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走り出した電気自動車革命

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公開日付:2017.10.16

 

各国が相次いでEVシフトを表明、中国の動きが世界のEV化の流れを決定づける

 このところ、連日のように、電気自動車(EV)関連のニュースが相次いでいる。きっかけになったのは7月6日、フランス政府の発表である。2040年までにガソリンエンジン車、ディーゼルエンジン車の国内販売を終了させる方針を打ち出し、世界を驚かせた。
 フランスだけの方針表明であれば、政治的思惑の産物で済んだかもしれない。7月8日の20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)開幕を控え、フランスのマクロン首相にとって、CO2規制の枠組みであるパリ協定からの離脱を宣言したトランプ米大統領に対抗し、環境問題を主導するのは欧州、とりわけフランスであると世界にアピールできるからだ。しかし、7月26日にはイギリス政府も、フランス政府の発表内容とまったく同様の方針を打ち出した。
 さらに、世界のEV化の流れを決定づけたのは、中国の動きである。9月9日、中国・工業情報化省の辛国斌次官は、「中国も化石燃料自動車の生産販売停止時期の検討に着手している」と発言した。何しろ中国は、世界最大の自動車大国である。グローバルノート国際比較統計によれば、2016年における世界の自動車(新車)販売台数トップは中国で2803万台、世界全体の29.9%を占める。第2位はアメリカで19.0%、第3位は日本で5.3%、第4位はドイツで4.0%、第5位はインドで3.9%を占めている。
 近年の中国の高成長とそれに伴うモータリゼーション化で、中国の自動車販売台数は2009年に世界一になったが、以降も大きく伸びている。2016年の世界の自動車(新車)販売台数を見ると、2~4位のアメリカ、日本、ドイツの3カ国を合計しても、中国に及ばないのである。英仏の動きに追随し、中国がガソリンエンジン車、ディーゼルエンジン車の生産販売禁止の方向に動き出したことは、世界のEV化の流れを大きく促進するだろう。
 なお、ガソリンエンジン車、ディーゼルエンジン車を禁止し、EV化の流れを打ち出したのはフランスが初めてではない。ノルウェー、オランダでは、2025年までにガソリンエンジン車とディーゼルエンジン車を段階的に禁止する法案が2016年に可決されている。インドも今年6月、2030年までに化石燃料自動車の販売を禁止し、国内で販売する自動車をEVに限定する政策を打ち出している。化石燃料自動車の廃止は世界的な大きな流れになりつつある。

ディーゼルエンジン車の排ガス不正と環境問題がEV化に拍車

 近年の化石燃料自動車の廃止・EV化の流れに大きく影響している要因として、ディーゼルエンジン車の排ガス不正問題と環境問題が挙げられる。
 ディーゼルエンジン車の排ガス不正問題は2015年9月18日、米環境保護局(EPA)の発表で明らかになった。米EPAによると、独フォルクスワーゲン(VW)と傘下の独アウディのディーゼルエンジン車が、排出ガス試験時に窒素酸化物(NOx)の排出を抑える違法なソフトウエアを使い、排ガスに関する試験をクリアしていたという。この米EPAと独VWの戦いは2016年6月、VWが最大約147億ドル(約1兆6500億円)を支払うことで決着した。自動車メーカーが不正問題対応で、米国で支払う金額としては過去最大になるという。
 この独VWのディーゼルエンジン車の排ガス不正は、米国だけでなく欧州でも発覚した。VWは、ディーゼルエンジンを低公害の「クリーンディーゼル」と宣伝し、世界的に強固な地位を築いてきたが、実際は「ダーティディーゼル」であることが明らかになった。これまで、自動車業界の環境問題への対応としてはディーゼルエンジンとEVの2つの方向があったが、これ以降、自動車の環境問題対応としては、ディーゼルエンジンでなく、EV化の流れが加速している。
 世界的なEV化を促進する大きな潮流の一つは、環境問題の高まりである。スモッグで灰色に汚れた中国の首都・北京の空は有名だが、実は中国以上に大気汚染が深刻な国がある。それは、インドだ。ロイターニュースによれば、世界保健機関(WHO)が2016年5月に発表した大気汚染ランキングで、ワースト1位はイランのザーボルという都市だが、ワースト5のうち、インドが2位~5位の4都市を占めた。インドの首都ニューデリーも9位にランクされている。インドが中国以上に深刻な大気汚染大国であることが分かる。インドが、主要国に先駆けて2030年までに化石燃料自動車の販売を禁止し、国内で販売する自動車をEVに限定する野心的な政策を打ち出した背景が如実に分かるというものだ。
 インドはモータリゼーションが始まったばかりだが、前記のように2016年の世界の自動車(新車)販売台数で既に第5位である。しかも、国際連合は今年6月、2024年頃までにインドの人口が中国を抜き、世界一になるとの見通しを発表した。従来の予想より早いペースで両国の差が縮まっている。2017年の人口は13億3,918万人で、中国の14億952万人に次ぐ2位だが、2050年には16億5,898万人に達するという。
 現在の世界一の自動車大国である中国と、次代の世界一の自動車大国になる可能性があるインドがEV化を進めれば、世界のEV化の流れは止まらないだろう。

石油王ロックフェラー氏の死とともに、石油の世紀の終焉が始まる?

