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本格化する米中貿易戦争(米中冷戦)

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公開日付:2018.04.16

3月23日、米国が鉄鋼・アルミの輸入制限を発動、狙いは中国

 1年前の本誌2017年2月22日号「トランプ米大統領が構築する世界」で、「トランプ大統領は、第2次世界大戦後、米国主導で構築された世界の経済・金融・貿易・安全保障体制など、世界の現体制・国際秩序の破壊と新たな体制・秩序の構築を目指していると思う」「トランプ大統領が構築する新しい世界の中で、世界的な影響が最も大きいと考えられるのは米中冷戦の構築だろう」と述べた。さらに、2018年1月25日号「2018年の展望とリスク」で、「2018年のリスクとして、米中冷戦、なかでも米中貿易戦争の激化を懸念している」とコメントした。2018年になり、予想どおり、米中貿易戦争が本格化してきた。米中貿易戦争は、軍事力を用いた対決(hot war)ではなく、軍事力以外の手段で展開される冷戦(cold war)である。
 トランプ米大統領は3月1日、鉄鋼とアルミニウムの輸入増が安全保障上の脅威になっているとして、輸入制限を発動する方針を表明し、輸入制限を発動する大統領令に8日に署名した。鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を3月23日から課すことになる。発動期間は無期限である。今回の措置は、安全保障を理由にした輸入制限の実施を認める米国の国内法である通商拡大法232条に基づく。リビア産の原油輸入を禁じた1982年以来36年ぶりの発動になる。
 原則すべての国が対象(除外国もある)だが、狙いは中国である。トランプ政権は、かねて米国の貿易赤字、なかでも巨額の対中赤字を問題視してきた。ちなみに2月6日、米商務省の発表によれば、米国の2017年の貿易赤字(通関ベース)は7962億ドル、前年比8.1%増と、2008年以来9年ぶりの巨額になった。なかでも、対中赤字は3752億ドルと米貿易赤字の半分近くを占めている。
 こうした貿易赤字に対処するため、オバマ前政権下では世界貿易機関(WTO)ルールの下で反ダンピング(不当廉売)課税を課してきた。これにより、米国の中国からの鉄鋼輸入量は激減した。しかし、トランプ政権はベトナムなどアジア諸国を迂回して中国製品が流れ込んでいると疑い、効果が限定的なWTOルールに代わる効果的保護主義的な手段を検討してきた。今年2月、米商務省が鉄・アルミの輸入制限案をトランプ大統領に勧告し、今回の通商拡大法232条の発動となったものである。

トランプ大統領は、大統領就任時の公約を着々と実行

 トランプ米大統領が就任して1年余りになる。大統領選挙期間中と就任後の言動、さらには最近の北朝鮮情勢の急転等を顧みると、必ずしも言動に首尾一貫してないところも見受けられる。ただ、トランプ米大統領が送ってきたビジネスマンとしての人生、「ディール(取引)が好きだ、得意だ」と言明していることからすると、メディアを騒がす言動も、大統領就任演説で述べた公約を如何に実現するかというディールと考えれば腑に落ちるところがある。
 2017年1月の大統領就任演説で、トランプ大統領は「我々は他の国を豊かにしたが、我々の工場は閉鎖され、海外移転された」「米国中流層の富が奪い取られ、世界中に再配分された」と述べた。そうした反省を踏まえ、トランプ大統領は「貿易だろうが、税、移民、外交だろうが、あらゆる決定は、米国の労働者と家庭に恩恵をもたらすために行われる」「我々の製品をつくり、企業を盗み、職を奪う外国の破壊行為から国を守らなければならない。自国産業の保護こそが素晴らしい繁栄と強さにつながる」「我々は職を取り戻す。富を取り戻す」と言明する。
 そのうえで、トランプ大統領は「今日から新しいビジョンが支配する。米国第一主義だ」「我々は2つの簡単なルールに従う。米国製品を買い、米国人を雇うというルールだ」「行動を起こす時が来た。米国は再び栄え、豊かになる」と宣言したのである。
 「自由貿易がゆがむ」とか「保護主義の拡大が懸念」といったメディアの批判は、自由貿易・グローバリズムを是とする前提に立っているからで、トランプ大統領は就任演説ではなからそれを否定しているのである。通商拡大法232条の発動に限らず、環太平洋経済連携協定(TPP)や温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA))の見直しなどトランプ政権の一連の政策は、大統領就任演説の公約を実現するために、就任演説に沿ったトランプ大統領の信念に支えられていると考える。

