2023年上半期の「人手不足」倒産 過去2番目の67件 賃上げに追いつかず、「人件費高騰」が急増
~ 2023年上半期(1-6月)「人手不足」関連倒産の状況 ~
賃上げが話題になるなか、中小企業には「人件費高騰」が深刻な打撃を及ぼしていることがわかった。2023年上半期(1-6月)の「人手不足」関連倒産は67件(前年同期比139.2%増)で、前年同期の(28件)の2.3倍に急増した。
上半期では、調査を開始した2013年以降、人手不足が深刻だった2019年の82件に次ぐ、2番目の多さとなった。特に、前年同期は発生がなかった「人件費高騰」が24件と急増した。賃上げ機運が高まるが、収益力が乏しい中小企業には、人件費アップが資金繰りに大きな負担となっている。
産業別は、運輸業の19件(前年同期比375.0%増)が最多だった。次いで、サービス業他18件(同50.0%増)、建設業13件(同116.6%増)の順。
運輸業やサービス業他、建設業などの労働集約型産業は慢性的な人手不足に陥り、「人手不足」関連倒産が他産業に比べ際立っている。
資本金別では、最多が1千万円以上5千万円未満の26件(同271.4%増、構成比38.8%)だったが、1億円以上も7年ぶりに1件と、人手不足が大きな経営課題に浮上している。
経済活動が平時に戻るなか、企業は「人手不足」に悩まされている。なかでも業績回復が遅れ、資金余力が乏しい中小企業ほど賃上げは容易ではない。しかし、賃上げを実施しないと人材流出が避けられず、収益と人員確保の狭間で「人手不足」関連倒産の急増を招いている。
※本調査は、2023年上半期(1-6月)の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、「人手不足」関連倒産(求人難・従業員退職・人件費高騰)を抽出し、分析した。(注・後継者難は対象から除く)
上半期(1—6月)の「人手不足」倒産67件、前年同期の2.3倍に急増
2023年上半期(1-6月)の「人手不足」関連倒産は67件(前年同月比139.2%増、前年同期28件)で、前年同期の2.3倍に急増した。上半期で前年を上回ったのは4年ぶり。
コロナ禍から経済活動が再開するなかで人手不足が顕在化し、2013年上半期以降では、2019年同期の82件に次ぐ2番目の多さとなった。「人手不足」関連倒産の内訳は、「求人難」が27件(前年同期17件)、前年同期は発生がなかった「人件費高騰」が24件(同ゼロ)、「従業員退職」が16件(同11件)で、「人件費高騰」の突出ぶりが目立つ。
人手不足が深刻だった2019年同期は82件発生したが、コロナ禍で経済活動が縮小すると2020年同期が59件、2021年同期が30件、2022年同期が28件と減少していた。だが、コロナ禍が落ち着き経済活動が動き出しても、流失した働き手は戻らず人手不足が顕在化した。特に、賃上げムードが広がったことで前年同期はなかった「人件費高騰」が24件発生した。人手不足は受注機会の喪失につながり、さらに人件費上昇が企業収益の悪化を招く悪循環を引き起こしている。
【要因別】「人件費高騰」が過去最多の24件
要因別は、最多が「求人難」の27件(前年同期比58.8%増、構成比40.2%)で、2年連続で前年同期を上回った。20件を上回ったのは、2020年同期(26件)以来、3年ぶり。
次いで、「人件費高騰」が24件(前年同期ゼロ、構成比35.8%)、調査を開始した2013年同期以降、2015年同期の17件を超え、最多を記録した。
また、「従業員退職」は16件(前年同期比45.4%増)で、4年ぶりに前年同期を上回った。
コロナ禍の急激な市場縮小で、上場企業は早期退職を募集するなど人余りが出現した。だが、経済活動が本格的な再開に動き出すと、コロナ禍で流出した人材は賃金や労働条件が恵まれた企業に流れ、中小企業で人手不足が深刻になっている。
人材確保と従業員の定着には賃上げが不可欠だが、資金余力が乏しい企業では人件費上昇が資金繰り悪化を招き、「人件費高騰」による倒産が急増した。
【産業別】最多が運輸業の19件で、前年同期の4.7倍に増加
産業別は、10産業のうち、農・林・漁・鉱業、卸売業、金融・保険業、不動産業を除く6産業で前年同期を上回った。
最多は、運輸業の19件(前年同期比375.0%増、前年同期4件)。運輸業は人手不足が顕著で、4年ぶりに前年同期を上回り、前年同期の4.7倍と大幅に増加した。
次いで、サービス業他が18件(同50.0%増、同12件)で、2年連続で前年同期を上回った。このうち、老人福祉・介護事業を含む医療,福祉事業(9件)が半数を占めた。また、建設業も13件(前年同期比116.6%増、前年同期6件)で、2年連続で前年同期を上回った。
慢性的な人手不足に陥っている産業が上位に並んでいる。
このほか、製造業7件(同250.0%増)と情報通信業5件(同400.0%増)が2年ぶり、小売業3件(同200.0%増)が4年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。
不動産業が2年連続、農・林・漁・鉱業が3年連続、金融・保険業が調査を開始した2013年から、それぞれ発生しなかった。卸売業は、前年同期と同件数の2件だった。
業種別では、一般貨物自動車運送業14件(前年同期4件)、訪問介護事業4件(同1件)、
土木工事業と受託開発ソフトウェア業が各3件(同1件)。また、前年同期はなかった木造建築工事業、とび工事業、貨物軽自動車運送業、各種食料品小売業、劇団が各2件など、前年同期を上回った。
【形態別】ほとんどが消滅型の破産
形態別件数は、消滅型の「破産」が64件(前年同期比137.0%増)で、4年ぶりに前年同期を上回った。構成比は95.5%(前年同期96.4%)と大半を占めた。
一方、再建型は、「民事再生法」が前年同期と同件数の1件だった。
コロナ禍から業績回復が遅れる企業では、経済活動の再開に伴う従業員の新たな採用は難しい。従業員をつなぎとめるため福利厚生の充実、待遇面の向上は資金制約が大きい。その結果、人手不足で稼働率が低下し、受注機会を喪失し業績回復が遅れるため、先行きが見通せずに事業継続を諦め破産を選択するケースが多い。