帯広信用金庫・髙橋常夫理事長インタビュー ~「すべては十勝のために」、地元の発展と繁栄に向けて~ 2024/05/20

 人手不足や資源価格の上昇など厳しい経済情勢が続き、大きく円安に振れる為替相場も企業活動を翻弄している。こうした状況下で、地域の経営課題解決に取り組む帯広信用金庫の髙橋常夫理事長に話を聞いた。

―帯広信金の特色や営業エリア、職員数・店舗網について

 「地域の産業と社会発展のためには地元金融機関が不可欠」との使命感を抱き、志を共にした地元経済人37名によって、1916年に無限責任帯広信用組合として創業した。その後、改組を繰り返し、1951年に信用金庫法の施行により帯広信用金庫として発足し、本年(2024年)5月で創業108年を迎えた。帯広・十勝は三方向を山で囲まれ、凶作や冷害、害獣などの困難に立ち向いながら切り開かれたという歴史があり、フロンティア精神で何事にもオール十勝で取り組む風土がある。このような相互補完の精神に支えられて成長してきた。
 預金量は8,528億円、貸出金量は3,607億円、役職員数は400名(2023年3月末時点)だ。北海道東部に位置する人口約33万人の十勝地方を営業エリアとし、本店を構える帯広市をはじめ、十勝管内の19市町村のうち1市・15町・1村で全32店舗体制の営業を展開している。創業以来、地元十勝に根を下ろし、十勝とともに歩み続け、現在に至るまで他の地域へ店舗展開をしていないことが私どもの特徴の1つだ。
 肥沃な大地、良質な水資源、豊富な日照時間に代表される豊かな自然環境に恵まれ、基幹産業である農業を基盤とした安定的な経済力を誇る十勝は、食料自給率がカロリーベースの試算で1,100%を超えている。日本国内の年間食料消費量は4,300万トンで、このうち450万トンが十勝管内で生産され、シェアは10.5%、直近では12%とされ、日本の食料供給基地として重要な役割を担っている。2023年は記録的な猛暑が農畜産物に大きな影響を及ぼしたが、十勝管内JA(農協)の農畜産物の取扱高は、前年比2%増の3,573億円と過去2番目の水準で、商系を含めると4,000億円を超える。農畜産物を運ぶ運送業、ビートから製造される砂糖、これを原料とする菓子製造業など域内循環する経済効果は3兆円規模に上り、これが十勝の強みとなっている。
 2023年7月にはコロナ禍で延期となっていた国際農業機械展が5年ぶりに帯広で開催され、第35回の今回は世界の最先端の農業機器と技術が一堂に会し、5日間で15万5,000人が来場した。コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻、円安などの影響で日本経済は逆風下にあるが、「食」は安全保障の観点では軍事、エネルギーより優先される分野であり、これを支える使命がある。
 また、「食」はもちろんのこと、四季折々の姿を見せる様々な景勝地や優れた泉質を持つ温泉など、観光資源に恵まれた十勝には非常に大きな可能性がある。地元十勝の発展・繁栄に貢献することが地域金融機関である私どもの使命だ。十勝の明るい未来のため、当金庫は役職員一同が「すべては十勝のために」という姿勢で、取引先の資金繰り支援、本業支援、地域の活性化に資する事業に誠心誠意取り組んでいる。

帯広信用金庫・髙橋理事長

インタビューに応じる小林一夫理事長

―十勝管内の経済動向と課題、「アフターコロナ」の認識と御金庫の取組みについて

 昨年(2023年)は、新型コロナウイルスの5類移行に伴い、宿泊観光・飲食などを中心とした消費の活性により経済活動に回復の動きが見られた一方で、ウクライナ情勢に起因する円安や物価上昇の動きが止まらず、十勝の事業者を取り巻く環境は引き続き厳しい状況となった。また、当地十勝も全国の他地域と同様に人口減少という構造的な問題に直面しており、「物価高騰による経営悪化」のみならず、「働き手不足」や「後継者不足」などの“人材”に関する課題も抱えている。
 これまで私どもはアフターコロナを見据え、地域事業者の皆さまの持続性を確保するため、経営のパートナーとして、事業者に深く寄り添い、多面的なサポートを行いながら、事業の成長に向かって共に取り組む「伴走型支援」に組織を挙げて注力してきた。その姿勢は、アフターコロナのステージとなった現在も変わらない。
 取引先企業に対する課題解決支援の重要性がこれまで以上に増すなかで、地域経営サポート部では中小企業診断士らの専門職員が地域の事業者の皆さまのために、創業から事業承継まで様々なライフステージに応じた各種情報の提供から提案、助言、さらに問題解決への無料相談を行っている。経営改善・事業再生や事業承継、補助金申請、人材マッチング、販路開拓などの多種多様な本業支援に取り組み、事業者の皆さまのさらなる成長、発展を後押ししている。
 創業支援においては、2015年より野村総合研究所(東京)、十勝19市町村が共同で新たな事業創造を目指す「とかち・イノベーション・プログラム」を開始した。全国的に著名な経営者を講師に招き、起業手法を指導したり、ともにアイデアを練るなどして、これまで74の事業を草創し、23の事業がスタートした。
 また、補助金申請支援においては、地場産業である農業を含むあらゆる業種の補助金申請を丁寧にサポートした結果、昨年4月に認定支援機関として金融機関が申請を支援した「ものづくり補助金(一般型)」の採択件数(1次~13次までの累計実績)において、当金庫が全国の金融機関で初めてトップとなった。事業者の要望に寄り添い、営業店、本部が一体となり、特に農業従事者支援の分野では、生産効率を向上させる農業機械、猛暑対策のドライ型ミスト装置などの導入に積極的に取り組んだことが実を結んだ。

