ホーム > 最新記事 > 時局レポート > 2014年 > 合意を迫られるTPP

合意を迫られるTPP

  • RSS
  • お気に入りに登録する

公開日付:2014.05.23

4月23日の米国オバマ大統領の訪日を目標に、合意締結・共同声明発表を迫られ、その参加の是非を巡って国論を二分していたTPP(環太平洋経済連携協定)の協議だが、双方の厳しい主張に歩み寄りの姿勢が見られず、3日間の大統領滞在期間中には纏まらず、対立焦点の絞り込みと今後の協議継続、年内妥結への筋道を確認し合っただけに終わったが、両首脳共にこういった結果を予想していたのか、それほど落胆の表情ではなかったように感じた。
筆者としても、既に協議参加の意思表示を明確にしており、後は内容・条件のすり合わせの段階であるから、アメリカの圧力や煽りに臆して拙速導入することなく、相手の言い分にも耳を傾けながら、当方の主張も理由を具体的に説明して、理解・納得を求めるに言葉と努力と時間を惜しまず、焦らずに慎重審議すべきであるから、むしろこれでよかったし、その間に国内の意思統一を図り、受け入れ体制の整備に努めることが賢明と考える。
わが国としてはこれまでにも、関係約20カ国・地域との間でこの種の自由貿易や経済連携の協定を結んできた。
しかしTPPは、アジアで第1位、世界でアメリカに次ぐ第2位にのし上がった中国を抜きにした、実質アメリカ主導で、自由主義経済の枠組みの共有であること、単に貿易や経済面だけに止まらず、医療や金融サービス、環境、衛生、労働など約21分野と多方面にわたり、特に貿易関税については完全撤廃を目指すという大胆な国際協調の協定をであるという点が、これまでの諸協定とは大きく異なる。
民主党が主体の野田政権以来の懸案であったTPPへの参加是非については、発足当初の参加国であったニュージランドなどの中小国を主とした関税完全撤廃などの協定条件を尊重し無条件に従うこととされていたが、その後漸次アメリカが実質的に主導するようになり、このアジア・太平洋地域での支配力を強めようとする経済戦略的見地から、経済大国と中小発展途上国とのギャップを調整することにより協定の確立を急ごうとする思惑もあって、関税の完全撤廃を最終目的とするが、その過程として、特定の分野においては段階的な関税引き下げといった弾力的な容認の余地も残されているといったことが明らかになるに及び、野田政権を引き継いだ自民党主体の安倍政権としては、この協定交渉への参加を昨年3月に公式に表明、同年7月から会合に参加し、米国と同調し本年内に大筋合意を目指すこととなった。
安倍総理は、アベノミクスが標榜するデフレ経済からの脱却、持続的経済成長路線への軌道乗せを成功させるためにも、アジアの新興国を中心とした世界の経済市場は拡大しており、この成長市場に積極的に打って出て、ここで主要な地位を獲得し、世界貿易戦争で勝利を得ることは絶対に必要であり、そういった意味からも、TPPは日本再興への切り札になると前向きな強気姿勢で、今がラストチャンスだし、日本の農業、食と安全を守ることを約束すると公言し、財界やマスコミもこの決断を歓迎し、例えば読売新聞は、「日米を軸にした自由貿易圏づくりで、日米同盟関係を強化する」、産経新聞は、「中国を睨んだ戦略的な意義が大きい」、朝日新聞は、「自由貿易の原則と相入れない面が残る中国に改革を促す効果がある」、日経新聞は、「いずれは中国も巻き込み、日本が東アジア地域の包括的自由経済の指導役を担うものともなる」などと、これまでの警戒的な姿勢を一変させて高く評価している。
とはいえ市場経済活動には、常に明暗、表裏、強弱、勝敗、損得などの両面があり、また各国それぞれなりの地政学的環境条件の差異や、特質や弱点もつきものであるから、グローバル・スタンダードなどといった画一的な統一基準、諸規制の撤廃による完全自由化、国際経済開放が、必ずしも全ての国や民族にとって公平であり、幸福に連なるとはいい難いものがあり、したがってどんな時代、どんな場面になっても、人間の崇高な理性によるある程度の自律や自主規制、互譲の精神が重要なことも忘れてはならない。
参考までに改めて、TPP協定の21分野と、その内容、わが国経済、産業への影響と功罪の功罪を整理しておこう。
[TPP交渉21分野の内容と、わが国への影響](政府公表資料による)

