【破綻の構図】大学受験のニチガク 、受験直前の教室閉鎖と不適切会計
大学受験予備校「ニチガク」で知られる日本学力振興会(TSR企業コード:293847398、新宿区、以下ニチガク)が1月17日、東京地裁から破産開始決定を受けた。負債は1億7152万円だが、債権者349名のうち、約300名が塾生や従業員・講師だ。
受験を目前に控えた1月4日の教室閉鎖は連日マスコミ、SNSで取り上げられた。突然の教室閉鎖は、7年前の成人式の朝、人生に一度の晴れ舞台を台無しにした貸衣装業・はれのひ(株)(TSR企業コード:872372723、2018年1月破産)を彷彿とさせた。
東京商工リサーチ(TSR)はニチガクの破産申立書を独自入手した。破産の背景には、不適切な会計処理と、倒産直前の2回にわたる代表交代が見え隠れする。
TSRは倒産前の昨年12月6日、ニチガクの本社を訪問し、従業員に状況を取材していた。ニチガクに何が起きていたのか。
ニチガクは1983年8月、学習塾講師だった創業者であり前々代表のA氏が西新宿で創業。大学受験に特化して、40年以上に渡り「絶対的な質と量」をモットーに運営し、高校1年から既卒生向けのコースを展開していた。少人数の授業が特色で、90%以上の合格実績を謳っていた。だが、申立書によると、実績とは裏腹に2001年頃から苦しい経営に直面していた。
ニチガクの勧誘手法は電話だ。関連会社の(株)東京学力会(TSR企業コード:352637013、代表:A氏)や(株)アシスト(TSR企業コード: 300610220、新宿区、代表:B氏)などに生徒の募集を委託。こうした関連会社は受験生のいる家庭の連絡先リストを手掛かりに、しらみつぶしに電話した。
ニチガクの入居ビル
ニチガクと関連会社で、生徒からの入学金や授業料を一定割合で分配した。だが、携帯電話が普及し、固定電話を置かない家庭が増えると電話勧誘は難しくなった。さらに、コロナ禍以降は校舎を一時閉館せざるを得ず、自習室も利用を制限したことで生徒数が激減。これが経営悪化に追い打ちをかけ、従業員への給与や税金の支払いが滞る事態に陥った。
不適切な会計処理
申立書には破産までの過程が記載されている。
創業者(A氏)が、ニチガクの生徒獲得の営業活動を担っていた東京学力会およびアシストの間で、売上を循環させる等の不適切な会計処理を行っていたため、経営はますます混乱を極めた。
どのような手法で循環取引を行っていたかの記載はないが、関連会社との間で不適切な会計処理に手を染めていたことがわかる。
申立書の貸付金目録には、ニチガクはA氏が代表を務める東京学力会に対する貸付金として1億42万円が記載されている。だが、回収見込額の欄は「不明」となっている。
さらに、申請代理人の報告書には、「売掛金等の内容については、A氏から説明を受けることができておらず、また各会社を通じて帳簿上の帳尻合わせで行っていた可能性が高いことから、実際に上記売掛金及び貸付金の回収は困難であると思料する」と、記載されている。
2023年11月期の貸借対照表をみると、流動資産1億2,690万円のうち、現預金はわずか25万円で、短期貸付金は9,846万円が計上されている。同期末の総資産は1億6,256万円、純資産は1億1,144万円の債務超過だ。
短期貸付金が回収の見込みが立たず、無価値なら少なくとも同期末で破たんしてもおかしくはない。だが、金融機関からの借入がなく、自力で乗り切る意向だったという。
なお、2024年11月期決算は経理スタッフの退職で決算は行われていない旨が申立書に記載されている。
経営者交代
申立書によるとA氏は、2022年10月頃、商業登記簿上はA氏が代表のまま、A氏と旧知の間柄で、かつニチガクの営業担当で関連会社の代表を務める前代表のB氏に、ニチガクの経営を一任し、経営から手を引いたという。商業登記簿では、A氏の代表辞任とB氏の代表就任の登記は2024年4月1日になっている。
B氏は電話勧誘での営業を見直し、医学部受験向け予備校を新設し、立て直しを目指した。医学部予備校の新設で売上は伸びたが、主力の大学受験部門の不振は補えなかった。
また、医学部受験の講師料は通常より高額だったほか、医学部受験生向けの自習室として借りたビルへの初期投資が約5,000万円かかった。思うほど生徒数が伸びず、自習室の賃料も重荷になったことで、B氏は「万策尽きたと感じた」(申立書)。そして、ニチガクに長年勤め、事情に精通している現代表のC氏に2024年10月1日、経営を委ねた。C氏の代表の就任登記日は2024年10月7日だ。
だが、すでに資金繰りに行き詰まり、同年12月末にはスタッフや講師らの給与等の見通しが立たない状況に追い込まれ、破産準備に入った。
ニチガクの掲示
今年1月4日、破産申立てを視野に入れた債務整理の「ご案内」と塾生の私物の搬出に関する「お知らせ」を玄関に掲げた。これを見た生徒らは、ニチガクに何が起こったのかと混乱し、SNSなどに投稿し、話題が広がることになった。
B氏は2024年10月、「万策尽きた」と感じ、経営を退いている。だが、取材を進めると同年11月1日以降の入塾申込書が複数ある。入塾希望者は数百万円の料金を支払っている。経営が危機的な状況にありながら、事業継続の意思や方策があったのか。事実確認が必要だろう。なお、破産申請の費用は、ニチガクだけでなく、B氏も自己資金を提供している。
2024年12月6日、TSRにニチガクの従業員が退職させられているとの情報が入った。現地を訪ね、従業員に取材すると、従業員は「給与が約2カ月未払いになっており、多くの社員が退職している。自分も近日中に退職する。取引先への支払いも遅延しているようだ。予備校運営はこれまで通りだが、不満が残る」と、悔しい思いを口にした。
1月6日、ニチガク前は荷物を取りに来た生徒と、詰めかけた報道陣で混乱していた。閉鎖にひどく動揺する生徒の姿も見受けられた。ニチガクは、教育者としての責任をどう果たそうとしたのか。次々に代わる代表者が、生徒の希望と人生を壊す権利はない。破産までの資金繰りと直前まで生徒からお金をどれほど集めたのか。管財人の手で、これから様々な疑問が解明されていくことになる。