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世界的影響力を強めたイスラム勢力

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公開日付:2015.02.06

 本年は正月早々から、突出したイスラム原理主義者の過激で残虐な行動に関するショッキングなニュースが飛び込んできたが、もはや現代の世界情勢は、イスラム諸国の思考や動向を、自由主義経済とは隔絶した低開発後進国や民族の局地的な跳ね返り行為として黙殺していては、正しく理解し対応しきれない状態になってきたといえよう。

(1)知っているようで意外に知らないイスラムの実態

 しかしながらその割には、イスラム社会についての関心や理解がまだまだ乏しいことも事実で、実際に、イスラム教やその国家・民族について日本人はどのようなイメージを持っているかのアンケートを取ってみると、「概して、貧しく教育水準も低レベルで、世界の主流から取り残され、現代感覚からずれた後進的経済低開発諸国に根付いている思想や宗教理念」であり、それぞれの国の「内政問題であり、従って他国が干渉すべきではない」、「得体が知れず不気味だ」、「極端な過激行動をとるので怖ろしい国家や民族だ」、「封建的、独裁的政権下で民衆は洗脳・支配され、古臭い教義に固執・盲従している」、「他の宗教と比較して、戒律が厳しい」、「元植民地としての宗主国であり、独立後の現在に至っても依然として優越的・蔑視的言動をとり、資源産業の利権や経済政策面で実質的な支配下に置き続けようとする欧米キリスト教国や、ユダヤ教国と対立的である」、「世界の中では異端の少数派」、「闘争的なテロ勢力の温床」、「秘密主義的で暗く閉鎖的な印象」、「実態を良く知らない、知らされることがないので不詳・不明」といった回答が大部分であり、好感よりマイナスの印象を持つ者の方が圧倒的に多い。
 とはいえ、われわれが通常イスラム教国や民族について入手する情報は、そういった支配的で対立的な欧米諸国からもたらされる情報が主体であること、極端なごく一部の過激派の言動やテロ行為だけが大きくニュースとして取り上げられがちであり、本来のイスラム教の教義や、大多数の一般的イスラム教国や民族の実態を冷静・客観的に知らされることは案外少ないのではなかろうか。
 もちろん、どのような理由や事情、言い分があるにせよ、その不満や抵抗の意を表する手段として、正規の国際外交ルールを無視し、そのルートを通じた事前の穏便な対話や交渉もなく、不意打ち的に、関係のない善良な武器を持って対抗しない一般市民まで巻き込み、卑劣で残虐な手法で攻撃や報復の対象として無差別に殺傷するなどという不当なテロ行為は断じて許容し難い。
 だが、筆者自身は自宅の町内にイスラム教国の大使館が数軒存在することもあって、個人的に親しく交流しているイスラマーの外国友人も多いが、彼ら一人一人はとても純真で明るく大らかで、困っている人や女性に対しては親切で、弱者は男が助け守ってやるべきだといった正義感を持ち、家族・親族関係は密で、経済的には恵まれなくてもプライドは高く、宗教信仰心が強くて毎日の礼拝は欠かさず、宗教心を持たないのは人間でなく信用できないといった感覚を有し、拝金主義的な物質文明の豊かさだけを幸福とは考えず、むしろ否定的で、強固な民族の独立志向や愛国心を抱く。但し、敵対する勢力への対抗意識は旺盛で、倍返しをする。
 イスラム諸国や民族の国際的な影響力が高まってきた現代、世界的にもこの際、「イスラムを知れば、世界の見方が変わる」といえば大袈裟かもしれないが、彼らに対する冷静で客観的な正しい理解と認識、関心を深めることも必要であろう。

