• TSRデータインサイト

2024年1月の「物価高」倒産47件 14か月連続の40件超で高止まり

2024年1月 「物価高」倒産状況


 「物価高」を起因とした倒産の増勢が続いている。2024年1月の「物価高」倒産は47件(前年同月比11.9%増)で、前年同月(42件)を上回った。円安ドル高が続くなか、2022年12月から月間40件超を持続している。負債総額は104億1,300万円(前年同月比14.5%増)で、3カ月ぶりに前年同月を上回った。
 コロナ禍からの業績回復が遅れるなか、人手不足の一方、政財界をあげて賃上げ機運も高まっている。さらに、円安による原材料や資材、原油・エネルギーなどの価格が上昇し、企業はコストプッシュに飲み込まれつつある。 
 こうした状況が長引くと、資金余力がぜい弱な中小・零細企業ほど、資金繰り悪化が懸念される。

 産業別では、最多が製造業で15件(前年同月比±0.0%)。次いで、建設業10件(同25.0%増)、運輸業9件(同12.5%増)と続く。こうした産業は下請企業が多く、価格上昇分の価格転嫁が難しく、物価高が企業収益を直撃している。
 負債額別は、負債1億円以上が32件(同39.1%増)で、約7割(構成比68.0%)を占めた。
 形態別は、破産が42件(前年同月比10.5%増)で、約9割(構成比89.3%)に達した。

 コロナ禍の支援策の副作用で過剰債務に陥った企業も多い。物価高で嵩上げされた売上増で資金需要が活発になっても、新たな資金を調達できず、事業継続を断念するケースが増えている。

 1月30日、岸田首相は施政方針演説で、政府による「公的賃上げ」で力強い後押しを表明した。ただ、「標準的な運賃」、「賃上げ税制の拡大強化」の前に、中小企業は人件費上昇や物価高が資金繰りを圧迫している。業績回復が遅れた中小企業への具体的な支援策の出方が注目されるが、支援の網から中小企業がこぼれると賃上げの二極化が鮮明になり、物価高倒産を押し上げることにもなりかねない。

※本調査は、2024年1月の企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、①仕入コストや資源・原材料の上昇、②価格上昇分を価格転嫁できなかった、等により倒産(私的・法的)した企業を集計、分析した。


1月の「物価高」倒産は47件、2カ月ぶりに前年同月を上回る

 2024年1月の「物価高」倒産は47件(前年同月比11.9%増)で、負債総額は104億1,300万円(同14.5%増)と、件数・負債ともに前年同月を上回った。
 円安ドル高のなかで、物価高倒産は増勢を強めている。2023年は12月に56件(前年同月57件)と前年同月を下回ったが、それ以外の月は前年同月を上回り、月間40件超で推移している。
 2024年も、1ドル=148円を挟んだ推移で、物価高倒産が企業倒産を押し上げている。

「物価高」倒産月次推移

【産業別】4産業で前年同月を上回る

 産業別は、4産業で前年同月を上回った。
 最多は、製造業の15件(前年同月比±0.0%)。以下、建設業10件(前年同月比25.0%増、前年同月8件)、運輸業9件(同12.5%増、同8件)と続く。
 円安基調が続くなかで、資材や食材だけでなく、燃料やガス・水道・電気などのエネルギーなどの価格上昇が続いている。
 物価高は、経営体力がぜい弱な企業ほど、資金繰りに大きな影響を与えている。

産業別状況(1月)

【業種別】道路貨物運送業が8件で最多

 業種別(業種中分類)は、最多が道路貨物運送業の8件(前年同月比33.3%増、前年同月6件)。次いで、総合工事業と食料品製造業が各7件(前年同月5件)、職別工事業と飲食店が各3件(同2件)と続く。
 道路貨物業運送業や総合工事業、職別工事業などは、「2024年問題」を間近に控え、人手不足が顕著となっている。そうしたなか、燃料価格が高止まりするなかで、下請色が強い業種だけに、価格転嫁が進んでいない。

