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遠軽信用金庫・島田光隆理事長インタビュー ~ アンテナを張り巡らせて「拡大均衡」を目指す ~

 新型コロナウイルス感染拡大やロシアのウクライナ侵攻による資源価格の上昇など、経営を取り巻く環境には逆風も多い。
 こうした経済情勢のなか、地域の経営課題解決に積極的に取り組む遠軽信用金庫の島田光隆理事長に事業者向けの取り組みなどについて聞いた。

― 遠軽信用金庫の特色は

 当金庫は北海道遠軽町に本店を置き、1950年 7 月に「遠軽信用組合」として発足した。信用金庫法の施行に伴い、1952年6月に「遠軽信用金庫」に改組した。「遠軽・紋別地区」に11店舗、「旭川地区」に5店舗、北見地区3店舗、札幌地区に5店舗(2023年11月末現在)で営業展開している。預金量は3,770億円、貸出金量1,734億円、職員数は186名(2023年3月末現在)だ。

― 営業地区ごとの経済状況と課題について

 遠軽・紋別地区は、かつて木材業が盛んだったが、現在は、建設、土木、農業、水産が主力業種だ。ここ数年間を振り返ると、公共事業の発注状況が安定していることから、建設、土木業の工事受注も安定している。農業は、その年の天候により収穫が左右されるが、この地域の玉ねぎ、じゃがいもなどは、比較的安定している。水産業は、ホタテの養殖など、自然災害の影響を受けることなく、漁場が保たれている。しかし、少子高齢化や若者の都市部への流出などで人口は減少しており、人手不足や後継者問題など地域の課題は山積だ。我々は、基盤地区の金融サービスを低下させないために、地域密着型金融の推進により、お客様に寄り添った営業展開を続け、この地域の店舗網を維持することを念頭に活動している。
 旭川地区は、札幌市からJRや高速道路を利用すると1時間30分程度で移動できるため、バブル崩壊後は企業の支店撤退などが増え、人口減少に拍車がかかっている。かつては、基幹産業であった「旭川家具」の事業者も年々減少しているなど、金融機関にとって厳しい状況が続いているが、当金庫の旭川地区での歴史は永く、古くからのお客様に支えていただいていることに加え、医療や住宅関連事業を中心に営業展開をしている。
 北見地区は、農業が盛んで玉ねぎの生産量は日本一だ。寒暖の差が激しいことから、他にも小麦・てん菜・じゃがいもなども美味しく、一次産業が主力となっている。また、農作物の生産量が多いため陸送需要が高く、運送など関連業種もあることから、そういった事業者の資金需要に応えることを中心に活動している。
 札幌地区は、第一号店である札幌支店が北海道大学の近隣であったことから、当初、大学生を対象としたアパートや下宿の建替資金などのニーズに応えて、アパートローンを推進し、案件に対してスピーディーに対応してきた。その事が顧客増加のきっかけとなり、現在は当金庫の融資量の約6割を占めるボリュームになった。
 2019年6月に営業地区拡張が認められ、小樽市・岩見沢市・千歳市・苫小牧市の4市が加わり、 203年11月に札幌ブロック5店舗目となる千歳支店を開設した。
 基盤地区である遠軽・紋別地区では、取引先に寄り添って精いっぱいの経営支援活動を行い、進出地区である「旭川地区」「北見地区」及び「札幌地区」では、競争力のある融資商品の提供により安定収益を確保し、その利益を基盤地区に還元のうえ、継続的な金融サービスや、店舗網の維持に努めることを徹底していきたい。


