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今年の「早期・希望退職募集」は20社 統計開始以来、「情報通信」が初の最多 ~ 2023年(1-5月)上場企業「早期・希望退職」実施状況 ~

 2023年1-5月に「早期・希望退職者」を募集した上場企業は、20社(前年同期19社)で、前年同期を1社上回った。このうち、直近決算で黒字は10社と半数を占めた。業種別の最多は、情報通信の5社(構成比25.0%)で、2000年に統計を開始して以来、初めて最多となった。
 コロナ禍で打撃を受けた観光や運送(交通インフラ含む)、外食では募集はなく、一服感が出た。その一方で、情報通信や製造が目立ち、 上場企業の人員対策はアフター・コロナのフェーズに突入しているようだ。

 

 対象人数は、募集人数が判明した15社で1,217人(前年同期4,473人、前年同期比72.7%減)で、大幅に減少した。前年に1社あった1,000人以上の募集がなかったことに加え、100人以上の募集は3社(前年同期6社)と半減し、小規模の募集が多かった。

 上場区分は、プライム市場が13社(前年同期8社)で全体の6割超(構成比65.0%)を占めた。スタンダード市場は6社(前年同期8社)、地方上場は1社(同1社)だった。
 2023年は3年ぶりに年初からコロナ禍の行動制限がなく、国内ではアパレル関連を除きコロナ禍が直撃した業種の募集は小康状態に入っている。一方、2022年末から米国を中心に、海外の大手テック企業が相次いで人員削減を打ち出しており、国内でもコロナ禍対応を進めた業種や企業で、見直しに伴う人員削減が現実味を帯びている。

※ 本調査は、希望・早期退職者募集の実施を情報開示し、具体的な内容を確認できた上場企業を対象に抽出した。
実施が翌年以降の企業は除く。原則、『会社情報に関する適時開示資料』(2023年5月15日公表分まで)に基づく。



業種別 「情報通信」が最多、統計開始以来で初

 1-5月に早期・希望退職者の募集が判明した上場20社の業種別は、最多が情報通信の5社(前年同期2社)だった。募集企業で、情報通信が最多となるのは初めて。

 次いで、アパレル関連(同3社)と電気機器(同2社)が各3社だった。
 コロナ禍で募集が集中した航空・鉄道を含む運送の募集は3年ぶりにゼロだった。
 一方、コロナ以前に上位だった電気機器が同率2位となったほか、医薬品や金属、紙・パルプといった製造業も募集を実施した。
 サービスは2社実施したが、インターネットサイト運営に関する部門や、ソーシャルゲーム開発部門の募集だった。


損益別 黒字、赤字が拮抗し二極化

 2023年1-5月に早期・希望退職の募集が判明した上場20社の直近の通期損益は、黒字と赤字が各10社だった。黒字企業は、10社中7社がプライム上場で、比較的規模の大きい企業に集中した。黒字のうち、増益、減益は各5社で、特に増益5社は、すべてプライム上場で、ナショナルブランドを多く抱える大規模の「川上」産業が並ぶ。

 一方、赤字の10社のうち、プライム上場は4社と半数以下にとどまった。スタンダード上場が5社、地方上場1社と、比較的規模の小さな企業に集中した。赤字の業種では情報通信(3社)、サービス(2社)などが目立った。


募集人数 100人以上の募集は3社、1,000人以上の大型募集なし

 募集人数(募集時点の人数が非開示の場合、応募人数を適用)では、最多は30~49人の5社(構成比25.0%)。次いで、100~299人3社(同15.0%)、1~29人(同10.0%)と50~99人(同10.0%)各2社と続く。300人以上は、中外製薬の374人(応募人数)の1社にとどまった。若干名(2社)を含め、募集人数100人未満の企業は、11社(構成比55.0%)と半数を超えた。事業所やセグメントを限定した募集のほか、規模の小さい上場企業での募集が集中したことも影響した。


 2023年1-5月の早期・希望退職の募集を実施した上場企業は、5月中旬で20社(前年同期19社)と前年同期を1社上回ったが、低水準を維持している。業種別では、情報通信が5社と4分の1を占め、最多だった。情報通信が業種別の最多になるのは、統計を開始以来、23年間で初めて。
 コロナ禍で募集が相次いだ観光、百貨店を運営する鉄道、また、外食の実施は、インバウンド需要の回復や遠出需要、小売の客足回復でひと段落した。
 実施企業の業績は、黒字と赤字が各10社と分け合った。プライム上場でナショナルブランドを抱える製造や大手小売は黒字企業が集中。赤字企業は、競合の激しい情報通信、主力商品の需要が低迷する製造中堅、サービスなどが並び、実施企業の二極化が進んでいる。国内の企業活動もアフター・コロナのフェーズに入り、外食や宿泊などは人手不足が深刻さを増している。だが、業況回復に時間を要する企業やコロナ禍から需要の反動減を迎えた企業を中心に、今後、小・中堅規模の上場企業で募集が増える可能性も出てきた。

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