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大風呂敷か、覇権獲得か、中国の「一帯一路」

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公開日付:2017.06.15

 

「一帯一路」とは、中華民族の偉大な復興を目指す現代版シルクロード

 中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」に関する初めての国際会議が、5月14~15日に北京で開催された。130余りの国と70以上の国際機関から約1500人が参加し、ロシア、イタリアなど29カ国の首脳が出席したと報道されている。
 「一帯一路」構想は中国の習近平国家主席が2013年3月の就任後に打ち出したもので、中国の対外開放戦略のコアとして位置付けられている。「一帯一路」構想が明らかになったのは2013年秋である。まず2013年9月、習近平国家主席は中央アジアのカザフスタン訪問時に「シルクロード経済ベルト」構想を打ち出した。続いて2013年10月、インドネシア訪問時に「21世紀海上シルクロード」の開設を提案した。中国から中央アジアを通り、欧州へ向かう陸路の「シルクロード経済ベルト」が「一帯」で、南シナ海からインド洋を通り欧州へ向かう海路の「21世紀海上シルクロード」が「一路」である。「中華民族の偉大な復興」を掲げる習近平国家主席にとって、陸と海の現代版シルクロードである「一帯一路」構想は、中国が世界経済の中心的地位を占めていた古代のシルクロードの再現を意識したものと言えよう。
 その後、国家的戦略構想として仕上げられ、2015年3月に「一帯一路の構想と行動」が発表された。4月にはイメージ図も公表された。「一帯一路」は、アジア、ヨーロッパ、アフリカ大陸に跨る。各1本ずつのルートではなく、計5本の開発ルートが明らかになった。
 陸路の「一帯」は、①中国から中央アジア、ロシアを通り欧州へ向かうルートのほか、②中央アジアから西アジアを通り、ペルシア湾、地中海へ向かうルート、③中国から東南アジア、南アジア、インド洋に至るルート、の3つのルートからなる。
 海路の「一路」は、④中国から南シナ海を通り、インド洋、紅海を経て欧州に至るルートのほか、2013年秋の当初の構想では含まれていなかった、⑤南シナ海から南太平洋へ向かうルート、が付け加えられた。さらに、インド洋から欧州へ向かう海路にはアフリカを経由すると解説された。「一帯一路」構想は、原油の海上輸送に極めて重要なペルシア湾、紅海、さらには地中海・ギリシャ、太平洋の島嶼国家やアフリカを見据えた壮大な戦略と言えるだろう。

「一帯一路」の経済的意図 … 第2次「改革・開放」政策と評価する声も

 「一帯一路」構想には、多くの狙いがある。まず経済的な狙いとして挙げられるのは、中国の成長を持続させようということである。「眠れる獅子」だった中国が目覚めたのは、最高指導者となった鄧小平氏が1978年末に「改革・開放」政策を打ち出してからである。
 鄧小平氏が目指したのは、毛沢東路線からの訣別だ。国有から私有へ経済の在り方を変える「改革」と、海外の資本主義国の企業も中国に進出できるように経済を「開放」し、疲弊した国内経済の立て直しを図ろうとしたものだ。この結果、経済統制体制が改められ、私有制・市場メカニズムが導入された。事実上の資本主義経済への転換と言えるが、鄧小平氏は「社会主義市場経済」と名づけ、共産主義の理念に反しないとした。
 この「改革・開放」政策により、中国は驚異的な高成長を遂げた。1982年から2011年までの30年間の中国の経済成長率は平均10.25%と、30年間の平均で2桁を超えるのである。しかし、2012年から2014年の3年間の経済成長率は7%台にとどまり、2015年、2016年の経済成長率は7%を下回った。
 過去30年ほどの高成長を支えたのは、政府による持続的な固定資産投資、先進国からの巨額の直接投資、安価な労働力を武器にした廉価商品の大量輸出である。しかし近年では、人件費の高騰、外国企業の中国からの撤退、過剰投資による設備過剰・巨額の不良債権化など、かつての高成長を支えた成長モデルの逆回転が始まっている。
 このため、中国経済のさらなる発展を持続するには、これまでの成長モデルとは異なる成長モデルを構築する必要がある。経済成長率が7%台に大きく鈍化したさ中に就任した習近平国家主席が就任後間もなく「一帯一路」構想を打ち出したのは、このような中国の成長鈍化問題が背景にあるのである。こうしたことから、習近平国家主席の「一帯一路」構想を、第2次「改革・開放」政策と評価する声もある。

