• TSRデータインサイト

Xアイコン
facebookアイコン

倒産増加と審査部の真価=2024年を振り返って(5)

 審査担当者は長らく、肩身の狭い思いをしてきた。リーマン・ショックの影響が収まらない2009年12月、中小企業金融円滑化法が施行された。これは窮境状態にある企業に金融機関がとどめを刺すことを戒める法律で、返済猶予の件数報告が義務化された。これ以降、企業倒産は減少をたどった。若手社員は倒産現場に遭遇することが減り、口うるさい「審査部」はともすれば厄介者扱いされた。ベテラン審査マンの定年後は補充がなく、審査体制は規模縮小、他業務との兼務となった審査部も少なくない。

 審査部“冬の時代”とも言うべきだが、ゼロ金利による超金融緩和と歴史的な倒産減少の下では大きな問題は生じなかった。ところが、コロナ禍で様相が一変した。さもサイレントキラーかのように。
 ある企業の審査担当者は、「回収不能が目立ってきた。だが、目利き力のあるベテラン審査担当者は引退し、与信管理の甘さに慣れた環境を変えることは難しい」と自嘲気味に吐露する。巧妙な粉飾が発覚するケースが増え、コンプライアンス違反やM&Aなどによる実質的支配者の変更も相次ぐ。与信管理の現場は、以前より難易度が上がっている。それにも拘わらず審査現場を取り巻く空気は危機感が乏しい。このギャップ解消が急がれるが、一筋縄にはいかない。

 2024年は審査部の重要性が再認識された年でもあった。情報部では、今の時代に求められる審査部の姿を探ろうと「シリーズ・審査業務最前線」を始めた。大手鉄鋼商社のJFE商事(株)(TSR企業コード: 570046190)は、「取引先の分析などコンサル機能とまではいかなくても、当社の与信管理の仕組みや格付などをグループだけでなく、社外にも協力、支援していきたい」とこれまでの審査業務をさらに発展、進化させる意向を示す。
 また、丸紅(株)(TSR企業コード:570197708)のグループ会社の審査担当者で構成される自主運営の「紅審会」は、2024年に発足40周年を迎えた。担当者は、「中長期のマーケット環境のなかで、この会社がどう収益を上げてきたか。今後どうなるのかというストーリーが読めなくてはいけない。決算書の外にある環境をみて、この会社はこうなっているはずであると想像することが必要」と語る。自動格付けやAIを活用した審査へのニーズが高まっているが、有力企業はそれだけに囚われず、蓄えてきた力をさらに進歩させている。

 本誌の人気連載「河南虔丞のシリーズ審査業務」は、審査マンについてこう記す。「先方の役職者や担当者との関係の深さを強調しながら、いざとなったら携帯の番号も自宅がどこにあるかも知らないなんて資質に問題あり」(5月21日号掲載)。

 お歳暮やお中元、年賀状などを通じた与信先の代表や担当者へのコンタクト手段の確保、ネガティブ情報に接した際の作法など、審査の現場は人間力を問われている。

 倒産が増勢にある今、審査マンが切磋琢磨する環境を会社がいかに支援するか。その度量と想像力、そして実行力が問われている。

Xアイコン
facebookアイコン

人気記事ランキング

ランキング1位
  • TSRデータインサイト

「鳶工事業」が苦境、倒産が過去最多ペース ~ 16年ぶり100件超、職人不足とコスト対応がネック ~

「建設現場の花形」と言われる鳶職人の世界に逆風が吹く。足場から鉄骨、支柱工事など建設現場で欠かせないが、倒産が過去最多ペースだ。有効求人倍率は7.94倍と深刻な人材難の鳶業界にあって採用難と高い技能、経験が若者の育成に足かせになっている。鳶工事業の倒産を分析した

2

  • TSRデータインサイト

翻訳業が苦境、利益は3年で7割減 ~ AIと競合で破産したケースも ~

AIが翻訳業界にドラスティックな変化を迫っている。日進月歩で精度が向上するなか、言語間の壁が低くなっている。この余波が翻訳業界に広がり、業績は3期連続で減収減益に追い込まれた。

3

  • TSRデータインサイト

米穀卸、令和のコメ騒動で25年度の業績急伸 ~ 26年度はコメ価格下落で暗転へ ~

コメ価格の急騰や品不足で市場が混乱した「令和のコメ騒動」が過ぎ去った。コメを供給してきた米穀(米麦)卸売業は4期前と比べて売上高が約2倍、利益(最終利益)は4.5倍と、業績が急拡大したことが東京商工リサーチ(TSR)の調査でわかった。

4

  • TSRデータインサイト

「お弁当屋さん」の倒産、2年連続で過去最多へ ~ コメ価格下落と消費税引き下げもコスト高 ~

「お弁当屋さん」の倒産が急増している。2026年は8月までに83件に達し、これまで最多の2025年(1-12月)の89件超えが確実だ。コメ価格下落の兆しがみえ、食品の消費税率引き下げも控える。だが、肉や野菜などの食材や包装資材、電気・ガス料金の値上がり幅は大きく、経営の重しとなっている

5

  • TSRデータインサイト

2025年度の書店の利益、前年度の4.6倍に拡大 黒字企業が7割も、「増収増益」は13.4%

「本離れ」が言われて久しいが、書店経営が回復に転じた。全国の主な書店304社の2025年度の売上高合計は、6,121億4,000万円(前年度比1.6%増)、利益合計は40億2,600万円(同365.4%増)で、売上高は微増だったが、利益は前年度の4.6倍に急回復した。

TOPへ