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家計の金融行動変化とデータの正しい読み取り方

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公開日付:2015.11.13

名船長ほど自己の操船技能を過信せず、気象予報や計器が示すデータを重視するといわれる。ドライブで急な気象変化に遭遇し、濃霧や激しい降雪に包まれマイカーのボンネットの先さえ見えないほど見通しがきかなくなって不安を感じ、安全運転のため止む無く減速や、霧が晴れるのを待ち停止せざるを得なくなったという体験をされた方もあろう。
 また、交通違反や交通事故に見舞われた場合に、取り締まり警官から「なぜ違反したのか?」とか「なぜ事故が起きたのか?」と聞かれると、「一旦停止の標識がみづらく全く気づかなかったから」、「まさか横から急に自動車が飛び出してくるとは思わず、気づくのが遅れた」などと返答する人が多いというが、その通りで、運転免許証を取得している限りは、操作技能が未熟であったとはいえず、対向車が急接近するのを認識しながら、回避行動をとらなかったり、あえてそれに向かってハンドルを切るような愚かで危険な判断や行動をする者はいないであろうから、すべては情報や認識不足に起因する。
 このように人間のあらゆる判断や行動は情報に基づいて行われるのであり、何事を処するにも、先ず情報の入手に努め、正しい現状の認識があってこそ、正しく先行きを見通した判断が可能となり、それにより正しい適切な対応の操作や行動をとることができるようになるのであり、認識なしや誤った認識では、誤った判断、誤った行動をとり、好ましい結果を得ることが困難になる。
 従って、この認知・判断・操作行動という順序が大切であり、その手順を間違ってはならない。
 それが故に昔から、「情報を制するものが世の中を支配する」とか、「情報量と業績は比例する」などといわれ、また古代中国の孫子の兵法でも「兵は国の大事、生死の地、存亡の道、察せざるべからず」と始計第一(事を始める前に、先ず的確な情報やデータに基づく綿密な計画を立てることが第一に重要)であるとし、そのためには、彼我の力量を冷静・客観的に、一に「道(道理・道徳心、トップ指導者の正しい理念や志)」、二に「天(天地自然の摂理と天下の情勢、時局の実態)」、三に「地(地政的環境や市場における地位、足元の状況、自己・自社の現状や実力)」、四に「将(指導者・経営者・管理職の資質や能力)」、五に「法(秩序・規律正しい行動、法令順守、合理的・効率的な制度や行動態様)」の5項目で分析・比較考量して優劣・是非を判断し、対応行動をすることが肝要であると具体的に説いている。
 しかしこういった情報や諸資料、データも、近年はマスコミやインターネット、スマホなどの普及が急速に進み、大量に発信され、たやすく入手できる高度情報化社会となり、巷に氾濫しているが、ただどのような情報、俗にいう「がせネタ」や無責任な噂の類まで、とにかく大量に発信したり、入手・収集すれば良いというものではなく、高度情報化社会の「高度」の意味は、正しい必要な情報を、誰にでもわかる言葉や手段で送・受信することや、選別的収集の必要性、高度な分析や読み取り方、活用能力、機密情報の守秘とセキュリティー管理などといった処理技術こそが大切な時代になったと受け止めるべきであろう。
 本年10月はちょうど5年に1度の大規模な全国的悉皆調査であり国政の基礎となる国勢調査(人口動態に主体をおく調査)の時期であるが、情報・資料、とりわけ政府・官公庁の調査による公表資料や「白書」などといえば、最も権威のある厳格な調査に基づく精密で正確で信憑性がある事実のデータで金科玉条のように思われていようが、白書の白は、青天白日の公明正大な資料というものではなく、英国政府が公表する国政に関する重要資料の表紙が白色の用紙であったことから「白書」と俗称されていたのを、戦後の日本もそれに見習っただけのことでしかない。