遠軽信用金庫・島田光隆理事長

遠軽信用金庫・島田光隆理事長

― アフターコロナの取り組みは

 新型コロナ関連融資は、既往のお客様を中心に積極的にお声がけし、資金繰りのご相談に対応した。先の見えない不安から借入したお客様が多く、2023年に入り据置期間が終了し、順調に償還されている。新型コロナウイルスが2類から5類に移行し、 町のイベント再開や外食の制限解除など、街の活気が戻り、経済回復の兆しも見えつつあると感じている。
 当金庫は、年2回全ての事業所及び事業者に対し、支店長や融資担当者が訪問のうえ、資金繰り相談のみならず、今後の事業計画・M&A・事業承継など、経営課題解決の相談にもしっかり対応している。
 M&Aや事業承継については、専門機関の協力や業務提携の締結により、個別相談会を実施する体制を整えている。また、「えんしんビジネスクラブ」や「若手経営者交流会」を通じて各種セミナーを開催し、お客様に有益な情報提供を行っている。
 人口減少への対応として、2023年10月に当金庫主催の「婚活パーティー」を「遠軽商工会議所青年部」や「遠軽青年会議所」の協力を得て、初めて開催した。遠軽町、湧別町及び佐呂間町に在住の男性と北海道全域から女性を募集し、男女約100名が集まり13組、26名のカップルが誕生した。少しでも定住者が増え、人口減少のスピードを遅らせることへの取り組みであり、来年以降も続けていきたい。

― ラピダス進出など北海道内のトピックスについて

 千歳支店開設は、営業地区の拡張を2019年6月に認められていたもので、ラピダス進出の発表前から計画しており、従前より札幌市内店舗のお客様から千歳市のお客様をご紹介頂き、お取引先も増加していた。千歳市住人の平均年齢は北海道内で一番若く、人口も増加しており、住宅関連需要は年々高まっている。また、千歳市周辺には、陸上自衛隊の駐屯地が5つあり、遠軽町にも自衛隊駐屯地があることから、元々人的交流があった。自衛隊員の異動などで不動産情報の相談を受けることもあり、以前から千歳市内に営業拠点となる店舗出店を計画し、3年がかりで開設に至った。
 千歳市及び近隣市町村には多くの金融機関があり、当金庫が支店を開設してすぐにラピダス関連の案件相談を受けることはないものと思われる。まずは、千歳市内の事業所や個人のお客様との信頼関係を構築し、徐々に実績を積み上げていくことが重要だ。また、当金庫は、懸賞金付き定期預金「スーパードリーム」などを取り扱いしており、今後においても、特徴ある商品を提供したい。
 札幌市は、副都心再開発や新幹線札幌延伸を背景に、ビルの建替計画など設備投資は活発化している。資金需要に対しては、事業者の運転資金を含め、設備投資による長期資金のご相談に対応している。また、医療関連資金において、開業資金、メディカルビル建設資金のニーズが増加している。
 北広島市のボールパーク周辺の資金需要は、新駅新築を中心に今後インフラ整備が増加するものと考えており、従前は、札幌地区の月寒支店で対応してきたが、千歳支店開設により情報収集を機動的に行うことが可能となった。

― オホーツク管内での経済的トピックスについて

 紋別市は、ふるさと納税で日本一になるなど、全国的にも有名になり、税収の増加により、消防署や市役所庁舎の建て替え、看護学校新築など積極的な設備投資を実施しており、市民生活も向上している。紋別市や網走市のバイオマス発電では、木材チップの需要が高まり、湧別町では牛糞を使用したバイオマス発電が計画されている。
 カーボンニュートラル分野では、「Team Sapporo-Hokkaido」と称して、札幌市、北海道、道内金融機関などが、海上風力発電事業への投資計画などを、官民で推進しており、これらの事業にも積極的に参画したい。

― 今後、目指す方向性について

 得意分野である不動産関連融資が柱になると思う。千歳支店については、従前札幌市内の店舗で扱っていた案件もあり、着実に実績は積み上がっていくと考えている。千歳市周辺では、賃貸物件建設の他、宅地造成や工場立地などもあり、インフラ整備が進むとともに、千歳市近郊の恵庭市・北広島市の案件を含め、この地域を一つのエリアとして捉えている。ラピダス進出で人口が増えることから、食品スーパーなどの進出も大きなビジネスチャンスと受け止め、色々なアンテナを張り巡らせて対応する。
 当金庫は、選択と集中によりしっかりとメリハリをつけ、積極的な経営を進めてきた。縮小均衡により経営を維持するという考え方もあるが、今後とも、特徴ある金融商品を提供し、お客様に喜びを与え続けるとともに、ビジネスモデルを更に進化させ、「拡大均衡」を目指したい。

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