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国論を二分するTPPの功罪

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公開日付:2013.04.05

1 黒船外交の二の舞か三度目の正直となるかTPP交渉

幕末の1853年(嘉永6年)6月に黒船と称されたアメリカの軍艦4隻が、日本に開港・通商を求めて初来航してから今年で160年目になる。
翌年には7隻の軍艦と約500人の海兵や使節を引き連れて再来航し、威嚇的外交で幕府に日・米通商条約の締結を求め、これでわが国は、鎖国か開国か、佐幕か尊皇攘夷かなどと国論が二分して大混乱し、挙句に1656年には、下田にハリス初代駐日総領事を迎えて日・米修好通商条約の調印をすることとなった。
しかしその結果、日本の国内は大混乱となり、結局は、世界的にも稀有な264年もの長期にわたった太平の世と徳川幕府が崩壊し、やがて大政奉還、明治維新を迎え、その後日本は、欧米亜流の近代化、富国強兵・殖産振興への路線を突き進んだが、この修好とは名ばかりの不公平な通商条約の改正までには数十年を要し、同時に国際戦乱の渦にも巻き込まれ、ついに太平洋戦争での敗戦へとなった。
当時はまだ情報開示が不十分で、真実の歴史が公明に国民に知らされることがなかったが、今この間の事情を冷静に振り返ってみると、わが国は常に、プライドが高く、自国の権益と優越性確保のため、世界覇権の野心を秘め飽くなき領土拡大と富の独占的支配を企む欧米諸国に、畏敬の念を持つ反面で空威張りの対抗意識を持ち、それに見習い追いつけと追従し、その狡猾な国際外交戦略の思惑次第で都合よく振り回され、利用されたり、少し力をつけると逆に妬まれて叩かれたり、褒め殺しの罠に嵌められてきたといえよう。
こういった観点から、目下、国民的関心が高まって世論を二分しているTPP参加の是非を考えると、現在の国際情勢や経済環境などからも、幕末の日・米修好通商条約と似通っており、その二の舞にならないかが懸念されてならない。
にもかかわらず、今次のTPP参加問題に関しても、弥縫策の心理的効果で株価の回復と円高修正という一応の成果を得て自信を深めた安倍政権は、これを好機として、「オバマ米大統領との会談で、聖域なき関税の即時撤廃でなく、双方の重要項目について調整の余地ありとの感触を得たから」と、幕末、第2次世界大戦の敗戦による民主化に次ぐ三度目の開国ともいえるTPPへの参加交渉に入ることを、「国家百年の計として、今が世界の時流の波に乗り遅れないためのラストチャンスだから決断した」と表明するに到った。
ここで勘違いしてならないことは、今回のこの首相表明は、「交渉の場に出向いて話し合いをする決意をした」というだけのことであり、まだ入り口に立ったわけでもない。
しかし大切なことは、現段階ではまだ十分とはいえないTPPの内容をよく理解し、その真の意図や実態を見抜き、参加の是非を冷静に判断し、それに対処し得る国内態勢を整えるなどの準備をしてから、慎重に交渉の場に臨むことである。
それにしても、野党時代にあれだけ民主党のTPP参加検討の意向を激しく非難してたのに、与党になった途端の極端な変節は、本当に国家の将来や国民の生活を考えてのことであろうか。何か極秘の裏取引があったのか、それとも強かなアメリカを相手に、外交折衝で打ち勝つ余程の自信があってのことであろうか?
国際的な経済連携や貿易の促進策は、なにもTPPへの加入だけが全てではなく、これに不参加でも、2国間でのFTAなどといった方法もあり、その方が双方の利害調整交渉が比較的にし易いし、事実、わが国も既に10数カ国・地域との協定を締結しており、また経済発展や輸出競争力は低価格だけでなく、世界のニーズに応えられる最高水準の技術や品質を保持し得るなら、日本が今、早急にTPPに参加しないと世界から取り残され孤立するといったことはないものと考える。
スイスなどはこういった量より質の姿勢で、独立独歩の永世中立国として、地味ながらも健全な国家運営を維持している。それに昔から、他から持ち込まれた急ぎの商談で、よい成果を得ることはないとも言われているのだから。

