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しまなみ債権回収・再生事業部 インタビュー ~ 地域に根差した「再生系サービサー」によるソーシングと企業支援 ~

 コロナ禍を経て、ゼロゼロ融資などの制度融資で信用保証協会の保証付融資を利用した企業が増えている。これまで再生ファンドによる取り組みは金融機関のプロパー債権が中心だったが、アフターコロナの事業再生では保証付融資の整理を避けて通れない。
 政府が推進する「再生系サービサー(※1)を活用した企業支援」の枠組みを背景に、中小企業再生ファンド「未来の架け橋ファンド」が今年1月4日に組成された。ファンドスキームで実務を担うしまなみ債権回収(株)(TSR企業コード:740464965、本社・広島市、以下しまなみサービサー)の再生事業部に、取り組みの意図や独自性などを聞いた。

インタビュー出席者
 三好正洋氏(企画管理本部 副本部長)
 末光博章氏(再生事業部 部長)
 文田龍一氏(再生事業部 課長代理)
 卜部華奈氏(再生事業部 課長代理)

※1 2022年9月公表(経済産業省・財務省・金融庁)の「中小企業活性化パッケージNEXT」で明記。中小企業活性化協議会との連携による、再生系サービサーを活用した支援スキームを念頭にしている

―サービサー法施行(1999年)以降の業界について。認識は

(三好)法務省の公表資料によると、2023年12月末時点でサービサー数は73社だ。ピーク時は102社あり、淘汰が進んでいるようにみえる。サービサーの年間取扱債権額は長らく減少傾向にあったが、2023年は12.4兆円と、前年比8.9%の増加となった。今後もゼロゼロ融資の返済が本格化していくなかで、取扱債権額も増えていくのではないか。

―しまなみサービサーについて

(三好)広島銀行を母体(※2)として2001年6月に設立された。地元の「再生系サービサー」として、同行からの管理回収業務の受託や他の金融機関からの債権買取などを手掛けている。また、2005年に「せとみらい再生ファンド」、2012年に「せとみらいファンド」がそれぞれ組成され、サービシング・ソーシング(投資先の発掘)を担当した実績がある。

※2 現在のしまなみサービサーの株主は、(株)ひろぎんホールディングス(TSR企業コード: 136673996)

―廃業するサービサーも少なくない。設立から20年以上続けてこられた理由、地元で支持・評価されている点は

(末光)これまでの実績により、関西から九州まで広範囲に三桁程度の金融機関との取引、リレーションがある。また、弁護士やコンサルタントなどの専門家とも強固なネットワークを有している。また、我々は銀行系のサービサーなので、セラー(債権の売り手)の意向に沿ったサービシングが可能だ。買い取った債権は相手(債務者)に寄り添った回収を心掛けており、そうした点から信頼を寄せていただいていると自負している。



しまなみサービサー・再生事業部 左から文田氏、末光氏、三好氏、卜部氏
しまなみサービサー・再生事業部
左から文田氏、末光氏、三好氏、卜部氏

―今回組成された「未来の架け橋ファンド」の名称について

(卜部)実は、社内公募で私が応募したものだ。債務者や金融機関、受託や買取をする関係者の全員が幸せな未来に向かっていけるような支援、お手伝いができたらいいなと考え、みんなが幸せになる未来に向かって橋が架かっているイメージでファンド名を考えた。

―ファンド組成の経緯や意図は

(三好)本ファンドには、広島に本店がある10の金融機関(※3)と、広島県信用保証協会、商工中金、中小企業基盤整備機構(中小機構)に出資いただいている。コロナ禍で過剰債務に苦しんではいるものの事業性がある企業を地元で一緒になって再生していきたい。「オール広島」で再生の「広島モデル」を作り上げていこうとしている。