トランプ大統領は、政権を守るため、そして公約を実行するために人事を断行する

 トランプ大統領が就任して1年余りの間に、政権幹部や側近が次々に交代している。主要メンバーだけ見ても、まず2017年1月のトランプ米政権発足時、大統領補佐官(国家安全保障担当)に就任したマイケル・フリン氏がロシア疑惑に絡み、僅か1カ月後の2月に辞任した。その後、5月のコミー米連邦捜査局(FBI)長官の解任、7月のスパイサー大統領報道官の辞任と続き、8月にはプリーバス首席補佐官とスカラムチ広報部長が解任され、バノン主席戦略官が退任した。こうした2017年の人事は、反トランプ派および反トランプを鮮明にするメディアとの戦いの結果であり、発足したばかりの政権を守るための人事ということができよう。
 これに対し、2018年3月の一連の政権幹部交代劇は、就任演説での公約を実行するための人事と言えよう。3月6日、トランプ政権の経済政策の司令塔である国家経済会議(NEC)のコーン委員長が辞任すると表明した。同氏は鉄・アルミの輸入制限に強く反対したが、トランプ大統領の理解は得られなかった。コーン氏の後任には保守派の経済評論家クドロー氏が就任する。
 続いてトランプ大統領は3月13日、ティラーソン国務長官を解任し、後任にポンペオ米中央情報局(CIA)長官をあてると発表した。トランプ大統領とティラーソン国務長官は、パリ協定からの離脱や北朝鮮を巡る対応など主要な政策で度々対立していた。
 コーン氏、ティラーソン氏に共通するのは、両氏とも国際協調を重んじるグローバリストであるということだ。トランプ大統領の就任演説でも分かるように、トランプ大統領の政策に両氏が噛み合わないことは明らかである。このため、昨年来、両氏の退任観測が出ていたものだ。この両氏の交代は、トランプ大統領が就任演説で述べたように、グローバリズムからの訣別と保護主義への回帰を意味し、米国第一主義を改めて宣言したと言えよう。
 さらに3月22日、トランプ米大統領はマクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を解任し、後任に強硬派の保守派の論客として知られるボルトン元国連大使を起用すると発表した。トランプ大統領が、米中戦争に備えた強硬姿勢を明確にしたと言えよう。

中国・習近平国家主席の盤石な体制確立を待って、米国は米中貿易戦争を仕掛ける

 一方、中国では3月5日、年1回開催される重要会合である中国の全国人民代表大会(全人代)が開催された。20日に閉幕したが、今年の全人代では習近平体制が一層盤石な体制を確立することになった。昨年10月、5年に1度開かれる中国共産党大会(中国の最高意思決定機関)で、最高指導部の政治局常務委員7人の中に「ポスト習近平」候補が選ばれなかったことから、今年の全人代は特に注目されていた。
 全人代の会期は通常10日前後だが、今年の全人代は16日間と長い。この間、3月11日、「2期10年」までとしていた国家主席の任期を撤廃する憲法改正案を採択した。これにより、習近平国家主席は2期目が終わる2023年以降も続投できるようになった。
 17日には、国家副主席として習近平氏の腹心である王岐山氏を選出した。昨年10月の共産党大会で「68歳以上は引退」との慣習に沿う形で政治局常務委員を退いた王岐山氏が国家副主席に就くのは異例である。王岐山氏は、形式上は政治局常務委員7人に次ぐ序列8位だが、事実上のNo.2として習近平体制を支えることになる。
 また、憲法に「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義構想」が明記された。中国の指導者の名を冠した思想が憲法に書き込まれるのは「毛沢東思想」「鄧小平理論」に続くもので、習近平国家主席は中国の歴史的指導者としての地位を固めることになる。
 こうした中国の習近平体制の確立について、トランプ米大統領は「習氏はいまや終身大統領だ。素晴らしいことだ」と称賛した。絶えずメディアの批判にさらされ、選挙の審判を仰がなければならない民主主義下と、事実上の1党独裁政権下の共産主義下の彼我の身を比べ、うらやましい思いだったのだろう。
 さらに、トランプ米大統領にしてみれば、中国・習近平体制が盤石なってこそ、貿易戦争を仕掛けられるという思いもあるだろう。習近平体制の盤石な体制が確立されてからこそ、中国は米国のディールに対応できるからだ。中国が弱ければ、米国のディールに対応できない。相手が弱ければ、はなから戦争にならないのである。