1.物品市場アクセス…関税の撤廃や削減

日本製品を輸出する場合にかけられる関税が撤廃または軽減されるので、輸出に有利。反面、海外からの輸入の場合、その製品に関税がかけられず、安い製品が大量に輸入販売され、価格競争力のない日本の産業、商品を圧迫することとなりかねない。消費者にとっては海外の製品が安く買えて有利だが、生産コスト高な酪農産物など、生産業者にとっては死活問題となる。

2.原産地規制…関税引き下げ対象商品の基準設定

制度が簡素化され、企業や税関の事務が合理化されるが、輸出企業などに原産地の確認体制づくりが求められる可能性あり。

3.貿易円滑化…貿易規制の透明性向上や手続きの簡素化

手続きの簡素化で、特に中小企業の負担軽減、貿易促進に連なる。

4.衛生・植物検疫…輸入食品の安全確保など

個別案件ごとの慎重な検討が難しくなり、安全向上の反面で手間が煩雑化。

5.貿易の技術的障害…製品の安全・環境規格が障害にならないようにする

協定による情報交換を通じ、問題解決が加速化する。一方、規格策定段階で相手国関係者の参加規程が設けられる可能性もあり。

6.貿易救済…国内産業保護のための一時的な緊急措置(セーフガード)

外国政府によるアンチダンピング措置の運用が抑制される反面で、セーフガード措置発動の条件が厳しくなることもある。

7.政府調達…中央・地方政府による調達ルールの制定

外国政府により高い水準の内容を求めることが可能になるが、逆に日本政府の調達基準額引き下げが求められることも。

8.知的財産…模倣品や海賊版の取締りなど

自国の知的財産保護の促進となる。他国の制度との整合性が取れない規定が採用されることも生じる。

9.競争政策…カルテルなどの防止

海外当局との協力促進。日本の法制度との整合性が取れなくなることもある。

10.越境サービス貿易…サービス貿易のルール制定

サービス業の海外進出拡大。国内法制度の改正が必要な場合も生じる。

11.商用関係者の移動…ビジネスマンの入国・滞在ルールづくり

商用ビジターの相手国滞在時手続きの迅速化。

12.金融サービス…国境を越える金融サービス提供のルール

金融業の海外ビジネス展開が容易になるが、一方で郵政・共済などに対応を求められることともなりかねない。

13.電気通信サービス…通信事業者に求める義務などのルール

通信事業者の国際取引が容易になる一方で、国際的な国家機密の護持やセキュリティー管理面での不安が増大する。

14.電子商取引…電子商取引の環境整備とルールづくり

日本企業の電子商取引機会拡大、従来の個別取引き条件の修正が必要となることもあり。

15.投資取引…外国の投資家を差別しないことなど

日本企業の海外投資環境の改善の反面で、国内法改正の必要もあり。

16.環境…貿易・投資などの促進のために、環境保護基準を緩和しないこと

環境保護面で先進的な日本企業の競争力確保、その一方で日本の漁業補助行政や、特定魚類の捕獲などが問題とされる可能性もあり。

17.労働…貿易・投資促進のために、労働基準を緩和しないことなど

日本における事業コストが相対的に上がるのを防止。

18.制度的事項…協定の運用について協議する合同委員会の設置

ビジネス環境の向上に繋がる。

19.紛争解決…協定の解釈不一致などによる紛争を解決する手続き

既存の経済連携協定の手続き規定に基づき協議する。

20.協力…協定の合意事項を実施する体制が不十分な国への支援

日本企業の海外ビジネス環境の整備。

21.各分野の横断的事項…複数分野にまたがる規制・規則が通商の障害にならないように定める規定。

現時点ではこの種の論議がまだまとまっていない。

以上のような事項を総合的に考察すると、わが国のみならず多くの国は、各国それぞれなりに、国際的な経済・通商貿易競争の場合において有利な点も不利な点、攻め勝てる分野と守りたい分野の両方を抱えており、これらの環境に恵まれた特定優越国の都合だけで威圧的にルールを決め、そのシステムや手法に統一的に従わせようとすると、総論は結構でも各論では問題があり、必ず不満や反発が生じ、論議はなかなかまとまらず、合意の成立、実際運用の円滑化と成果は得がたくなるであろう。
従って日本の相撲競技のような、同じ大きさの土俵、同じルールで、体力差がある小者にとっては、同じ条件と手法で対等に闘い、勝ち抜こうとすることは容易ではなことは明らかであり、ここは優越者にこそ、弱者を支援して育て、総体としての新規需要の拡大、域内経済の発展につなげるという寛大な精神と指導力が要求されよう。
本来、わが国の相撲は、手段を選ばず、実力本位の対等の取っ組み合いで勝ち負けに拘る格闘技というより、フエアな武士道精神を体現した、礼儀や作法、形式美を重んじる儀式的なショーだったのであり、古代のローマの格闘競技場で見受けられたような、屈強な男と猛獣との闘いや、武具を用いた死闘とは根本的に趣を異とするものであったのだ。
したがってTPP協定が、人類の理想とする真の国際的な自由闊達な活動、平等と互恵を通じた世界の平和と安定、格差なき物心一助繁栄と幸福を希求するものであるなら、各国それぞれの立場や事情を斟酌して尊重しあい、互助・互恵の精神とジェントルマンシップで、楽しく互いの特性や技を競い合うという、相手の力量に応じた公明な基準でのハンディキャップを認め、審判なしでも自律でルールを守り、スコアーを自主申告で公示しあい、共に切磋琢磨して成長を目指すという、紳士のスポーツといわれるゴルフ競技のようなものであることが望まれる。
