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日本再興隆の切り札となるのかTPP

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公開日付:2016.11.25


 恒例となった「時代を象徴する一文字」や「流行語大賞」などが、本年も選考される時期を迎えることとなったが、筆者としては、近年の世界の政治・経済・世相を象徴する一文字としては、あらゆる面で、大自然の摂理や真理、物事の原理・原則を忘却し逸脱して秩序が乱れた「狂」の時世ではないかと感じている。
 例えば、今年も全国各地で展開された、まるで大人の仮装パーティーのようになった自然発生的、無統制・無秩序で、本来のケルト文化に起源を発するキリスト教の諸聖者の功績を讃える厳粛な祝祭行事で、これに見習い、子供達にも慈善行為や地域交流活動の大切さを体験学習させるために参画させ、街を練り歩き各戸を訪問して募金活動を行い、そのご褒美としてキャンディーなどを戴いたという意義や目的を知らず学ぼうともしない馬鹿騒ぎなどは、まさにこの「狂った世相」を象徴する典型的な現象といえよう。
 ハロウィンの行事はその後アメリカにも波及し、カボチャの良い出来具合を競った11月の農業収穫祭と混合され、それに商業主義が結びついて、現代のような仮装行列化し、日本では更にこれに輪をかけて、幼稚化した大人の仮装ファッションの馬鹿騒ぎパーティーとなったものである。
 古代中国趙の賢聖で儒者でもあった荀子は、「学は已むべからず(学問には、これで終了・卒業という限度はなく、生涯・永久に継続して時代に適応する学習を修めねばならない)」、「道義重ければ、即ち王公を軽んず(自分の行いが道義にかなっているという自信があれば、王公貴人や大金持ちの前に出ても、決して怯み、卑屈になることはない)」、「肉腐りて虫を出す(根本が腐って壊れると、全てが狂い、禍害が次々に起こる)」、「福は禍無きより長きはなし、幸せは禍の無い安定した生活の永続にある」などといった、平易ながら含蓄のある名言を多く遺しているが、そういった社会が荒廃する予兆として、「その”装(男性社会時代であったので主として男性の服装を意味する)は華”(過剰装飾の虚飾で華美になること)、その”容は婦”(同じく男性の容姿や言動が女性的になり、質実剛健さや覇気が失せること)、その”志は利”(志や幸福の尺度が拝金主義、自己利益至上になること)、その”俗は淫”(社会風俗が淫靡になること)など、以下は省略させていただくが7項目を指摘している。
 こういった先賢の貴重な体験からの示唆に鑑みて現代の世相を冷静・客観的に考察してみると、超大国のアメリカも中国も、日本も、EU、ロシア、イスラム諸国、いや世界中が、政治・経済・産業・社会など、あらゆる面で、その道理や根本理念を亡失・逸脱し、目先の自己利益追求に手段を選ばずで突っ走り、全人類が、阿漕なもっともっとという過剰欲望からの不当な競争に責なまれ、財物的豊かさの反面での精神的荒廃、貧窮と混迷をを招いているのではなかろうか。
 本稿でも度々強調し続けていることだが、好ましい政治・経済の真の理念や目的は、あくまでも最大多数者の最大幸福の実現にあり、そのためには、需要と供給の均衡を図り、所得の適正分配を考え、大企業や資本家優遇、弱者切捨てという不公正な政策的誘導・支援によるに極端な貧富格差の増大化や、自国・私利収益至上主義、市場万能主義、恵まれた環境にある大国に都合が良いグローバル・スタンダードの威圧的押し付けなどを根本的に改め、排除する必要があろう。
 自由・民主主義や社会主義においても同様で、特定の優越的立場にある者主体の自由や統制であったはならず、真の自由とは、自己の自由だけでなく相手の自由選択も尊重して認めるものでなければならず、その代わりに、自由の代償は自己責任と良識による自律が大切なことも理解すること、また民主主義も、また民主主義も、ただ民衆の声を聞く機会を代議制で儲けましたという形式的手続きを踏むことで良しとせず、大多数を占める民衆の声なき声を積極的に吸い上げ、小数でも傾聴に値する異見には耳を貸し、それを政策に反映させるものでなくてはならない。
