能とする企業が320社(構成比86.0%)を占め、不可能とするのは39社(同10.5%)にとどまった。(3)の進捗状況の質問に「入り口段階」との回答が構成比58.5%を占めたが、2015年に導入と仮定した場合には同86.0%が対応できるよう準備を進めていることも分かった。 

表4

(5)IFRS導入への懸念は「システム変更」そして「会計基準の変更」

 IFRSの適用を検討開始している企業347社(表1のa+b)について、「IFRS導入に関して最も懸念されること」を集計したところ、「システムやプロセスの変更」が205社(構成比59.1%)と多く、「会計基準の変更関連(表5参照)」が114社(同32.9%)となった。

 これまで会社法や金融商品取引法、税法などの制度会計に慣れ親しんできた国内企業は、大きく会計観が異なるIFRS導入に関し懸念を抱いている。特にシステム変更やそれに伴う費用負担、そして利益表示変化・引当金の考え方・売上高の認識を完成基準とする会計基準変更など、システム面・会計基準面に懸念が表れている。

表5

(6)任意適用検討企業は3割にとどまる

  IFRSは2010年3月期からは任意適用が認められているが、強制適用前に任意適用するか否かを聞いたところ、適用対象を検討開始している企業347社(表1のa+b)のうち、 「強制適用まで行わない」が242社(構成比69.7%)で最多回答となり、任意適用には消極的な姿勢が大勢を占めた。一方、「任意適用を前向きに検討」は23社(同6.6%)、「状況次第で任意適用を検討」は82社(同23.6%)で、任意適用を考えている「任意適用を前向きに検討」「状況次第で任意適用を検討」は105社(同30.3%)で検討企業は3割にとどまった。

 また任意適用を検討する企業105社のうち、適用時期をいつと考えているかについては、「2015年度」6社と「未回答」76社の合計が82社(同78.1%)となり、8割近くの企業がしばらく先のことと考えていた。なお、任意適用を検討する企業105社について、検討を行う理由を聞くと、「国として適用させる方針のようである」が38社(同36.2%)と一番多く、国としての方針に従う意見が多かった。

表6

表7

(7)IFRS導入影響の具体的意見集計

 「IFRSによる貴社への影響度を具体的にお聞かせください(メリットを含め)」の質問を行い、各コメントをカテゴリー別に集計をしたところ、『会計処理に関して』のデメリット回答が47件、『システム開発・入替』に関するデメリット回答が32件、同メリット回答は13件となった。また、6月末日、自見金融相が「適用には準備期間を置きたい」と導入時期に関し先送りを検討する発言もあったことから導入スケジュールが見えず作業進行への不安の声も聞かれた。

IFRS導入影響の具体的意見集計

主な影響に関するコメント

[適用スケジュールに対する意見]

  • 金融庁長官の強制適用延期発表により計画の検討スピードを緩めることになったが予定が不透明なため導入検討計画が進めづらい
  • 導入時期が不明確なため社内プロジェクトのスケジュールが組みにくい
  • ステークホルダーに対して説明が必要だが関連基準が固まっていない部分もあり動向を注視している
  • IFRSというより、日本のIFRSスケジュールによる影響が多大。2012年の決定を待っていたら間に合わなくなるようであれば、スケジュールを見直すべき
  • 影響の大きいIFRS基準化が遅延しており、このことを加味せずに2012年という時間の到来で強制適用を判断することに同意できず遅延した時間と同程度の時間の検討を要する

[デメリット等]

  • 収益認識基準変更により、利益水準が一時的に落ちる
  • 中国等、制度的に会計年度の変更が出来ない場合の対応に苦慮
  • M&A等による連結対象企業へのIFRS対応への難しさ
  • 財務グループ人員の増員が必要
  • 海外子会社や連結子会社が無いシンプル組織構造企業にとっては、グループ管理の効率性などメリットはそもそも生じない
  • 有形固定資産の償却方法変更に関する金額的な影響が大きい
  • 例えば、JV工事の売上高が認められなくなると金額的に多大な影響を受ける
  • IFRSで示される要件が抽象的。金融商品では実務と異なる概念が随所にあり、内部管理との間で齟齬が生じる懸念がある
  • システム投資費用が多大になる見込み
  • IRコストの増大を懸念(システム入替、人員の育成、配置等)
  • 従来の方法と異なる点があるためシステム・プロセスの変更が必要
  • 導入にあたっての負担(人的な部分が中心)の増加が懸念される
  • ステークホルダーに対して何らかの説明が必要なほど多大

[メリット等]

  • 経理部門以外の部門における、会計処理に対する意識の向上
  • 海外市場への上場の可能性が広がる
  • IFRS導入を期に会計システム入替の動機づけとなる
  • 資金調達リスクの低減につながる
  • 各領域においてメリット・デメリット共に影響が大きいと認識している

 国際的な会計基準の統一という観点から導入の流れになってきたIFRSだが、適用する企業には多くの戸惑いがあるようだ。現状では導入に消極的な意見が多く様子見の状況だが、導入延期の案も浮上しスケジュールが立たないことに不安を持つ企業もある。実現に向けてはメリットの明確化や現場への負担の考慮を求める声もあり、導入時期の明確化もさることながら適用対象企業・適用内容等の具体的開示が早期に求められている。


禁・転載・複写

お問合せ先
株式会社東京商工リサーチ 情報本部/TEL:03-6910-3155
または最寄りのTSR支社店へお問い合わせください

TSR商品販売サイト

  • TSR ONLINE SHOP:出版物・マーケティングレポート等のオンラインショッピングサイト

TSR関連おすすめサービス

  • エラベル:TSRがオススメする就職・営業に役立つ地域の優良企業紹介サイト
  • TSR express:TSR情報誌をご購読のお客様に無料でお届けする倒産情報配信・検索サービス
  • 東日本大震災関連記事

TSRのソーシャルネットサービス(SNS)

  • 東京商工リサーチtwitter公式アカウント
  • 東京商工リサーチ公式facebookページ