2 TPPとはどんな協定か?

TPPに関しては、黒船の来航時と同じように、国中が大変だ大変だと大騒ぎをしている割には、その正体の明確な情報量が少ない上に、これを実質的に支配し、わが国にも強圧的に加入を迫っているアメリカそのものへの全幅の信頼がおけないこともあって、賛否の判断がし難く、不安を払拭し切れないものがある。
そもそもTPP(Trans Pacific Partnership…環太平洋経済連携協定)とは、近年、世界の各国・各地域間で締結される傾向が強まり、現在既に世界中で100余の協定締結機構が存在する自由貿易協定(FTA…Free Trade Agreement)のことだが、FTAが「関税撤廃を原則とする自由貿易協定」だといったイメージがあるので、それを前面に押し出すと刺激が強過ぎ抵抗があるので、日本ではTPPをあえてFTAだと説明せず、「戦略的経済連携協定」とまやかし表現をしているのである。
FTAの主要目的は、協定加盟国間や地域内の経済協力と結束を固め、相互の貿易関税を原則撤廃し、自由な経済交流や貿易取引を活発化し、激化する国際的経済・貿易競争での優位性を高めようとするものである。
しかし反面、全世界的視野での平和と親善交流、自由解放経済の促進を希求するというより、経済活動のブロック化、協定グループ間の保護主義となり、それぞれのエゴな国益優先や優位性確保を図るあまりに、非加入他国・地域との競争激化や軋轢、経済的支配領域の囲い込みや分捕り合いで、排他的となり、経済の領土問題とも言われるようになりかねず、更には加盟国が多くなると、個別的な例外を抑制して統一的な基準設定が必要になり、そうなると国力に優る主導国が有利であることは明らかであり、EUの例もあるように、加盟国間の国力差からの主導権争いや不協和、下手をすると苦境の連鎖といった難点も生じ、さりとて重要項目(センシティビティー)の関税撤廃例外品が増加すると、本来の崇高な理念が骨抜きになり、地球規模の平和と繁栄を阻害するといった問題を抱えることにもなる。
これでは本当にグローバル化時代の国際協調、自由主義・開放経済体制といえるのか、矛盾があるのではとの疑問がある。
さて、今回わが国が交渉参加を表明したTPP、つまり日本語表現では「環太平洋戦略的経済連携協定」は、2006年に、広域太平洋沿岸国である、シンガポール、ニュージランド、チリ、ブルネイの4カ国が話し合って制定し発効したFTA協定(Pacific4協定。P4と通称)に端を発するが、当初は(1)協定国相互間で輸出入する物品やサービスの関税を即時あるいは10年以内には例外なく完全に撤廃することと、(2)近い将来、この協定の4カ国以外への拡大を予め想定し、APEC(アジア太平洋経済協力)の広範な自由化プロセスへの支持を明記し、新たに加入する国のための加入条件を設けていることの2項を大きな特徴としていたものの、加盟4国の国力や世界GDPにおける影響力が小さく、いずれも貿易依存度が極めて高く、海外からの投資を呼び込みたいといった事情も抱えていたので、世界で初のアジア、オセアニア、南米といった異なる3広域地区間でのFTA協定でありながらも、国際的にも日本でも、あまり注目を浴びることがなかった。
この段階での拡大参加国の対象は、主として広域太平洋沿海の主として中小規模発展途上国同士の純粋な互恵・連携強化におかれていたが、物品やサービスの貿易、政府調達、知的財産権、研究・科学・技術、教育、文化、一次産業などの分野での相互協力、環境保護、労働など広範な分野を対象とした大きな構想の協定であった。
やがて2008年に、当初の協定には含まれていなかった「投資」と「金融サービス」の分野の自由化を話し合う交渉の過程で、その先進国であり、圧倒的な市場と競争力を有するアメリカが、豊富なノウハウを提供し支援するということで参加することとなってからは、世界からの注目が急速に高まる反面で、アメリカ主導の機構色が強まり、理念や内容が変貌した。
さらにその後、カナダ、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、ペルー、メキシコが加わり、2012年末では計11カ国での構成となっている。
但し、TPPそのものは本来、開かれた枠組みだが、新興大国中国の加入はアメリカが望まず非現実的で、むしろ中国締め付け戦略の一環と考えており、中国もまた、アメリカの実質主導であることを嫌い、中国はずしに反発し、加盟することより対抗策を講じつつある。
従って日本は、どちらの陣営からも注目され、期待され、袖を引っ張られており、世界経済や貿易面では無視し得ない重要な存在なのだが、政治・外交面では、頼り甲斐のある良きリーダーや仲間としての存在より、組しやすい相手とみられ、都合よく利用されようとしている事は誠に残念である。日本はこういった立場を、逆にうまく駆け引き交渉に利用して攻勢の姿勢をとれば、攻め込まれるマイナスばかりと怖れることもなかろう。
実質的内容も、極めてアメリカの国際政治・外交・軍事・経済戦略的思惑で運営・支配されるように変貌し、新規参加に際しても、遅れて新規参入する国には、既成の規定の改正には口が挟めず、聖域の例外要求も認めず、先行参加各国の承認が必要で、「これから交渉に参加する日本には交渉の余地がない、アメリカが弱くて不利な分野や既得権益の保護は今後も貫き、国益に反する事項の調整要求には断じて応じないなどと身勝手で、まるでアメリカへの従属と忠誠の踏み絵を踏ませるかのような横柄な文言がアメリカの内部機密文書には記載されているとも、オバマ大統領は、既参加国向けと日本向けとでは、微妙に表現を使い分けしているといったことも漏れ聞く。
そうなると、TPP本来の弱小国による相互協力・互恵という理念の純粋性が薄められ、自由化の検討分野も「衣・食・住(生活環境)・教育、金融・保険など国民生活の全てに及ぶ多岐なものに拡大し、すっかりアメリカのご都合主義になってしまって、当初の創案国は戸惑っているのがTPPの現在の実態といえよう。
ちなみに2010年末のTPP参加9カ国の名目GDP総額は約16,031億ドルであり、内アメリカのシエアは約88%と断然トップ、これにもし日本が加わると、名目GDP総額は約21,100億ドル、この巨大2国のシエアは約91%と更に高まり圧倒的であり、この日本を含めた名目GDPの総額は、世界シエアで約36%と断然1位となる。
貿易額においても(2010年末)、現TPP参加9カ国プラス日本で総額約50,485億ドル、その内で日・米の合計シエアは約73%、同じく世界シエアは約41%とこれも世界1位となる。
わが国でTPP参加の是非に関心が高まるようになったのは、2010年に民主党の菅首相が、国会で参加を検討する必要性を主張してからのことであり、同年11月に横浜で開催されたAPECでもこれが議題に採り上げられ、開会挨拶で菅首相が国際的にも日本の「平成の再開国」を宣言してからは更に火がつき、既得権益を護持しようとする農業関係者などの反対派と、企業の海外飛躍を目論む財界などの賛成派とで国論を二分する論議が活発化したものの、多くの関係者は、未だに事実の情報開示不足と疑心暗鬼から判断に迷っているというのが現況であろう。