 しかしながら現在の民主主義政治、とりわけわが国の場合は、形式的な制度上の民主主義でしかなく、今次の2020年東京五輪の施設建設や東京中央市場の豊洲移転問題の例でも明らかなように、結論に導きたい政策の骨子は既に為政者側で確立し、密かに着手準備までも進めているのであり、手続き上のセレモニー的な審議が済めば、多数で押し切り裁決するという、「民は由らしむべし、知らしむべからず」の体制なのである。
 この言葉の真意は、「一般民衆の全てを、難しい理屈で説明し完全に理解を得ようとすることは至難なので、為政者たるものは、あの人のいうことや実行する事なら信頼できるので任せるという、言行一致の信用こそが大切である」と説くもので、「愚衆には情報の共有化などで余分なことを知らせる必要はなく、ただ従わせ協力させれば良い」ということではないのだ。
 日本の為政者の手法は、中央政庁から地方自治体、民間企業に至るまで、全て法案を通すために、最初は民衆の納得と支持を得るための美辞麗句で誤魔化すが、その裏では既成事実を着々と積み上げ、法案が通れば豹変し、その後で厳しい条件や実態が暴露しても、民主的な議会審議で一旦承認を得たことや既成の事実を、今更変更することは出来ないと、微調整だけでなだめて、強引に推し進めるという狡猾さである。
 今回の衆議院の環太平洋連携協定(TPP)特別委員会でのTPP承認案と関連法案の審議でも、野党の慎重審議継続、せめて数日後の米国大統領選挙の結果を見てからでも遅くないのではとの要求も無視し、情報開示も外交上の秘密と不十分なままで、自民・公明の与党と日本維新の会の数の力による賛成多数で承認を強行採決し、今後衆議院本会議と参議院での通過も目ざすという与・野党の猿芝居も、いずれも党利・党略からの論争が主体であり、国民にわかりやすく、生産者と消費者、輸入業者と輸出業者、他国に攻め込み勝てる自信がある強者と、他国から攻め込まれて苦境に立たされる弱者など、利害が相反する双方の立場に立ったメリットとデメリットを対比した説明や、具体的な対応策などの審議と説明が不十分だったこと、一番深刻な問題を抱える農業を所管する農水産大臣の度重なる失言があっても放任したことなどは、まさにその通りであった。
 そもそもTPPとは、2006年にシンガポール、ニュージランド、ブルネイ、チリの4カ国で締結した4P協定が源流であり、東南アジア地域の経済発展途上国を主体とした貿易の自由化、関税の撤廃など経済発展活動のルールづくりをしたもので、日、米国などは、既に多数国と個々に自由貿易協定を結び、自由貿易圏も設定していたので参加を見合わせてきたが、その後中国の台頭とアジア覇権の拡大が進んだことから、国際戦略的見地もあって、遅れて参加し、その圏域も、中国を除き、広く南北アメリカ大陸の太平洋周辺諸国にまで拡大させることとなり、5年半にも及ぶ長く複雑な利害の調整と交渉を重ねた末に、2015年には、上記の国の他にベトナム、ブルネイ、メキシコ、カナダ、ペルー、チリ、オーストラリアの環太平洋諸国合計12カ国で構成され、ようやく交渉が決着し、後は各国内での承認・批准が得られると、協定が正式に成立、発効、実施されることとなる。
 所謂地域自由貿易協定の一つだが、わが国はこれまで既に、スイス、インドネシア、インドなど、アジア圏以外の国も含めた15国とのFTAを結んでいるので、日本政府としては、FTAより広い分野での連携を意味する言葉として「経済連携協定(EPA)」を正式名としている。
 環太平洋経済連携協定(TPP~Trans Pacific Partnership)12カ国だけでも、その国内総生産の合計は世界全体の約4割、貿易量は約2割5分を占め、世界各地域のFTAの中でも最大級の大型通商協定となる。
 これまでの世界貿易機関(WTO)のルールやFTAでも、関税の軽減化や撤廃、貿易・投資ルールの自由化や透明化が進めており、TPPもその延長線上にあるといえるが、TPPが「21世紀の世界の標準ルールを確立する画期的な通商協定」であるとされる理由は、先ず第1に、関税撤廃品目の多さで、自由化率は約95%に達し、近い将来には原則完全撤廃をめざしていること、第2は、関税の他に貿易、投資、医療、食の安全基準、知的所有権、電子商取引など、取り扱う分野とルールが多様・多岐にわたること、第3に、地球自然環境への配慮、第4に、新興国の国有企業への優遇制限、労働分野の規制などまで含まれていることである。
