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価格競争力重視で失念した経済倫理と格差是正

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公開日付:2014.07.04

(1)衣食住足りて礼節を忘れた経済先進国

 「衣食足りて、礼節・栄辱を知る」という賢者管仲の名言である。
 これは本来、民衆は、生命の維持に不可欠な衣・食・住が保証され、人間の基本的欲求である安心・安定を求める心が満たされてこそ、初めて礼儀や節度をもって他者と接したり、幸福や国家の繁栄を感じ、非道徳的な行為は恥ずべきことだから慎むべきだと考えるなど、秩序正しい言動をとるようになるので、治世に当たっては先ず、①富民、②敬神(大自然の摂理や物事の原理を尊重し、地球自然と全人類の調和的共生・共存を図ること)、③布教(阿漕な欲望の理性による抑制と博愛・互助といった敬虔な宗教心であり、「布武」、即ち武力や巨大さの威圧による統治や支配ではない)に留意することが肝要であると示唆するものである。
 にもかかわらず近年は、「財貨多きは徳傷(やぶ)る」といわれるように、財物的文明発展の反面で精神文明が荒廃し、とりわけ経済先進国においては、「衣・食・住が足り過ぎて、礼節・栄辱を忘れる」ようになり、事実、国際的シンクタンク機関の調査結果でも、国民の、国家の将来に対する希望や幸福感は、むしろ経済低開発国の国民の方が高く、経済先進国の国民の方が低くて、経済的規模は大きくても精神的には安定・安心感を欠き、苛立ちを感じてストレスを溜め、拝金主義で道徳倫理観が乏しいので、昨今のアメリカ・中国・ロシア・日本などの風潮や外交姿勢は「経大賎心国」とさえいえるのではなかろうか。
 とりわけ新興大国中国の国際法や外交の信を無視した独善的で横暴な領有権の主張と挑戦的な行為は、尖閣諸島やベトナムとの海上衝突のニュースを見ても目にあまり、国際的覇権、経済・軍事競争での優位性や勝敗に拘り、自国の利益本位、収益至上の拝金主義が支配し、所得分配の不公平さから貧富格差が極限状態にまで増大、政治・経済倫理や社会道徳観が衰退し、利権・賄賂政治の横行や凶悪犯罪が増加、かけがえのない地球自然環境の破壊や公害の深刻化、エネルギー・生産・食料など諸資源の枯渇化、科学技術や物質文明の急速な繁栄の影で、精神文明の荒廃など、人類の崇高な理性と理念による「経世済民」の真理を失念し、世界秩序混乱を招来した。これは裏返せば、巨大化の弊害から内政の矛盾が露見し、バブル崩壊、民衆の不満が鬱積し爆発寸前である証といっても過言ではなかろう。
 経済低開発国や発展途上国が、現在の国際的な民族・領土紛争の遠因は、過去に先進大国が蒔いた種子によるものであり、彼らの旧植民地であった国の国境線が直線的に仕切られていることなどからも理解できるように、各国それぞれなりの地政的条件や事情、価値観も異なるのを無視し、すべて優越的欧米流のエゴな考え方や制度を画一的に、その都合の良いグローバルスタンダードとして一方的に押し付けられることは不満、不快、その前に先ず彼らから率先垂範して、その責任を感じ、姿勢を改めるべきだと主張するのも当然であろう。

