• TSRデータインサイト

「人手不足」関連倒産が3カ月連続で10件超 前年同期ゼロの「人件費高騰」が18件に急増

~ 2023年1-4月「人手不足」関連倒産の状況 ~


 人手不足の影響が広がってきた。2023年4月の「人手不足」関連倒産は12件(前年同月比500.0%増)発生し、前年同月(2件)の6.0倍に急増した。賃上げ機運が高まるなか、4月は「人件費高騰」が8件(前年同月ゼロ)、「求人難」が3件(同ゼロ)、「従業員退職」が1件(同2件)だった。
  また、1-4月累計は44件(前年同期比158.8%増)で、前年同期の2.5倍と大幅に増加した。内訳は、「人件費高騰」が18件(前年同期ゼロ)と際立つ。このほか、「求人難」が15件(前年同期比50.0%増)、「従業員退職」が11件(同57.1%増)で、すべての要因で大幅に増加した。


 4月の産業別では、最多が建設業(前年同月比200.0%増)と運輸業(前年同月ゼロ)の各3件。以下、製造業2件(同ゼロ)、卸売業と小売業、情報通信業、サービス業他が各1件だった。
 細分類では、一般貨物自動車運送業2件、土木工事業、木造建築工事業、塗装工事業、有料老人ホームが各1件など、慢性的な人手不足が続く業種で倒産が発生した。
 コロナ禍で停滞した経済活動が再開すると同時に、隠れていた「人手不足」が表面化している。物価上昇が続くなか、賃上げ機運も一気に高まっているが、収益性が低く、資金的な余裕が乏しい中小企業は、資金繰りに直結するだけに、なかなか賃上げに踏み切ることが難しいのが実情だ。
 人手不足に弾力的に対応できない企業は、今後は人材流出の問題が避けられないだろう。この状態が続くと、「人手不足」関連倒産の増加が勢いを増す可能性が高まっている。

※本調査は、2023年1-4月の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、「人手不足」関連倒産(求人難・従業員退職・人件費高騰)を抽出し、分析した。(注・後継者難は対象から除く)


「人手不足」倒産44件、前年同期の2.5倍に急増

 2023年4月の「人手不足」関連倒産は12件(前年同月比500.0%増)で、前年同月(2件)の6.0倍に急増した。内訳は、前年同月に発生がなかった「人件費高騰」が8件、「求人難」が3件のほか、「従業員退職」が1件(前年同月2件)だった。
 また、2023年1-4月累計は44件(前年同期比158.8%増)で、前年同期の2.5倍に増加した。コロナ禍の2021年同期は23件、2022年同期は17件と、経済活動の停滞で「人手不足」関連倒産は低水準だった。だが、経済活動が動き出しても人手は戻らず、人手不足が深刻になっている。調査を開始した2013年以降の1-4月期では、2020年同期の48件、人手不足が深刻さを増した2019年の47件に次いで、3番目の多さとなった。2023年1-4月の「人手不足」関連倒産は、すべての要因で前年同期を上回ったが、なかでも「人件費高騰」が18件(前年同期ゼロ)と突出ぶりが目立つ。人手不足で受注機会の喪失や業績回復が進まない悪循環に陥り、「人手不足」関連倒産がさらに増加することが懸念される。

「人手不足」関連倒産推移

【要因別】「人件費高騰」が18件で急増

 要因別では、最多は「人件費高騰」の18件(前年同期ゼロ、構成比40.9%)で、調査を開始した2013年以降で、2016年同期と2020年同期の11件を超え、最多を記録した。
 人材確保のため賃金の上昇は避けられないが、業績回復が遅れる企業は人件費の上昇が資金繰りに大きな影響を及ぼしていることを表している。
 次いで、「求人難」が15件(前年同期比50.0%増、構成比34.0%)で、2年連続で前年同期を上回った。
 また、「従業員退職」が11件(前年同期比57.1%増)で、3年ぶりに前年同期を上回った。
 従業員の採用難に起因する「求人難」、人材流出に起因する「従業員退職」は合計26件(前年同期比52.9%増、構成比59.0%)で、4年ぶりに前年同期を上回った。
 人手不足は賃金の問題だけではないが、高待遇の企業に人が集まる傾向が強まっている。こうした流れに対応できない企業では従業員が退職し、求人も苦戦を強いられ、人手不足で事業継続が困難となる可能性が高い。

「人手不足」関連倒産 要因別(1-4月)

【産業別】10産業のうち、6産業で増加

 産業別では、10産業のうち、農・林・漁・鉱業、卸売業、金融・保険業、不動産業を除く6産業で前年同期を上回った。
 最多は、サービス業他の14件(前年同期比55.5%増)で、2年連続で前年同期を上回った。構成比は31.8%で、3割を占めた。次いで、運輸業が11件(同1000.0%増)で4年ぶり、建設業が6件(同50.0%増)で2年連続で、それぞれ前年同期を上回った。
 このほか、製造業5件と小売業2件が、それぞれ2年ぶりに発生した。
 一方、不動産業が2年連続、農・林・漁・鉱業が3年連続、金融・保険業が調査を開始した2013年以降で、それぞれ発生がない。


