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2023年度の賃上げ予定企業 80.6% 「賃上げしない」理由 「価格転嫁できていない」が最多の6割

 ~2023年度「賃上げに関するアンケート」調査(第2回)~

  2023年度の春闘で、賃上げを実施予定の企業は80.6%あることがわかった。今年度(2022年度)の実施企業は82.5%で、2年連続で8割台に乗せ、「賃上げ」を実施する企業の割合はコロナ前の水準に戻っている。
  規模別では、実施企業は大企業が85.5%なのに対し、中小企業は80.0%で、5.5ポイントの差がついた。産業別でも、賃上げ実施率最大の製造業は85.9%、最小の不動産業は61.6%で、規模や業種によって実施率には大きな差が出た。

 賃上げを「実施しない」理由は、中小企業では約6割(58.6%)の企業が「十分に価格転嫁できていない」、55.6%の企業が「原材料価格の高騰」に言及している。急激な物価上昇を転嫁できない企業ほど、賃上げに後ろ向きな姿勢にならざるを得ない状況が浮かび上がる。
 「賃上げ率」では、連合が2023年度春闘で掲げる「5%以上」の目標を予定する企業は29.2%で、3割に届かなかった。
 賃上げの内訳は、「定期昇給」(大企業83.8%、中小企業76.8%)、「ベースアップ」(同55.9%、同49.2%)で、中小企業は大企業を5ポイント以上下回った。一方、インフレ手当の支給では、中小企業が17.1%なのに対し、大企業は12.6%で、逆に中小企業が4.5ポイント上回った。
 人手不足や物価高への対応で賃上げが注目されているが、中小企業にとって賃金体系の底上げは資金負担が大きく、一時金やインフレ手当などの名目で対応している状況が透けて見える。
 コロナ禍や物価高、エネルギー価格上昇など、企業を取り巻く環境は予断を許さないが、業績と賃上げのバランスに苦慮する中小企業は多い。

  • 本調査は2023年2月1日~8日にインターネットによるアンケート調査を実施。有効回答4,465社を集計、分析した。
    賃上げの実態を把握するため、「定期昇給」、「ベースアップ」、「賞与(一時金)」、「新卒者の初任給の増額」、「再雇用者の賃金の増額」を賃上げと定義した。
    資本金1億円以上を「大企業」、1億円未満(個人企業等を含む)を「中小企業」と定義した。

Q1.来年度(2023年度)、賃上げを実施予定ですか?(択一回答)


「実施する」が8割

 4,131社から回答を得た。「実施する」は80.6%(3,333社)だった。2022年度に賃上げを「実施した」企業の82.5%を1.9ポイント下回るが、コロナ禍前と同水準の8割台を維持した。
 規模別では、「実施する」は大企業の85.5%(478社中、409社)に対し、中小企業は80.0%(3,653社中、2,924社)で、5.5ポイントの差がついた。2022年度は「実施した」大企業は88.1%、中小企業は81.5%で、6.6ポイントの差があった。前年度より差は縮小したが、依然として規模による実施率の差は大きく、中小企業の賃上げ実施率の引き上げが課題になってくるだろう。

賃上げ動向推移

産業別 製造業、卸売業、建設業、情報通信業で「実施する」が8割超

 Q1の結果を産業別・規模別で集計した。
 「実施する」と回答した企業を産業別に分析した。構成比の最高は、製造業の85.9%(1,319社中、1,134社)。次いで、卸売業81.8%(931社中、762社)、建設業81.2%(511社中、415社)、情報通信業80.4%(235社中、189社)の順。上位4産業は「実施する」の割合が8割を超えた。
 規模別では、「賃上げ実施率」は10産業すべてで大企業が中小企業を上回った。
 運輸業は、大企業の実施率が92.0%(25社中、23社)に対し、中小企業が74.5%(157社中、117社)、小売業は大企業が84.6%(13社中、11社)に対し、中小企業は72.1%(158社中、114社)と、中小企業の実施率は大企業をそれぞれ17.5ポイント、12.5ポイント下回った。規模による差が10ポイントを超えるのは、5産業にのぼった。
 物価上昇分の価格転嫁が難しく、体力の乏しい中小企業は収益力が低下している。そうした企業は、求人難でも賃上げを実施できない苦境が浮き彫りになった。

賃上げ動向推移

Q2. Q1で「実施する」と回答した方に伺います。賃上げ率(2022年度比)はどの程度を予定しますか?(小数点第一位まで)


