「103万円の壁」引き上げ 企業の9割超が賛成、約6割の企業は「130万円の壁」見直しも期待
2024年12月「年収の壁」に関するアンケート調査
12月11日、与党と国民民主党は、「103万円の壁」について「178万円を目指して来年から引き上げる」ことで合意した。実際の時期や基礎控除の引き上げ金額はこれから詰めるが、岩盤の「壁」見直しが動き出した。
東京商工リサーチ(TSR)は12月2日~9日、「年収の壁」見直しについて企業向けアンケート調査を実施した。所得税が発生する「103万円の壁」の引き上げは、9割(91.3%)を超える企業が 「賛成」と回答し、「反対」は8.6%にとどまった。「賛成」の理由は、「働き控えが解消し、人手不足が緩和する」が74.4%で最多だった。人手不足が深刻さを増すなか、働く人だけでなく、企業も税と社会保険の改正に関心を寄せている。
年収の壁では、「103万円の壁」に続いて、社会保険の扶養対象が外れる「130万円の壁」見直しを求める企業が57.4%と約6割に達した。税と社会保険の両面で見直しを求める声が根強い。
所得税が発生する「103万円の壁」の引き上げは、パートなどで働く人が働き控えをせず労働時間を増やし、人手不足の解消が期待される。また、税負担の軽減による手取り収入の増加を歓迎する声もある。
こうした議論について、税収減を伴う年収の壁の解消に慎重な意見もある。また、社会保険の扶養対象基準となる「130万円の壁」が残る場合、所得税の「壁」が引き上げられても働き控えは収まらない可能性もある。
2024年10月から社会保険の適用要件が、従業員101人以上から51人以上へ拡大された。年収との関係で保険適用を避けたい短時間労働者は、労働時間を週20時間未満に抑える可能性もある。
社会保険の適用拡大は企業にも重しとなる。とりわけ、物価高で収益悪化に苦しむ中小企業の反発は強い。最低賃金が引き上げられ、物価高も続くなか、社会保険や税の「壁」見直しは企業と働く人、ともに期待が高まっている。公平、かつ早急な取り組みが求められている。
※ 本調査は、2024年12月2日~9日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答5,726社を集計・分析した。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(資本金がない法人・個人企業を含む)を中小企業と定義した。
Q1.所得税非課税の上限年収である「103万円の壁」の解消に向けた動きが活発です。貴社は解消への動きに賛成ですか?反対ですか?(単一回答)
◇大企業・中小企業ともに賛成が9割超
「103万円の壁」解消について、賛成が91.3%(5,726社中、5,232社)に対し、反対は8.6%(494社)で、9割超の企業が賛成と回答した。
規模別では、賛成が大企業95.5%(468社中、447社)、中小企業91.0%(5,258社中、4,785社)で、いずれも「賛成」が9割を超えた。大企業が中小企業を4.5ポイント上回った。
反対は大企業が4.4%(21社)と5%に届かず、中小企業も8.9%(473社)にとどまった。企業規模が大きいほど、人手不足の解消に期待を寄せているようだ。
賛成と回答した企業の産業別では、金融・保険業が94.4%(72社中、68社)で最も高い。次いで、卸売業93.1%(1,080社中、1,006社)が続く。
一方、賛成が最も低い小売業87.2%(297社中、259社)と建設業89.3%(845社中、755社)は9割を切った。
両産業とも、中小企業の構成比が他の産業より高かった。中小企業は価格転嫁によるコスト吸収が難しく、「103万円の壁」解消による短時間労働者の人手確保だけでは、経営課題の解決に足りないと考えているようだ。
Q2.「賛成」の理由は何ですか?(複数回答)
◇「人手不足の緩和」が7割超 世帯年収増加による購買力増加にも期待
「103万円の壁」解消に賛成と回答した企業に理由を聞いた。5,156社から回答を得た。
「賛成」の最高は、「働き控えが解消され、人手不足が緩和する」の74.4%(3,838社)だった。規模別では、大企業が76.4%(441社中、337社)で、中小企業74.2%(4,715社中、3,501社)を2.2ポイント上回った。
次いで、「従業員の年収増加によるモチベーションアップが期待できる」が34.2%(1,766社)で続く。大企業が37.1%(164社)に対し、中小企業は33.9%(1,602社)で、3.2ポイントの差がつき、最も格差が大きかった。
3位は、「世間の世帯年収増加による販売(サービス提供)の増加に期待」の30.1%(1,554社)が続いた。産業別では、小売業43.3%(254社中、110社)が最高で、不動産業43.2%(171社中、74社)と2産業が4割超だった。
この他、「働き控えをしていた従業員に高度・責任ある仕事を任せられる」が27.8%(1,438社)、「就業時間数の増加による習熟度・スキルアップが期待できる」が23.7%(1,223社)でともに2割を超えた。労働の質が高まり、生産性向上を期待する意見もみられた。
Q3.「反対」の理由は何ですか?(複数回答)
◇「反対」理由の最多は他の「年収の壁」 税収減少の影響も懸念
「103万円の壁」解消に「反対」の理由は、「いわゆる『年収の壁』は複数あり、『103万円の壁』の解消だけでは意味がない」が73.4%(483社中、355社)で最も高かった。社会保険の扶養条件である「130万円の壁」などが残る整合性への疑問もあるようだ。
規模別では、大企業の85.7%(21社中、18社)に対し、中小企業は72.9%(462社中、337社)で、12.8ポイントの差が開いた。
次いで、反対理由で多かったのは、「自治体の税収減少につながり、公共サービスや補助が削減される恐れがある」の42.6%(206社)だった。「その他」の自由回答でも「他の増税に繋がる」との回答があった。国や自治体の税収減が、企業に跳ね返る懸念を拭えないようだ。
Q4. 「103万円の壁」に限らず、手取りに影響する年収の壁はいくつか存在します。安定した人手確保の観点に立った場合、どの壁の引き上げ(または撤廃)を望みますか?(複数回答)
◇社会保険の扶養対象基準「130万円の壁」6割の企業が緩和を求める
「103万円の壁(所得税非課税の上限)」を含め、他の「年収の壁」について変更を希望するか尋ねた。最多は「130万円の壁(社会保険の扶養対象から外れる)」の57.4%(5,883社中、3,382社)で、約6割の企業が選択した。次いで、「103万円の壁」が48.2%(2,837社)で続く。 約半数の企業が、税金と社会保険の両面で扶養認定の条件が緩和されることを望んでいる。
このほか、「106万円の壁(主に従業員51人以上の企業で社会保険の加入義務が発生)」の見直しは31.3%(1,846社)だった。規模別では、大企業が40.2%(487社中、196社)に対して、中小企業は30.5%(5,396社中、1,650社)で9.7ポイント低い。撤廃されると社会保険を適用する従業員が増えるため、コスト増に敏感な中小企業は、社会保険料の企業負担分が増えることへの懸念が強いことがわかった。
一方、「現状のままでよい」は10.1%(595社)で、税収減の悪影響を懸念しているようだ。