TPP交渉は利害関係が複雑である上に、実質的に超大国アメリカが独善的に主導していることに対する当初参加の発展途上国の不満も潜在しており、その間を調整する役割を期待した日本についても、現段階ではその参加による存在感は発揮されておらず、むしろアメリカへの配慮と同調姿勢が目立つと不信感を抱かせている。
しかも、その良きパートナーであるはずの日米間においても、実際的な各論の対立で交渉が難航しているのが実状といえよう。
申すまでもなくTPPは、太平洋地域の豪州、シンガポールなどが発案・提唱し、それにアメリカなっどが加わった12カ国の参加国間で、新たな自由貿易のルールを決め、これでより自由度の強い相互貿易の促進、経済発展を図ろうという純粋な経済連携協定づくりで、その分野は前記した21分野の多岐にわたり、これを包括的に決めようというものであり、今後、この理念に賛同し参加を希望する国があれば、先発既参加国全ての審議と合意で承認するというものであったが、漸次アメリカの主導性が強まるに連れ、世界第2位の経済力に急成長し、軍事力を強め、アジアの覇権を画策する新興中国を警戒、これを牽制・抑圧し、排除するという、極めてその国際政治・外交・軍事の戦略的意図が組み込まれたものに変質することになり、それに日本も引き込んで同調させ、より早期の協定締結、実効性を発揮させようと焦る、「アメリカによる、アメリカに都合が良いものにするのためのルールづくり、ある特定国や団体が恩恵を受けるための“管理貿易協定である(注:ノーベル経済学賞受賞、米国コロンビア大学のJ/スティグリッツ教授の論文より)」とさえいえるものになった。
ここでいう特定団体とは、おそらくオバマ大統領を支える、ユダヤ系アメリカ人が支配する金融・証券・保険業界、知的財産権の分野に関係する製薬業界と娯楽産業界、農産業界などであろう。
したがって、TPPに参加しないと日本は世界から取り残されて孤立するなどと政府筋や財界、御用マスコミや学者は喧伝しているようだが、その実態は、上記のような崇高な理念によるものではないし、アメリカの対日姿勢も、自国に不都合な知的財産権や医薬品・自動車・食品などの安全基準などは頑固に守って譲ろうとせず、自国が圧倒的に有利で、日本が嫌がる牛肉やコメなどの痛く弱い点は容赦なく突いてきており、とても友好国扱いではないのだから、この交渉に際しては、その脅しや圧力に怖れたり、褒め殺し謀略の罠に嵌められることなく、堂々と粘り強く、主張すべきは主張すること、アメリカに対する配慮からの付き合い同調に拘らず、独自の立場からの見識で、対中関係や他の近隣アジア、国際的視野や配慮も忘れないことなど、以下の事項に留意すべきであろう。
国際的な貿易や経済連携に関しては、わが国も既に、多国間の貿易ではWTO(世界貿易機関)に加盟しており、二国間では、EPA(経済連携協定)があり、個別の貿易・関税協定も大小十数カ国と結んでおり、十分に自由貿易、経済開放、国際協調を行っており、自虐的な非難ほど後進的でも閉鎖的でもない。
TPP論議といえば、日本ではコメなどの農産物や水産物の自由化、関税問題に焦点が当たるが、この総括的な協議の場では、それらは21項目の関税についての作業部会(物品市場のアクセス)の中の一つでしかなく、むしろ関心は、アメリカが重点を置く知的財産権の保護や金融サービスの自由化に置かれているということである。
TPPのような自由貿易ルールは、アメリカにとって都合が良い対外戦略に則ったものであり、これまでにもアメリカは、カナダ、メキシコと共にNAFTA(北米自由貿易協定)を構築し、その結果、アメリカが得意としており強い金融投資で、カナダ、メキシコへの投資が急増し、経済的支配が進展した。
TPPのTPはトランス・パシフィックの頭文字だが、その一部である東太平洋沿岸国市場は既にアメリカに支配されており、今度は西太平洋沿岸地域(アメリカから見ての東・西の表現)まで含めた広大な太平洋沿岸全域を支配下に置こうとする策略の一環であり、決して全太平洋沿岸諸国の経済発展を願い、支援を主導しようとするものではない。TPPの参加国が西太平洋沿岸国に限られているのは、アメリカの中国に対する経済・軍事的封じ込めと自国の防衛戦略に重点が置かれている証と見るべきであろう。
アメリカはNAFTAに引き続き、これをFTAA、つまり北・中・南の全米大陸を包括した自由貿易地域の構築を提唱しており、彼らの念頭にあるのは、世界の平和と安定的秩序の確立、経済発展より、自国の支配力の拡大と権威の復権にあり、日本はその目的達成のための都合が良い隷属者でしかなく、不都合が生じたり対抗意識や反抗姿勢が少しでも見えると、簡単に見捨てたり、日本叩きに変節することは過去の実例から明らかであるから、この善意に縋り、余慶に預かって良しとするような考え方は甘いと認識すべきであろう。現にFTAAは、ブラジルなどの大反対があって頓挫しており、中南米諸国はこれに対抗し、北米抜きのCELAC(中南米カリブ海諸国共同体)を2011年に発足させ、アメリカは自国の裏庭から追い出された状態になったので、その威信回復のために、アジア・太平洋地域に目を向けたともいえる。
わが国としては、こういったアメリカの問題点や弱点、焦りの背景を見抜き、逆手をとってこれをうまく操り利用するぐらいのズル賢さと、対等のパートナーという気構えで巧妙な戦略的外交と交渉の場に臨み、切磋琢磨の競争は進化への足がかりと前向きに受け止め、主体性をもってじっくり慎重に対処することが得策であろう。

