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一段と緊迫化する北朝鮮情勢

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公開日付:2017.09.15

 

米元国防長官が「キューバ危機以来、核戦争の可能性を含め最も深刻な危機」と警告

 「現在の朝鮮半島危機は1962年のキューバ危機以来、核戦争の可能性を含め最も深刻な危機」。米オバマ政権で国防長官と中央情報局(CIA)長官を務めたレオン・パネッタ氏が、8月11日の米CNNのインタビューで述べた言葉である。
 今春、北朝鮮情勢が緊迫化した時は、4月21日号で「北朝鮮・シリアを巡るトランプ劇場」と題してコメントした。今春の北朝鮮・シリア情勢の緊迫化は、トランプ米大統領が演出した「トランプ劇場」であり、北朝鮮・中国を見据えたトランプ大統領の「ディール(取引)」と考えたので、「トランプ劇場」と題したのである。
 4月21日号に「トランプ大統領のディールだとすると、少なくとも5月9日の韓国大統領選までは、さらには米国の対中貿易赤字の是正に向けた100日計画策定までは北朝鮮情勢の緊張状態が続くのではないだろうか」と記した。実際に5月11日、米中が100日計画で合意し、北朝鮮情勢が沈静化したことで、今春の北朝鮮情勢の緊迫化は、まさしくトランプ米大統領が演出したトランプ劇場であったと見て間違いないだろう。
 ただ、今夏の北朝鮮情勢の緊迫化は、それだけではないようである。冒頭のパネッタ氏の懸念のように、現実の危機が高まっているように見える。8月11日のパネッタ氏のコメントは、8月8日の「北朝鮮が米国を脅すなら、世界が見たこともないような炎と怒りに直面するだろう」と述べたトランプ大統領発言の3日後である。
 トランプ大統領の「炎と怒り」発言を、パネッタ氏が単なる「トランプ劇場」と認識していれば、「現在の朝鮮半島危機は1962年のキューバ危機以来、核戦争の可能性を含め最も深刻な危機」という表現にはならないだろう。「トランプ劇場」の一面はあるにしても、国防長官とCIA長官を務めたパネッタ氏には、今夏の北朝鮮情勢の危機の本質が分かっているのだろう。だからこそ、パネッタ氏は「核戦争の可能性を含め最も深刻な危機」に陥らないよう、警告を発したのだろうと考えている

ソ連崩壊やウクライナ危機が北朝鮮のICBM開発を促進

 4月21日号に、今春の北朝鮮情勢緊迫化の背景として3つの理由を挙げた。①北朝鮮の核開発の進展で、北朝鮮の脅威が現実化、②軍事力増強を唱える米トランプ大統領の登場、③相次ぐビッグイベント、である。この3つは、今夏も変わっていない。なかでも、7月の北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM )の発射成功で、①の北朝鮮の核の脅威が一段と現実化し、今夏の北朝鮮情勢の緊迫化に大きな影響を及ぼしている。
 北朝鮮は7月4日、ICBM「火星⑭」の発射に成功したと発表した。当初、ICBMであるかどうか、見方が分かれていたが、米トランプ政権は日本時間の5日、発射されたミサイルがICBMだったと初めて確認した。
 さらに北朝鮮は7月28日、ICBM「火星14」の2回目の発射に成功した。北朝鮮の国営メディア、朝鮮中央通信は29日、2回目のICBM発射では、エンジン特性を改善したほか、弾頭の誘導性能、システムの信頼性を確認したとし、発射成功で「米国本土全域が射程圏内だと明確になった」としている。報道によれば、ミサイルは最大高度3724キロメートルまで上昇し、47分間に998メートル飛行したという。7月4日の1回目(高度2802キロメートル、39分間に933メートル飛行)に比べ、いずれも向上している。
 北朝鮮の長距離ミサイルの開発が長足の進歩を遂げたことになるが、その理由として、英シンクタンク「国際戦略研究所」は8月14日に発表した報告書で、旧ソ連のウクライナの工場で製造されたロケットエンジン「RD250」を改良して使用したこと可能性があると指摘した。
 この指摘に対し、ウクライナ側は、ウクライナ製だとは認めたものの、ロシア向けの宇宙ロケット打ち上げ用だったとし、このエンジンに必要なロケット燃料の製造技術を持っているのはロシアと中国だけだと指摘。ロシアが流出元である可能性を示唆した。一方、ロシアは、北朝鮮がロケットエンジン「RD250」をコピーするにはウクライナ人の専門家の支援が不可欠だとし、ウクライナ側に責任があるとの見方を示した。
 いずれにせよ、英シンクタンク「国際戦略研究所」が指摘したように、同エンジンは旧ソ連のウクライナ工場で製造され、ロシアまたはウクライナの工場・兵器庫の従業員が不正に密売し、犯罪組織によって北朝鮮に密輸された可能性がある。その時期は1991年のソ連崩壊と最近のウクライナ危機の間だったとみられている。ソ連崩壊後、ロシアならびにウクライナの国営企業は、主な取引先であるロシアからの受注が止まったことで経営危機に陥り、有能な専門家や機材・資料の国外流出が報道されていた。ソ連崩壊、さらには2014年のウクライナ危機が、北朝鮮のICBM開発を促進したと言えよう。