 いずれにしても、調査データの整理・分析・処理段階では最新の高性能の大型コンピューターを駆使し、人為的感情などっが入り込まない中立・厳正さが守られ、正確性と速報性を重んじられているが、そのデータ収集の入り口といえる調査票の設計や調査対象母集団やサンプルのとり方、現状市場実際調査などの初期段階と、このデータの分析・評価・公表の出口段階においては人間が関与することは避けられないものといえる。この点が常に、民衆の一般生活実感からの乖離や政策的意図があると指摘される余地を持つことになる。また情報資料の受けて側の事情においても、結果数値の評価・判断を強気で都合よく積極的に受け止めるか、弱気で否定的に弱気の評価・判断表現をするか、例えば同じコップに水が半分入っているという事実の現象を見ても、ある人はプラス発想で「まだ半分は残っている」と積極的に受け止め、ある人は消極的な発想で「もう半分しか残っていない」と悲観的に受け止めるなどといった個人的個性や癖がでるというものである。
 冷静で客観的であるべき政治・経済論評や主要大新聞の記事においても、概して、政府・与党系の御用学者やお抱え評論家、マスコミ、証券会社系シンクタンクなどの論評は、強気の賛成論や体制同調の「ヨイショ」気味、銀行系は慎重で控え目、如才のない中庸的で無味乾燥な論評、野党系は政治的思惑からの感情的反対論、業界に所属するサラリーマン論評家は、どうしても所属業界擁護論評になるなどといった癖や傾向が見受けられるので、読者諸賢はその点を考慮し、それぞれなりの割引料率を掛けて正しく情報を受け止め、評価・判断されることが大切といえよう。
 本稿では毎年10月の貯蓄の日に発表される日本銀行情報サービス局の関連機関である金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査(平成26年版)」を教材とし、その変化からわが国の家計経済の実態を理解し、併せて正しい情報・資料の処理や読み取り方を学ぶ参考に供しよう。
 申すまでもなく日本銀行は、法で定められた半官半民の資本構成による特殊法人で、政府機関とは独立・中立的な存在のわが国の中央銀行であり、国策と連携・協調はするが、原則としてその干渉を受けず良識的な独自の判断で、公定歩合操作などの金融政策の立案と実施、銀行の親分的な銀行、国庫金の出納管理・取り扱い代行、唯一の通貨発行権を与えられた銀行、物価の番人などといった重大な役割を担うものであり、従ってそこから発信される家計の金融行動実態に関する世論調査結果データは非常に権威のあるものとされ、ゼロ金融政策など、国政や経済、産業活動、家計にも大きな影響を与えるものである。
 この調査は、戦後まもなくに、敗戦からの日本経済・産業と民生の復活に必要な資金需要に応えるため、国民に勤倹節約・貯蓄奨励をする目的で始められ、そこで毎年発表される1世帯平均の金融資産保有額は、日本人の旺盛な勤勉貯蓄意欲、不時の災害に備える安心志向などといった国民性もあって、毎年、前年比で増加を続け、税金などの公租公課を差し引いた後の可処分所得の中に占める貯蓄の割合である貯金性向においても世界1位を誇ってきたもおである。
 それがバブル経済の破綻、長期デフレ不況、有史以来といえる超低金利・ゼロ金利政策、アメリカ主導の金融ビッグバンによる銀行の証券化、間接金融から直接金融制度主体の投資金融資本主義への移行は、この傾向に大きな変化を見せることとなった。
 本資料の平成26年版に見る金融資産の保有額は1,753万円、対前年比6.6%の増加を示すが、この数値を見て読者各位はどうお感じになれたであろうか?「なんだその程度か。それなら自分は平均以上のお金持ちの部類だ」、「サラリーマンの平均年収の3倍強もあり、だから日本人はお金持ちだと世界から見られるのも妥当なことだ」、「なに、そんなに多額なの。自分は毎日一生懸命に真面目に働きづめだが、我が家ではなかなかそんなに貯金する余裕などなく、貯金は必要不可欠な生活運転資金のプール程度でしかない」、「貯金は将来の生活設計や安心のために必要だから家計をやり繰りしても多少はしているが、住宅ローンやカードショッピングの決済などの借金もあり、それを差し引くとまだまだ余裕がある満足な状態には及ばない」、「我が家の生活実感から随分乖離した数値であり、日本の平均的な庶民の生活実態を反映していない調査ではないか?」など、おそらくさまざまな感想をお持ちであろうが、これが統計調査の難しさや数値の魔術というものである。