(2)新しい世界への影響力を増すイスラムの動向

 少しでもイスラムへの関心を強めるという意味から、本稿では彼らなりの発音に従い、以降はイスラームと記すことにしよう。
 21世紀になり、国際的な情報伝達手段の普及や多様性もあって、世界風潮の主流から取り残されていたイスラム諸国の民衆にも他国の情報が即刻に多数もたらされるようになり、独裁的支配者の情報統制が効かなくなるに連れ、彼らに自由・独立、民主化を望む気運が高まり、封建的な独裁政権に従わず、自己の主張を通そうとする反政府運動やデモが多発するようになり、2010年頃からは北アフリカや中東のイスラーム圏諸国で更にこの傾向が顕著になり、世界の多くの国々がこういった動向を民主化を望む民主的な国民運動と捉え、「アラブの春」と称して歓迎・支持するようになってきた。
 その結果エジプト、チュニジア、リビアなどの諸国では、永年続いた独裁的体制が崩壊し、欧米がこの機に乗じ、これらの諸国を自由・民主主義圏に引き込もうと画策し、支援・干渉を強めようとしたが、それに反対する社会主義国との摩擦が強まり、また、各国内でも、崩壊した旧来の経済面で欧米とも通じ合った封建的・独裁的体制に替わる勢力として、更にイスラーム教の教義に頑迷なまでに忠実なイスラーム原理主義者たちが台頭し、国家を牛耳ようと欧米支配に対抗する動向が強まり、国内で民意が分かれて内紛が激化し政情が不安定化し、無政府状態にまで混乱するようになり、これをロシアや中国などの社会主義国が陰で糸を引いて支援するといったように、事態が少し自由民主・資本主義圏諸国の思惑とは異なった方向に進み、再び新たな国際的な対立と世界の緊張を生み出すこととなった。
 強権的支配者が失脚したのはいいが、その後の新たな政権を巡る勢力争いで、国内政情が再び大混乱し不安定化するという意味では、2003年に連合国軍の支援で独裁的なフセイン政権が崩壊し、やがて国家の民主化と自主運営権を持つようになったものの、国内不安定さが再び増すようになったイラクと似た状況にあり、イランやアフガニスタン、パキスタンなども目下同様の問題を抱え、今後は、先進的な自由民主・資本主義の欧米列強諸国やロシアなどの社会主義諸国にとっても、新しい対応や新しい秩序の再構築など、難しい課題を抱え込むこととなってきた。

(3)イスラームに関する基礎的知識

 そもそも「イスラーム」とは、アラビア語で「唯一神アッラーへの絶対服従・帰依」という意味であり、西暦600年の前期頃に、その神の教えを預かって庶民に忠実に伝える役目を担った預言者(注:予言者ではなく、神の言葉を預かり伝導する者の意味)ムハンマドを始祖とする世界3大宗教の中の一つであるイスラーム教の教義の教えを尊崇し信仰する者をイスラマー(又はムスリム)と称し、そういった人たちを主体として構成された国家がイスラーム国家、そういったイスラーム教の信仰者が多く居住する地域や国家群をイスラーム圏という。
 イスラーム教、キリスト教、ユダヤ教の3宗教は、本来はいずれも、現パレスチナの中央部、3宗教共通の聖地エルサレムを中心とする古代ユダ王の統治地で紀元前に発祥した啓示宗教(人間の理性や感情に基づく宗教に自然宗教に対して、神の恩恵によって示されたものに基づく宗教)の一つであるユダヤ教に端を発し、その唯一神ヤハウエ(キリスト教ではヤホバ又はエホバと称し、ギリシャ語訳のChristosからイエスをキリストと認め、その人格と教えを信奉する。イスラーム教ではアラビア語でアッラーと称する)を全知全能の神として尊崇する伝統のある宗教であり、他の神や宗教の存在を一切認めようとせず、この傾向がイスラマーでは特に強い点が他宗教との軋轢の原因となりがちである。
 その後、ローマ帝国の圧迫などを受けたり、教義解釈の違いから分派してキリスト教が生まれ、6世紀の前期には更にイスラム教が分派して生まれた。
 現在、アラビア半島から東西に伝播し、アフリカ諸国や東南アジア諸国にまで布教が拡大発展し、昨今その勢力が急速に強まりつつあるイスラム教国とイスラム圏の総人口は推計約21.6億人で世界総人口の約31%を占め、GNIでは世界の約16%であるが、世界の宗教人口では、1位のキリスト教徒が約22.8億人(世界の約33.0%)2位がイスラム教徒で約15.5億人(約22.5%)、3位のヒンズー教徒が約9.4億人(約13.6%)、4位の仏教徒が約4.6億人(約6.7%)、その他の宗教と無宗教が約16.7億人(約24.2%)であるが、無宗教国としては世界最大の人口約13.5億人を有する中国が特定宗教崇拝禁止国として含まれるので、これを除くと無宗教人口は僅少といえる。
 ムスリム(イスラーム教徒)といえば中東とアフリカといったイメージが強いようだが、実際は、東南アジアのインドネシアが最多で、インド、パキスタンがこれに続き、アジアが世界の約6割を占め、中東は約2割程度だが、先鋭なイスラーム原理主義者や過激なテロ活動が活発なので、中東が注目を浴び、強い警戒心が持たれている。
 また近年は、アメリカやヨーロッパでも、特に若者の間にムスリムが急増する傾向が高まっており、世界的にも最も勢力が広まりつつあるが、わが国ではまだ約3千人程度と見られ、関心が薄い。