8月8日のトランプ大統領の「炎と怒り」発言後、米朝が威嚇の応酬

  北朝鮮の2度のICBMの発射実験を受けて、国連安全保障理事会は8月5日、北朝鮮への制裁を強化する決議を採択した。北朝鮮による石炭や鉄の輸出を全面禁止し、核・ミサイル開発の資金源を断つことが狙いだ。北朝鮮への制裁に慎重だったロシアと中国が賛成したことは評価できるが、最大の焦点である北朝鮮向けの石油の禁輸は盛り込まれなかった。
 国連の北朝鮮への制裁決議は、2006年の核実験開始後で8回目となる。これまでの制裁決議の中では最大の経済制裁とはいえ、これだけならまだ、何度も経験したような風景である。北朝鮮情勢が一気に緊迫化したのは8月8日、前述のトランプ大統領の北朝鮮に対する「炎と怒り」発言である。その点、今回も「トランプ劇場」と言えなくもない。
 トランプ大統領発言の数時間後の9日、北朝鮮は「米軍が駐留している太平洋の米領グアム島周辺に中距離弾道ミサイルの発射計画を検討している」と警告した。さらに10日には、「4発の中距離弾道ミサイルをグアム島沖に着弾させる案を検討中」と発表し、「計画が実行された場合、島根、広島、高知県の上空を通過する」と表明した。
 4月21日号に書いたように、4月6日の米軍のシリア攻撃において、化学兵器を使用したとされ攻撃されたシリアには何のメリットもなかった。一方、米トランプ政権には、①中国に対する圧力、②核戦力の強化を続ける北朝鮮への牽制、③米国内の支持率の向上・政権基盤の強化、④レッドラインを超えても攻撃を見送ったオバマ大統領との違いを明確化できる、⑤軍事行動をいとわないことを示すことができる、⑥イスラム教過激派組織イスラム国(IS)と敵対するアサド政権を叩くことができる、⑦米国がロシアとの協力関係にあることを示すことができる、など多くのメリットがあった。

北朝鮮は都合の良い存在

 唐突ともいえる8月8日のトランプ大統領発言の裏には、前記③の要因が大きく絡んでいるのではないか。トランプ政権発足時の主要側近が相次いで辞任し、トランプ大統領の政治遂行能力に大きな疑問が生じているからである。
 トランプ大統領としては、北朝鮮リスクを煽ることで、国内の不満分子の目を逸らすことができる。メディアや国民の関心を逸らすことができるのである。古来、国内政治がうまくいかない時、外敵が選ばれ、国内の関心を敵国に引き付けるのは政治家の常套手段である。それだけではない。北朝鮮危機が高まれば高まるほど、つまり北朝鮮危機を煽れば煽るほど、世界の政治を大きく左右し、政治と密接に動く軍需産業、軍産複合体が潤うことになる。
 今春の北朝鮮情勢の緊迫化も、米国にとって極めて都合の良いタイミングで緊張が高まった。3月6日の北朝鮮のミサイル発射は、3月7日からの在韓米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の韓国配備を控えた前日だった。THAADの韓国配備反対を叫ぶ勢力にはマイナス材料だが、米国にとってはTHAADの韓国配備を支障なく進めるための支援材料と言える。5月9日の韓国大統領選では、北朝鮮に親和的な文在寅氏の大統領当選を阻止できなかったが、3月下旬から4月上旬にかけての相次ぐミサイル発射により、4月11日、文在寅氏はTHAADの韓国配備を容認する考えを明らかにした。5月11日には、米国の対中貿易赤字の是正に向けた100日計画策定に米中が合意した。
 今夏の北朝鮮情勢の緊迫化は、7月の北朝鮮のICBM発射の成功に始まり、8月8日のトランプ大統領発言で一気に危機状態が演出された。8月10日の北朝鮮のグアム島沖へのミサイル発射計画では、航空自衛隊の迎撃ミサイルPAC3が配備されていない中国・四国地方の上空を通過することから、北朝鮮が上空を通過するとした島根、広島、高知県のほか、愛知県へのPAC3の配備が決まった。4発の中距離弾道ミサイルの発射計画に対し、PAC3の4県への配備ということである。
 さらに、トランプ政権下で初めて行われた8月17日の日米の外務・防衛担当閣僚協議の共同発表では、核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮の脅威を念頭に、米国が核の傘で日本の安全を守り続ける方針を明記した。日本は、地上配備型迎撃システムの配備など自国防衛での役割を拡大し、防衛能力の強化に向け、防衛費の伸び率増を検討する方針だ。このように、軍需産業、軍産複合体にとって、北朝鮮は極めて都合の良い存在なのである。

