苫小牧信用金庫・小林一夫理事長インタビュー ~地域で真っ先に相談される金融機関へ~ 2024/05/01
コロナ禍から脱し、経済が再活性化するなかで、原材料高や人手不足などが中小企業を襲っている。過去の資金繰り支援などで過剰債務に苦しむ企業は多く、身近な相談者として地域金融機関に期待する声は多い。 東京商工リサーチは、苫小牧信用金庫・小林一夫理事長に、現状認識や企業支援の取り組みなどを聞いた。
―苫小牧信金の特色や営業エリア、戦略について
当金庫は戦後の混乱が続いていた1948年9月3日、地域経済の復興を目指す地元の有志により「苫小牧信用組合」として設立され、1951年に信用金庫に改組し、今年(2024年)で創立76周年を迎えた。営業エリアは胆振・日高・石狩地方の9市8町1村で、このうち本拠地である苫小牧市に本店及び15支店・1出張所を配置しているほか、札幌市、千歳市、厚真町、むかわ町、平取町、日高町、新冠町、白老町に12支店・1代理店を展開している。
2023年9月末の預金・積金・譲渡性預金残高は5,289億円、貸出金残高は2,569億円で、苫小牧市内店の占める割合が預金で7割、貸出で6割と高い状態だ。過去5年間の増加率をみると、特に貸出で都市店(札幌市)、近隣店(千歳市、白老町)の伸びが高い。一方、地方店(東胆振・西日高5町)は預金、貸出ともに伸び率が全体の平均を下回り、ウエイトは低下傾向を辿っている。
2023年3月末の常勤役職員数は217名で、他に関連会社から64名の職員(出向、嘱託、パート等)を受け入れている。
主戦場である苫小牧市内では半径500m以内に出店する稠密な店舗網を構築し、軒管理を中心に高密度な営業を展開している。他金庫に比べ、いわゆる「渉外」専担者は少ないが、集金活動はかなり前から廃止しており、周辺距離で優先度をつけながらも、店舗周辺エリアの全戸訪問と融資開拓を目的とした未取引先訪問に注力している。札幌・千歳地区は店舗数が少ない一方、苫小牧市内店よりも競合度は高いため、「面」ではなく、「点」の営業展開となるが、内部で共有する不動産情報やM&A情報を活かし、本部と営業店が一体となって営業推進に取り組んでいる。
融資見込先については総体200億円の案件常時確保を目標に取り組んでおり、部長級もメンバーに加えた常務会において営業推進部門が毎月1回報告を行うことにより情報を共有している。
―苫小牧市の経済動向と課題、「アフターコロナ」の認識は
苫小牧市及び周辺地区はもともと王子製紙の企業城下町として発展し、現在はトヨタ自動車北海道、いすゞエンジン製造北海道、アイシン北海道等の自動車部品製造業、出光興産北海道製油所、北海道電力苫東厚真発電所等のエネルギー関連企業が立地する道内有数の工業都市だ。同時に世界初の大規模な「内陸掘り込み式港湾」として建設され、今や道内第1位、国内第4位の取扱量を誇る苫小牧港を擁する港湾都市でもある。
こうした産業構造から、「新型コロナウイルス」感染症の影響は観光への依存度が高い道内他地区に比べると比較的小さかったとみられる。
ただ、飲食業、宿泊業、旅客運送業等の対人サービス業を中心に売上・収益の悪化がみられ、これに対し当金庫では「ゼロゼロ融資」等により資金繰り支援を行う(2021年5月末時点の道新型コロナウイルス感染症対策資金実行累計199億円)とともに、影響が大きいとみられる業種を対象に「予防的引き当て」を実施した。
インタビューに応じる小林一夫理事長
足元では人流の回復に伴い、対人サービス業を含む多くの業種で業況は改善傾向を辿っているが、原材料・エネルギー価格の高騰からコストが上昇しているため、売上に比べると利益の回復は小幅に止まっている。こうした中で、信用格付がランクダウンとなる融資先が増えており、もともと経営状態が厳しかった事業者を中心に資金繰りに余裕がない先が増加して「二極化」が進んでいると感じる。これに対し、当金庫としては借り換えや条件変更に柔軟に対応するとともに専門家派遣を含む経営改善支援、事業再生支援に積極的に取り組んでいる。因みに「伴走支援型特別保証」の実行件数は2023年11月時点で68件、そのうち「ゼロゼロ融資」の借り換えは31件、「ゼロゼロ融資」の条件変更は18件であり、今後も増加することが見込まれる。