 国家とそれを構成する国民の生活安心と向上を図る経済活動の舞台は、大きく分類すると国内市場を舞台とする国内経済分野と、国外の市場を舞台とする国際経済の分野とがあり、国内の舞台は更に公共の場面での活動の公共経済と、民間の活場面である民間経済、その民間経済は更にまた、企業経済場面と個人家計経済の場面とに分けられるが、経済活動の総額を100%とした場合、わが国の現状は、海外経済に依存する割合は15%弱程度、しかも輸出と輸入は、やや輸出が優るがほぼ均衡しており、諸外国から日本は経済開放度が低い保護主義とか、貿易立国で不公正だといわれるのは不当であり、貿易依存度ではドイツや韓国の方がずっと強いが、日本の場合、アメリカや中国など、特定国への集中的偏向が強いので目立つことと、追いつかれ追い抜かれた国のやっかみ非難も多分にある。また経済には二面性がるので、円高による輸出減退は不利とは限らず、輸入物価の低下という利点もあるのだ。
 国内経済分野では、民間家計経済の消費分野のウエイトが約60%と最も大きく、企業の国内設備投資分野は近年10%を割り込み低調、本来は富の分配の適正化手段や景気上昇の軌道はずれを修正する補助エンジンでしかない公共経済への依存度が約14%と高まり、それを赤字国債で賄っており、国家財政が不健全な状態になっている点が大問題である。
 わが国は国土面積が狭いところに人口密度が高く、食糧資源や産業活動の基礎を成すエネルギーや天然埋蔵の生産資源も乏しいので自給自足は困難であり、その分はどうしても輸入に頼らねばならず、生産コストや移送コストが嵩み、加工した製品の輸出競争面でも不利というハンデキャップを背負っている。
 したがって関税の撤廃などの自由貿易の障害をなくし、諸外国との人の交流の活発化や、外国企業の国内参入認容、世界一安全基準が厳しいとされ、信頼されてきた医療制度の規制基準緩和などが実施され、経済活動の国境がなくなるというTPPへの加入による影響はどの国よりも大きく受けるので、そのメリットとデメリットについては、輸出競争力のある強者の都合だけでなく、安い外国産品の輸入攻勢を受ける弱小生産業者や消費者の立場、ある程度の国内自給自足率の確保、国際間で生産して販売することと、それを買って消費することとを安定的に分担し合うためには、よほどの相互信頼と国政の安定、世界平和の維持が絶対に肝要であるが、それは至難な課題であることなども考慮し、慎重に検討する必要があるのだ。
 残念ながら現在の時点では、どうも環境に恵まれた優越的立場にある大国や業界の攻勢姿勢がTPPを主導し、当初の創設提案国の切実な背景からの高尚な理念や、弱者の保護や支援、互助・互恵、譲り合い助け合いの精神が薄められる傾向にあること、当初は積極参画姿勢を示し日本にも協調を求めてきたアメリカが、自国内産業の不振、安い外国人労働力の参入で白人労働者の失業増大などもあって、自国産業の保護、強いアメリカへの回帰願望などから、受け入れ承認に慎重・反対の姿勢を求める国民の声が高まり、財界志向の共和党も労働者志向の民主党も反対を表明、恐らくオバマ大統領の任期内承認は困難になろう。それにもかかわらず、日本の安倍首相だけが承認を急ぎ、輸入攻勢に対する防禦より強気の攻めに注力しようと意気込んでいると感じられることが気がかりである。
 なぜなら過去の世界歴史でも、自給自足体制固めや自国内生産、勤勉な労働を軽視し、防禦体制固めをしないで外に打って出る攻勢にだけ突っ走った国、内(国治世)平らならずして外(国際外交での成果を修める)成る国、貿易だけに頼った通商国家、享楽的な消費国家が永続発展した、ためしがないからである。
 TPP交渉21分野の中の主要な分野について、日本への影響と、その利点と不利な点に触れておこう。