北朝鮮に、体制崩壊・国家存続の危機を招く対米戦争を仕掛ける動機はない

 1994年、米軍が北朝鮮攻撃を検討した際、最初の90日間で民間人を含め100万人以上の死者が出ると予測され、当時のクリントン米政権は攻撃を見送った。しかし、トランプ大統領は、シリアを攻撃した実績がある。シリアはミサイル攻撃だけで済んだが、米国と北朝鮮の戦争になれば、北朝鮮は体制崩壊・国家存続の危機に瀕するだろう。北朝鮮も、それは避けたいだろう。つまり、北朝鮮に、米国に対して戦争を仕掛ける動機はないと言える。
 ではなぜ、北朝鮮は核・ミサイル開発に固執するのか。核開発を断念したリビアやイラクが米国に攻撃されたことを考えれば、北朝鮮にとって核・ミサイル開発は国家並びに現体制の安全保障上、必要不可欠だと考えているはずだ。核・ミサイルの開発は、北朝鮮にとって国威発揚の手段であるし、技術力を国内外に発信できる。危機を煽ることで国内の不満を封印することもできる。北朝鮮としては、インドやパキスタンのように、核保有国として、米国のみならず国際社会に認めてもらいたいということだろう。
 核・ミサイルの開発は続けたいが、体制崩壊・国家存続の危機を招く戦争は避けたい。そうした決断が8月15日の北朝鮮・金正恩委員長の、グアム島沖合へのミサイル発射計画を了承したうえで「米国の行動をもう少し見守る」との発言だろう。
 北朝鮮・金正恩委員長発言の前日の8月14日、マティス米国防長官とティラーソン米国務長官は連名で米ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿し、北朝鮮が核実験やミサイル発射などの挑発行為を即時に停止する真摯な対応をとれば、米国は対話の用意があるとの姿勢を強調した。8月15日の北朝鮮・金正恩委員長の「米国の行動をもう少し見守る」発言は、この寄稿を受けてのものと考えられる。
 北朝鮮の様子見を受けて、トランプ大統領は8月22日、「北朝鮮が米国を尊重し始めている事実を尊重する」と述べ、北朝鮮との関係改善について「あるかもしれないし、ないかもしれないが、恐らく何か良いことが起こるだろう」と慎重ながらも楽観的な見通しを示した。
 米国は、建国時から戦争で成り立っている国家である。英国からの独立を戦争で勝ち取り、原住民であるインディアンを相次ぐ攻略で居留地に閉じ込めた。メキシコからはテキサス、カリフォルニア州などの領土を戦争で勝ち取った。第2次世界大戦後、世界の覇権を握ってからも、アフガニスタンやベトナム、イラクなど多くの戦争を仕掛けてきた。ジャーナリストの高山正之氏が指摘するように、戦争コストが増大したことで、昨今の米国は訴訟で儲ける訴訟経済、訴訟国家との一面も出てきたが、基本的に米国は戦争経済、戦争国家である。
 その戦争国家を担うトランプ政権の主導権争いが熾烈である。その証拠が、大統領側近の相次ぐ辞任と言えよう。主導権を握りつつあると言われる共和党ネオコン勢力、軍需産業関連勢力は虎視眈々と北朝鮮への攻撃を画策しているとの情報がある。
 イラク同様、北朝鮮の存在価値は、米国にとって地域の危機を演出することにあると考えている。危機が続くからこそ、軍需産業、軍産複合体が潤うのである。戦争になり、体制が崩壊すれば元も子もない。北朝鮮同様、地域危機を演出してきたイラクも、フセインを排除した結果、泥沼になり、イスラム国を生み出したという先例がある。
 いずれにせよ、北朝鮮の69回目となる9月9日の建国記念日に向けて、北朝鮮情勢の緊張状態が高まる可能性がある。その後も、米国内の勢力争いと絡み、10月の中国共産党大会後に向けて緊張が再燃する可能性がある。共産党大会を控えている今は、米国同様、熾烈な勢力争いを続ける習近平国家主席に対し、米国も本格的な交渉ができないからである。

(8月23日記)

著者プロフィール

経済・国際問題評論家 吉永 俊朗(よしなが としろう)

1948年福岡県生まれ。九州大学卒。

山一証券経済研究所企業調査部長、山一投資顧問投資戦略部長、

東海東京証券理事経営企画部長、藍沢証券アナリストを経て現職。

著書に「100年たってもアメリカに勝てない日本」他。

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