• TSRデータインサイト

「早期・希望退職者」募集は年間1万人超ペース 空前の賃上げの裏側で加速する構造改革

2024年上場企業「早期・希望退職者」実施状況(4月23日現在)


 2024年4月23日現在、「早期・希望退職者」の募集が判明した国内の上場企業は21社で、前年同期の16社を5社上回った。対象人数(国内)は3,724人(前年同期1,236人)で、前年同期の3倍に達した。すでに2023年(3,161人)の年間実績を563人上回り、構造改革の促進で年間1万人超のペースで推移している。

 募集人数は、1,000人以上が2社(構成比9.5%)、500人以上~999人が1社(同4.7%)と大型募集があり、この3社で対象人数の約8割を占めた。これとは別に、国内での募集人数は非公開だが、国内外含めて500人以上~999人と1,000人以上の募集が各1社あった。

 業種別では、最多が情報通信と電気機器が各4社(構成比19.0%)だった。情報通信はコロナ禍で需要が拡大したセグメントで余剰人員の削減の動きがみられる。また、2023年は5件だった電気機器は、今年は4月23日までに4件と本格的な構造改革に乗り出している。

 深刻化する人手不足やコストプッシュ型インフレによる賃金上昇が続くなか、上場企業は今後に備えた構造改革で固定費削減を目指し、人員削減のフェーズに突入しているようだ。
 募集した企業の直近本決算(単体)では、黒字が12社(構成比57.1%)と半数以上を占めた。上場区分では、最多は東証プライムが11社(同52.3%)と半数を超えた。
 目まぐるしく変化する経済環境のもと、上場企業は事業セグメントの見直しや祖業からの転換を迫られている。こうした動きを反映し、賃金上昇による固定費上昇を抑制するため、構造改革による「早期・希望退職者」募集をさらに加速する可能性が高い。

※ 本調査は、希望・早期退職者募集の具体的な内容を確認できた上場企業を対象に抽出した。
※ 『会社情報に関する適時開示資料』(2024年4月23日公表分まで)と東京商工リサーチ調査に基づく。

主な上場企業 希望・早期退職者募集状況


業種別 情報通信、電気機器が最多

 2024年4月23日までに「早期・希望退職者」募集が判明した上場企業21 社の業種別は、最多が情報通信(前年同期3社)と電気機器(同3社)の各4社だった。
 次いで、サービスが3社(同1社)、食料品(同ゼロ)とアパレル関連(同1社)が各2社で続く。
 情報通信とサービスはコロナ禍で変化した市場ニーズに対応した実施が目立った。
 電気機器はすべて構造改革に伴う募集だった。

業種別

損益別 21社中12社が黒字企業

 2024年4月23日までに早期・希望退職者の募集が判明した上場企業21社(単体)の募集判明時の直近通期損益は、黒字が12社、赤字が9社で、全体の57.1%が黒字だった。
 黒字企業12社のうち、9社(構成比75.0%)が東証プライム上場で7割以上を占めた。
 一方で、赤字企業の9社のうち、東証プライムは3社にとどまり、東証グロース3社、東証スタンダード3社と、比較的規模が小さな企業に集中した。 
 業種別では、情報通信とサービスが各2社、機械、その他製品、医薬品、食料品、アパレル関連が各1社だった。

損益別

募集人数 1,000人以上は2社

 募集人数(募集時点の人数が非公開の場合、応募人数を適用)では、未定・非公開6社(構成比28.5%)を除き最多は、1~29人の6社(同28.5%)だった。次いで30~99人の4社(同19.0%)、100~299人と1,000人以上の各2社(同9.5%)、500~999人が1社(同4.7%)と続く。
 未定・非公開にはソニーグループ、コニカミノルタの国内外に及ぶ構造改革に伴う募集を含む。
 1,000人以上は資生堂とオムロンの2社だった。

募集人数別

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「美容室」倒産が急増 1‐4月は最多の46件 人件費や美容資材の価格上昇が経営を直撃

コロナ禍を抜けたが、美容室の倒産が急増している。2024年1-4月「美容室」倒産は、累計46件(前年同期比48.3%増)に達した。同期間の比較では、2015年以降の10年間で、2018年と2019年の32件を抜いて最多を更新した。

2

  • TSRデータインサイト

約束手形の決済期限を60日以内に短縮へ 支払いはマイナス影響 約4割、回収では 5割超がプラス影響

これまで120日だった約束手形の決済期限を、60日に短縮する方向で下請法の指導基準が見直される。約60年続く商慣習の変更は、中小企業の資金繰りに大きな転換を迫る。 4月1~8日に企業アンケートを実施し、手形・電子記録債権(でんさい)のサイト短縮の影響を調査した。

3

  • TSRデータインサイト

「人手不足」企業、69.3%で前年よりも悪化 建設業は8割超が「正社員不足」で対策急務

コロナ禍からの経済活動の再活性化で人手不足が深刻さを増し、「正社員不足」を訴える企業が増加している。特に、2024年問題や少子高齢化による生産年齢人口の減少などが、人手不足に拍車をかけている。

4

  • TSRデータインサイト

コロナ破たん累計が1万件目前 累計9,489件に

4月は「新型コロナ」関連の経営破たん(負債1,000万円以上)が244件(前年同月比9.9%減)判明した。3月の月間件数は2023年3月の328件に次ぐ過去2番目の高水準だったが、4月は一転して減少。これまでの累計は9,052件(倒産8,827件、弁護士一任・準備中225件)となった。

5

  • TSRデータインサイト

【破綻の構図】テックコーポレーションと不自然な割引手形

環境関連機器を開発していた(株)テックコーポレーションが3月18日、広島地裁から破産開始決定を受けた。 直近の決算書(2023年7月期)では負債総額は32億8,741万円だが、破産申立書では約6倍の191億円に膨らむ。 突然の破産の真相を東京商工リサーチが追った。

TOPへ