(4)世界経済におけるイスラームの地位

 世界経済に占めるイスラーム圏の位置づけでは、石油だけでなく、その他の地下資源も豊富に保有しており、現在のところはまだ欧米の既得権益の下で管理・支配されているとはいえ、まだ未開発で今後の潜在発展力を秘めており、それら諸国がナショナリズムに目覚め、欧米の支配下から脱しようとする意識が急速に高まりつつあるし、相対的に欧米の覇権や威信が低下傾向にあるので、近い将来、世界経済におけるその影響力の強さは悔れない偉大なものとなろう。
 世界の主要シンタンクの近年の調査資料によれば、原油埋蔵量の世界シエアは、イスラーム圏が1位で52.5%と世界の半分以上を占め、2位ヨーロッパ29.1%を断然引き離しており、アジアは2.9%でしかない。
 この輸出量でも、中東が1位で世界の38.8%を占め、2位のヨーロッパ24.6%を大きく上回り、アジアはこれも2.9%に過ぎない。
 但し、その採掘権や販売利権の大部分は欧米の大手石油資本が開発技術指導をした代償の既得権益として牛耳っているという点が、自立志向を強めたイスラム諸国にとっては不満の因となっている。
 近年、石油に代わるエネルギーとして世界的に注目を浴びている天然ガスについても、埋蔵量で、やはりイスラーム諸国が主体の中東地区が断然1位で世界の41.5%を占めるが、実用化としては未開発の潜在力といえ、2位のヨーロッパが34.2%で、実用化比率が進んで高いことをうかがわせるが、アジアはまだ7%でしかない。
 この輸出量では、ヨーロッパが1位で世界の45.0%を占め、中東は2位で11.8%でしかなく、アジアは10%に過ぎない。
 つまり、目下世界経済の中で発展目覚ましく有望視されるアジアだが、それはエネルギー資源や消費生産財の消費地としての成長であり期待であり、アフリカや中東地区のイスラーム圏の方が、今後の潜在発展力を秘めているといえ、キリスト教圏がこの新勢力に脅かされる可能性があろう。
 事実、世界のGDPの経済ブロック別シエアを時系列で見ると、2000年には、総額32.3兆ドルの内、北米が1位で30.8%、2位がEUで26.4%、3位日本14.6%、OIC(イスラム協力機構加盟国)は5.0%、中国は3.7%でしかなかったのが、2011年には、総額69.7兆ドルの内、1位のEUが25.2%、2位の北米が21.6%、中国が10.5%と3位の日本を追い抜き、4位日本は8.4%、OICは8.3%に上昇した。
 2017年には、総額94.0兆ドルの内、1位のEUで21.4%、2位北米21.0%、3位中国が13.5%、4位日本は7.1%で、OICが9.7%にシエア・アップし、2000年対2017年予測のGDP総額の伸張率が約3倍であるのに対し、同じくOICの伸張率は約6倍と目覚ましく増加振りを示している。
 2010年以降、アフリカや中東のイスラーム国で民衆の自立志向が高まり、独裁的な政権に対する反抗運動が急速に激化することとなった背景には、世界的な高度情報化社会の進展とインターネットの普及があって、彼らの情報量が増大し、客観的に他の諸外国と比較した自国の現状を正しく認識し、疑問と改革の意識を持つようになったからだとされるが、そのことはイスラーム諸国のインターネット普及率が短期間で平均して80%台にまで急進し、カタールなどは約136%と日本以上であるというデータが立証する。但しその情報格差は大きく、まだ15~20%程度というシリアやイエメン、アルジェリア、リビアなどは、世界的潮流から取り残され、国家社会の近代化が遅れている。やはり「情報を制する国が世界をリードする」といえよう。

(5)イスラーム・パワーが新たな世界を生み出すか?