―ラピダス進出をはじめ、道内の経済トピックに対する認識と取り組みについて
ラピダスについては、道央圏を営業エリアとしている関係上、当然ながら強い関心を持っている。このため、北海道庁、千歳市、恵庭市、厚真町、安平町等の関係自治体の首長や所管部門に対し、早い時期から情報交流にかかる協力態勢の構築を要請しているが、実際には自治体等が主催するセミナーやプレス経由以外の情報は限定的かつ入手困難となっている。
ラピダス進出決定・工場着工を受けて、地場のコンクリート製造業者や砂利採掘業者等で受注を受けた先があるほか、千歳市を中心とするエリアでは土地売買や賃貸収益物件投資の動きがやや活発化しているものの、目立った動きになっているとまでは言えない。企業誘致に関しては、苫東工業団地にラピダス関連需要を見込んだ本州企業の進出が数件決まっているが、このあとどの程度増えていくのか、地元中小事業者への波及効果については、現時点ではまだ不明だ。ただ、運送業・倉庫業関連には好影響が期待できるかもしれない。
このほか、営業エリア内における経済トピックとしては、2023年11月、苫小牧市が「脱炭素先行地域」に選定された。当金庫の業務提携先である三井住友信託銀行が脱炭素の専門部隊を有していることから、当金庫は計画段階から同行とともに共同提案者に名を連ねている。他の共同提案者は出光興産、トヨタ自動車北海道、北海道電力、苫小牧港管理組合、ベルポート北海道、勇払商工振興会、勇払自治体だ。
今後については、苫小牧市が実施する補助事業に関する融資制度の優遇措置の検討や地域振興協議会へ参画し、勇払市街地で実施する地域振興事業へのサポートによるESG地域金融の事例提供等を検討している。
―今後の方向性について
協同組織の地域金融機関である当金庫は、「国民大衆の金融機関として地域経済の発展に、延いては国家社会の繁栄に貢献する」ことを基本方針として、地域経済を支えてきた。今後もこうした基本方針の下、信用金庫の原点である「相互扶助」、「地域密着」の精神に基づき、晴れの日も雨の日も「金融仲介機能」を通じて地域の事業者、生活者に寄り添い、支えていく。特に近年は低金利、カネ余りが常態化しているため、資金仲介機能に止まらずコンサルティング機能を発揮してライフステージやライフサイクルに応じた支援を行う、すなわち「お金」に情報や提案を加えた、より付加価値の高い金融サービスを提供することにより、地域で真っ先に相談される金融機関、もっとも頼りにされる金融機関になることを目指す。
また、信用金庫は地域から離れることはできず、地域と運命共同体であることから、金融以外の分野を含む各種地域貢献活動にも積極的に取り組んできた。なかでも、2013年に開始した結婚相談所「LLB会」事業は、現在の会員数764名、これまでの結婚69組、お子さん誕生20人という成果を上げており、2017年度と2020年度の2回に亘り、「地方創生に資する金融機関等の特徴的な取組事例」として内閣府地方創生担当大臣より表彰された(2回目は同様の取り組みを開始した旭川信金、帯広信金と同時表彰)ほか、2017年度には業界団体である全国信用金庫協会の「第21回信用金庫社会貢献賞」において、最高賞である会長賞も受賞した。
このほか、2022年10月にはコープさっぽろと連携し、買い物困難地域への共同支援事業として、コープの移動販売車に当金庫のATMを搭載する事業を開始した。生協の移動販売車に金融機関のATMを搭載するのは、全国初の取り組みだ。本取り組みにより、当金庫が代理店を閉鎖したために生じた空白地帯をカバーできるようになったほか、それ以外の地区においても移動販売車は停車地点が多く利便性の向上につながるため、利用者からは総じて好評のようだ。当金庫としては、今後も積極的な各種地域貢献活動に取り組みたい。
2024/05/01
「最新記事」一覧を見る