3 FTA協定をめぐる世界の動向

世界の動きも、FTA協定の締結促進で複雑な経済ブロック化が加速しており、目下は「日本・中国・韓FTA」、「ASEAN+6カ国のRCEP」、「EUと日本などとのFTA(HEU・EPA)」、「アメリカとEUとの環大西洋貿易投資協定(TTIP)」などの協議が進められているが、こうなればロシアも何らかの対応を見せるであろう。
今回、アメリカが日本の早期参加を強圧的に要請している背景にも、こういったアメリカの国益本位の国際的謀略、対中締め付けの思惑が秘められており、日本はちょっと脅かせば自分らの言うままになり扱いやすいので、取り込み利用しようとするものであり、決してアメリカは、日本がアメリカ以上に繁栄することを願ったものでないことは過去の例からも明確であろう。
安倍首相は、交渉参加表明後の記者会見で、「これでTPPは、アジアと太平洋沿岸諸国の未来の繁栄を約束する枠組みとなり、太平洋はモノ・カネ・ヒトが自由に行き交う豊かな世界の内海となり、もちろん日本の国益にもプラスである」と、肩の荷を降ろしたかのような上機嫌さで話したTV画像が全国に流されたが、まさか本気でそう思っているほどの能天気な楽観主義者ではないと信じたいし、せめて「各国がそれぞれ自国の国益を主張し合い、互譲・互恵の精神を忘れたのでは、この種の国際協定は実質的に機能せず、世界の平和と経済の発展にも益しないので、世界をリードする日・米の両大国から共に痛みを分かつ模範を示そうではないかとアメリカに提案し、協調・了解の約束を取り付け声明を書面にしたので、国民の皆様にも、大変厳しい道のりになることは重々承知しているが、国としても早速に、取り敢えずの万全な準備と具体的な対応策を十分に講じるので、夢のある未来の日本創造のため、自分を信じていただき、なお一層の理解と協力、精励・努力をお願いしたい」ぐらいのことは、心を引き締めた顔で力強く言って欲しかった。
安倍政権は、これからこそが本当に大変な正念場であり、プラス発想と強気は結構だが、虚勢を張ったハッタリや、目先の人気取り、選挙での支持率稼ぎであってはならず、これらの厳しい国際事情も熟知した上で、日本の国益護持を主張し、聖域なき関税撤廃に風穴を開け、重要事項の調整に成功するため、狡猾で巧妙な対米交渉に勝ち得る余程の自信を持ってのことや、他の参加国から快い歓迎と承認が得られると読み込み、根回しをした上で、今回のTPP参加交渉に踏み切る決断をしたのだろうか、与党内は一枚岩にまとめられたのであろうか?
国内の金融緩和策などによる戦略的経済成長策においても、「万一、物価上昇2%アップでデフレ解消を図り、経済成長路線に転ずるとの約束が守れなかった場合の対応や責任はどうするか?」との国会質問に対する関係部門長の回答は、「自分が辞任して責任を取る」といったものであったが、国際・外交的影響力が強く、日本国の将来の命運がかかるTPP参加に関しては、個人の辞任だけで済むものではない。