構想力・グランドデザイン力・宣伝力に優れる「一帯一路」

 「一帯一路」の沿線には約70カ国があるという。「一帯一路」構想を資金面で支える目的で、2014年にシルクロード基金が設立された。政府の外貨準備などで資金が拠出され、資金規模は400億ドル(約4兆5000億円)である。この基金について、習近平国家主席は、5月14日の「一帯一路」国際会議の開幕式で、1000億元(約1兆6000億円)増額すると表明した。「一帯一路」構想を実現するうえで必要になるインフラ投資などに充当される予定だ。
 「一帯一路」構想は、まるで1972年に発表された田中角栄元首相の「日本列島改造論」を彷彿とさせる。第2次世界大戦後の日本も1960年代までは10%前後の高度経済成長を遂げた。その高度経済成長が終わる頃に発表されたのが「日本列島改造論」である。この「日本列島改造論」は以後の日本の安定成長につながり、現在も日本の高速道路網建設の青写真となっている。「一帯一路」構想は、いわば「日本列島改造論」のユーラシア大陸版(一部、アフリカを含む)とも言うべきものだ。
 それ以上に、「一帯一路」構想を「中国版マーシャル・プラン」と評価する声もある。シルクロード基金やアジアインフラ投資銀行の設立など、「一帯一路」構想の実現に向けた中国政府の政策は、第2次世界大戦で被災した欧州諸国のために米国が推進した欧州復興計画(マーシャル・プラン)を思わせるからである。
 「一帯一路」構想を考えると、構想力・グランドデザイン力・宣伝力の大切さを痛感する。中国の高成長には日本のODA(政府開発援助)も大いに貢献している。韓国の高成長も同様である。日本が中国・韓国に援助する際、「日中韓3カ国連携経済発展計画」とか、「日中韓トライアングル経済発展計画」とか銘打って宣伝していれば、その後の日中韓3カ国の関係もかなり違ってきたのではないかと残念でならない。日本は宣伝下手で自己主張が弱いため、日本はもちろん、中国・韓国にも日本の援助で北京空港など両国の重要なインフラが整備されたことを知らない国民が大勢いるようである。

「一帯一路」の政治的意図 … 米国覇権への対抗

 この5月に「一帯一路」国際会議が初めて開かれたのは、習近平国家主席が自らの地位を盤石にするための演出であるのは明白である。5年に1回開かれる中国共産党の最高機関である中国共産党全国代表大会が今秋に開催されるからである。そうした短期的かつ国内向けの政治的意図はあるにしても、「一帯一路」構想の長期的国際的政治的意図として挙げられるのは、米国の世界覇権への対抗である。「一帯一路」は中国から欧州へ向かうルートであり、その途中には中央アジア、東南アジア、ロシア、中近東、アフリカなど約70カ国が存在する。
 「一帯一路」構想が軌道に乗り、沿線70カ国と経済的結びつきが強まれば、沿線70カ国に対する中国の経済的政治的影響力が増大する。一部諸国・地域には軍事基地・軍港の建設も進んでおり、軍事的影響力も脅威になってくる。とりわけ懸念されるのは、中国と欧州、特にドイツとの結びつきが一段と強まることである。
 実は、習近平国家主席が「一帯一路」構想を2013年秋に発表する前の2011年、習近平国家主席のライバルだった薄熙来氏が、中国と欧州を結ぶ現代版シルクロードを再現している。重慶市のトップだった薄熙来氏は、全長1万1000㎞に及ぶ、重慶と欧州を結ぶ直通貨物列車を2011年に開通させたのである。世界のパソコンの3分の1は重慶で生産されており、大半をドイツ・デュイスブルク経由で欧州、さらには世界に輸出されている。
 1993年にEU(欧州連合)が発足し、1999年に共通通貨ユーロが導入されて以降、ドイツは欧州の盟主になった。さながら、「ナチス・ドイツの第3帝国」に続く「ドイツ第4帝国」の様相である。現在も、ドイツのメルケル首相は頻繁に中国を訪問し、中国とドイツ両国は密接に結びついている。中国とドイツ両国が「一帯一路」でより深く結び付けば、米国の世界覇権にとって大きな脅威となろう。
 日本にとっても好ましからざる事態である。実はドイツは、日中戦争がはじまる前も、中国に強力な軍事的支援を行っていた。京都大学名誉教授の中西輝政氏は著書『「日本人として知っておきたい世界激変の行方』(2017年1月刊)で、「中国とドイツの連携こそが、日本を泥沼の戦争に引きずり込んだ。さらに、中国とドイツを引き離す目的で結ばれたドイツとの3国同盟が日本を対米英戦争という決定的な死地に追い込んだ。戦前の日本にとって、ドイツは疫病神であった」とコメントしている。