(2)格差社会の現状と、その功罪

 世界的に見ても、経済や知的水準などの格差が現実に存在し、それが益々増大し、庶民の不満が増幅する傾向にあることは、新興経済発展国BURICsの一員で、サッカーのワールドカップ開催を直前にしたブラジルでの、中流層の大規模デモや反乱の発生などからも明らかである。
 世界銀行の国際統計調査による所得分配の適正さ(ジニ係数)では、所得の階級別構成を見ると、高水準4~5階級の比率が、概して北欧諸国では25程度と低く貧富格差が少ないことを示しているが、同じくコロンビアが約80、ブラジルが約78、アルゼンチンが約77、南アフリカが75であるなど、概して中南米諸国が高く、先進国では、アメリカが約75、中国が約73、ロシアが約70、韓国が約68で、いずれも危険水準値の60を超えており、日本も約57とこれに近づきつつある。
 スエーデンは低水準1~2階級も25で、上位と下位のバランスがよいのに対し、アメリカは13、最低のパラグライは11.日本は20とバランスが悪く、簡単に言えばアメリカの場合、人口構成比では約85%と大分を占める低所得層の富の配分は約10%と少なく、人口構成比で8%弱の富裕層が富の約8割を独占していることとなり、中位層の減少が目立ち、貧富2極分化傾向が明らかなことを立証している。
 世界のGNI分布では、低所得国の人口構成比が約13%、GNIは約2%、中所得国が人口約70%、GNIが約25%であるのに対して、髙所得国では、人口約17%であるのにGNIが約73%とその大部分を支配しており、また、世界の国外逃避難民約4百万人の約80%がアフリカ、西アジア地域で発生しており、地域間格差が大きいことも示している。
 アメリカの褒め殺し戦略の罠に嵌められ、アメリカ流自由資本主義、投資金融や市場万能主義経済を導入し、バブル経済の発生とその破綻の悲劇を味わう事となった以前までの日本は、巧みな和魂洋才で、伝統の良さを温存しながら新感覚も採り入れ、平和で自由と平等、誠実な職人芸の精密高度技術、節度を弁えた、欧米とはやや趣を異にした独自の資本主義の国であるとの誇りを持ち、事実、所得分配の不公平さが少なく、一億総中流意識を持ち、犯罪の発生も少ない、安全で高福祉の国だと自負してきた。
 但し、こういった所得分配の適正さなどを国際比較するといっても、その資料の処理段階において、その標準を共通にする作業でさえ容易ではない。
 例えば、所得と一言でいっても、それが法人所得も個人も含めた総国民所得なのか、純粋の個人家計所得なのか、課税前か課税後の所得なのか、単純平均値か中位数か、加重平均値なのか(欧米諸国の統計は中位数、日本の統計では単純平均値が多用されている)など、各国それぞれの尺度や、政治的思惑を込めた操作データの公表といったこともあろうから、それを可能な限り真実のものに調整し、評価しなければならないからである。
 国際比較して、わが国の貯蓄性向が強い、税負担率が低い、労働時間が長い、有給休暇の取得率が低い、失業率が低いなどといっても、国家としての公的福祉体制が整っているか、労働の移動性があるか、勤務形態の多様性など、各国なりの事情や環境が異なるので、一概に単純比較できない点も多い。
 アベノミクスの成果で株価で上昇し、賃金も上昇傾向を示し、景気は順調に回復しているといっても、その調査対象は大企業が主体であり、中小零細企業の実態はとてもそんな好ましい状態ではなく、それとても大企業優遇税制や政策的支援があってのことや、業務純益より相場差益や金融緩和による余剰資金の金融投資運用収益、非正規社会比率の向上による収益労働分配率の低下など、弱者の犠牲によるものであり、消費者物価の上昇や株価の上昇はあっても、それは為替相場の影響や海外大手投資家が仕掛けた投機的相場によるし、賃上げを上回る物価上昇で実質的手取り家計収入はむしろ減少、一世帯貯蓄額が再び上昇に転じ、約1780万円になったとはいえ、それには全国約6千世帯のサンプル調査でしかなく、しかも立証書類を必要としない自主的記入回答であり、総務省がいう個人金融資産には非営利法人の金融資産も含まれていたり、その中位数は約750万円、純粋の都市勤労者家庭の預貯金には、時価評価の有価証券や保険の積立金も含まれ、一方、負債がある世帯の負債額平均値が約450万円であるから、差し引きした正味の金融資産は更に減少し、貯蓄ゼロの世帯数割合が約23%もあり、利は元にありであるから、先祖からの遺産で住居所得費が不要な者や不動産所得があり税制優遇の恩恵まで受けている者との資産形成には大きな差がつき、これらの恩恵に浴さず生活保護を受けている家庭が急増し200万世帯を超えるなど、バブル経済破綻後のわが国の所得分配は不公平、不適切であり、貧富格差は政策的に一層増大させる傾向を強めており、アメリカや中国などの海外経済頼み、海外投資家の売り浴びせがあれば株価は暴落するというリスクをやや不安定要因を秘めているというのが実態であるから、為政者の政治的人気取り、地位保全からのまやかし公表やデータを鵜呑みにし、騙されてはならない。