 イスラーム経済といえば、中東の石油産出イスラーム国をイメージする人が多く、実際、アラブのオイル・マネーが世界経済に及ぼす影響力は絶大であるが、中東イスラーム国の場合、その巨額の富が、特定の権力者に支配されており、一般国民に公明・公正に分配されているとは言えず、大多数の民衆との貧富格差は大きく、これが国民の不満となって内在しており、国内政治不安定、国際的信用の欠如を招いている。
 それに、いずれは枯渇すると予測されている石油に代わる経済発展要素をどう見出すかといった脱石油依存経済を模索する苦悩も抱えている。
 しかし、先にも述べたように宗教人口では、アジア諸国のイスラームが世界のイスラーム圏人口約15.5億人の内の6割を占め、その中でもインドネシアが約2億人と世界のイスラーム教信者人口の約13%を占め第1位であることは案外知られていない。
 確かに石油資源の埋蔵量では中東イスラーム諸国には及ばないが、アジアのイスラーム国の場合は、概して、自然環境などから、その他の天然産業基礎資源や食料資源などが豊富な上に未開発で今後の伸び代にも、それに豊かで安価で勤勉な労働力もあるので、世界の加工生産基地としての発展にも期待が持て、それに中東諸国より比較的に政情も安定しているので、インドネシア、インド、シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイなど、それに日本、中国、韓国などの技術支援と協調が加われば、アジアのイスラーム諸国が中東のイスラーム諸国の経済を凌駕し、更には東北・東南アジア地域が近い将来、従来の欧米を凌ぐGDPとなり、世界経済牽引地域となる可能性は非常に高く有望である。
 封建的な特定者の独裁政治や統制的な社会主義より、自由化・民主化を指向する民衆意識が高まってきたイスラーム社会であるが、同時に、行過ぎた欧米流の自由・資本主義、拝金的な金融・市場主義、過当な競争社会と貧富格差の増大、勝ち組と負け組みの二極分化、自然環境を破壊し精神文明の荒廃を招くなどといったことが、国際的平和や人間の幸福の全てではなく、自由の代償としての人間の理性による自律が守れない限りは、ある程度の規制も重要などといった考え方も根強く、これまでの欧米流の政治や経済システムに盲従するのでなく、良い点は見習い受け入れるが、その問題点については批判し修正を加えようとする良識や、柔軟な対応姿勢も有している。
 例えば、過当競争や差貧富格差の増大、物質文明一辺倒を否定し、格差増大の抑制のために、「ザカート(喜捨)」を富裕層に義務付けているサウジアラビアのような穏健なイスラーム国家もあるし、イスラーム独特の経済・金融システムとしては、欧米や日本の銀行のように融資に対して利子を徴収、預金客に利息をつけるといった利ざや収益に変わり、イスラーム銀行のシステムでは、顧客から口座開設・利用に対する手数料を徴集して銀行の利益とし、預金客には銀行の融資(投資)業務に参加させることで、その利益配分をするという、いわば銀行と顧客との共同投資活動といえよう。
 近年の欧米先進経済国の間でも、イスラームの良い点も認めようという考え方が拡大しつつあり、これがイスラーム教や社会に憧れ入信までする若者の増加という現象さえ生み出している。2001年11月のイスラーム過激派によるアメリカでの同時多発テロ事件以来、アメリカを代表とする自由主義圏諸国の間では、イスラーム諸国は、キリスト教や民主主義体制に反抗的で、経済的にも低開発で、卑劣な暴力国家だといった印象が強いが、それはごく一部の中東地区イスラーム原理主義・過激派の突出した行動でしかなく、それがイスラーム諸国の全てではなく、多くは穏健な平和や隣人愛に富んだ国家であり、教育水準も経済水準も近年は急激に高まってきたので、近い将来には、イスラーム諸国が世界経済を動かす時代になることは間違いなかろう。

著者プロフィール

経済評論家・ビジネスドクター 芦屋 暁(あしや さとる)

幼少期の貧苦体験から「十分な教養があれば民族も国家も企業も個人も安泰」との信念を抱き、一生涯を人間能力の開発と日本経済・産業の発展に捧げる1本の杭になろうと決意し、都市銀行勤務を中退してフリーの経済評論家・経営コンサルタントの道に転身、大学の教鞭やマスコミ出演を経つつ、過去通算で全国約3千市町村を講演歴訪した実績を持ち現在に至る。庶民派で皮膚感覚の簡明率直な解説がモットー。

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