 世界で初めてのガソリンエンジンによる自動車、つまり内燃機関による自動車が誕生したのは19世紀末のドイツで、発明者はダイムラーとベンツとされている。そのドイツのフランクフルトでは2年に1度、世界最大の国際自動車ショーが開かれるが、ちょうど2年前の2015年9月、国際自動車ショーの開会期間中に、世界のEV化の流れを大きく促進するきっかけとなった独VWのディーゼルエンジン車の排ガス不正が発覚した。今年8月12日号の英エコノミスト誌は「内燃機関の死」と表現したが、ドイツで始まった内燃機関による自動車の世紀が、奇しくもドイツで「内燃機関の終わり」が始まった可能性がある。
 過去100年以上にわたる「内燃機関による自動車の世紀」が「終わりの始まり」を迎えようとしていることは、同時に「石油の世紀の終わりの始まり」を迎えようとしているのかもしれない。EVが本格化する前に、アメリカではシェールガス革命も始まっている。このような「石油の世紀の終わり」に備え、世界最大の産油国の一つであるサウジアラビアが「脱・石油」に向けて大きく舵を切ろうとしている。
 サウジアラビアの「脱・石油」を担うのが、現サルマン国王の息子ムハンマド・ビン・サルマン皇太子だ。同氏は、2020年までに原油がなくなったとしても生き残れるようになるために、国営石油会社の株式上場などを柱とする包括的な国家経済改革構想「ビジョン2030」の策定を主導し、今年6月に31歳の若さで皇太子に昇格した。
 「ビジョン2030」では、国営石油会社サウジアラムコの株式公開、2兆ドルの政府系ファンドの設立、産業の多角化による非石油収入の増加などが構想されている。サウジアラムコは企業価値2兆ドルと言われる世界最大の石油会社で、2018年の上場予定である。
 「石油の世紀の終わりの始まり」が、アメリカの石油王デービッド・ロックフェラー氏の死とともに始まりつつあるのも偶然なのだろうか、それとも必然なのだろうか。アメリカのキングメーカーであり、アメリカの政策だけでなく、世界の政治経済を大きく左右してきたアメリカの最高権力者デービッド・ロックフェラー氏(米富豪ロックフェラー家3代目当主)は今年3月20日、101歳で亡くなった。
 ロックフェラー一族は、思いつく限りあらゆる策を弄して石油王となる礎を築き、アメリカ、そして世界の政治経済に大きく関わってきた。この詳細については、『見えざる世界政府 ロックフェラー帝国の陰謀』(1984年3月刊)に、著者ゲイリー・アレン氏が命を懸けて詳細に記述している。デービッド・ロックフェラー氏が健在であれば、世界のEV化の流れは潰されていたかもしれない。

パラダイム転換で、新興国・新興企業の参入が比較的容易に

 英仏やインドがガソリン車等の販売をやめる方針を打ち出し、中国も検討していることは、過去100年以上続いてきた自動車の産業構造を根本から揺るがす。化石燃料自動車の廃止とEV化は、いわばパラダイムの転換である。これまでの考えや見方が劇的に変わることになる。自動車業界は、産業としての規模が大きく裾野が広いため、基幹産業として主要国の経済成長に大きく貢献してきた。自動車・自動車部品の関連業界を挙げれば、鉄鋼・金属・石油化学(プラスチックなど)・タイヤ・ゴム・ガラス・半導体・電子部品、さらには石油・エネルギー・運輸・保険業界などと、周辺産業を挙げればきりがないほどである。雇用情勢が大きく変わり、自動車税の徴収体系も変わってくるだろう。
 ガソリンエンジン車・ディーゼルエンジン車からEVに変われば産業構造が一変するだろう。大きな影響を免れないのは、諸々の自動車部品業界である。EVは、ガソリンエンジン車・ディーゼルエンジン車に比べ、構造が単純であり、部品点数が少ない。7月6日の日本経済新聞によれば、経済産業省はガソリンエンジン車に必要な部品点数を約3万個としたときに、EVでは約4割の部品が不要となり、約1万8900個で構成すると試算している。
 構造が単純であり部品点数が少ないことから、EVは新規参入が比較的容易になる。このことは、米テスラ・モーターズ(テスラ)の参入とその後の急成長で実証されている。米テスラの時価総額は今年4月、米ゼネラル・モーターズ(GM)を超え、米自動車業界で首位に立った。テスラの販売台数は2016年で7.6万台と、GMの100分の1以下だが、米自動車大手との時価総額が逆転した。EVの成長期待が、株式市場でいかに大きいかが分かる。
 構造が単純であり部品点数が少なく、新規参入が比較的容易なEVは、自動車業界のみならず、電気・電子機器業界、IT業界などからも新規参入企業が登場する可能性がある。自動車産業が未熟な新興国やこれから自動車産業を振興させようとする新興国にとっても、EVは大きな魅力を秘めていると考えられる。

