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景気の現況とデフレからの脱却

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公開日付:2017.12.15

 

2012年12月に始まった景気拡大局面が戦後2番目の長さに

 10月22日に行われた衆院選の自民党勝利の基本的背景として、先月号に、景気・企業業績の好調、雇用情勢の好転といった日本経済の好転が挙げられると記したが、息の長い国内景気の拡大が続いている。
 現在の景気拡大局面は2012年12月に始まったので、景気拡大局面はこの11月で60カ月、ちょうど5年になる。この景気拡大期間は、1965年11月から1970年7月まで57カ月続いた「いざなぎ景気」を超え、2002年2月から2008年2月まで73カ月続いた戦後最長の景気に次ぐ戦後2番目の記録になる。
 景気の拡大・後退の判定は、内閣府の景気動向指数研究会により決定される。景気動向指数とは、生産、雇用など様々な経済活動での重要かつ景気に敏感に反応する指標の動きを統合することによって、景気の現状把握および将来予測に資するために作成された指標である。合計29指標で構成され、景気に先行して動く先行指数として、新規求人数、実質機械受注(製造業)、消費者態度指数、東証株価指数などが採用され、景気にほぼ一致して動く一致指数として、鉱工業生産指数、有効求人倍率などが採用されている。その景気動向指数は11月8日に発表された9月の速報値が直近だが、内閣府は景気の基調判断を据え置いた。これにより、上記のとおり、現在の景気拡大局面が戦後2番目の長さになったことが確実である。
 こうした息の長い景気拡大局面は日本だけではない。イギリスは7年を超え、2009年7月から始まったアメリカの景気拡大は丸8年を超えているし、リーマン・ショック後、いち早く立ち直ったドイツは丸9年を迎えようとしている。

第2次安倍政権の発足により、現在の景気拡大局面がスタート

 現在の景気拡大が始まった2012年12月は、第2次安倍政権が発足したときである。これは、偶然ではない。なぜなら、第2次安倍政権は、いわゆるアベノミクスにより、日本経済の再生とデフレからの脱却を目指したからである。
 少し、おさらいをすると、「アベノミクス」とは「安倍+エコノミクス」の造語であり、安倍首相が構想する経済政策のことを指す。1981年に就任したアメリカのレーガン大統領の経済政策が「レーガノミクス」と呼ばれたことに由来する。アベノミクスという造語ができるということは、安倍首相が打ち出した経済政策のインパクトが、それだけ大きかったということにほかならない。
 アベノミクスは、日本経済の再生とデフレからの脱却を目指して構想された。簡単に要約すると、①わが国にとって最大かつ喫緊の課題は経済の再生であり、②従来の延長線上の対応ではデフレや円高から抜け出すことはできないと認識し、③これまでとは次元の違う大胆な政策パッケージを提示する、④強い日本経済を取り戻すため、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略という3本の矢で経済再生を推し進める、⑤同時にプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化も目指す、ということになろう。
 アベノミクスを推し進めるべく、安倍首相は次期日銀総裁の人選を進め、2013年3月20日、日銀総裁に黒田東彦氏が就任した。翌3月21日の日銀総裁就任直後の訓示で「日銀は物価の安定という主たる使命を果たしてこなかった」と厳しく日銀を批判した黒田総裁は、2013年4月4日の金融政策決定会合で、旧来の日銀の政策からの転換を決定的に印象づけた「量的・質的金融緩和」を打ち出した。物価安定目標2%を目指した、いわゆる「異次元緩和」である。