「5%以上」は3割未満

 Q1で「実施する」と回答した企業に賃上げ率を聞いた。2,104社から回答を得た。
 1%区切りでは、最多は「3%以上4%未満」の29.9%(630社)だった。次いで、「2%以上3%未満」が23.4%(493社)、「5%以上6%未満」が20.2%(427社)と続く。
 賃上げ率「5%未満」が70.7%(1,489社)で、連合が掲げる「5%以上」の賃上げを実施予定の企業は29.2%にとどまり、3割を下回った。
 ただ、2022年10月実施のアンケートで、2023年度に「5%以上」の賃上げを予定している企業は4.2%だった。だが、急速な物価高の進行で、2023年度の賃上げ率を引き上げる企業の割合は短期間で25.0ポイント増と大幅に上昇した。
 規模別では、賃上げ率「5%以上」は大企業22.8%(184社中、42社)、中小企業29.8%(1,920社中、573社)で、中小企業が7.0ポイント上回った。これは基本給の差も影響しているとみられる。

賃上げ実施内容

Q3. Q1で「実施する」と回答した方に伺います。内容は何ですか?(複数回答)


「ベースアップ」実施予定は5割

 Q1で「実施する」と回答した企業に賃上げ内容について聞いた。3,278社から回答を得た。
 最多は、「定期昇給」の77.7%(2,548社)だった。次いで、「ベースアップ」の50.0%(1,640社)、「賞与(一時金)の増額」の35.2%(1,156社)と続く。
 「ベースアップ」実施企業は、2022年10月(39.0%)から11.0ポイント上昇したが、全体では実施企業は半数にとどまった。
 規模別では、「定期昇給」は大企業の83.8%(337社)に対し、中小企業は76.8%(2,211社)、「ベースアップ」は大企業の55.9%(225社)に対し、中小企業は49.2%(1,415社)で、それぞれ中小企業が7.0ポイント、6.7ポイント下回った。
 基本給に関わる賃金の底上げは、中小企業にとって負担が大きいことを示している。

賃上げ実施内容

Q4. Q1で「実施しない」と回答した方に伺います。理由は何ですか?(複数回答)


「価格転嫁が不十分」が最多の約6割

 Q1で「実施しない」と回答した企業に理由を聞いた。747社から回答を得た。
 最多は、「コスト増加分を十分に価格転嫁できていない」が58.0%(434社)で、賃上げの予定がない企業の約6割が「価格転嫁」を理由に挙げた。
 以下、「原材料価格が高騰しているため」53.9%(403社)、「電気代が高騰しているため」46.4%(347社)、「受注の先行きに不安があるため」45.9%(343社)と続く。
 「増員を優先するため」は13.3%(100社)、「設備投資を優先するため」は6.0%(45社)にとどまった。賃上げを実施しない企業は、前向きな投資の優先より、目先の収益悪化を大きな理由に挙げている。
 規模別では、「価格転嫁できていないため」が大企業50.9%(55社中、28社)、中小企業58.6%(692社中、406社)で、いずれも最多。
 また、「燃料代が高騰しているため」は、大企業の12.7%(7社)に対し、中小企業は44.2%(306社)で、規模の差は31.5ポイントと最も大きかった。「既往債務の返済に影響を与えるため」は、大企業の5.4%(3社)に対し、中小企業は18.4%(128社)と約2割に達し、規模による資金繰りの明暗が鮮明だった。
 また、「一度上げた賃金を下げることが容易ではない」(ソフトウェア業、資本金1億円未満)など、基本給に係る負担増の理由もあった。

賃上げ実施内容

Q5.最近の急激な物価上昇に伴い、従業員に「インフレ手当」(類するものを含む)を支給しましたか?(択一回答)


16.6%が「支給した」

 「インフレ手当」を「支給した」は16.6%(4,465社中、742社)、「支給する予定」は3.5%(160社)、「検討中」は14.5%(648社)だった。一方、「支給しない」は65.2%(2,915社)で、6割以上を占めた。
 規模別では、「支給した」は中小企業が17.1%(3,920社中、673社)で、大企業の12.6%(545社中、69社)を4.5ポイント上回った。また、「支給しない」も中小企業は64.4%(2,528社)に対し、大企業は71.0%(387社)で、中小企業の方が「インフレ手当」に積極的だった。

Q6. 来年度(2023年度)、貴社では非正規の従業員に対して賃上げ(時給アップや一時金の支給・増額など)を実施しますか?(択一回答)