(3)所得分配の不平等性を拡大させた要因

 所得分配の不適正・不平等性を云々する前に、先ず所得(富の獲得量)の大小を生ぜしめ、決定づける要因から考えてみる必要があろう。
 地球という自然界で生息する生物は、人間のみならず動物や植物も含め、全て自然界の基本的な摂理・原則に従わないと生存を許されないが、それは①適者生存の原則、②適量安泰の原則、③弱肉強食・優勝劣敗の原則、④生者必滅の原則、⑤新陳代謝の原則、⑥共生・共存の原則、⑦相互作用・互恵の原則、⑧単独・独占不許容の原則の8原則であり、これにより万物は、大小・強弱それぞれなりに影響しあって、生存と再生で種族の維持が守られているのである。
 従って適度な好ましい競争と、その結果により応分の優劣・貧富・勝敗・生死が生じることは、自然界の均衡・安泰を維持するためにも必要で避けられない自然淘汰を通じた活性化の掟ともいえよう。
 だから百獣の王ライオンでも、力任せに全ての獲物を独占的に収奪し続けると、やがては自らの獲物が枯渇してしまうので、自分の生存必要量が満たされると、余計な殺生殺戮を慎み、他者にも獲物を分け与え、自然界の秩序を守っているのである。
 ましてや万物の長たる理性と優越的な能力を有する人間社会においては、なおさらこの摂理を遵守すべきであろう。
 だから競争や優劣・貧富の差の全てを否定するものではなく、要はその適切さと手法を人間の理性と英知で、どう判断し、どんな手段でコントロールするかであり、ここに勝ち残るために手段を選ばずといった過度な競争の抑制や、富の分配の適正・公正さを調整する必要があるのである。
 にもかかわらず、これまでの人間の意識や能力開発教育、経済・経営学の分野においても、富の効率的な獲得法や極大化策としての生産(供給)や消費(需要)に関しての関心は強かったが、自然界と人間、生産と消費など、互いの相互作用で得られる成果の富でありながら、その各分野への適切な分配についての関心が弱かったことは不思議で、誠に残念であったといえよう。
 それは財物的に豊かになった人類の驕りから、もっともっという過剰な欲望に煽られて、目先のエゴな国際競争での勝利や、手段を選ばぬ収益至上の拝金主義に陥り、大自然の摂理やものごとの真理、人間の行動の規範である道徳・倫理観、真の幸福や好ましい政治・経済・事業経営の原点とは何かと、自由の代償は自律と自己責任であることなどといった基本的に重要なことを失念した結果であり、豊かさの弊害としての精神性の衰退、過欲なる困窮といえよう。

(4)過当な競争や貧富格差の是正は可能か、その方策は?

 経済発展や事業経営に必要な諸要素は「モノ・カネ・ヒト・情報・システム」の5要素であるが、これらを有効に処理・活用して所期の目標を達成するのは、全て人間の正しい意思と判断力、行動態様による。
 故に、過当競争やその結果の貧富格差を、自由化時代だから容認・放任するか、あるいは、いかに自由とはいえ、理性と道徳倫理観から、ある程度の抑制などの是正は必要と考えるかどうかも、人間の意識や価値観、判断と決断、実践行動次第といえ、困難が伴うことではあろうが、皆がその気になれば、決して不可能でもなく、案外に舵の切り替えは簡単なことといえなくもない。
 このように考えると、この種の問題が人為的に生み出されるものであるから、先ず第1には、治世の最高責任者の理念や長期的ポリシーに基づく決断次第に懸かる。
 従って国民としては、選挙投票で国家と我々国民の招来を信任し得る良識あるリーダーを、表面的な人気に惑わされず、勝ち馬に乗ろうとすることなく、その人柄や力量、選挙公約などを慎重に吟味し、「国民の知的判断力以上の良い政府を持つことは出来ない」ということを肝に銘じ、厳選すべきである。
 国家も企業も家庭も同じで、それを運営するトップの理念や性格、姿勢が、恐ろしいほど、その組織の性格や成果に反映され、また同時に、そのトップを選任し、支持した者たちの意識が、その施政に影響を及ぼすことも大きいので、政治・経済などに無関心であってっはならない。
 第2に、治世のトップの理念や方針、姿勢が如実に示されるのは、国家予算の設計、税制、社会保障・福祉制度であり、それが国家を象徴し、それに国家が何に重点を置いているかの姿勢や国柄が表現され、それで国家の将来の命運が左右されることとなる。
 さて、安倍政権を読者各位は、どのように評価されておられるのだろうか?
 第3は、これらを正しく見抜いて評価し、その判断を適切な言動で表現し、実現させようとする国民一人一人の意識と知的能力、行動態様の刷新である。
 日本人には、先知恵の提唱も、後知恵のフォローもできず、ただ傍観者として陰で批判するだけといった風潮があることは好ましくなく残念であり、この点から革新しないで貧富格差の増大を放任し、現在のままの状態で推移し続けば、近い将来に貧富間で国家争乱が発生するとされる危機ラインを突破することは間違いなく、日本の将来が危惧される。
 しかし、平素は政治・経済に無関心でも、いざ土壇場という苦境に追い詰められると意外な良識の復元力と、団結、互助、粘り強さを発揮するのが日本人の特性だということに期待したい。

