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2022年度「飲食業の倒産動向」調査  低水準から一転して5カ月連続の増加、「宅配飲食」は2.3倍に

 2022年度(4-3月)の「飲食業」倒産(負債1,000万円以上)は592件(前年度比3.2%減)で、3年連続で前年度を下回った。年度で600件を割り込むのは、2004年度以来、18年ぶり。ただ、月次の件数は2022年11月から5カ月連続で前年同月を上回った。特に、2023年に入って増加率は前年同月の1.5倍以上に急増している。
 コロナ禍の出口が見え始め人流も戻りつつあるが、新たな生活様式が浸透し、新型コロナウイルス関連倒産も385件(同24.5%増)と2年連続で大幅に増加している。


 業種別では、「宅配飲食サービス業」が43件(前年度比138.8%増)、「持ち帰り飲食サービス業」が27件(同58.8%増)と、巣ごもり需要を取り込み好調だった業種で倒産が急増した。
 宅配や持ち帰りは、コロナ禍で新たなビジネスとして注目され、参入する事業者も多かった。しかし、参入障壁が低いことから資産背景が脆弱な企業も多く、競合が激化するなかで事業転換も難しく、経営に行き詰まるケースも多い。一方、通常営業が可能になったことから「酒場,ビヤホール(居酒屋)」は128件(同14.6%減)に減少した。
 手厚いコロナ支援もあり、飲食業倒産は3年連続で減少し記録的な低水準をたどった。だが、支援が一巡した2022年秋以降、倒産は増加に転じている。コロナ関連支援の副作用で過剰債務を抱えた事業者を中心に厳しい状況が続き、人手不足に伴う人件費高騰や物価高・電気代上昇などのコストアップで、飲食業を取り巻く環境に改善の兆しはみられず、飲食業倒産は増勢の兆しを強めている。

※ 本調査は、日本産業分類の「飲食業」(「食堂,レストラン」「専門料理店」「そば・うどん店」「すし店」「酒場,ビヤホール」「バー, キャバレー,ナイトクラブ」「喫茶店」「その他の飲食店」「持ち帰り飲食サービス業」「宅配飲食サービス業」)の2022年度(2022年4月-2023年3月)の倒産を集計、分析した。


年度後半に倒産増勢、コロナ関連は6割超に

 2022年度(4-3月)の「飲食業」倒産は592件(前年度比3.2%減)で、3年連続で前年度を下回った。年度の500件台は2004年度以来、18年ぶり。一方、2022年秋以降、飲食業倒産は増勢に転じている。2023年3月は前年同月の1.5倍となる84件で、2020年7月の93件以来、32カ月ぶりに月間80件を上回った。
 新型コロナウイルス関連倒産は385件(前年度比24.5%増、前年度309件)発生し、2年連続の増加となった。コロナ関連倒産の構成比も高止まりし、2022年8月から8カ月連続で飲食業倒産の半数以上をコロナ関連倒産が占めている。
 各種支援策が終了するなか、コロナ禍の影響で業績不振から抜け出せない事業者に、人件費や食材費の上昇など、コストアップによる収益の圧迫が追い討ちをかけている。こうした状況から、飲食業の息切れ倒産は今後、さらに増加することが危惧される。


飲食業の倒産 月次推移

業種別 「宅配飲食サービス業」が急増

 日本料理店や中華料理店、ラーメン店、焼肉店などの「専門料理店」が137件(前年度比9.2%減)で最多。以下、「食堂,レストラン」が133件(同13.6%増)、「酒場,ビヤホール(居酒屋)」が128件(同14.6%減)と続く。
 前年度比で増加したのは、「食堂,レストラン」のほか、「宅配飲食サービス業」43件(同138.8%増)と「持ち帰り飲食サービス業」27件(同58.8%増)。コロナ禍での巣ごもり需要拡大を追い風に、倒産が低水準となっていた「宅配」や「持ち帰り」は、参入事業者の増加などによる競合激化で急増した。
 コロナ関連倒産が占める割合が最も高かったのは、「専門料理店」の75.1%(コロナ関連倒産103件)。次いで、「居酒屋」(同96件)と「そば・うどん店」(同6件)の75.0%。3業種では、倒産に占めるコロナ倒産の割合が7割を超えた。また、「すし店」(同7件)の46.6%以外はすべてコロナ倒産率が5割を上回っており、コロナ禍からの業績回復が進まない飲食業者を中心に、今後も厳しい状況が続く可能性が高い。

2022(令和4)年度飲食業 業種小分類別倒産状況

形態別 消滅型が97.1%

 最多は、「破産」の561件(前年度比4.1%減)で、構成比は94.7%だった。次いで、「特別清算」の14件(同27.2%増)。飲食業倒産に占める消滅型倒産の割合は97.1%にのぼった。
 一方、再建型の「民事再生法」は前年同月と同件数の12件で、構成比はわずか2.0%にとどまった。
 飲食業は大半が体力の乏しい小零細規模で、コロナ禍からの回復の見込みが立たず、消滅型の破産を選択するケースが多い。

原因別 『不況型倒産』の構成比が約9割

 最多が「販売不振」の486件(前年度比4.5%減)。次いで、「既往のシワ寄せ(赤字累積)」34件(同8.1%減)、「他社倒産の余波」23件(同21.0%増)、「事業上の失敗」20件(同5.2%増)の順。
 最も増加率が高かったのは、代表者死亡・体調不良などを含む「その他」の16件(前年度12件)で、前年度比では33.3%増となった。
 『不況型倒産』(既往のシワ寄せ+販売不振+売掛金等回収難)は520件で、構成比は87.8%と、前年度を1.4ポイント下回った。

負債額別 「5千万円以上10億円未満」の中規模レンジで増加

 最多は「1千万円以上」の388件(前年度比12.6%減、構成比65.5%)。次いで、「5千万円以上」が110件(同13.4%増、同18.5%)だった。飲食業倒産は、負債額「1億円未満」が84.1%を占めた。
 増加率では、「1億円以上」(前年度45.6%増、83件)、「5億円以上」(同14.2%増、8件)、「5千万以上」の順。コロナ禍での借入増加などが影響し、負債の規模が徐々に大きくなっている可能性がある。
 「10億円以上」は前年度から半減したが、「100億円以上」が1件((株)ダイナミクス、東京、負債112億3,100万円、破産)発生した。

地区別 関東以北と九州で増加

 9地区中、増加したのは北海道、東北、関東、九州の4地区だった。減少は5地区。
 増加率の最大は、東北の177.7%増(18→50件)で、前年度の2.7倍に増加した。以下、九州の6.6%増(45→48件)、北海道の5.8%増(17→18件)、関東の5.7%増(173→183件)の順。東北では、全県で飲食業倒産が増加した。
 一方、減少率の最大は、北陸の45.4%減(22→12件)。以下、四国の23.0%減(13→10件)、近畿の21.1%減(199→157件)、中国の20.5%減(39→31件)、中部の3.4%減(86→83件)の順。北陸は全県で減少した。
 関東以北での飲食業倒産の増加が顕著となった。

2022(令和4)年度飲食業 都道府県別倒産状況

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