非正規従業員への賃上げ「実施する」が5割

 「実施する」は55.7%(3,184社、1,776社)で、全体の賃上げ実施率の80.6%に対し、24.9ポイントと大きく下回った。
 規模別では、「実施する」は大企業の59.5%(336社中、200社)に対し、中小企業は55.3%(2,848社中、1,576社)だった。
 実施率は、大企業が中小企業を4.2ポイント上回ったが、非正規への対応ではほぼ同じ水準とみることができる。

賃上げ実施内容

Q7. Q6で「実施する」と回答した方に伺います。賃上げ率(2022年度比)はどの程度を予定しますか?(小数点第一位まで)


非正規従業員の賃上げ、最多レンジは3%台

 Q6で「実施する」と回答した企業に賃上げ率を聞いた。1,095社から回答を得た。
 1%区切りのレンジ別では、最多は、「3%以上4%未満」の31.5%(345社)だった。以下、「5%以上6%未満」が23.1%(253社)、「2%以上3%未満」が21.2%(233社)の順。
 「5%以上」の賃上げを実施予定なのは、30.2%(331社)だった。これは、全体の賃上げ率の29.2%を1.0ポイント上回った。
 規模別では、非正規従業員に対する「5%以上」の賃上げ実施は、大企業の25.0%(100社中、25社)に対し、中小企業は30.7%(995社中、306社)で、中小企業が5.7ポイント上回った。
 実施率は大企業が上回ったが、実施企業の賃上げ率は中小企業の方が高い水準となった。

賃上げ実施内容

Q8. Q6で「実施する」と回答した方に伺います。理由は何ですか?(複数回答)


「人材確保」が最多の74.3%

 Q6で「実施する」と回答した1,732社から回答を得た。
 最多は、「人材を確保するため」の74.3%(1,287社)だった。次いで、「最低賃金の上昇にあわせて」の44.5%(772社)、「生産性を上げるため」の28.6%(496社)、「同一労働同一賃金の観点で」の14.1%(245社)の順。「その他」のうち、物価高に関連した理由を挙げたのは95社だった。
 規模別では、大企業の「人材を確保するため」が82.0%(195社中、160社)なのに対し、中小企業は73.3%(1,537社中、1,127社)で、大企業が8.7ポイント上回った。

Q9.賃上げを実施するうえで必要なことは次のうちどれですか?(複数回答)


中小企業の7割が「値上げ」に言及

 最多は、「製品・サービス単価の値上げ」の70.2%(3,217社)。以下、「製品・サービスの受注拡大」の57.3%(2,628社)、「従業員教育による生産性向上」の45.5%(2,085社)、「エネルギー価格の低減」の31.2%(1,430社)と続く。
 規模別では、「製品・サービス単価の値上げ」は中小企業が70.5%(4,011社中、2,828社)、大企業は68.3%(569社中、389社)だった。
 「従業員教育による生産性向上」は中小企業の44.2%(1,774社)に対して大企業は54.6%(311社)、「設備投資による生産性向上」は21.1%(849社)に対して31.9%(182社)と、それぞれ10ポイント以上大企業が上回った。政府の掲げるリスキリングの拡充に対する意識は、規模によって差がついた。
 一方、「税制優遇の拡充」は中小企業21.5%(865社)に対し、大企業13.3%(76社)、「補助・助成制度の拡充」は19.4%(782社)に対して11.7%(67社)と、それぞれ中小企業が5ポイント以上上回っており、制度による支援を必要としている中小企業が多いことがわかる。

賃上げ実施内容




 2023年度に賃上げを「実施する」予定の企業は80.6%だった。コロナ禍当初の2020年度は5割台にまで悪化した賃上げ実施率は、コロナ禍前の水準にほぼ戻っている。
 ただ、業績回復による本来の賃上げとは異なり、急速な物価上昇が後押しした動きでもある。
そのため、非正規従業員への賃上げ実施率は55.7%にとどまり、正社員の実施率を24.9ポイント下回っている。2021年4月からパートタイム・有期雇用労働法の改正法が中小企業にも適用され、賃上げも「同一労働同一賃金ガイドライン」に基づいた対応が求められている。
 賃上げに必要な要因では、7割の企業が「値上げ」を挙げた。賃上げ原資のための価格転嫁の必要性を訴える企業は、規模に関わらず多い。一方、リスキリングや設備投資による「生産性の向上」を挙げた企業は半数を下回った。特に、中小企業は、大企業より生産性の向上に言及する企業の割合が低い。今後、価格転嫁や受注拡大に加え、効率化や採算性向上への支援もキーワードになるだろう。


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