4 TPPに関する国際外交折衝で日本が留意すべきこと

今後益々激化するであろう経済ブロック化の手法であるFAT=TPPという排他的手法は、世界各国・人類全体の平和と繁栄を希求する崇高な理念とは全く主旨を異にする、いかにも狩猟民族アングロサクソン的発想とアプローチ策であり、新しいタイプの経済的な領有権戦争と言われる所以であろう。
戦争である限りは勝たねばならず、オール・ウインはなく、負ければ衰退か死滅となるので、先ずは「敵を知り、己を知れば、百戦するも危うからず…」であり、そのためには、いみじくもTPPの和訳が「戦略的経済連携…」とあるように「始計第一」、つまり勝つべくして勝つための長期計画的な取り組みと仕掛けや態勢作りが先ず肝要だ。
敵を知るという面では、交渉相手に関する情報量の多さが勝敗を決めるので、情報収集体制の整備と、その情報の正しい判断と活用である。狩猟民族のアングロサクソンは、勝てる見込みがある戦いしか仕掛けず、数の力を重んじ、勝つためには手段を選ばず、徹底的に叩き潰そうとし、やられたらその3倍の仕返しをし執念深いが、強者とはまともに戦わず避けたりひれ伏し、無差別テロのような焦点を絞らせないヒット・アンド・アウェイの陽動作戦や小回りが効く機動作戦には案外弱い。故に弱気を見せたら負け、自己主張を明確にしない日本流の謙虚さは誤解され、通じない。
外交戦争では、先ず自国の国内政治や経済を健全で安定したものとし、足元の弱さを敵に見透かされないことと、先ず自己の守りを固めてから、攻勢に打って出ること、攻めるときは、彼我の力量を冷静に比較考量し、強者か弱者かで戦略を切り替えること、相手の弱点を見抜き、そこに焦点を当てて重点的に攻め、拠点を確保し、漸次それを拡大して行くこと、部分的「イエス」の累積、自己中心でなく相手の立場も斟酌し、落としどころを弁え、戦いの勝利を6~7部に止めることなどが鉄則である。今後の本番での安倍首相の、賢明な判断と指導力、強固な意志と実行力を期待したい。

著者プロフィール

経済評論家・ビジネスドクター 芦屋 暁(あしや さとる)

幼少期の貧苦体験から「十分な教養があれば民族も国家も企業も個人も安泰」との信念を抱き、一生涯を人間能力の開発と日本経済・産業の発展に捧げる1本の杭になろうと決意し、都市銀行勤務を中退してフリーの経済評論家・経営コンサルタントの道に転身、大学の教鞭やマスコミ出演を経つつ、過去通算で全国約3千市町村を講演歴訪した実績を持ち現在に至る。庶民派で皮膚感覚の簡明率直な解説がモットー。

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