 日本で最も関心が持たれ導入反対の抵抗が強いのは、物品市場へのアクセスでの農産物の対応であり、関税の撤廃や削減がされることとなるが、日本からの自動車や家電製品の輸出品にかけられる関税の撤廃や削減は好都合であり、もともと、価格の高さへの不満より、精密な技術や品質のよさ、故障が少なく堅牢なことなどで信頼があり、輸出競争力が優っていたものだが、その代償として、日本が輸入規制をしていた米などの農作物に、自由化、関税撤廃が迫られるようになることは、狭い山間の農地で機械化や合理化にも限界があるというハンデを背負う弱小農業者にとっては、いかに農作技能で生産性が高く品質に勝るとはいえ、生産・流通価格に差があり過ぎて太刀打ちが出来ず不利であり、死活問題となる。したがって、守りを強めるべき弱小農業者に対しては、国家政策的な手厚い支援を配慮すべきであろうし、これは養殖に転じようと努力している漁業についても言えることである。一方、消費者にとっては海外の安い食材の輸入が増え、選択幅が広がり有利となるが、日本より劣る品質管理や、食品安全基準の低さ、新鮮度への心配は増大しそうである。工業製品に関しては、元来から日本製品の優位性が強いので、消費者の新たな利点はそれほど増加しないと考える。
 貿易救済の分野では、国内産業保護のための一時的な緊急措置(セーフガード)が設けられるが、そのセーフガードの発動条件は厳しくなり、外国政府によるアンチ・ダンピング措置の運用が抑制されるようになる。
 医療の分野は、日本に優位性がある分野であるが、薬品などは安全性重視で慎重だったのが、日本より基準の甘い海外製品が輸入され安全性が低下する嫌いもある。
 知的財産の分野は、特許・著作権の期間短縮もあるが、模造品や海賊版の取締りが強化され、海賊版の被害を受けてきたわが国とっては好都合、特許権益期間の短縮は、技術革新テンポが早まり、サイクル短縮化もあるので当然であろう。
 このように冷静・客観的に見てみると、日本に優位性や競争対応力のある分野も利点も結構あり、うまく適応すれば不利な点より有利な点の方が多いともいえる。
 したがってTPPに対する現在の野党や民衆が抱く恐怖感や抵抗、不満の原因は、この協約そのものの内容に対するものというより、その情報開示や説明が不十分であることからの不満、未知との遭遇、具体的内容がよく理解できていない無知からの苛立ちと不安、アメリカ従属や大企業、富裕者優遇姿勢が強く、弱者に冷淡で、目先の景気回復の演出や人気取りだけを考えた小手先対応に終始し、将来の夢が描けず、後の反動不況や借金返済策としての大増税や福祉のカットが怖いという安倍政権への不信感が根底にあるものといえなくもない。それに、TPPに後から強引に参入し、自国のエゴな損得から経済成長が著しいアジア市場への影響力を強め、新興中国などを牽制する太平洋地域の政治・軍事戦略として利用し、その主導権を握ろうとしている超大国アメリカの横柄さへの反発が根強いことも、反対派の心底にはある。
 地域経済圏の設定や、その圏域内での自由貿易体制は、既にEUや北米NAFTAなどで実施・体験済みのことであり別に耳新しいことではない。むしろ経済発展目覚ましいアジア地域が、米・中2大国の覇権綱引きもあって、政情不安な国が存在し、結束力に欠け、信頼できるリーダー国不在などから、これまで他地域経済圏への対抗策として、この種地域経済圏の設定や自由貿易体制の整備が遅れていた方が問題といえ、その気運が高まってきたことは当然で結構なことだ。
 とはいえこの種協定は、本来、弱者の強者への対抗策としての結束戦略、互助互恵が根本理念であり、強者と弱者が同じ土俵で同じルールでというのには矛盾があり、強者と弱者で受け止め方も対応策も変わる。そのためには主導する強者の弱者への配慮と謙虚さが必要不可欠、日本は外観経済大国なのか資源弱小国なのか、そこにTPPの成否がかかり、大国のエゴで狡猾な罠に嵌められてはならない。


著者プロフィール

経済評論家・ビジネスドクター 芦屋 暁(あしや さとる)

幼少期の貧苦体験から「十分な教養があれば民族も国家も企業も個人も安泰」との信念を抱き、一生涯を人間能力の開発と日本経済・産業の発展に捧げる1本の杭になろうと決意し、都市銀行勤務を中退してフリーの経済評論家・経営コンサルタントの道に転身、大学の教鞭やマスコミ出演を経つつ、過去通算で全国約3千市町村を講演歴訪した実績を持ち現在に至る。庶民派で皮膚感覚の簡明率直な解説がモットー。

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