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米量的金融緩和正常化の行方

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公開日付:2017.07.14

 

米FRBが6月14日に今年2回目の利上げ

 米連邦準備制度理事会(FRB)は6月14日(日本時間6月15日)の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、3月に続く今年2回目の利上げを決めた。短期金利の指標となるフェデラルファンドレート(FF金利)の誘導目標を、これまでの0.75~1.00%から1.00~1.25%に引き上げた。年内に、あと1回の利上げを行い、2018年も3回の利上げを行う見通しだ。
 2016年12月、米FRBが1年ぶりに利上げを行った際、投票権の無い7人を含むFOMCメンバー17人の利上げ見通し(中央値)は2017年、2018年ともに3回だった。したがって、今回の利上げ、先行きの利上げ見通しともに、昨年12月時点の利上げスケジュールが予定通り、進行していることになる。
 2008年のリーマン・ショック後、米経済が回復する中で、米FRBのイエレン議長は利上げに慎重なスタンスをとり、利上げを急ぎたい米FRBのフィッシャー副議長らに抵抗してきた。そうしたイエレン議長の慎重姿勢が、米経済の状況を見ながらの、2015年、2016年の年1回の緩やかなペースの利上げにつながっていると考えられる。
 利上げに慎重なスタンスを示してきたイエレン議長も、2017年は利上げ容認に転じている。その理由は、労働需給の逼迫である。イエレン議長は雇用を重視する労働経済学者であるからだ。6月14日の利上げについても、利上げの根拠として、イエレン議長は「労働市場は力強く、米経済は良好だ」と強調している。
 労働市場の状況を示す経済指標として最も注目されるのは雇用統計である。その雇用統計での注目データは、景気動向を敏感に映す非農業部門の雇用者数(前月比増減)と失業率である。6月2日に発表された雇用統計(速報値)では、失業率が前月比0.1ポイント低下し、4.3%になった。これは、IT(情報技術)バブル末期の2001年5月の4.3%に並ぶ16年ぶりの低水準だ。FRBが完全雇用と見る失業率の水準は4.7%であり、足元の労働需給は極めてタイトな状態と言える。ただ、もう一つの重要指標である非農業部門の雇用者数は前月比13.8万人増にとどまった。好調の目安とされる20万人を下回り、市場予想(18万人増)にも届かなかった。

米FRBは年内にバランスシートの正常化に着手、保有証券の縮小開始へ

 6月14日の米FOMCで、利上げが行われたこと以上に注目されるのは、FOMC声明で「年内にバランスシートの正常化に着手する予定」と正式に表明され、リーマン・ショック後の量的金融緩和政策によって膨らんだ保有資産の縮小計画が提示されたことである。
 FRBは2008年のリーマン・ショック後、3回にわたり実施してきた量的金融緩和政策により、米国債などを大量に買い上げてきた。2014年10月に量的金融緩和政策を終了した時も、バランスシートの規模拡大を停止したということであり、保有資産の縮小に手を付けたわけではない。償還金の再投資により、バランスシートの規模は維持されてきたのである。この結果、FRBの資産規模は、リーマン・ショック前の9000億ドルから4兆5000億ドルに膨らんでいる。
 この保有資産の縮小、つまりバランスシートの正常化について、イエレン議長は今年3月のFOMCで「議論したが、結論が出なかった」と明かしている。その後、市場の観測として、年内に保有資産の縮小開始が有力と見られていたが、年内開始を正式に表明し、かつ縮小計画が提示されたということである。
 しかも、イエレン議長は保有証券の縮小について、記者会見で「経済が当局の想定通りに進展するなら、比較的早期の実行もあり得る」と、FOMC声明よりさらに一歩踏み込んだ。これにより、有力視されている12月の資産縮小開始が9月に早まることもあり得る状況になった。
 保有資産の縮小計画では、保有資産を市場で売却するのではなく、満期を迎えた債券の再投資を減らして資産を縮小することになる。開始月の縮小額は100億ドルに設定された。内訳は、米国債が60億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)が40億ドルである。これを、米国債は月300億ドルに達するまで、3カ月ごとに60億ドルずつ引き上げられる。MBSは月200億ドルに達するまで、3カ月ごとに40億ドルずつ引き上げられる計画である。
 バランスシートの正常化とは、過去の量的金融緩和によって膨らんだ保有資産を縮小するということであり、金融を引き締めるという効果がある。つまり、米FRBの計画が予定通り進行すれば、米国は今後、利上げとのダブルで金融引き締めが行われるということになる。