【形態別】破産が約9割

 形態別は、最多が破産の42件(前年同月比10.5%増)で、「物価高」倒産の約9割(構成比89.3%)を占めた。ゼロゼロ融資返済が開始されるなか、物価高や人手不足など経営課題が山積。業績回復が遅れるなかで、コストアップが資金繰り悪化に拍車を掛け、債務整理のため破産を選択するケースが多い。
 このほか、取引停止処分が5件(前年同月比66.6%増、前年同月3件)で、中小企業の資金繰りの厳しさを表している。

【負債額別】1億円以上が約7割

 負債額別は、1億円以上5億円未満が28件(前年同月比47.3%増、前年同月19件)と最も多い。
 以下、1千万円以上5千万円未満の8件(同20.0%減、同10件)、5千万円以上1億円未満の7件(同22.2%減、同9件)の順。
 1億円以上が32件(前年同月比39.1%増)と、全体の約7割(構成比68.0%)だった。

負債額別状況(1月)

【資本金別】1千万円未満が5割

 資本金別は、1千万円未満が24件(構成比51.0%)、1千万円以上が23件(同48.9%)。
 1千万円未満の内訳は、1百万円以上5百万円未満が13件(前年同月比44.4%増、前年同月9件)、5百万円以上1千万円未満が9件(同28.5%増、同7件)、個人企業他が2件(前年同月比±0.0%)。
 最多は1千万円以上5千万円未満で、前年同月と同件数の21件だった。

【地区別】5地区で前年同月を上回る

 地区別は、9地区のうち、5地区で前年同月を上回った。増加率の最大は、近畿の前年同月比350.0%増(2→9件)。次いで、九州の同250.0%増(2→7件)、北海道の同100.0%増(1→2件)と続く。
 都道府県別は、12道府県で前年同月を上回り、減少は13都県、同件数は22県。
 最多は、福岡の6件(前年同月2件)。以下、兵庫(同ゼロ)と広島(同1件)が各5件、埼玉の4件(同4件)、東京(同4件)と愛知(同ゼロ)、大阪(同1件)の各3件の順。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

制御機器メーカーのIDEC(株)が早期退職募集を実施=国内従業員の300人が退職

制御機器メーカーのIDEC(株)(TSRコード:570011370、大阪府、東証プライム)がセカンドキャリア支援制度を実施し、今年6月までに国内従業員の約300人が退職していたことが東京商工リサーチの取材でわかった。

2

  • TSRデータインサイト

上場企業の「早期・希望退職」募集 1-8月で1万人超え 募集の大型化で前年同期比1.4倍増、前年1年間を上回る 

今年1月から8月31日までに判明した上場企業の「早期・希望退職」募集の対象人数が、1万人を超えた。募集の大型化が目立ち、3年ぶりに1万人を超えた2024年の年間募集人数1万9人をすでに上回った。

3

  • TSRデータインサイト

2025年1-8月の「人手不足」倒産が237件 8月は“賃上げ疲れ“で、「人件費高騰」が2.7倍増

2025年8月の「人手不足」が一因の倒産は22件(前年同月比37.5%増)で、8月では初めて20件台に乗せた。1-8月累計は237件(前年同期比21.5%増)に達し、2024年(1-12月)の292件を上回り、年間で初めて300件台に乗せる勢いで推移している。

4

  • TSRデータインサイト

分配金遅延の「みんなで大家さん」、出資者が返金求め訴訟提起へ

不動産投資商品「みんなで大家さん」の出資者への分配金が遅延している問題で、投資商品を扱う企業に対して5名の出資者が1億円の返還を求め、東京地裁に訴訟を提起する。出資者側の代理人事務所は、リンク総合法律事務所。

5

  • TSRデータインサイト

銀行員の年収、過去最高の653万3,000円 3メガ超えるトップはあおぞら銀行の906万円

国内銀行63行の2024年度の平均年間給与(以下、年収)は、653万3,000円(中央値639万1,000円)で、過去最高となった。前年度の633万1,000円(同627万5,000円)から、20万2,000円(3.1%増)増え、増加額は3年連続で最高を更新した。

TOPへ