中国の「2つの100年計画」

 中国には、「2つの100年」という国家目標がある。①中国共産党結党100年の2021年までに小康社会(ゆとりある社会)を実現する、②中華人民共和国建国100年の2049年までに、富強、民主、文明的に調和のとれた社会主義現代国家を実現する、というものだ。この②の表現は表向きであって、米国の親中派と袂を分けた米国防総省顧問マイケル・ピルズベリー氏は、著書『China 2049』(2015年9月刊)で、2049年までに世界覇権を目指す中国の世界戦略が秘密裏に進行していると警告している。
 2049年までに世界覇権を目指す中国の世界戦略のためには、「一帯一路」構想は大きな武器になろう。中国と欧州、さらには沿線諸国が政治的経済的に強固に結びつけば、米国に十分対抗できるだろう。少なくとも、中国が世界覇権を得る前の段階として位置付けられる、米中2大国による世界支配「G2」体制につながるだろう。
 中国が世界覇権を目指せば、必然的に米国と衝突する。第2次世界大戦後、米ソ冷戦時代、米国1極時代を通じて、米国は覇権に関する2つの基本戦略を堅持してきた。①北米における米国の覇権の維持、②欧州・アジア、さらには中東における敵対的大国の強大化の阻止、である。米ソ冷戦に米国が勝利した後、経済大国に浮上した日本も、この基本戦略に沿い、叩き潰された。この日本の第2の敗戦については、いち早く拙著『100年たってもアメリカに勝てない日本』でも述べた。
 いまのところ、米国のトランプ政権、ならびに米国の政策を大きく左右する軍産複合体は米中冷戦の構築を模索しているようである。冷戦構築のためには、対抗国がある程度強大化した方がむしろ都合が良い。したがって、米国は国益のため、さらには自分たちの利益のため、中国に対し、時には対抗し、時には手助けするという政策を採るのではないだろうか。
 中国が米国に対抗するには、欧州ロスチャイルド財閥の協力が必然だろう。かつて大英帝国が世界の7つの海を支配した時も、ロスチャイルド財閥の存在が大きかった。米国にロックフェラー財閥がある以上、資金面で対抗するうえでも、政治的に対抗するうえでも、欧州ロスチャイルド財閥の協力は不可欠である。近年、米国から中国への覇権移動を画策していたロスチャイルド財閥は、中国の巨額の不良債権の実態に驚き、いまのところロックフェラー財閥と協力関係にあるようだ。トランプ大統領が実現した大きな要因でもある。

覇権の地球西回り説と800年サイクルの行方は中国か、それともインドか

 経済的覇権西漸説を唱えた米国の歴史家ブルックス・アダムスが1900年に予言したように、世界の覇権国は、ヴェネチアからポルトガル、スペイン、オランダ、イギリスを経て、大西洋を越え、米国に渡った。この経済的覇権の地球西回り説に従えば、米国の次は太平洋を越えることになる。一時、米国の次は日本と騒がれた時もあったが、日本は米国に叩き潰された。
 さらに、日本人の村山節氏が1937年に発見した世界文明のサイクルとして、800年サイクルがある。過去6400年の世界文明の盛衰波動周期を調べると、東洋文明と西洋文明が概ね800年ごとに主役交代しているというものである。現在の世界文明の主流である西洋文明から東洋文明に主役が交代するのは2000~2100年と見られている。既に、その交代期間に入っているのである。東洋文明が再び主流になるとして、東洋文明の主役を担う国はどこだろうか。中国か、インドだろう。
 中国は、人口問題がネックである。中国の生産年齢人口(15~64歳)は2012年に初めて減少した。このことが中国の経済成長率の鈍化に直結している。一方、インドの人口は若く、これから経済発展期を迎える。インドが人口世界一になるのも間もなくである。
 ランドパワー国家がシーパワーに乗り出して成功した例はないという。ロシアやモンゴル帝国がそうである。ランドパワー大国である中国がシーパワーに乗り出す時、初の成功例になるのだろうか。それとも、IT大国として存在感が増してきたインド、英連邦の一員でもあるインド、シルクロード中継国のインドに次の覇権国が移るのだろうか。

(5月25日記)

著者プロフィール

経済・国際問題評論家 吉永 俊朗(よしなが としろう)

1948年福岡県生まれ。九州大学卒。

山一証券経済研究所企業調査部長、山一投資顧問投資戦略部長、

東海東京証券理事経営企画部長、藍沢証券アナリストを経て現職。

著書に「100年たってもアメリカに勝てない日本」他。

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