• TSRデータインサイト

企業の66%が「正社員不足」、大企業は7割超 「人手不足」 運送、飲食、サービスで深刻化

~ 2023年 企業の「人手不足」に関するアンケート調査 ~


 コロナ禍の行動制限が解除され、経済活動が本格化すると同時に、隠れていた人手不足が顕在化してきた。
 2022年10月から訪日外国人観光客の受け入れが緩和され、2023年4月には中国人観光客の入国規制も緩和された。閉塞感が漂った宿泊、小売、サービス等を中心に、コロナ禍で業績が悪化した業種では回復への期待が高まるが、企業の66%が「正社員不足」を訴え、人手不足が強まっている。長引く物価高で、賃上げ機運が高まる一方で、業種によっては採用難と従業員の定着率悪化が同時進行する事態も危惧される。


 東京商工リサーチ(TSR)は4月3日~11日、全国の企業を対象に「人手不足」に関するアンケート調査を実施した。それによると、全体の7割弱(構成比66.5%)の企業が「正社員不足」と回答した。特に、従業員数の多い大企業では7割超(同73.2%)に達した。
 2023年2月の全国の有効求人倍率(季節調整値)は1.34倍で、前月の1.35倍から0.01ポイント下回ったが、前年同月(1.21倍)を0.13ポイント上回っている。なかでも宿泊・飲食サービス、卸売・小売、教育・学習支援、医療・福祉は2月の新規求人が前年同月から10ポイント以上上回るなど、人手不足が深刻さを増している。
 今春闘は、大手メーカーや外食、小売を中心に1万円以上の賃上げ企業が続出し、これまでの春闘と様相が異なっている。需要回復が見込まれる業種では人材確保が加速し、今後は賃上げだけでなく、残業削減や勤務時間の見直しなど福利厚生や多様な働き方への対応も課題に浮上している。このため企業間、業種間の“雇用格差”が、さらに拡大する事態も懸念される。
※本調査は、2023年4月3日~11日、企業を対象にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答4,445社を集計、分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。

Q.貴社の正社員の状況は以下のどれですか?(択一回答) ~大企業で73%が「正社員不足」

 全企業では、「非常に不足している」の11.4%(510社)、「やや不足している」の55.0%(2,448社)を合わせ、「正社員不足」と回答した企業は全体の66.5%を占めた。規模別では、大企業ほど顕著で、73.2%(418社)が「正社員不足」と回答した。
 一方、中小企業では「非常に不足している」11.2%(434社)、「やや不足している」54.3%(2,106社)を合わせて65.5%で、7.7ポイントの差があった。
 中小企業は大企業に比べ、業種によっては業況、受注の回復に時間を要する一面もあり、人員の不足感を訴える企業は、大企業よりも少ない傾向にあった。

大企業の方が人手不足が強く反映

Q.貴社の非正規社員の状況は以下のどれですか?(択一回答) ~非正規社員は半数以上の企業で「充足」

 非正規社員の充足度合いを聞いた。全企業では「充足している」が約6割(57.5%)で、正社員と比べて不足感は薄い。
 一方、不足感のある業種では上位に飲食店、宿泊、サービス、道路旅客運送など、コロナ禍の行動制限解除以降に採用意向が高まった業種に偏り、業種による非正規社員の不足感は二極化している。今後、インバウンド需要が本格化すると、この傾向はさらに強まりそうだ。

正社員に比べ非正規社員は充足感があると回答する企業が多かった

 「正社員が不足」と回答した企業は、大企業で7割を超えた(構成比73.2%)。全体でも66.5%と6割を超え、アフターコロナの動きと同時に、人手の不足感は企業規模に関係なく広がっている。一方、業種による不足感は、濃淡がはっきりしてきた。運送業では正社員の人手不足が深刻で、観光バスやタクシーなど道路旅客や貨物・物流業者のトラックドライバー、有資格者の充足を求める声が相次ぐ。旅客業者は、中国人観光客の訪日が本格化する今春以降の需要増、物流関連は2024年問題を抱え、今後ますます正社員不足の解消が急がれる。また、飲食、宿泊、娯楽、サービスは、正社員、非正規社員ともに、半数以上の企業が不足を訴えている。昨春の行動制限解除後、客足の回復の一方で、徐々に採用難が悪化していると言える。


 一方で、過剰感の強い業種では、印刷関連が正社員、非正規社員ともに上位に並ぶ。編集プロダクションなどの映像・紙媒体の制作や広告、繊維・衣服卸売も正社員では過剰感が強い。印刷をはじめとした紙媒体は、長期に渡り需要の減少が続いてきたうえ、コロナ禍以降、催事等の減少やポスティングの自粛も影響し、受注環境は悪化している。アパレル関連は、コロナ禍により大きな打撃を受け、大手を中心にリストラも相次いだ。ただ、人流の回復以降も、一部事業者を除き、受注面で精彩を欠く状況が続いている。
 運送、飲食、宿泊など慢性的に人手不足である業種が限定されているのと同様、過剰感のある業種も固定化しつつある。人手不足の長期化は、企業の成長機会や消費創出の場を失う恐れもある。企業や業界単位ではなく、過剰感のある産業から需要や成長余地のある産業への雇用支援を図るなど、官民を挙げた実務的な対策も必要になっている。

業種によって充足感に二極化も

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2024年度 「賃上げ実施予定率」、過去最高の 85.6% 賃上げ率の最多は 3%で「前年を上回る賃上げ」に届かず

2024年度に賃上げ予定の企業は85.6%で、定期的な調査を開始した2016年度以降の最高を更新した。ただ、規模別の実施率では、大企業(93.1%)と中小企業(84.9%)で8.2ポイントの差がつき、賃上げを捻出する体力や収益力の差で二極化が拡大している。

2

  • TSRデータインサイト

「2024年問題」直前の軽貨物運送業 倒産と休廃業・解散の合計が3年連続で過去最多

ドライバー不足が懸念される「2024年問題」が間近に迫るなか、宅配などを担う「軽貨物運送業(貨物軽自動車運送業)」の2023年の倒産(49件)と休廃業・解散(74件)の合計が過去最多の123件に達したことがわかった。

3

  • TSRデータインサイト

商業登記規則の省令改正問題、与信態度が硬化も 金融・保険業の5割超が「与信管理がしにくくなる」と回答

商業登記簿に代表者の住所が記載されなくなるかもしれない。商業登記規則の省改正令は、6月3日施行の予定で、すでにパブリックコメント受付も終了している。果たして、予定通り実施されるのか。

4

  • TSRデータインサイト

2023年度の「賃上げ」実施、過去最大の84.8% 「賃上げ率」5%超、中小企業が37.0%で大企業を上回る

2023年度の賃上げは、企業の84.8%が実施(予定含む)した。これは官製春闘で賃上げ実施率が8割を超えていたコロナ禍前の水準を超え、2016年度以降の8年間では最大となった。コロナ禍で実質賃金が目減りするなか、物価上昇に見舞われて高まった賃上げ機運が賃上げ実施率を押し上げたようだ。

5

  • TSRデータインサイト

企業の 7割で「原材料価格」、「人件費」などコスト上昇 人件費増加分は「転嫁できていない」がほぼ半数

物価高や円安、エネルギー価格の高止まりなど、アフターコロナ局面でも厳しい経営環境が続いている。今年1月の本業に係るコストが前年1月より「増加した」と回答した企業は、73.6%と7割を超えた。

TOPへ