利上げ、バランスシート正常化を急ぐ理由

 2015年9月のFOMCで、イエレン議長は利上げを見送り、「バランスシートの縮小を急いでいない。急ピッチの利上げの可能性は低い」と強調していた。そのイエレン議長が2017年に入ると、利上げを急ぎ、バランスシートの縮小についても、FOMC声明よりも急いでいる認識を明らかにしている。このイエレン議長の変貌の背景として、次の要因が考えられる。
(1) 言うまでもなく、この間の世界情勢の変化である。2015年9月のFOMCで、イエレン  議長は利上げ見送りの理由として世界経済の先行き不安、とりわけ中国について言及していた。その中国は、5年に1回開かれる中国共産党の最高機関である中国共産党全国代表大会が開催される今秋を控え、経済を失速させるわけにはいかないという事情がある。
(2) トランプ米大統領の登場。トランプ大統領は、大統領選挙期間中、「大統領に選ばれたら、イエレン議長を再任しない」と言明していた。最近では、トランプ大統領は再任に含みを持たせた発言をしているが、イエレン議長としては、2018年2月の任期を意識していることは間違いあるまい。2018年早々に迫る任期を控え、FRB議長として、バランスシートの正常化に筋道を付けておきたいのは当然の欲求であろう。なお、FRBの実力者、フィッシャー副議長も2018年6月が任期である。
(3) 利上げが遅れるリスク。当初予想の6月より早い今年3月に利上げに踏み切った際、イエレン議長が挙げた利上げの根拠である。利上げが遅れると、行く行く急激な利上げが必要になり、景気後退に陥る可能性が出てくる。ただ、この6月の場合は、FOMC直前に発表された経済指標が、後述のように良くない。そのため、イエレン議長は、労働市場の逼迫による物価上昇を見込んでいる。
(4) 景気後退時の備え。将来の景気後退時に十分な金融緩和を実施できるように、利上げ、バランスシートの正常化を急いでいるということである。うがった見方をすれば、近い将来の景気後退を予期しているというとも言える。

 FOMC後、マーケットは多様な、かつ示唆に富む反応を示す … 米経済に対する先行きの成長鈍化懸念を内包

 6月14日のFOMC前後1両日ほどのマーケットの動きを見ると、多様な、かつ示唆に富む反応を見せている。まず株式市場では、米利上げを見込み、上昇基調が続いていた米ニューヨーク・ダウ(NYダウ)は、FOMC決定を受けて一段と上昇した。6月14日のNYダウは2万1374ドル、前日比46ドル高と過去最高値を更新した。15日は小幅安となったものの、16日は2万1384ドルと再び過去最高値を更新した。NYダウの上昇は、利上げを受けた金融株の上昇が寄与しているが、「労働市場は力強く、米経済は良好だ」とのイエレン議長発言を好感したものと言えよう。
 一方、FOMC前日の6月13日に過去最高値を付けた米S&P500指数と、6月13日に反発していたナスダック総合指数は、NYダウの動きとは逆に6月14日は値下がりした。15日も、ともに続落した。米S&P500指数、ナスダック総合指数が値下がりしたのは、米景気の先行き不安を映したものと言える(後述)。
 次に債券市場だが、FOMCの決定を受けて米長期金利は低下した。長期金利の指標となる米10年国債利回りは、FOMC前の2.2%台から、6月14日は2.12%へ低下(価格は上昇)した。前回の3月15日の利上げ時も、米10年国債利回りはFOMC前の高値2.62%(3月13日)から利上げ後は低下している。米国債の金利が低下するのは米国債が買われるからであり、このことは債券市場では米国景気の先行きに悲観的なことを示している。
 ドル円為替相場は、5月後半の概ね1ドル=111円台から、米利上げを控えた6月14日は1ドル=108円後半まで円高になった。利上げ後の6月15日の日中は1ドル=109円台で推移していたが、6月15日の夜間取引から円安が進み、16日には1ドル=111円台と、5月後半の水準に戻っている。ドル円為替相場は、一旦円高に振れたものの、FOMC声明で金融引き締めを続ける方針が示されたため、ドルが買い戻されたと言えよう。

丸8年を迎えようとしている米景気の拡大は終幕が近い?