著者プロフィール

経済評論家・ビジネスドクター 芦屋 暁(あしや さとる)

幼少期の貧苦体験から「十分な教養があれば民族も国家も企業も個人も安泰」との信念を抱き、一生涯を人間能力の開発と日本経済・産業の発展に捧げる1本の杭になろうと決意し、都市銀行勤務を中退してフリーの経済評論家・経営コンサルタントの道に転身、大学の教鞭やマスコミ出演を経つつ、過去通算で全国約3千市町村を講演歴訪した実績を持ち現在に至る。庶民派で皮膚感覚の簡明率直な解説がモットー。

資料請求・お問い合わせはこちら。お気軽にお申込み下さい。

製品詳細・資料請求・お問い合わせに関して

製品に関する詳細情報、料金体系につきましては、「資料請求・お問い合わせ」ボタンをクリック後、以下の手順でお問い合わせください。

  1. お問い合わせ種別:「お問い合わせ」を選択
  2. お問い合わせの内容:「○○○」(任意:質問事項・要件など)とご記入
  3. ご連絡先:必要事項を入力し、送信してください。
このページを見ている人はこんなページも見ています

重要な経済指標である倒産をベースに国内経済を把握できます。
倒産月報・企業倒産白書

倒産情報や債権者リストなど経営判断に欠かせない情報誌です。
TSR情報誌(倒産情報誌)

国内を含めた世界最大級の多彩な企業情報をオンラインでご提供!
インターネット企業情報サービス(tsr-van2)

1日2回、最新の倒産情報をメールいたします。
TSR express(TSR情報Web) -倒産情報配信サービス-

TSRネットショップ TSRの商品がオンラインで購入できます!

インターネットエラベル TSRがオススメする就職・営業に役立つ地域の優良企業紹介サイト

TSR Express 1日2回の倒産情報配信・検索サービス

メルマガ登録 無料セミナーやイベントを優先的にご案内!

ページの先頭へ