• TSRデータインサイト

「業務スーパー」FC加盟会社、労使でかみ合わない「正義」

ケヒコなどの入居ビル

ケヒコなどの入居ビル

 破産開始決定を受けた、北海道で7店舗の「業務スーパー」のフランチャイズ店を運営していた(株)ケヒコ(TSR企業コード:352478845、横浜市中区)と関連2社。ストライキにまで発展した破産事件の原因が明らかになってきた。労働組合が求めた「無償」での株式譲渡に対し、経営陣は受け入れられないとして、破産を選択した。労使間の協議や破産申請の背景に東京商工リサーチ(TSR)が迫った。

◇     ◇     ◇

 7月30日に横浜地裁から破産開始決定を受けたのは、業務スーパーのFC店を運営するケヒコと、雑貨輸入販売などの(株)エス・インターナショナル(TSR企業コード:350655936、横浜市中区、以下エス・インター社)と、この持株会社の(株)広(TSR企業コード:694769517、横浜市中区)だ。
 労使間のトラブルが露呈したのは、6月29日にケヒコが運営する「業務スーパー」が時限ストライキを実施したためだ。労組は「代表者の会社資金の私的流用や不採算事業への投資などでグループの経営が悪化したうえ、破産を検討している」としてストライキに踏み切っていた。



破産開始決定、破産の要因は

 ストライキなどで混乱が生じるなか、7月30日に3社は横浜地裁から破産開始決定を受けた。負債は3社合計で11億3,950万円だった。
 7月30日、申請代理人による「破産申請に至った事情」で経営陣の苦悩も明らかになった。エス・インター社は、かつては「港湾会社」との取引を主業としていた。しかし、2023年3月にこの会社との取引が終了。これに伴い、2022年12月期に8億5,642万円だった売上高のうち、約4億円分が消失した。
 これをカバーするため、子会社のケヒコは2022年10月以降、北海道内に次々と新規出店した。だが、出店に伴う費用や借入金の増加で経営状況が悪化。2019年8月期には約1億3,000万円だったケヒコの長期借入金は、2023年8月期には約2億7,500万円にまで膨らんでいた。



会社側は「労組の乗っ取り」と指摘

 こうしたなか、エス・インター社とケヒコの正社員を組合員、エス・インター社の管理職だった人物を執行役員とする労組が結成された。労組の要求は経営陣の退陣だ。ただ、関係筋によると、労組が会社側に提示した案には「労組側の代表とする会社(未設立)に無償で2社(TSR注:ケヒコとエス・インター社)の株式を譲渡する」旨が含まれていたという。フランチャイザー(FC本部)との契約の絡みもあり、会社側は要求は受け入れられないと判断した。
 「破産申立に至った事情」では、「労働組合の幹部の真の狙いは、焦土作戦により2社の企業価値をなくした上で、本件2社の経営権を奪取すること、すなわち、執行役員によるクーデター・会社の乗っ取りであったことは間違いない」と指摘している。
 労使間のトラブルが深刻化し、労組側は6月29日、業務スーパーの時限ストライキを実施。これは、フランチャイザーや金融機関の与信態度に大きな影響を与えることとなる。
 ストライキ後、会社側はスポンサー候補者との間で株式の譲渡や事業譲渡を交渉していたという。しかし、労使対立が先鋭化するなかで、メインバンクから期限利益にかかわる通告を受けるなど、事業継続の道は狭まっていった。



破産管財人は「はれのひ」と同じ管財人

 申請代理人によると、2社の労働者に対する給与の支払原資を全額確保したうえで、破産を申請したという。確保した原資は破産管財人にすべて引き継がれた。
 破産管財人には増田尚弁護士(多摩川法律事務所)が選任された。増田弁護士は、成人の日に事業を停止し、多くの新成人がトラブルに巻き込まれた、はれのひ(株)(TSR企業コード:872372723、横浜市中区、2018年1月破産)でも破産管財人を務めた。
 今後は、破産管財人のもとで財産の処分を進め、労働債権や一般債権の配当手続きに入る。
 令和の時代に珍しいストライキに発展した破産事件の内情調査は、破産管財人の手に委ねられる。


人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

銀行員の年収、過去最高の653万3,000円 3メガ超えるトップはあおぞら銀行の906万円

国内銀行63行の2024年度の平均年間給与(以下、年収)は、653万3,000円(中央値639万1,000円)で、過去最高となった。前年度の633万1,000円(同627万5,000円)から、20万2,000円(3.1%増)増え、増加額は3年連続で最高を更新した。

2

  • TSRデータインサイト

タクシー業界 売上増でも3割が赤字 人件費・燃料費の高騰で二極化鮮明

コロナ禍を経て、タクシー業界が活況を取り戻している。全国の主なタクシー会社680社の2024年度業績は、売上高3,589億5,400万円(前期比10.6%増) 、利益83億3,700万円(同11.1%増)で、増収増益をたどっている。

3

  • TSRデータインサイト

「調剤薬局」 中小・零細はリソース不足で苦戦 大手は戦略的M&A、再編で経営基盤を拡大

 調剤薬局の大型再編が加速するなか、2025年1-8月の「調剤薬局」の倒産は20件(前年同期比9.0%減)で、過去最多の2021年同期と2024年同期の22件に迫る多さだった。今後の展開次第では、年間初の30件台に乗せる可能性も高まっている。

4

  • TSRデータインサイト

りそな銀行、メイン取引先数が増加 ~ 大阪府内企業の取り込み加速 ~

関西や首都圏で大企業から中堅・中小企業のメインバンクとして確固たる地位を築くりそな銀行。「2025年全国メインバンク調査」ではメインの取引社数は3メガバンクに次ぐ4位の4万511社だった。東京商工リサーチが保有する全国の企業データを活用しりそな銀行がメインバンクの企業を分析した。

5

  • TSRデータインサイト

メインバンク調査で全国5位の北洋銀行 ~圧倒する道内シェアで地域経済を牽引~

「2025年全国メインバンク調査」で、北洋銀行(2万8,462社)が3メガ、りそな銀行に次ぎ、調査開始の2013年から13年連続で全国5位を維持した。北海道に169店舗、都内1店舗を構え北海道内シェアは約4割(37.9%)に達する。

TOPへ