景気指標は軒並み好調、消費者態度指数も改善傾向

 プライマリーバランスの黒字化や物価安定目標2%など、なお達成が容易でない目標はあるが、これまで進められてきたアベノミクスにより、景気動向を示す指標は軒並み好調である。
 まず、経済産業省から10月31日に発表された鉱工業生産指数は、9月単月では前月比1.1ポイント低下したが、7~9月は102.5(2010年=100、季節調整済み)と、リーマン・ショックが起きた2008年7~9月以来、9年ぶりの水準である。
 同じく10月31日、総務省から発表された9月の完全失業率は2.8%だった。6月以降4カ月連続の同じ水準だ。完全失業率とは、15歳以上の働く意欲のある人(労働力人口)のうち、職がなく求職活動をしている人(完全失業者)の割合を示す。職種や勤務地など条件で折り合わずに起きるミスマッチ失業等を考量すると、3%割れの水準は働く意思のある人なら誰でも働ける完全雇用状態にあるといえよう。なお、15~64歳の人口に占める就業者の割合を示す就業率は75.8%で、比較可能な1968年以降で最高を記録した。
 さらに、同じ10月31日、厚生労働省から発表された9月の有効求人倍率は、パートタイム労働者らも含めた全体の数値で1.52倍と8月と同じだった。有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人に何件の求人があるかを示すが、8月、9月は、平成バブル期の水準を上回り、1974年2月以来、43年ぶりの高水準になっている。景気の先行指標となる9月の新規求人数は、前年同月比、前月比ともに5.6%増だった。
 景気先行指標としては、11月9日、東証株価指数が1991年11月14日以来、26年ぶりの高値を付けた。消費者態度指数も改善してきた。11月2日、内閣府が発表した10月の消費動向調査によれば、消費者の心理を示す10月の消費者態度指数(調査基準日は10月15日、2人以上の世帯、季節調整値)は44.5となった。前月比では2カ月連続の0.6ポイント上昇となり、東京オリンピックの開催が決まった2013年9月以来、約4年ぶりの高水準になった。

2017年7~9月期の国際総生産(GDP)は7四半期連続でプラス成長

 好調な各種の景気指標や景気拡大が続いていることからもうかがえるように、国内で生み出された付加価値額の総額を表す国内総生産(GDP)も好調である。11月15日、内閣府から発表された2017年7~9月期のGDP(一次速報値)は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.3%増、年率換算1.4%増となった。7四半期連続のプラス成長となるが、これは1996年4~6月期から2001年1~3月期までの8四半期連続以来の記録となる。名目GDPは、前期比0.6%増(年率 2.5%増)と2四半期連続のプラス成長となった。
 実質GDP成長率に対する内外需別の寄与度を見ると、内需がマイナス0.2ポイント、外需がプラス0.5ポイントと、内需のマイナスを外需でカバーした。内需のマイナス寄与は4四半期ぶり、外需のプラス寄与は2四半期ぶりである。内需を押し下げた主因は個人消費(民間最終消費支出)だ。民間最終消費支出は実質前期比で0.5%減と7四半期ぶりの減少となり、GDPを0.3ポイント押し下げた。GDPの過半を占める個人消費が振るわなかったのが気になるところだが、先に示したように、消費者態度指数が改善してきていることを考えると、特に問題視することもないだろう。
 現在進行中の景気拡大は、身近に感じられない景気拡大とよく言われる。恐らくそれは、記録的な雇用情勢が、賃金・所得の上昇に結び付いていないことが一因と考えられる。このことは、10月の消費者態度指数をみても指摘できる。消費者態度指数を構成する5つの意識指標のうち、最も水準が高いのは「雇用環境」で48.7、最も水準が低いのは「収入の増え方」の42.5、次いで「暮らし向き」の43.0となっているからである。
 ただ、水準が低い「収入の増え方」や「暮らし向き」も上向いてきている。「収入の増え方」は前月比で9月が0.5ポイント、10月が0.7ポイント、それぞれ上昇した。「暮らし向き」も同様に、0.8ポイント、0.5ポイント、それぞれ上昇している。さらに、安倍首相は10月26日の財政諮問会議で、来春の賃上げとして3%の実現を要請した。
 このように景気の現状を見ると、アベノミクスが目指してきた日本経済の再生とデフレからの脱却については、日本経済の再生は一定の成果が出ていると評価できよう。となると、焦点はデフレからの脱却である。