(5)まとめ…経済効率性は公平・平等性の調和を!

 経済活動や事業経営で、常に最も強調されることは効率化であり、効率性といえば、よく「最少の努力で最大の成果をあげること」とされるが、筆者は、最少の努力の投入では社員が保有する能力のフル活用にならず無駄を生じていることになるので、「最大の努力で最大の成果を…」と考え、投入価値に応じたそれなりの成果という均等状態でなく、投入価値以上の獲得成果があってこその効率化だと理解すべしと主張している。だから高率化の「率」は、ロープが左右均等の力でピンと引っ張られて弛まずムダ・ムラ・ムリ、つまりダラリとした状態でないことを意味する。経済活動でも、需要=供給の均衡が保たれいると好ましい状態、それ以上の供給>需要は、過剰欲望からの供給で生産資源のムダ使い、消費であるともいえ、こういった需給や投入価値(労働など)と獲得価値(賃金など)など、各種の不公平・不平等といったギャップが、過当競争や秩序の混乱、あるいは不満やムダの発生原因となるのだ。
 公平・公正・平等は一般的にはほぼ同じ概念で用いられるが、このように考えると、何もかも画一的な均等であることだけが平等ではなく、だから消費税が逆累進性の強い不平等な税だといわれるのだ。むしろ、投入価値に対する応分の評価や獲得価値があってこそ、はじめて本当に公正・公平だと感じることもあるのである。
 累進性の納税や、所得分配の多少、給与やボーナスの査定、賃借料や管理費などで差がつくことに不満や抵抗を感じないのは、それに見合った評価や反対給付に公正さ、合理的な適切さ、道徳的適正感があるかどうかにより、この種の円滑な運営や問題解決上、最も肝心な点だということになる。
 近年、国家としての経済規模は大きく豊かであっても、一般国民が生活の安心・安定感や将来への希望が持てず、幸福を実感し得ないのも、税制、社会福祉制度、労働や賃金などに関するトラブルや不満が多いのも、「人間は乏しきを憂うのではなく、等しからざること、明らかならざることを憂う」のであり、わが国行政や為政者の、治世の理念や長期的展望に立つビジョンとポリシーが不明確なこと、好ましい政治・経済の原点が道徳律と国民生活の安心にあることを失念し、一部に偏重した制度的優遇など、富の分配の公正・公平さに疑問を抱いていること、諸種の決定や制度設計に対する事前の予告・PR・不足や情報公開の不透明さなどを感じていることなどに起因している。
 政治・経済など全ての改革は、国民の理解と支持・協力なくしては成功しない。今後の日本再興隆で志向すべきは、「民衆・知本主義社会」の実現であろう。

著者プロフィール

経済評論家・ビジネスドクター 芦屋 暁(あしや さとる)

幼少期の貧苦体験から「十分な教養があれば民族も国家も企業も個人も安泰」との信念を抱き、一生涯を人間能力の開発と日本経済・産業の発展に捧げる1本の杭になろうと決意し、都市銀行勤務を中退してフリーの経済評論家・経営コンサルタントの道に転身、大学の教鞭やマスコミ出演を経つつ、過去通算で全国約3千市町村を講演歴訪した実績を持ち現在に至る。庶民派で皮膚感覚の簡明率直な解説がモットー。

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