• TSRデータインサイト

中小企業では「受取手形等」の売上比率は低下傾向 卸売業・製造業では手形取引の商慣習が根強く残る

 「受取手形等(電子記録債権を含む)」動向調査


 公正取引委員会は、手形、一括決済方式又は電子記録債権の指導基準を変更し、業種を問わず下請け企業に支払う約束手形の期限を60日以内に短縮する方針だ。手形の運用改正はおよそ60年ぶり。
 また、2026年には紙の約束手形を廃止し、電子記録債権(でんさい)に完全移行する。手形に関する動きが活発だが、TSRの調査では、企業の手形等の残高が大手企業を中心に増加していることがわかった。
 2023年(2022年10月期-2023年9月期)の企業の「受取手形等」は13兆9,779億円(前期比3.2%増)と2年連続で増加した。2023年の売上高に占める「受取手形等」の比率(以下、受取手形売上比率)は3.2%(前期3.3%)で、前期から0.1ポイント低下した。
 10期連続の財務比較が可能な14万2,309社を対象に、受取手形や電子記録債権の動向を分析した。

 最新期の当座資産に占める「受取手形等」の割合は、資本金1億円未満が12.1%、同1億円以上が7.3%で、同1億円未満が4.8ポイント上回った。一方、過去10年間では、資本金1億円未満が低下傾向、同1億円以上は上昇傾向にある。
 また、最新期の売上高に占める「受取手形等」の割合は、資本金1億円未満が5.0%で、同1億円以上の2.8%を上回り、中小企業ほど売上高に占める「受取手形等」の比率が高かった。

 中小企業に対し、発行から決済までの期間が60日以上の手形や電子記録債権を振り出す企業には、政府が下請法に基づき指導する。紙の約束手形の廃止と合わせ、中小企業の資金繰りを制度面から支援するもので、古くから続く商慣行の抜本的な見直しになる。ただ、外形的な支援だけではなく、同時に中小企業のDX化や資金調達等に関する支援は欠かせず、産業界全体で取り組む大きな課題でもある。

※本調査は、東京商工リサーチ(TSR)が保有する企業データベースのうち、 2022年10月期-2023年9月期を最新期(=2023年) とし、10期連続で財務データが比較可能な14万2,309社を抽出し集計・分析した。
※「受取手形等」は、受取手形、電子記録債権、割引手形、裏書譲渡手形を合算した。受取手形売上比率、受取手形当座資産比率では、各期に「受取手形等」が計上されていない企業は母数から除いた。


2023年の「受取手形等」は13兆9,779億円、売上高の3.2%に相当

 2023年(2022年10月期-2023年9月期)に、財務諸表に計上された手形や電子記録債権(以下、「受取手形等」)の総額は、13兆9,779億円(前期比3.2%増)だった。
 2014年以降「受取手形等」は増加をたどり、ピークの2019年は15兆4,321億円に達した。しかし、コロナ禍の2020年以降は企業活動の停滞に伴い、いったん落ち込んだ。ただ、コロナ禍が落ち着いた2022年以降は再び増加に転じ、13兆円台に戻した。
 2023年の受取手形売上比率(売上高に対する「受取手形等」の比率)は、3.2%(前期3.3%)で前期を0.1ポイント下回った。
 過去10年間では、2014年から上昇をたどり、2017年に3.2%と初めて3%台に乗せた。これ以降は上下を繰り返し、2023年は3.29%となった。

受取手形等・受取手形売上比率 過去10年金額推移

<受取手形当座資産比率>

◇資本金別 資本金が小さい企業ほど受取手形当座資産比率が高い
 資本金別の受取手形当座資産比率(当座資産に占める「受取手形等」の割合)は、2023年は資本金1億円未満が12.1%で、資本金1億円以上の7.3%を4.8ポイント上回った。手形決済は大手企業を中心に急減しているが、中小企業間の取引は依然として手形決済が多いことがわかる。
 過去10年間の受取手形当座資産比率の推移をみると、資本金1億円未満は2014年の15.7%から、2023年は12.1%へ3.6ポイント低下した。一方、資本金1億円以上は2014年の6.5%から、2023年は7.3%へ0.8ポイント上昇。大企業と中小企業で対照的な推移をたどっている。