―後継者問題について

 帯広信用金庫は、地域の事業と雇用を守るため「一般社団法人しんきん支援ネットワーク(SSN)」と連携し、事業承継支援に力を注いでいる。同ネットワークによる個別相談会を毎月開催し、事業承継、M&A・株価評価などについて課題や悩みを抱える多くの事業者の皆さまの要請に応えており、今年度(2023年度)は12月末時点で計76件の相談に対応している。また、機動的かつ効率的な支援を実現するため、当金庫からの出向者を同ネットワークの道東支所長に据えているほか、同ネットワークの認定コンサルタントの資格取得者養成にも積極的に取り組んでいる。現時点(2023年12月末)で、当金庫には合計22名の資格取得者がいるが、今後は養成をさらに進め、地域事業者の事業承継を総合的かつ継続的に支援できる強固な組織体制を構築していきたい。
 また、当金庫は昨年2月に有料職業紹介事業の許可を取得した。4月に取引先企業の人材確保を支援するための紹介業務をスタートさせており、求人ニーズのある取引先を提携する人材紹介業者に繋いでいる。地域での雇用を創出するとともに事業所数の減少に少しでも歯止めを掛けるため、今後は、道内外のキャリアホルダーの人材マッチングと事業承継相談との連動も視野に入れながら、地域事業者の後継者候補となる人材の供給に積極的に取り組み、地域の“人材”に関する課題にしっかりと向き合っていく。冷涼で日照時間が長い気候を含め、移住者が多く魅力のある十勝を発信することで、十勝のファンを増やしたい。

―営業エリア内における経済トピックについて

 当金庫は、十勝の基幹産業である農業分野のさらなる発展を支援するため、2021年4月に営業推進部(現:営業店サポート部)内に先端部署となるアグリビジネス推進室を立ち上げた。市中金融機関では最上位の規模となる上級農業経営アドバイザー8名、農業経営アドバイザー55名の職員が在籍しており、推進室は営業店と連携を図りながら、地域の農業者の皆さまに対して様々な提案活動を実施している。資金支援や販路開拓支援、事業承継支援などの金融面のみならず、管内の自治体やJAなどとも連携して、結婚相談所「おびしんキューピット」を活用した後継者対策支援のお手伝いも積極的に行っている。十勝管内の15町村やJA等の各団体と協定を締結し、これまで45組のカップルが生まれた。このうち4組が農業従事者で、14名のお子様が誕生している。コアの事業は預貸金業務となるが、金融、非金融にとらわれず「総合サービス業」という観点で取り組んでいる。
 冒頭に申し上げた通り、十勝は日本の一大食料供給基地として非常に大きな役割を担っている。また、十勝には農業関連産業も多いことから、農業者を支援すること自体が十勝という地域を支援することに直結する。
 現在、一次産業に携わる皆さまは円安などの影響を受け、厳しい経営環境下に置かれている。今後も十勝が農業を中心とした持続可能な地域であり続けるため、当金庫は関連団体や行政機関などと協力しながら、様々な支援を実施して、十勝の農業と関連産業の成長と発展を応援したい。

―目指す方向性について

 「地域とともに地元事業者の成長と産業の発展に尽くし、十勝で暮らす人々の豊かさを追求する」という当金庫の経営理念を実現するため、様々な経営資源を投下し、関係機関と連携を図りながら、これからも事業者の皆さまの課題解決支援に努める。資金繰り支援はもちろん、様々な経営課題の解決に資する多様な本業支援メニューによるサポートを徹底することで、十勝経済を守り抜いていく。また、地域の皆さまにどこまでも伴走し、これまで以上に地域に深く寄り添って、地元十勝の持続的な発展に貢献していきたい。
 地域課題を解決する上での我々の役割は、いかなる時も事業者に寄り添い、事業者が抱えている真の経営課題を把握することだ。それぞれの事業者によって経営課題は異なり、その核心を探ることはできない。経営者との対話を継続しながら、鮮度の良い情報を営業店と本部各部が組織横断的に共有し、課題解決支援につなげることが不可欠だ。つまり、地域事業者の課題を我々役職員が「自分事」として捉え、常にその課題に向き合い、良い事も悪い事も共有し真摯に取り組むということだ。
 それを実現するための当金庫の強みが十勝管内にくまなく広がっている店舗網だ。各営業店の店長や融資・渉外担当者が、事業者と密にコミュニケーションを図ることで、課題解決に資するタイムリーな支援が可能となっている。
 地域事業者の皆さまの発展は地域の発展につながり、地域の発展はそこで暮らす人々の豊かさにつながる。昨年より本格的な「アフターコロナ」のステージを迎えた一方で、今もなお多くの地元事業者が不透明感の強い経営環境に苦心している。私ども帯広信用金庫は今後も十勝が光り輝く場所であり続けるために、役職員一同、その役割を精一杯果たしたい。
 十勝管内には、まだまだ解決しなければならない課題が山積している。職員には人の役に立つことで「感謝される喜び」を感じてほしい。これが次のエネルギーになり、好循環を生み、組織を強くしていくと考えている。

2024/05/20

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