「2018年米国国家防衛戦略」では、中国を戦略的競争相手と位置付ける

 トランプ米大統領は、中国・全人代が開幕する直前の3月1日、鉄・アルミの輸入制限を発動する方針を表明した。そして、盤石な習近平体制の確立と全人代が3月20日に閉幕するのを待ち構えたように、3月23日から鉄・アルミの輸入を制限する通商拡大法232条を発動するのである。この間、米中貿易戦争に備えるべく、人事も断行した。
 こうして見ると、世界皇帝と言われたデービッド・ロックフェラー氏が2017年3月に亡くなった後も、まるで誰かがシナリオを描いているかのような進行である。米国には第5の権力と言われるシンクタンクが数多く存在する。シンクタンクの中枢メンバーと米政権は、相互に立場が入れ替わるなど回転ドアと呼ばれるほど密接な関係がある。しかも、それぞれの規模が優に日本のシンクタンクの数倍ある。人的資金的に米国のシンクタンクは抜きん出た存在であり、そういうところで安全保障や貿易に関するストラテジーが日夜練られているのである。
 今年1月に10年ぶりに発表された2018年版の米国国防戦略も、そうした一環で出来上がった賜物だろう。トランプ大統領が昨年12月に公表した国家安全保障戦略に基づき、国防総省が策定を進めてきたものだ。
 マティス国防長官の解説によれば、2018年版の米国国防戦略は、①単なる防衛計画ではなく、米国の戦略である、②テロリズムではなく、大国間の戦略的競争が米国の国家安全保障の主要な懸念となっている、③中国は戦略的競争相手である、④中国とロシアは、システムの内側から、その利益を利用しながら、諸原則の価値を貶め国際的秩序を傷つけている、⑤中国は近い将来、インド太平洋地域の覇権を追求し、さらには米国を追い出し、グローバルな卓越性を獲得しようとしている、などとなる。
 中国に配慮したオバマ政権下の8年間では、中国を戦略的競争相手と位置付けるどころか、大国間の競争という言葉がタブーであり、国防戦略が発表されなかったことを考えると、180度の転換である。そうした米国の国家安全保障戦略に基づいたうえでの、今般の通商拡大法232条の発動ということになる。

鉄・アルミに続く第2弾として知的財産権侵害で制裁措置決定、中国も対抗措置発表

 全人代のさなか、通商拡大法232条の発動を控えた3月17日、米国で台湾旅行法が成立した。米国は中国との関係に配慮し、これまで台湾との間で政府高官の交流を規制してきたが、台湾旅行法は米台の高官が互いの行き来を認める内容である。これに対し、中国は「一つの中国」の原則に反するとして反発している。
 しかし、トランプ大統領は、米大統領に就任する直前の2016年12月、親中派の大物キッシンジャー元米国務長官が訪中し習近平国家主席と協議している最中に、台湾の蔡総統と電話協議した実績がある。米国は1979年に中国と国交を樹立し、台湾とは断交した。大統領や次期大統領が台湾首脳と直接会話したことは1979年以来である。トランプ氏が、米大統領に就任する前から中国との戦いを思い描いていたのは明らかだろう。
 また、トランプ大統領は3月12日、シンガポールに本社を置く通信用半導体大手ブロードコムによる米半導体大手クアルコムの買収を禁じる命令を出した。問題視されたのは、ブロードコムと中国の通信大手・華為技術との関係だ。買収されれば、米国の通信に関する技術・頭脳が中国に流出すると懸念された。
 通商拡大法232条の発動に続き、トランプ大統領は3月22日、中国の知的財産権の侵害を理由に、情報通信機器や機械など約1300品目の中国製品に25%の高関税を課す制裁措置を表明し、大統領令に署名した。中国の知的財産権の侵害を不公正貿易と認定し、通商法301条に基づく大統領権限で中国製品に高関税を課す措置である。制裁対象総額は500~600億ドルとされる。
 こうした米国の仕掛けに対し、中国は3月23日、米国からの鉄・豚肉等の輸入品に対抗関税を課す計画を発表した。米国が仕掛けた米中貿易戦争に対する最初の反撃である。
 第2次世界大戦後の米ソ冷戦は、資本主義圏と共産主義圏のほぼ閉ざされた中での経済・軍事を巡る発展競争だった。これに対し、いま米中は貿易で相互に大きく依存している。人的交流も深く、米ソ冷戦下の米中は事実上の同盟関係にあった。こうした錯綜する米中両国の戦いについて、『米中もし戦わば』(2016年11月刊)の著者ピーター・ナヴァロ氏(現通商製造政策局長、前カリフォルニア大教授)はどう舵取りするのだろうか。(3月23日記)
著者プロフィール

経済・国際問題評論家  吉永 俊朗(よしなが としろう)

1948年福岡県生まれ。九州大学卒。山一証券経済研究所企業調査部長、山一投資顧問投資戦略部長、東海東京証券理事経営企画部長、藍沢証券アナリストを経て現職。著書に「100年たってもアメリカに勝てない日本」他。

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