 6月14日のFOMC後、米S&P500指数、ナスダック総合指数が値下がりしたのは、14日に発表された5月の米消費者物価指数(CPI)、5月の米小売売上高が良くなかったからだ。
 FOMC直前に発表された5月の米消費者物価指数(CPI)は、市場の横ばい予想に反して前月比で0.1%下落した。ガソリンをはじめ、幅広い品目で値下がりしている。前年同月比では1.9%の上昇だが、2016年11月以来の2%割れとなった。価格変動の激しい食料品とエネルギーを除いた5月のコアCPIは前年同月比で1.7%の上昇と、2015年5月以来の小さな伸びにとどまった。3月のCPIも、13カ月ぶりの前月比マイナスになっており、物価上昇圧力が弱まっていることを示している。
 5月の小売売上高は、前月比0.3ポイント減と2016年1月以来、1年4か月ぶりの大幅な落ち込みになった。5月は自動車販売が前月比0.2%減となったほか、百貨店売り上げが同1.0%減と、2016年7月以来の大幅な減少となった。  FOMC直前に発表された経済指標が、米景気の先行きを不安視する内容だったにもかかわらず、FOMCで利上げが実施され、バランスシート正常化計画が提示された。このため、NYダウに比べ構成銘柄の多いS&P500指数やIT・ハイテク株の多いナスダック総合指数においては、米経済に対する先行きの成長鈍化懸念が広がったということができよう。
 マーケットが感じている米景気の成長鈍化懸念は、懸念で済まない可能性がある。個人消費を牽引する柱の1つである新車販売は今年に入り、5カ月連続の前年割れだ。8年ぶりの前年割れが早くも現実味を帯びてきている。一方、不動産市況は高騰し、米FRBが警鐘を鳴らしているほどだ。2009年7月から始まった現在の米国景気の拡大は、丸8年に達しようとしているが、終幕を迎えようとしているのかもしれない。
 過去最高値を更新してきたナスダック総合指数が、6月9日に前日比113ポイント安の6207ポイントと急落した。新型スマートフォンの性能が、期待に届かず発売が遅れるとの憶測から、アップルが急落し、IT銘柄に売りが広がったと報道されている。しかし、それだけでなく、米景気拡大の終焉を予見している可能性もある。

日経平均株価は今秋あたりが山場か

 最後に、日本株について触れておきたい。6月2日発表の米雇用統計を期待し、6月1日に米国株が大幅高になった流れを受けて、6月2日の日経平均株価終値は2万177円(高値は2万239円)と2015年12月以来、1年半ぶりに2万円の大台を回復した。その後、日経平均株価は2万円前後で揉み合っていたが、米利上げ後の6月15日は前日比51円安の1万9831円だった。16日、翌週19日は反発し、20日は年初来高値を更新した。
 日本株は、米国株、米国景気、ドル円為替、米長期金利の動向に大きく左右される。それらを踏まえ、エリオット波動を基に日経平均株価の先行きを展望してみる。エリオット波動は、相場の位置、方向性、転換点等を予測するのに極めて優れていると思う。基本パターンは、上昇5波動、下降3波動である。ただし、起点をどこに置くかで、その後の予想はまったく異なるなどの問題点もある。
 最近、デフレ脱却期待が始まった2012年を起点とし、五輪の2020年まで上昇相場が続くとの見方が日本経済新聞に紹介されたが、私はそうは思わない。日本が世界、とりわけ米国の影響を大きく受けていることを考えると、リーマン・ショック後の安値(2008年10月)が起点だと思う。そこから数えると、日経平均株価は2015年6月(高値2万952円)で上昇5波動(いわゆる3段上げ)が終了し、現在、下降3波動のさ中にある。この下降3波動は、①下降→②上昇→③下降となるのが基本形だが、現在は下降3波動の間にある②の上昇過程と考えられる。
 つまり、現在の上昇波動が終われば、次は③の下降が控えていることになる。米FRBの政策、米景気の状況、現在のエリオット波動の位置からすると、今秋あたりが転換点になる可能性がある。米国の量的金融緩和正常化、さらには米景気の拡大が終了すれば、その影響は世界に及ぶ。2008年10月からの上昇5波動を基に、現在の下降3波動の終着点を探ると、2018年の日経平均株価は最悪1万4000円の可能性が出てくるだろう。現在の、日経平均株価の2万円を超えた上昇は、下げる前の最後の上昇と言えるのではないだろうか。

(6月21日記)

著者プロフィール

経済・国際問題評論家 吉永 俊朗(よしなが としろう)

1948年福岡県生まれ。九州大学卒。

山一証券経済研究所企業調査部長、山一投資顧問投資戦略部長、

東海東京証券理事経営企画部長、藍沢証券アナリストを経て現職。

著書に「100年たってもアメリカに勝てない日本」他。

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