 この調査は全国的な規模での調査であるが、国家が法定の制度で莫大な予算と約80万人もの臨時調査従事者を投入し、全戸悉皆訪問調査を実施する国勢調査とは異なり、限られた予算内で実施される無作為標本抽出法による調査であることも止むを得ないが、それでもサンプリング理論を駆使した有効なデータといえるものである。
 本調査の目的は、①家計における資産や負債、家計設計などの状況を把握し、これらの公表を通じ、②国政や金融政策立案の参考に供し、③一般国民にも金融知識を身につけることの大切さを広報し、④金融・産業界など関係方面の消費者家計行動の理解にも役立てることにある。
 調査の内容は、前記した目的に沿った全部で36項目の質問に対する○×式回答によるが、調査対象世帯は全国の全戸悉皆調査ではなく、標本抽出方法により、層化二段無作為抽出法により、先ず全国を9地域に分割し、各地域ごとに都市の人口規模で所定のサンプル対象数を割出無作為抽出し、それで全国で500箇所の調査地点を選び、各調査地点から無作為に16世帯、全国合計で8千世帯のサンプルを抽出して指定し、その対象家庭の都合に応じ訪問又は郵送での回答協力を依頼し、あくまでも任意で回答を○×の記入でしてもらい、所定の期日内に訪問又は郵送で回収する。調査対象8千世帯の回答協力率は約49%である。
 全国約4千7百万余の住宅台帳に基づく世帯数の内で2人以上の世帯に限って、その中の8千世帯程度のサンプル数でも、この方法の調査では合理的なサンプリングの理論に基づき、ほぼ悉皆調査に近い正確さで調査結果を得られるとしている。
 しかし情報収集の入り口である調査段階では、調査票の設計は人間により行われ、正確を期すためあまり質問項目が多すぎても協力され難くなるし、簡単過ぎては大雑把な傾向しかつかめなくなるし、前提条件をつけた質問誘導の仕方次第でも回答が大いに異なることが多分にある。例えば今次の安倍内閣の安全保障関連法案の改定の場合がそうであったように、事前にマスコミを抱き込んで中国の不法占拠による日本海の危機を煽り立てた上での裁決では、自衛隊の武装強化や海外派兵容認となるのは当然といえよう。だからその後の詳細の説明が求められる臨時国会の開催要求を与党は頑として拒否しているのである。
 また調査対象世帯の回答はあくまでも○×式による任意記入であり、そこでは回答者の主観が入り込むし、相場変動の激しい保有株式の時価総額や生命保険などを正確に記録し把握しているような人は少なく、曖昧な算定によるところが多分にあろうし、その裏づけ書類としての家計簿の年間記帳や、証拠書類の添付を税務申告書のように強制的に義務づけられたものではない曖昧なものであること、このデータが平成26年版の直近の発刊だといっても、その実際調査期は24年時点のものといった調査後の整理、精査、分析、評価、出版用の執筆、印刷、配布などの処理期間を要するので、どうしても時期的ずれが生じる事は止むを得ないものであるから、あくまでも参考資料とし、現時点の状況を推計し修正・評価・活用することも、正しい情報処理法としては必要となる。
 それでも当初よりはかなり改善されたサンプル抽出法や調査方法となって、最近では全国の単純平均値だけでなく、単純平均値ならごく小数でも巨額の資産保有世帯が含まれるとそれに引き上げられた値になるので、これを補足する中央数は約400万円、該当世帯数が最も多い階層を示す並みの最頻値では360万円、貯蓄保有ゼロの世帯の比率が30.4%も存在し、借入金のある世帯の比率は40.7%、その借入金残高平均額は約1,350万円、単純平均金融資産保有額との差額は約400万円、中央数値と借金残額との差額では約950万円の借金過多という負担を背負っているということなどまで発表されるようになったが、この数値なら庶民の生活実感に近いものとなり納得が出来よう。
 金融資産の保有総額は2005年までは毎年増加し続けていたが、それ以降は数年間減少が続き、2014年になって再び増加に転じることとなったが、金融資産の保有状況では、その構成比で預貯金の比率が最盛期の65%強から55~53%台に落ち込んでからは横ばい傾向を保って落ち着き、バブル期には一時25%近くにまで急伸した有価証券と投資・金銭信託の比率は20%以下にまで再び低下することになったが、これらは株式相場乱高下の影響をもろに受けるので変動が激しいのは当然といえ安定感はないが、証券ブームとはいえ、わが国ではまだ個人家計の金融行動においては、アメリカのような預貯金を上回る株式主体の金融資産構成ではない。