自動車メーカーのEV競争が本格化、中国・インドを制する企業が主導的地位確立へ

 2017年9月12日から24日まで、ドイツのフランクフルトで国際自動車ショーが開催されたが、14日からの一般公開に先立つ12~13日の報道関係者向けイベントでは、ドイツ勢が相次いで新しい意欲的なEVへの加速戦略を公表した。
 まず、VWグループは、2025年までにEVを50車種、プラグインハイブリッド(PHV)車を30車種の計80車種を投入し、遅くとも2030年までにVWグループの全車種約300のすべてにEVを投入する。EV開発のため、200億ユーロ(約2兆6000億円)、EV用の電池調達に500億ユーロ(約6兆5000億円)を投資する計画だ。
 ダイムラーは、2022年までに「メルセデス・ベンツ」の全車種にEVを投入し、小型車「スマート」の全車種をEVに切り替える。このEV化計画が早くも始動し、9月21日、EV生産のため、10億ドルを米国工場と電池の新工場に投資すると発表した。BMWは、小型車「ミニ」のEVを2019年に発売し、2025年までにEVを12車種、PHⅤを13車種の計25車種を投入する方針だ。
 ドイツ勢は、ディーゼルエンジン車の排ガス不正問題を契機に、ピンチをチャンスに変えるべく、EV時代においても世界の主導的地位を目指して本格的に動きだしたと言えるだろう。このようなドイツ勢の積極姿勢に対し、日本勢の動きは鈍いと感じざるを得ない。
 最大手のトヨタは近年、エコカーとしてのハイブリッド(HV)車で世界を席巻してきただけに、EVに舵を切りにくいのだろう。トヨタ同様、HVに注力してきたホンダもEVへの対応が鈍いと言われてきたが、ディーゼルエンジン車を縮小し、2030年をめどに全世界で販売する3分の2をHVやEVにする計画と報じられた(9月8日、日本経済新聞)。ただ、EV時代になれば、HVも内燃機関使用ということで規制もしくは禁止される方向にある。
 こうしたなか、自動車大手の中ではEVで先行している仏ルノー・日産・三菱連合は9月15日、6年間の中期計画を発表した。2022年までに3社で12車種のEVを発売し、EVの割合を3割に高める計画だ。10月2日には、航続距離を伸ばしたEVの新型「リーフ」の発売を予定している。EVで先行するのは、もちろん米テスラである。7月28日、EVとして初めての量産車種となる「モデル3」の出荷が始まった。価格は3.5万ドルからとまだ高めだが、高級車を手掛けてきたテスラにとって初めての中価格帯車である。2018年に現在の5倍以上となる年産50万台を目指している。
 EVを巡る自動車メーカーの競争において、企業の栄枯盛衰を決定するのは中国とインドだろう。特に、国家資本主義としての中国が、国策としてEVにどう対応するかが注目される。内燃機関エンジンでは既に強固な地位を築いている日米欧に勝てなくても、エンジンが要らず部品点数が少なく参入障壁が低いEVなら主導権を握る可能性が出てくるからである。ともあれ、世界一の自動車大国である中国と、次代の世界一の自動車大国になる可能性があるインド市場を制する企業が世界で圧倒的地位を築くだろう。中国の動向が世界の自動車業界での競争を左右する展開となると、中国との関係を強化してきたドイツ勢にとっては追い風となる可能性がある。

(9月24日記)

著者プロフィール

経済・国際問題評論家 吉永 俊朗(よしなが としろう)

1948年福岡県生まれ。九州大学卒。

山一証券経済研究所企業調査部長、山一投資顧問投資戦略部長、

東海東京証券理事経営企画部長、藍沢証券アナリストを経て現職。

著書に「100年たってもアメリカに勝てない日本」他。

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