デフレ状況ではない

 デフレとは、簡単に言えば、物やサービスの値段が持続的に下落していく経済現象である。日本はバブル崩壊後、10有余年にわたり、デフレに苦しんできた。いまさら説明する必要もないと思うが、いったんデフレに陥れば、例えば、物やサービスの値段が下落する(物価の下落)→ 企業収益の悪化 → 賃下げ・人員整理 → 所得の減少 → 消費の減退 → 需給ギャップの拡大(供給過剰)→ さらなる物価の下落、というような悪循環に陥りやすい。いわゆるデフレスパイラルである。ほかにも幾つかの経路が考えられるが、デフレから抜け出すことは容易でなく、経済が収縮していく。
 物の価値が下がるということは、お金の価値が上がることである。したがって、一時的な物価下落であれば、物価下落は消費増大に結びつくだろうが、持続的な物価下落が見込まれる状況では、買い急ぐ必然性がないため消費が減少するのである。できるだけ安いものを買おうとする人間心理がデフレを進行させると言えよう。
 黒田総裁は、2013年3月の日銀総裁就任時に「日本は15年連続のデフレが続いている」と発言した。GDPデフレーターが15年連続のマイナスが続いていたからである。インフレかデフレかを判断する指標には幾つかの指標がある。身近な指標としては消費者物価指数(CPI)があるが、CPIは対象が家計消費に限定される。これに対し、GDPデフレーターは消費だけでなく、設備投資や輸出入等を含めた国家経済全体の物価動向を表している。
 そのGDPデフレーターは、2014年に1997年以来17年ぶりにプラスに転じている。こうした状況を受けて、2015年10月、黒田日銀総裁は日本経済について「デフレ状況ではなくなったと思う」と述べた。なお、GDPデフレーターは、2015年、2016年も連続のプラスである。
 政府は、デフレ脱却の目安として、CPI、GDPデフレーター、単位労働コスト、需給ギャップの4指標を挙げている。2017年7~9月期は、4指標が1992年7~9月期以来、25年ぶりに揃って改善した。1998年以来16年に及んだ日本のデフレは終わりつつあると言えるのではないだろうか。ただし、2017年のGDPデフレーターがプラスになるかどうかは微妙なところだ。デフレ脱却とはまだ断言できず、黒田総裁が述べたように「デフレ状況ではない」との表現が妥当なところだろう。

欧米の金融政策の行方と地政学リスクが鍵

 以上のように、日本の景気拡大は5年になり、長く続いたデフレから漸く脱出しつつあるといえよう。では、この先、どうなるだろうか。5年に及ぶ景気拡大とデフレ状況ではなくなった現状は、日本経済の再生とデフレからの脱却を目指したアベノミクスの成果と言える。ただ、それにしても、冒頭に紹介したように、米国をはじめ、諸外国の景気拡大の恩恵を受けたことは否定できないところだろう。となると、今後の日本経済の行方については外部要因が大きな鍵を握ると考えられる。
 その点、第一の懸念要因は、欧米の金融政策の行方である。まず、世界経済に大きな影響を及ぼす米国の金融政策は既に金融引き締め局面にある。米連邦準備制度理事会(FRB)は2015年12月、2008年12月から続けてきたゼロ金利政策を7年ぶりに解除し、2006年6月以来、9年6カ月ぶりの利上げを実施した。1年後の2016年12月に再利上げし、2017年3月と6月にも利上げした。9月には、これまでの量的緩和政策により大幅に膨らんだ保有資産の縮小開始を決め、10月から段階的に減らしている。保有資産を縮小するということは金融を引き締める効果がある。12月には、今年3回目の利上げが有力であり、2018年も適宜、利上げが行われる見通しだ。つまり、米国は今後、資産縮小と利上げとのダブルで金融引き締めが行われるということになる。そうしたところに、FRBの正副議長、さらにNo.3のニューヨーク連銀総裁が交代することも気になるところだ。
 欧州中央銀行(ECB)も、10月26日の理事会で量的緩和政策の縮小を決めた。月々の資産購入額を2018年1月から半減する計画だ。2018年は、FRBに続き、ECBも金融引き締めが始まることになる。さらに、英国中央銀行のイングランド銀行も11月2日、約10年ぶりの利上げを決めた。
 5年に1度の中国共産党大会(10月18~24日)が終了した中国の行方も気になるところだ。中国国家統計局が10月19日に発表した2017年7~9月期のGDPは、実質で前年同期比6.8%増だった。4~6月期から0.1ポイント低下し、6四半期ぶりに減速したが、共産党大会開催中の発表ということを考えると、実態はもっと悪いと考えた方が良いだろう。
 北朝鮮情勢やベネズエラのデフォルト問題など地政学リスクも不安要因である。安倍首相が10月22日に衆院選を行うに当たって、北朝鮮情勢について「年末から2018年にかけては選挙をする状況ではなくなると」とコメントしたが、北朝鮮情勢の行方が懸念される。

(11月21日記)

著者プロフィール

経済・国際問題評論家 吉永 俊朗(よしなが としろう)

1948年福岡県生まれ。九州大学卒。

山一証券経済研究所企業調査部長、山一投資顧問投資戦略部長、

東海東京証券理事経営企画部長、藍沢証券アナリストを経て現職。

著書に「100年たってもアメリカに勝てない日本」他。

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