※3 広島銀行、もみじ銀行、広島信用金庫、呉信用金庫、しまなみ信用金庫、広島みどり信用金庫、広島県信用組合、広島市信用組合、備後信用組合、両備信用組合

―GP(※4)であるルネッサンスキャピタル(株)(TSR企業コード:298060450)との関係は

(末光)事業再生ファンドの「せとみらい再生ファンド」と「せとみらいファンド」のGPがルネッサンスキャピタルだった。

※4 General Partner=無限責任組合員。ファンドの運営に無限責任を負う組合員のこと。

―他の中小企業再生ファンドとの違いは

(三好)我々は広島県とその周辺エリアを主体とする地域限定のファンドであり、かつ地域のほぼすべての金融機関が出資することで地元に強固なリレーションを持っている。これは他のファンドとは異なる特色だ。また、支援先は中小零細企業も対象としている。しまなみサービサーが案件相談から事業者に寄り添った再生改善支援までを受託することも実効性を高めていくことにつながると考えている。
 我々のエリアは広島県とその周辺だけだが、エリアが狭い分、より機動的な動きができる。

―ソーシングにおいて、GPとしまなみサービサーの関わり方は

(三好)GPであるルネッサンスキャピタルの本社が東京なので、地元に近い我々が動くほうが効果的だと考えている。また、我々は広島が拠点なので、地元のセラーの意向に沿ったきめ細かな相談など、機動的かつ寄り添った対応が可能だ。ルネッサンスキャピタルはファンド運営実績が豊富で様々な事業再生のノウハウを保有しており、その知見も活用して我々が事業者に寄り添った対応をする。両者の強みを生かした運営をする方が実効性が高まる。

―「未来の架け橋ファンド」の組成に際し、「信用保証協会の出資」と「条例の制定」(※5)も行われた

(末光)今までの事業再生ファンドは、保証付融資以外を整理してきた。だが、ゼロゼロ融資などコロナ関連融資は保証付なので、コロナ禍を経たいま、信用保証協会を除いた事業再生はありえない。銀行のプロパー債権と保証付融資を一緒に整理しないと再生は難しいため、信用保証協会にも出資いただき、再生への取り組みに前向きな姿勢を示していただいている。また、信用保証協会の求償権の売却について、不等価譲渡を行う際は、県や市の制度融資は議会を通さなければならなかったが、去年の12月に知事専決条例ができ、2月には広島市でも条例が施行された。事業再生にむけた環境は整いつつある。
 更には、ファンドが活性化協議会と連携することにより、コロナ禍で過剰債務を抱えた中小企業の抜本的再生や地元の雇用維持が可能になると考えている。

※5 2023年12月、広島県では保証付債権の不等価譲渡の知事専決条例が施行された

―ファンド組成における苦労は

(末光)実は、本ファンドは組成まで足かけ2年半と非常に長くかかった案件だ。民間だけが出資するファンドとして当初検討したが、信用保証協会付の融資を度外視しては事業者の再生はありえないので、ルネッサンスキャピタルと協議し、官民ファンドとして落ち着かせるまで時間がかかった。
(文田)出資メンバーに商工中金に入っていただいたことや、ファンド組成3回にして初めて、信用保証協会に出資いただいたことなど、そういった交渉や出資額割合などの調整にも時間がかかった。

―2年半前というと、政府で「再生系サービサー」が議論され始めるよりも早い時期だ。3月に政府から出された「再生支援の総合的対策」(※6)も、しまなみサービサーの取り組みに近い

(三好)このタイミングでのファンドの組成は、2012年の2号ファンド「せとみらいファンド」から10年が経ったこともあり、また新しいファンドが必要なのではないかという考えによるものである。

(末光)ちょうど時流に合致しているというか、我々が考えていることが実現し、行政でも展開していっているような感覚はある。ファンドの組成と同時に、政府のデフレ脱却の対策といったような話が出たことも感慨深かった。

※6 2024年3月、経済産業省と財務省、金融庁により公表された、官民金融機関などによる再生支援を促す施策。「再生ファンド(中小機構出資)による支援の強化」などが挙げられている

―今後の取り組みは

(末光)詳細は申し上げられないが、現在手掛けている案件は複数ある。今後は投資期間である4年間で投資が完了出来るように努力していく。


ファンド設立組合員集会(1月18日、提供写真)
ファンド設立組合員集会(1月18日、提供写真)



(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年4月15日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)


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