 業種別では、一般貨物自動車運送業7件(前年同期1件)、土木工事業と受託開発ソフトウェア業が各3件(同1件)、訪問介護事業2件(同1件)。また、舗装工事業、木造建築工事業、塗装工事業、野菜漬物製造業、かばん製造業、精密測定器製造業、アプリケーション・サービス・コンテンツ・プロバイダ、一般貸切旅客自動車運送業、貨物軽自動車運送業、倉庫業、こん包業、織物卸売業、かばん・袋物卸売業、広告業、酒場,ビヤホール、配達飲食サービス業、エステティック業、劇団、看護業、介護老人保健施設、自動車一般整備業が各1件で、それぞれ前年同期を上回った。

「人手不足」関連倒産 産業別(1-4月)

【形態別】ほとんどが消滅型の破産

 形態別では、消滅型の「破産」が42件(前年同期比147.0%増)で、3年ぶりに前年同期を上回った。構成比は95.4%(前年同期100.0%)と大半を占めた。
 一方、再建型の「民事再生法」が3年連続、「会社更生法」は調査を開始した2013年以降、それぞれ発生がなかった。
 業績不振に陥っている企業は、従業員の増員だけでなく、福利厚生や待遇面などで従業員をつなぎとめることが資金的に難しい。このため、経済活動が再開する一方で、人手不足で受注機会を逸失し、ますます業績回復が遅れる悪循環に陥り、破産を選択するケースが多い。

「人手不足」関連倒産 形態別(1-4月)

【負債額別】1億円未満が5割超

 負債額では、「1億円未満」が25件(前年同期比92.3%増)で、全体の56.8%を占めた。
 1億円未満では、「1千万円以上5千万円未満」が14件(同133.3%増)で3年ぶり、「5千万円以上1億円未満」が11件(同57.1%増)で2年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。
 このほか、「1億円以上5億円未満」が14件(同250.0%増)で、4年ぶりに前年同期を上回った。
また、「5億円以上10億円未満」が4件で3年ぶり、「10億円以上」が1件で2年ぶりに、それぞれ発生した。

「人手不足」関連倒産 負債額別(1-4月)

【地区別】9地区のうち6地区で増加、関東が初めて20件台に

 地区別では、9地区のうち、6地区で前年同期を上回った。
 北海道5件(前年同期比150.0%増)が2年ぶり、東北4件(同33.3%増)と関東21件(同250.0%増)、近畿5件(同400.0%増)が3年ぶり、九州6件(同500.0%増)が4年ぶり、中部2件(同100.0%増)が2年連続で、それぞれ前年同期を上回った。
 中国1件(前年同期2件)が2年ぶり、四国ゼロ(同1件)が4年ぶりに、それぞれ前年同期を下回った。北陸は2年連続で発生がなかった。

「人手不足」関連倒産 地区別(1-4月)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2023年度の運送業倒産345件に急増 人手不足・燃料高で採算悪化

 2023年度の道路貨物運送業の倒産は、件数が345件(前年度比31.1%増、前年度263件)で、3年連続で前年度を上回った。年度で件数が300件台に乗ったのは2014年度以来9年ぶりとなる。

2

  • TSRデータインサイト

【破綻の構図】テックコーポレーションと不自然な割引手形

環境関連機器を開発していた(株)テックコーポレーションが3月18日、広島地裁から破産開始決定を受けた。 直近の決算書(2023年7月期)では負債総額は32億8,741万円だが、破産申立書では約6倍の191億円に膨らむ。 突然の破産の真相を東京商工リサーチが追った。

3

  • TSRデータインサイト

借入金利「引き上げ」、許容度が上昇 日銀のマイナス金利解除で企業意識に変化

3月19日、日本銀行はマイナス金利解除やイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)の撤廃を決めた。マイナス0.1%としてきた短期の政策金利を、0~0.1%へ変更し、利上げに踏み切った。 東京商工リサーチは4月1~8日に企業アンケートを実施し、企業の資金調達への影響を探った。

4

  • TSRデータインサイト

2023年度の飲食業倒産、過去最多を更新し930件に 「宅配・持ち帰り」「ラーメン店」「焼肉店」「居酒屋」が苦境

コロナ禍が落ち着き、人流や訪日外国人も戻ってきたが、飲食業はゼロゼロ融資の返済や食材価格・光熱費の上昇、人手不足などが押し寄せ、コロナ禍前より厳しさを増している。

5

  • TSRデータインサイト

「お花見、歓迎会・懇親会」の開催率29.1% 慣習的な開催は限界? 訪日外国人と仲間うちが活況

新型コロナの5類移行からほぼ1年。今年の桜開花には人が押し寄せ、各地でコロナ前の賑やかなお花見が戻ったように見えたが、実際は様子が異なる。 4月上旬に実施した企業向けアンケート調査で、2024年の「お花見、歓迎会・懇親会」の開催率は29.1%で3割に届かなかった。

TOPへ