◇産業別 卸売業が14.4%で突出、農・林・漁・鉱業は過去10年で大幅低下
 産業別の受取手形当座資産比率は、2023年の最高は卸売業の14.4%だった。10産業では唯一、10%を超え、突出した。次いで、製造業が8.4%と続く。「受取手形等」は企業間取引の決済で利用されるため、卸売業や製造業などBtoB業態で比率の高さが目立った。
 一方、農・林・漁・鉱業は、2014年は14.1%と卸売業に次ぐ水準だったが、その後、急速に減少し、2023年は6.4%と大きく低下した。
 農・林・漁・鉱業のほか、建設業、卸売業、小売業、金融・保険業、運輸業、情報通信業では、2014年と比較して受取手形当座資産比率が低下している。

受取手形当座資産比率(受取手形等/当座資産)年次推移 上:資本金別 下:産業別 

<受取手形売上比率>

◇資本金別 中小企業ほど受取手形売上比率が高い、大企業は比率が上昇
 資本金別で、受取手形売上比率(売上高に占める「受取手形等」割合)を算出した。売上高に対し、「受取手形等」の比率が高いほど売掛債権の回収までの期間が長いことを示唆する。
 2023年は資本金1億円未満が5.0%で、資本金1億円以上の2.8%を2.2ポイント上回った。中小企業ほど売上高に対して「受取手形等」が多く、また、回収サイトも長くなる傾向にある。
 一方で、受取手形売上比率の過去10年間の推移では、資本金1億円未満は2014年の5.6%から2023年は5.0%に低下したのに対し、資本金1億円以上は2014年の2.1%から2023年は2.8%に上昇している。これは大企業間の取引で「でんさい」利用が押し上げた可能性もある。

◇産業別 2023年は卸売業が4.7%で最大
 産業別の受取手形売上比率は、2023年の最大は卸売業の4.7%だった。過去10年間では緩やかに上昇をたどり、「受取手形等」残高が増えている。
 次いで、製造業が3.3%、建設業が2.7%、金融・保険業が2.0%と続く。
 2014年と2023年を比較すると、製造業、卸売業、不動産業、情報通信業、サービス業他の5産業で受取手形売上比率が上昇した。一方、農・林・漁・鉱業、建設業、小売業、金融・保険業、運輸業の5産業では低下した。
 2020年に金融・保険業の受取手形売上比率が急上昇したが、これは母数が少ないことに加え、一時的に「受取手形等」が急増した企業が1社あり、これが押し上げた。

受取手形売上比率(受取手形等/売上高)年次推移 上:資本金別 下:産業別

業種別 金属製品製造業が8.7%で最大

 業種(中分類)別の受取手形売上比率では、最大が金属製品製造業の8.7%だった。
 次いで、プラスチック製品製造業8.2%、家具・装備品製造業7.9%、建築材料,鉱物・金属材料等卸売業6.5%と続く。
 上位15業種では、製造業が10業種を占めた。産業別の受取手形売上比率は、製造業は卸売業に次ぐ水準だったが、取扱い製品によって取引先の手形利用が多く、結果的に「受取手形等」の比率が高くなった業種もみられる。
 このほか、卸売業が3業種、建設業とサービス業他の各1業種が上位にランクインした。

業種別 最新期における受取手形売上比率ランク

<割引手形> 計上企業数・金額ともに減少傾向

 2023年は、「割引手形」残高の計上が4,451社、残高は7,801億円(前期比10.8%減)だった。
 過去10年間では、2014年期の計上は1万996社、残高は1兆7,321億円だったが、その後は減少をたどった。2020年は、コロナ禍で急激に売上高が落ち込む一方、ゼロゼロ融資などのコロナ関連支援策で手元資金に余裕が生まれたほか、手形を期日まで手持ちする企業が増加、総残高は1兆円を割り込んだ。
 2023年は、2014年期の社数・総残高から、6割近く減少した。