 高齢化社会の到来で期待が高まった生命保険・損害保険は、インフレに弱く、契約条件の途中変更、天災時の対応の悪さなどといった無頼が尾を引き、まだその17~18%のシエアを改善するまでの勢いはない。勤労者の会社帰属意識の低下、企業側の雇用関係の不安定化や金利の低下もあって、一時ブームとなった社内の財形預金は1~2%のままで人気をなくし、次第に消滅しそうである。
 年間収入階層別の金融資産保有状況においても、中間所得層の下層への低落、高所得層と低所得層との2極分化傾向が明確になっている。
 金融資産を保有したいと考える目的の第1位は、老後の生活資金、第2位が不時の災害に備えてとなっており、ここに来て従来の1位と2位が逆転することとなったが、これは高齢化社会の急速な進展と国家の社会福祉に一抹の不安を抱いている証とも読める。3位は子供の教育資金、4位が住宅の取得、子供の結婚資金は6位で低下傾向にあり、地味婚時代を裏付け、レジャー目的は抑制気味である。
 金融資産の選択に際して重視することは、1位安全性45.7%の地位は変わらないが、50%以上であった2000年頃から見ると減少傾向が目立ち、2位の流動・換金性29.5%は横ばい推移、3位の収益性16.7%が増加傾向にあり、長期的超低金利時代で投資志向が高まったものの、庶民は投資ブームというほど過熱しない良識を保っている。いずれにしろ大切な金融資産の保全管理では、「卵は一つの籠に盛らず、上記3項目の目的の他に不動産、自己能力・趣味開発投資を加えた「財産5分割法」を実践することが重要と提唱しておきたい。
 借入金の残高約1,350万円のうち約96%を占めるのが住宅ローンでダントツの1位であり、耐久消費財の購入目的がやや低下し3位になり、子供の教育資金が2位と逆転することとなったが、勤労所得のみで住宅所得負担の重い世帯と、親譲りの住宅生活者や不労資産所得のある者との貧富格差増大がさらに広まり、フロー所得主体の課税、ストック所得優遇といったわが国税制上の欠陥がここからも覗える。
 以上の例から、情報・資料の処理に関する要点を列挙して取りまとめに代えよう。

  1. 情報や資料は、ただ無意識的に雑多なものを大量に収集・蓄積・保存しているだけでは「死量」でしかなく意味がない。有効に活用しこそ、生きた情報・資料とし役に立つ。
  2. 一つの情報・資料から一つのことをただ「知る」だけでなく、既知の情報との組み合わせ加工をすれば、一を知って3~5を知覚し、物事の実態をより広く・深く認識し、よい判断ができるようになる。
  3. 例えば現時点の静止的数値を知るだけでなく、過去のデータとの推移比較をすれば、その延長線である程度の将来傾向が見通せ、情報がまた新たな情報をもたらすというシナジー効果を発揮する。統計数値を収集っする場合、少なくとも過去3期以上の推移を把握するデータを収集し時系列的に分析すること。
  4. 発刊・発売された活字データは入手した時点でもう既に調査時点とずれた時期遅れのものとなっているので、現時点の状況をそこから推計・修正フレッシュアップすることを心がけること。
  5. 情報や資料は座して待っても歩いて来ないし、活字データだけでは鮮度のある生きた情報は得られない。常に自ら現場を意識して観察しながら頭で歩き、足で稼ぎ、質問し、心と皮膚感覚で実態を実感することが肝要である。
著者プロフィール

経済評論家・ビジネスドクター 芦屋 暁(あしや さとる)

幼少期の貧苦体験から「十分な教養があれば民族も国家も企業も個人も安泰」との信念を抱き、一生涯を人間能力の開発と日本経済・産業の発展に捧げる1本の杭になろうと決意し、都市銀行勤務を中退してフリーの経済評論家・経営コンサルタントの道に転身、大学の教鞭やマスコミ出演を経つつ、過去通算で全国約3千市町村を講演歴訪した実績を持ち現在に至る。庶民派で皮膚感覚の簡明率直な解説がモットー。

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