• TSRデータインサイト

2024年1-5月「税金(社会保険料含む)滞納」倒産81件 前年同期の約3倍に急増、年間では過去最多ペース

~ 2024年1-5月「税金滞納」倒産 ~


 税金や社会保険料の滞納が、事業継続の支障になりつつある。 「税金(社会保険料含む)滞納」を一因とする倒産が、2024年は1‐5月累計が81件(前年同期比189.2%増)と前年同期の2.8倍に急増した。2015年以降、1-5月累計の最多だった2018年の43件の1.8倍に達し、同期間の最多件数を更新した。
 コロナ禍では、国税、地方税、社会保険料などの納付猶予の特例措置があり、業績が落ち込んだ企業の資金繰り緩和に寄与した。だが、コロナ禍が落ち着き、従来の納付体制に戻ると納税資金を確保できない企業が顕在化。さらに、滞納した企業に納付を促す対応が信用棄損を招く事態もあり、大企業から中小・零細企業まで規模を問わず、滞納が一因となった倒産が増えている。

 企業は、法人税や消費税、事業税、社会保険料などの納付が義務付けられている。だが、業績不振で資金繰りがひっ迫した企業で納税が一定期間滞ると、関係省庁は金融機関や企業の取引先に取引照会通知を送付する。これは金融機関や取引先への税金滞納の告知に等しく、取引縮小や停止、現金取引を求められるなどレピュテーション(風評)リスクに直結しかねない。
 また、事業活動が制約を受けると税金滞納の解消はさらに遠のき、最終的に資産が差押えられ事業継続は困難となる。税金滞納は、もともと資金繰りが厳しい企業が多い。コロナ禍や資材・物価高、人件費上昇などのコストアップに見舞われ、より納税負担が増している。

※本調査は、2024年1月-5月の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、「税金滞納」関連をまとめて集計・分析した。


「税金滞納」倒産81件、前年同期の約3倍

 2024年1-5月の「税金滞納」が一因の倒産は81件(前年同期比189.2%増)で、同期間で最多の2018年(43件)の1.8倍のハイペースをたどっている。年間でも、すでに2023年の91件に次ぐ3番目となり、このペースで推移すると年間最多の更新はほぼ確実な勢いだ。
 コロナ禍の特例で、国税は2020年2月から2021年2月まで、厚生年金も2020年1月から2021年2月まで、それぞれ納税猶予(無担保かつ延滞税なし)が認められた。
 しかし、猶予期間を過ぎると通常納付に戻った。コロナ禍が落ち着いても業績回復が遅れた企業は、その後の円安、原材料や資材、光熱費などの価格高騰、人件費上昇などで収益改善が遅れ、納税資金の捻出が難しくなっている。事業を継続するため、運転資金や人件費を優先し、納税を後回しにして滞納で債権や資産の差押えを受けるケースもある。一部では、社会保険料は滞納額が嵩み、国税などに比べ徴収が厳しいとの指摘もある。滞納を解消するため、企業の実情に応じて対話し、分納を含めた納税策を見出す姿勢も必要だろう。

「税金滞納」倒産推移(1-5月)

【産業別】7産業で増加、最多は建設業の22件

 産業別は、10産業のうち、農・林・漁・鉱業と小売業、金融・保険業を除く7産業で前年同期を上回った。最多は建設業の22件(前年同期比144.4%増)で、資材価格の高騰や職人の人件費上昇のほか、2017年以降は社会保険の強制加入を進めたことも影響している可能性がある。
 次いで、サービス業他の19件(同216.6%増)、卸売業の12件(同300.0%増)の順。
 時間外労働時間の上限規制の強化など2024年問題に直面する運輸業は9件(同350.0%増)と大幅に増加。価格転嫁が難しい環境の下で、税金滞納が追い打ちをかけた格好だ。

2024年(1-5月)「税金滞納」倒産 産業別

【負債額別】1億円以上が7割

 負債額別は、最多が「1億円以上5億円未満」の43件(前年同期比377.7%増)と大幅に増加、半数(構成比53.0%)を占めた。次いで、「5億円以上10億円未満」が13件(前年同期比333.3%増)の順。
 1億円以上は58件(同241.1%増)で、「税金滞納」倒産の7割(構成比71.6%)を占めた。
 「税金滞納」倒産は、小・零細規模より中小企業レベルでの発生が中心で、税金滞納が負債額を押し上げる側面もあるようだ。

2024年(1-5月)「税金滞納」倒産 負債額別

【資本金別】1千万円以上5千万円未満が半数以上

 資本金別は、最多が「1千万円以上5千万円未満」の43件(前年同期比207.1%増)で、3年連続で前年同期を上回った。また、「税金滞納」倒産の半数(構成比53.0%)を占めた。
 以下、「1百万円以上5百万円未満」が18件(前年同期比200.0%増)、「5百万円以上1千万円未満」が13件(同333.3%増)の順。1億円以上は、2年ぶりに発生がなかった(前年同期1件)。

2024年(1-5月)「税金滞納」倒産 資本金別

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

事業投融資のエクシア、投資家とトラブル多発

個人投資家などから合同会社の社員権の出資を受け、累計出資者数1万1,974名、累計出資金額723億円(11月4日時点)と喧伝している投融資業のエクシア合同会社(TSR企業コード:014686724、東京都港区、代表社員:菊地翔氏)。そのエク

2

  • TSRデータインサイト

みずほ銀行がメインの企業が増加、都内シェア拡大と地方での力量発揮が課題

みずほ銀行をメインバンクとする企業数は8万773社で前年から0.4%増加した(「2024年企業のメインバンク」調査、8月21日号掲載)。4位のりそな銀行(3万9,777社)との差は4万996社で、3位維持は盤石だが、トップの三菱UFJ銀行(12万6,642社)、2位の三井住友銀行(10万442社)との差は広がっている。

3

  • TSRデータインサイト

ゾンビ企業との「取引あり」は12.1% 回収に「問題なし」約7割、適切な支援で成長を秘める

 「ゾンビ企業」に明確な定義はない。世界決済銀行(BIS)などの定義はあるが、「健全な経営状態ではないにもかかわらず、融資や補助・助成金などにより倒産や廃業を免れている企業」との認識は広がっている。

4

  • TSRデータインサイト

中国の日本人駐在員、8割超の企業が「注意喚起」 企業の約3%、大企業の14%が日本人従業員を駐在

9月、中国・深センで日本人学校に通う男児が襲われ、死亡した事件が日本企業に波紋を広げている。東京商工リサーチ(TSR)が10月上旬に実施した企業向けアンケート調査で、企業の約3%が中国に日本人従業員を駐在させており、そのうちの8割超が駐在員に注意喚起したと回答した。

5

  • TSRデータインサイト

約束手形の決済期限を60日以内に短縮へ 支払いはマイナス影響 約4割、回収では 5割超がプラス影響

これまで120日だった約束手形の決済期限を、60日に短縮する方向で下請法の指導基準が見直される。約60年続く商慣習の変更は、中小企業の資金繰りに大きな転換を迫る。 4月1~8日に企業アンケートを実施し、手形・電子記録債権(でんさい)のサイト短縮の影響を調査した。

TOPへ