割引手形計上社数 年次推移

 「受取手形等」を計上した企業のうち、割引手形を決算書に計上した企業数の割合を算出した。業種別では、最高が「なめし革・同製品・毛皮製造業」の23.8%。次いで、「各種商品卸売業」が20.0%と続き、上位2業種では2割を超えた。

 上位15業種のうち、製造業が11業種を占め、製造業は他の業種よりも手形割引で資金を調達し、資金繰りを維持している状況が浮き彫りとなった。

業種別 手形計上企業に占める割引手形計上企業の構成比

手形交換高は大幅に減少、電子記録債権金額比率は約3割まで上昇

 一般社団法人全国銀行協会によれば、現金決済の増加や電子記録債権(でんさい)へのシフトなどで、2023年の約束手形の交換高は93兆4,228億円(前年比11.2%減)と、ピークの1990年(4,797兆2,906億円)から98.0%減と大幅に減少。一方で、2023年の「でんさい」は39兆7,612億円(前年比17.3%増)と大幅に上昇している。
 手形交換高に対する電子記録債権発生記録請求金額の構成比を比較すると、2014年では1.4%にとどまったが、10年間で大きく上昇し、2023年には29.9%に伸びた。2013年2月に始まったでんさいは、紙の手形と異なり印紙税が必要なく、郵送や取り立てなど事務作業も軽減される。電子化することで紛失や盗難のリスクもない。登録者数の伸びが鈍化しているが、2023年12月末時点で49万1,182社へ導入が進んでいる。
 政府は、紙の手形や小切手を2026年度をめどに廃止する方針で、「でんさい」やインターネットバンキングなど電子化の取り組みを加速させている。

上:手形交換高の推移 下:電子記録債権(でんさい)利用者登録数・金額推移

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2024年1-6月「負債1,000万円未満」倒産 261件 2010年以降で3番目の高水準「破産」が約98%

2024年上半期(1‐6月)の全国企業倒産(負債1,000万円以上)は4,931件で、年間1万件を超えるペースで増勢をたどっている。また、負債1,000万円未満の小規模倒産も261件(前年同期比6.9%増)で、2010年以降では3番目の高水準となった。

2

  • TSRデータインサイト

2024年上半期「バー」「キャバクラ」等の倒産47件 過去10年で最多、コロナ禍と物価高で変わる夜の街

コロナ禍が落ち着き、街にはインバウンド需要で外国人観光客が増え、人出が戻ってきた。だが、通い慣れたお店のドアは馴染み客には重いようだ。2024年上半期(1-6月)の「バー,キャバレー,ナイトクラブ」の倒産は、過去10年間で最多の47件(前年同期比161.1%増)に急増した。

3

  • TSRデータインサイト

上半期の「飲食業倒産」、過去最多の493件 淘汰が加速し、「バー・キャバレー」「すし店」は2倍に

飲食業の倒産が増勢を強めている。2024年上半期(1-6月)の飲食業倒産(負債1,000万円以上)は493件(前年同期比16.2%増、前年同期424件)で、2年連続で過去最多を更新した。現在のペースで推移すると、年間では初めて1,000件超えとなる可能性も出てきた。

4

  • TSRデータインサイト

2023年の「個人情報漏えい・紛失事故」が年間最多 件数175件、流出・紛失情報も最多の4,090万人分

2023年に上場企業とその子会社が公表した個人情報の漏えい・紛失事故は、175件(前年比6.0%増)だった。漏えいした個人情報は前年(592万7,057人分)の約7倍の4,090万8,718人分(同590.2%増)と大幅に増えた。社数は147社で、前年から3社減少し、過去2番目だった。

5

  • TSRデータインサイト

「想定為替レート」 平均は1ドル=143.5円 3期連続で最安値を更新

株式上場する主要メーカー109社の2024年度決算(2025年3月期)の期首の対ドル想定為替レートは、1ドル=145円が54社(構成比49.5%)と約半数にのぼることがわかった。 平均値は1ドル=143.5円で、前期から14.5円の円安設定だった。期首レートでは2023年3月期決算から3期連続で最安値を更新した。

TOPへ