インボイス登録300万件突破、 法人が牽引も個人事業主は停滞 ~ 登録ペースは鈍化、ためらう小規模事業者が依然多く~
2023年5月末のインボイス登録は315万9,235件に達した。牽引しているのは法人で、課税事業者の大半が登録した。しかし、個人事業主は5月の月間登録が4月に比べ25.1%減など、登録が進んでいない。国税庁などは、周知広報や相談体制の強化を進めるが、登録を躊躇する個人事業主や免税事業者が多い。
2023年10月1日のインボイス制度(適格請求書等保存方式)のスタートまで、残り4カ月を切った。インボイス制度に登録した事業者からインボイスを受け取ると、消費税の仕入税額控除が可能になる。当初、登録期限は2023年3月末だったが、進捗状況が芳しくなく同年9月30日まで延長された。
消費税の納税義務がある売上高1,000万円以上の課税事業者のインボイス登録は、もともと想定されていた。目論見通りに課税事業者のうち、法人は順調に登録が進んだ。だが、個人事業主は想定以上に低迷している。
国税庁によると、2023年3月末の課税事業者の登録は、法人の約88%が登録していたのに対し、個人事業主は約53%にとどまる。
個人事業主の一部は、制度の認識不足だけでなく、インボイス制度そのものへの抵抗もあるとみられる。
免税事業者の申請、伸び悩み
さらに問題は、課税売上高1,000万円未満で消費税の納付義務のない「免税事業者」の登録への対応だ。免税事業者でもインボイス制度への登録は可能だが、登録すると軽減策はあるものの課税事業者となり、消費税の納付義務が生じる。一方、登録しないと取引先は税控除ができず、負担増が生じる。このため、取引を解除される可能性も出てくる。
免税事業者のインボイス申請は、2023年3月末で約50万件と進んでおらず、小規模事業者が登録に反対、躊躇している実態が浮かび上がっている。
法人も個人も登録ピークは過ぎたか
国税庁の適格請求書発行事業者サイトの公表データを基に、東京商工リサーチ(TSR)が分析した。
2023年5月末の登録件数は315万9,235件に達する。このうち、法人は198万5,879件、個人事業主は116万9,196件、その他(社団等)は4,160件となっている。
登録が進む法人は、すでに登録のピークが過ぎ、5月の登録件数は5万6,023件と月間ピークだった2022年11月(21万413件)の4分の1の水準まで落ち込んでいる。
一方、登録が遅れる個人事業主は、2023年3月は18万4,816件と、月間登録の最多件数を記録した。だが、その後は4月(17万9,768件)、5月(13万4,551件)と2カ月連続で前月を下回った。
インボイスがなくても一定割合の仕入税額の可能など、激変緩和措置が講じられている。それでも登録を見送る個人事業主の多さは、何を物語っているのか…。
衆議院第198回国会財務金融委員会第3号(2019年2月26日)の質疑によると、2015年の国勢調査をもとに農林水産業など一部事業者を除いた免税事業者372万者に対し、BtoB取引の割合の約4割を乗じた161万者程度が課税事業者に転換する計算となっているとした。
国税庁によると法人・個人の課税事業者数は約300万件(法人200万件、個人事業主100万件)で、時期や情勢も異なるが免税から課税事業者への転換見込みの161万件(万者)を単純計算で加えると、461万件がインボイスに登録することになる。5月末時点の登録数は315万件のため、100万件超がこれから登録する可能性がある。
政府は2023年2月10日の衆議院内閣委員会で、「消費税は預かり税でない」と明言した。こうしたことも背景に、インボイス登録の遅れにつながっている可能性もある。
国税庁は、これから登録申請した事業者の登録通知までの期間の目安を公表している。それによると5月25日現在、オンラインの「e-Tax」は提出から約1カ月半、書面は提出から約3カ月かかる。
計画通り10月にインボイス制度が開始されるのか。インボイス制度そのものの見送りや廃止はないのか。インボイス登録していない事業者が不利益を受けることはないのか。
様々な課題を抱えながら、時間だけが過ぎている。